以前のコラムで、私が猫専用賃貸において最もこだわっているポイントは「猫トイレの置き場所」とお伝えしました。今回は、その他のこだわりポイントについて解説したいと思います。

私の作る猫専用賃貸には、猫を飼う上での基本ルールがあります。それがコチラ。

1.猫は完全室内飼いにすること

2.去勢避妊手術をすること

3.猫は3匹まで

4.猫以外の動物不可

5.ベランダ含む禁煙

これだけうるさくルールを設定している賃貸もそうないと思いますが(苦笑)、入居者さんはあまり苦に思っていないというのが所感です。というのも、猫のことを大切に想っている「猫リテラシー」の高い飼い主さん=入居者さんにとってみると、どれも「好都合」なルールだからなのです(シレッと「全面禁煙」なんてのも入ってますが)。

注目していただきたいのが、1の「猫は完全室内飼いにすること」というルール。関係各所の啓蒙活動により、2017年現在「猫は室内のみで飼い、外に出さない」という飼い方が当たり前になってきています。

では、そういう人に飼われる猫はどういう出自が多いのでしょうか。日本における猫の入手先を調べてみると「野良猫を飼うことにした」が大多数という結果が出ます。日本獣医師会が発表した最新データがコチラ。

出展:一般社団法人日本獣医師会 家庭飼育動物の飼育者意識調査(平成27年度)

表の「その他」が「野良猫を保護した、拾った」で、34.6%。「友人・知人から譲ってもらった」というのも内実は「ウチの子が捨て猫を拾ってきちゃったのよ、貰ってくれない?」とか「ウチで保護した野良猫が子供産んじゃったのよ、貰ってくれない?」とかじゃないかと邪推しますが、とすると実に8割以上が「雑種の元野良猫」を飼っていることになるのです。

野良猫は外で暮らしていたため、外の世界を知っています。そういう猫を完全室内飼いにした際、猫がストレスを感じたり、外に出たがったりすることが往々にしてあります。適応能力に優れた猫は、徐々に自分の置かれた環境に慣れてきますが、そのことを知っている、猫を可愛がる人ほど「猫を快適に生活させたい」と思うものです。私はこの猫飼いさんの夢を叶えてあげたいと思い、猫を安心して外に出せる工夫を施しました。

私が作る物件には、必ず広めの専用バルコニーを設けます。例えばGatos Aptですと、35㎡の居室空間にプラスして5㎡の専用バルコニーが付いています。そのバルコニーは高さ2mの塀で隙間なく覆います。

Gatos Aptのバルコニー。木材を縦組みにした塀

Seilan Aptのバルコニー。猫が出るとこんな感じ

Maison Nekoのバルコニー。赤い壁の素材、実は屋根材

どの物件も、猫が爪を引っ掛けて登れないような組み立て方、素材を使用しています。

「2mの高さなんて、ウチの子は簡単に飛び越えちゃうよ!」という方がいらっしゃいます。はい、元気な猫なら飛び越えます。そこは「飼い主さんの責任範疇」だと思っています。

全部の猫が2mの高さを飛び越える訳ではありません。むしろそのような猫の方が少数派です。猫は基本的に臆病な生き物なので、飛び乗った先がどの位の幅があって、どうなっているか分からない、まして壁の向こうがどうなっているか分からない状況では、自分から飛び越えようとしないのです。

飛び越えようとする猫は大抵、問題を抱えているケースが多いです。問題とは、猫が「ここにいたくない」とストレスを抱えている場合です。一番分かりやすい例は「保護したての大人の猫」でしょう。保護した人間側は「猫を保護してあげた」と思っていますが、猫からすると「捕らえられた」と思っているはず。こういう猫は虎視眈々と脱出の機会を伺います。そして、バルコニーに出した瞬間「脱出のチャンスだ!」と後先を考えずにジャンプするかもしれません。

そのことが分かっているのは飼い主さんのはず。もし「飛び越えちゃう!」と思うのであれば、バルコニーに出す時は、飼い主さんが一緒に様子を見ながら出す、ネットを張って、もしジャンプしても脱出できないように工夫するなど「自衛すべき」と考えています。

女性の入居者さんが迷わず1階の部屋を選択する理由

一般的に「女性は1階の部屋に入居したがらない」と言われています。でも私の作る猫専用賃貸では、1階の部屋が人気の傾向にあります。実際に、1階の部屋から埋まりますし、2階に住んでいる方から「1階に移りたい」というお声もいただくことがあります。

その理由は二つです。一つは「猫が外に出られる」こと。2階のベランダだと猫が落ちてしまうリスクがあるため、飼い主さんが猫を外に出したがりません。1階には2mの塀があるので、猫が逃げることもなく安心です。そしてもう一つは、1階だとスペースを広く取れること。2階のベランダだとどうしてもスペースが限られてしまうため、狭くなりがちです。猫と一緒に外へ出て一緒に遊べる、余裕のある空間が作れることが、1階のメリットです。

想像してみてください。金曜の夜、クタクタになって会社から帰宅し、人目を気にすることなく湯上がりにバルコニーで、愛猫と一緒にお月見をしながらビールを飲む…なんてことができてしまうことが最大の魅力なのだと思っています。

2mの塀で覆ってしまうと、確かに日当たりも悪くなりますし、隙間をなくせば風も通りにくくなります。その引き換えに得られる「猫を安心して出せる」ことと「プライバシーを確保できる」ことは、入居者さんにとって対価に余りあるものであることが、1階の部屋でも入居したくなる最大の理由なのです。