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2017年6月、住宅宿泊事業法(民泊新法)が公布された。これまで法的な枠組みがなかった民泊も、いよいよ新たな局面を迎えることになる。新法の内容とポイント、今後の民泊事業の方向性について考えてみたい。

ようやく法的な枠組みが整う

政府観光局(JNTO)の調べによると、2013年に1000万人を超え話題になった訪日外客数は、2016年には早くも倍以上の2400万人に達した。激増する海外からの訪日客に対し、従来の宿泊施設では十分な対応が難しい。これを受けて、これまでの旅館やホテルといった宿泊サービス施設の枠組みとは異なり、一般の居住スペースを一定期間宿泊施設として提供する、いわゆる民泊の動きが数年前から活発になってきた。

AirbnbやTripBizといった民泊情報サイトを見ると、ワンルームから一戸建てまで、さまざまな物件が登録されている。特に、2008年に誕生したAirbnbは日本だけで4万5348件の物件が登録されている(10月2日現在)。

しかしながら、これまで日本において宿泊施設に関する法律は旅館業法だけで、民泊に関して独自の法的な枠組みは存在しなかった。結果として旅館業法を適用した場合、消防設備の不備など違法になるケースが増加することになった。

これまで、民泊に関しては時代の流れもあり、いわばグレーゾーンの中で黙認されてきたという状況があった。一方で、海外旅行者の急増といった現実に対応するためにも、法的な枠組みの確立が求められてきた。

今年6月9日に「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」が衆議院で可決成立し、16日に公布された。これによって、民泊は同法の枠組みの中で運営されることになった。その内容はどういったものなのか? すでに民泊事業を始めている人、これから民泊事業を始めようとしている人、それぞれどのような点に注意するべきなのだろうか?

民泊新法の3つのポイントとは

79条からなる「住宅宿泊事業法」だが、行政書士で「民泊の教科書」(https://minpaku.yokozeki.net/)のサイト運営も行っている横関雅彦さんによると、そのポイントは大きく3つあるという。

「1つは『届け出制』となったこと。管轄の都道府県知事に届け出を行えば、基本的には誰でも民泊事業を行うことができます」。ちなみに「届け出制」と「許可制」の違いは、「許可制」が基本的に禁止されているものを条件付きで行政が認めるものなのに対し、「届け出制」は禁止ではないが、違法行為が行われた場合などに対応するため、事業者などを事前に把握するという意味で届け出を義務付けるもの。行政側は、たとえば申請者が破産宣告していること、禁固刑に処せられていること、または旅館業法あるいは住宅宿泊事業法の規定により民泊事業の廃止を命ぜられてから3年を経過していない、あるいは暴力団関係者であるなど、特別の事情がない限り届け出を却下することはできない。

旅館業は「許可制」であり、消防法など各種の条件を満たし、営業許可を得た者のみが旅館事業を行うことができる。民泊事業が届け出制となったことで、少なくとも許可制になるよりは事業者が参入しやすいものとなったことは事実だ。

管理委託義務と日数制限がポイントに

「2つ目のポイントは、住宅宿泊事業者(家主)と住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者を分け、それぞれの役割を明確にしたことです(第二条 定義)」(横関さん)

〇住宅宿泊事業者:その物件を所有するオーナーで、民泊事業の主体者

〇住宅宿泊管理業者:オーナーから清掃や管理業務などの委託を受けて代行する業者

〇住宅宿泊仲介業者:宿泊者と住宅宿泊事業者の間の宿泊契約の締結を仲介する事業者で、インターネットサイトで物件を紹介する事業者(Airbnbなど)

横関さんは「家主がその宿泊施設に同宿しない場合は、管理を住宅宿泊管理業者に一任することが義務づけられたということが大きな特徴であり、ポイントです(第十一条 住宅宿泊管理業務の委託)」と話す。

「民泊新法で定められている住宅宿泊事業者は、家主居住型と家主不在型の2種類に分けられます。家主居住型とは家主が宿泊者と一緒の施設の中で宿泊・居住しているものです。一方、家主不在型とは住宅提供者が宿泊提供日に同一の施設の中で宿泊していない場合を指します。家主不在型の場合、宿泊事業者(家主)は必ず住宅宿泊管理業者に管理を委託しなければなりません」

そして3つ目は、年間180日以内という日数制限が設けられたこと。これを超える日数を宿泊させた場合は、住宅宿泊事業法の対象外となり、旅館業法に基づく営業許可が必要になる。「この180日というのはあくまでも上限です。各地方自治体によって、周辺環境なども考慮して条例で制限日数がより減らされるケースも出てくるので注意が必要です」と横関さんは説明する。

民泊投資を考えるオーナーはほぼ家主不在型の事業者だろう。そうなると、管理業者に委託しなければならなくなる。

届け出制で一見ハードルは低いように見える民泊新法。現時点ではどこで誰が行っているのか把握できていない違法民泊を、届け出制で合法化のハードルを下げることで、かなりの部分の実態が把握できるようになるという大きな意味がある。また、住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者のように役割を明確にし、それぞれに責任を負わせることで違法営業者を締め出すことになる。「報告徴収や立ち入り検査などによって管理できる合法な民泊を増やし、違法民泊を取り締まるための大きな一歩となる法律だと思います」(横関さん)

残りの185日をどうするか?

