写真© smolaw11-Fotolia

「2年で100室まで規模を拡大した」――。

不動産投資家のIさんはある懇親会で、そんなオーナーと知り合う機会があった。「自身の投資規模についてしきりに自慢していたんですが、具体的な投資手法の話になると、とたんに言葉を濁す感じでした。おそらく『1法人1物件スキーム』を使っているので、後ろめたさのようなものがあったのではないでしょうか」

投資規模の拡大を志向する不動産投資家たちの間で、「1法人1物件スキーム」「複数法人スキーム」という言葉が広く知られるようになった。文字通り、法人A社を設立して物件Aを買い、物件Bを買うために新設の法人B社を設立するといったように、物件と法人を一対一で対応させる手法だ。

たとえ法人の連帯保証人となって借入をしたとしても、個人の信用情報には記載されない場合が多い。そのため、既存法人の借入額が銀行から見えにくく、新設法人で融資を受ければ、個人での借入と比較してはるかに多くの融資を獲得できる公算が高いとされている。

実際に、各銀行の融資の特性を熟知し、建物価格の8%を還付金として受け取る「消費税還付スキーム」を組み合わせるなどして、短期間に効率よく規模の拡大を図る投資家も存在する。一方で、債務を隠すような行為にリスクの高さを指摘する声も多い。「禁断の果実」とも言うべき「1法人1物件スキーム」の実態を探った。

規模を拡大する「唯一の方法」か

「当社で提案することはありませんが、早期リタイアを目指す人にとって非常に魅力的なスキームであることは否定できません。実際に買えている人が存在しますし、一気に規模を拡大するのであれば、これが『唯一の方法』といえるでしょう」

1法人1物件スキームについてこう語るのは、不動産会社2社の代表を務める新川義忠氏だ。

富士企画のオフィスでインタビューに応じる新川氏

「このスキームが注目を集めるようになったのは5年ほど前。いわゆる『メガ大家さん』『ギガ大家さん』と呼ばれるような不動産投資家が現れ、彼らに憧れる新規参入者が増えた結果、広まったという認識です。同時期に資産管理法人への融資に積極的な金融機関が増えたのも一因といえます」

新川氏は「金融機関によっては『当行は9割融資まで、資産背景の確認は原本でなくコピーで行っています』と『教えてくれる』ところもある。察しの良い業者であれば、投資家の希望条件に近い融資付けが実現できるように、いろいろと工夫をするケースは多いです」と指摘する。

「業者の立場からすると1法人1物件スキームというのは非常に好都合で、手を出せば売上は確実に伸びると思います」と新川氏。「かつて同じ釜の飯を食っていた仲間が手がけているという話も聞きますし、それを頭から否定するつもりもありません。しかし、売るのが目的である業者の都合に合わせて、買うのが目的になっている投資家もいる。やはり、しっかりと時間をかけて、そこそこの規模を目指すのが堅実な方法ではないでしょうか」

「利益が薄く、メリットは皆無」という見方も

不動産のほか、事業投資の分野にも精通する投資家の中島健一氏。彼のもとにも1法人1物件スキームに関する質問が多くの投資家から寄せられるという。

「年収1000万円以上、自己資金2000万円以上といった比較的属性が高い人から、『1法人1物件スキームってどうですか』と聞かれることが多いです」

中島氏は1法人1物件スキームのデメリットのひとつとして、コスト高の運営体質を指摘する。「仮に物件価格が1億円で、年間家賃が1000万円の物件を5棟、5つの法人で保有するとします。まず、税理士への月額報酬と決算料が年間20万円として、それが5社分かかることになるので、この費用が馬鹿にできません。たとえうまく利益を調整してゼロにできたとしても、均等割で最低7万円の法人税がかかります」

このほか、法人口座の維持管理手数料や法人クレジットカードの年会費なども、積み重なると軽視できない費用になると中島氏は指摘する。

「結局、5法人に分散すれば1法人の場合と比べて5倍の法人維持コストがかかることになります。これは、たかだか1社の年間売上1000万円に対する経費として考えると割高感は否めません。もともと薄い利益をさらに薄める結果につながります」