民泊新法は2018年6月に施行される予定だが、以上のような特徴を持つ新法が民泊事業に及ぼす影響をあらためて整理してみる。

「まず、制限日数が設けられたことで収益を確保するのがそれだけ難しくなります。現在無許可で民泊事業をしているオーナーで、それなりに収益を上げている人が新法民泊にした場合、この日数制限によってこれまでのような利益を期待することが難しくなるでしょう」(横関さん)

一般社団法人民泊マンスリー協会(https://www.minpakuxmonthly.biz/)は、民泊事業を行なっている、あるいはこれから始めようと考えている個人と、民泊不動産賃貸等、関連するパートナー企業とで構成。これらの会員が民泊で成功することと民泊の啓蒙を目的とし、月1回の勉強会やLINEグループなどを活用した情報交換等を行っている。

同協会の主催者で、自身も不動産投資を行っている牧谷俊二さん(仮名)は「民泊新法下においては、年間最大で180日しか民泊として運営できないため、残りの期間をどう有効活用するかが大きな課題。この問題をどうクリアしていくかが大きなポイントになります」と指摘する。民泊新法が施行されれば、残りの185日をマンスリーマンションや留学生などの一時的な滞在など、民泊以外の運営により対応する必要に迫られるという。

これは、残りの185日を民泊新法以外の枠組みで運営するということであり、その有力な枠組みが借地借家法となる。借地借家法の適用は、契約者がその場所を生活の本拠としているか否かが基準となっており、生活の本拠と判断する材料の1つに契約期間が1ヶ月以上という条件がある。このため、借地借家法の枠組みで運営するためには、1ヶ月以上の契約が必要となることから、マンスリーマンション等が有力な対応策となる。

シミュレーションからわかる収益性

そこで残りの185日をマンスリーマンションで運営するとして、シミュレーションしてみよう。Airbnbで調べると、新宿御苑で25平米のワンルーム1泊8000円の物件がある。同じ新宿御苑で同レベルのワンルームを賃貸物件サイトで調べると1カ月の料金は約8万円から9万円が相場となっている。賃貸物件として6か月フルに稼働したとして、売り上げは48万円から54万円だ。

これがもし民泊で活用したらどうだろうか? 仮に稼働率を80%として考えると、185日×8000円×0.8で約115万円。民泊のほうが倍近い利益が出るということがわかる。

牧谷さんは「新法施行を前に、事業者は選択を迫られることになる」と話す。民泊かマンスリーマンションか、どちらに軸足を置くか。最も利益が出るのは180日まるまる民泊で埋め、残りの185日をマンスリーマンションとして運営する方法だが、「現実的には難しいだろう」と牧谷さんは指摘する。

民泊は比較的短期間で利用者が見つかるが、マンスリーマンションの利用者は部屋が空いたからといって、そのタイミングで利用者を見つけることは民泊に比べて難しい。「マンスリーマンションを中心に運営し、マンスリーで埋まらないときに民泊として活用するほうが現実的な方法だと思います」(牧谷さん)

これは、民泊の方が収益性が高いという前提の話であるが、民泊だからといって安心するのは早計だ。民泊で高収益を上げるためには、しっかりとした知識をもった上で、京都や大阪、東京ならば新宿区や台東区といった民泊需要の高い地域で、撤退のリスクがない物件を選定・契約すること。そして、運営にあたっては、リスティングページのクリック率を上げるべく魅力的なキャッチや写真を掲載するようにするなど、他の物件との差別化を図り、検索率を上げるなど、他の物件との差別化を図ることが重要になると牧谷さんは話す。

新法施行に合わせて業務の転換を図る

現在、大阪に5か所、京都に1か所の民泊施設を運営している瀬川義之さん(仮名・30歳)は、民泊新法の施行を機に現在の民泊施設を手放し、新たな簡易宿泊施設を新設して、そちらの事業に乗り換えることを計画しているという。

現在実践しているのは、物件を購入するのではなく、賃貸物件を引き継ぐ、いわゆる転貸であるため、初期投資は300万円で済んだ。

「民泊は今年の4月から始めたのですが、立地の良さもあり、稼働率90~95%という非常に高い数字を維持しています」と瀬川さん。現在の稼働率が続けば、年間売り上げは1500万円ほどになるという。

瀬川さんの場合、英語が話せるので顧客とのやり取りは直接本人が行うため、運営管理費としては代行業者に3万円から4万円を支払っている。清掃その他管理に関しては、本業があるため代行業者に完全に任せている。清掃は一部屋1回5000円から6000円で、現在6部屋分の1か月の清掃管理費は5万円から10万円の間だという。

180日制限がある民泊新法が施行されれば、これまでのような収益は見込めない。潔くそれらの物件を手放し、1棟ものの簡易宿泊施設を大阪と東京に新たに作る予定だという。簡易宿泊施設は旅館業法に則って運営されるものであり、当然180日の制限を受けることはない。

それぞれ投資金額は1億5000万円ほど。頭金以外は銀行からの融資で賄った。「ビジネスホテルのようなものと考えてもらっていいでしょう。大阪の物件は6部屋、東京の物件は10部屋、1部屋の宿泊費用を1日8000円ほどに設定する予定です」(瀬川さん)

かりに稼働率が80%として、宿泊費用が1日8000円なら月額収入は大阪で約38万円、東京で64万円となる。「これまで通りAirbnbなどの民泊仲介サイトでも紹介しますが、ホテルとしてじゃらんや楽天サイトなどでも掲載して集客する予定です」

瀬川さんのように、これまで利益を得てきた民泊事業者は、新法によって方向転換を迫られるケースも出てくるだろう。

消防設備や照明設備は細則によって変わる

民泊新法の大枠は先ごろの公布で定められたとはいえ、求められる消防設備など細かい点はまだ決められていない。国土交通省と厚生労働省は同法に基づき、「住宅宿泊事業法施行令(仮称)」及び「住宅宿泊事業法施行規則(仮称)」等を10月末までに公布する予定だ。消防設備や非常用照明などに関しては、10月から11月に公布予定の「住宅宿泊事業法に基づく非常用照明器具の設置方法及び火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置に関する告示案」で細かな取り決めが明らかになるとされている。

前出の横関さんは「10、11月中に施行令、施行規則、告示案などが公布され、その内容がはっきりすると思います。消防設備や照明設備などの基準や取り決めがどうなるか、民泊事業者やこれから始めようと考えている人は注視しなければなりません」と指摘。これらの取り決めや細則を定めるために、政府のサイトである「e-Gav(イーガブ)」(http://www.e-gov.go.jp/)では10月11日まで広く関係者から意見を求めた。それを反映した上でのパブリックコメントもサイトで確認できる。

仮に旅館並みの消防設備が必要ということになれば、1施設に数十万円から百万円単位で費用が掛かることになるかもしれない。今の段階で早まって民泊物件に投資してしまうと、あとから消防設備などの予定外の追加費用が掛かり、計算が大きく狂ってしまうということにもなりかねない。

さらに注意しなければならないのが、各地方自治体の条例だ。特に民泊の日数制限に関しては、今回の法律は上限を定めたもので、各地域の事情によって個別に日数を制限しても良いことになっている。

前出の民泊マンスリー協会の主催者は「沖縄や京都、台東区などでは、日数が180日よりさらに短く制限される可能性があります」と指摘する。騒音などの住宅環境を考慮する場合もあるが、主な背景は各地域の旅館業界との兼ね合いだという。旅館業界が力を持つ観光地などでは、民泊事業の台頭は大きな脅威にもなっているからだ。

各地方自治体の条例はまだ公布されておらず、来年6月の民泊新法の施行までには出そろうとみられる。いずれにしても、その制限日数によって民泊事業や民泊投資の行方が左右されることは事実。事業を考えている人は、まずそれらが明確になった上で物件を確定したほうが無難だといえる。

大手の参入に対応するために

今後の成り行きを見守る必要がある民泊新法だが、法的な枠組みが整ったことによって、業界内の構図が大きく変わる可能性があると横関さんは指摘する。「新法ができるまでは違法かどうか、グレーゾーンが大きくリスクが高いため、大手企業は手が出せませんでした。今回法律ができ、枠組みができたことで大手企業が今後進出してくることが考えられます」(横関さん)

民泊の宿泊事業者として、あるいは宿泊管理業者として、大手企業が参入してくる可能性は高い。インバウンドの傾向は今後も続くとみられるだけに、競争はより激しくなるだろう。横関さんは「物件の差別化や、既存の仲介業者に頼らない独自のサイト活用・SNS戦略などが必要になってくる」と分析。実際、すでに独自サイトで集客し、利用者の声などを効果的にサイトに反映させ、顧客獲得につなげている事業者も出てきているという。

さらに条例などで日数制限がより厳しくなることも考え、民泊利用以外の用途を戦略的に考える必要がある。たとえば宿泊施設だけにとどまらず、レンタルスペースにして、会議室やイベントスペースとして貸し出すなど、アイデアはまだまだ眠っているかもしれない。

あるいは民泊事業を主体に考えるのではなく、あくまでも賃貸業の補助的な役割として捉えることも有効だろう。前出の瀬川さんのように、民泊ではなく旅館業法での宿泊施設を前提にしながら、並行して空いた部屋を埋めるために民泊を行ったり、賃貸物件を所有する中で空き室を一時的に民泊で埋めたりするなど、補助的に活用する点において、民泊はより有効な手段だといえる。

今回の民泊新法によって、民泊事業が新たな局面を迎えたことは明らかだろう。成功のためには、新法のポイントを踏まえた適切な判断と対応が求められている。

(楽待編集部)