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賃貸物件を新築するとき、入居者にとっての使い勝手が完全に無視されることはほとんどないだろう。しかし、世の中には「どうしてこうなったのか?」と首をかしげたくなるような不思議な間取りの物件が存在する。そうした個性的な間取りは人々の関心を集め、『ヘンな間取り』(イースト・プレス)をはじめとした、面白い間取りを集めた書籍が何冊も発売されるほどだ。

「無茶な後付け」でヘンな間取りに

同書のモデルとなったブログ「まどりましょ」を書く竹安功さんに、これまで見つけた風変わりな間取りの中から、特に印象に残るものを紹介してもらった。

そもそもなぜ竹安さんは、変わった間取りの物件をブログで発信し始めたのか。

「就職で上京し、部屋をネットで検索した際に『世の中には不思議な間取りの部屋があるんだな』と感じました。これは世の中に知らしめなければならない、と思いましたね」

竹安さんによれば、風変わりな間取りはよくあるが、意識しないと見過ごしてしまうという。注意深く間取りを見て「あれ、これって変じゃない?」と違和感を抱いたら、脳内引っ越し(妄想)をする。そうすることで、間取りのおかしさがじわじわと湧き上がってくるというのだ。

たとえばこちらの間取り。

「一見、どこにでもありそうな間取りですが、洗濯機置き場に洗濯機を置くとトイレのドアが開きません。そもそも、洗濯機を置こうと思っても洗面台に引っかかって搬入できません」(竹安さん)

変な間取りにトレンドがあるか聞いてみると、竹安さんは「学生街の築数十年のアパートでは、狭い部屋に強引に水回りを付けて、明らかにおかしな間取りになっていることが多かったです」と話す。

建築当初は風呂なしだったアパートに対して、時代の流れと共に変化するニーズに対応しようと、強引に水道を後付けしてしまう。その結果、ユーザーにとって極めて動線が悪い間取りが完成するわけだ。

具体的には、専有部にキッチンを作れず共用廊下に設けるというケースや、リビングに行くために一度脱衣所を通り抜ける必要があるなどのケース。「とりあえず水回りをつけました」感が満載だ。冷蔵庫をシンクの反対側にしか置けなさそうな物件や、キッチン動線が狭すぎる物件もある。

シンクの反対側にしか冷蔵庫を置けそうにない

キッチン動線が狭すぎる

日頃から多くの個性的な間取りを見ている竹安さんだが、中でも印象に残った間取りはどんな間取りなのだろうか? トップ3を聞いてみた。

第3位は「細長い二等辺三角形」の極小物件。

トイレは三角形の先端部分の狭いスペースにあるが、これでは圧迫感から落ち着いて用も足せなさそうだ。さらにトイレとリビングの間に階段(共用部)があるため、トイレ(専有部)、階段(共用部)、リビング(専有部)という奇妙な配置になっている。

第2位は、「1.7畳なのに二人入居可」という物件。

洋室1.7畳という狭さにもかかわらず、「二人入居可」と謳っていることに加えて、「机付き」をウリにしているから驚きだ。竹安さんは「どのような用途を想定して契約条件が書かれていたのか気になります。この広さで机が必要な理由がまったく見当たりません」と苦笑する。

最後に第1位。「ベランダから浴室とトイレに入る」物件だ。

竹安さんが「水回りのおかしさでこれを超える物件はなかなかない」と言い切るほど強いインパクトを持つ。なんと、浴室とトイレがベランダの横、つまり部屋の外にあるのだ。当然ながらトイレや浴室へ行くには一度ベランダに出なければならない。一体どこで着替えればいいのか。プライバシーは皆無だし、冬場は寒くて凍えてしまう…。さらに洗面台もベランダにあるため、手を洗うのも外という不便さだ。

これらの物件はかなり極端なケースだが、無茶な水回りの設置、三角地などの変形地だった、などの理由でこのような変な間取りの物件ができあがってしまうのかもしれない。

だが、使い勝手の悪そうな間取りの物件も、その特性を利用したり、ちょっとした工夫を凝らしたりすることで、入居者にとって魅力的な物件に生まれ変わることもある。

たとえばキッチンやトイレが中央部に、洋室と和室が一室ずつ左右にある横長の物件がそうだ。

2部屋の一方をリビング、もう一方を寝室にすると、部屋の間を移動するために毎回キッチン、風呂、トイレを横切っていく必要があり、一見すると動線が悪い。しかし、水回りが中央部にあり、部屋が左右に振り分けられているためプライバシーが守られ、ルームシェアリングに使える。「変形地はその形を活用することで、特徴的な物件を作れるのかもしれません」と竹安さんは言う。

また、日本の伝統ある建築物をリフォームした例もある。

京都の伝統的な木造家屋である京町家では、一般的に玄関周辺に畳3枚分の部屋を設けるため、玄関周りのスペースが広いという特徴があり、手を加えれば広めの納戸として活用できる。「学生さんであれば、趣味の自転車や楽器を置くとおしゃれでは」と竹安さんは言う。

竹安さん自身も「ヘンな間取り」というほどではないが、自宅の不便だった部分を改装し、使い勝手をよくした経験がある。

もともと3つあった備え付けの収納(Beforeの納戸、ウォークインクローゼット、布団収納)の区切りを、2つにリフォームした。

収納間の壁をあえていびつな形にして、そこにマ­ルチメディアコンセントを整備。このスペースに棚を置いて、ホームサーバーやWi-Fiルーター、3Dプリンタなどを収納し、ごちゃつきがちなケーブル類を集約した。

(左)IT機器を収納、(右)壁を挟んで鞄や帽子が並ぶ

SOHOやペット可物件にすることで「変」をカバー

さて、これまで変わった間取りの物件をあれこれ紹介してきたが、この手の個性派物件は、一般的な物件と比べて内見希望者の数は多いのか、少ないのか。そして、入居者希望者はいるのか。

都内の不動産会社に勤務するAさんは「通常の募集では希望者は少ないのが現状です」と話す。入居者からすれば、生活しにくそうな物件を敬遠するのは当然だろう。そのため「用途を工夫して募集する必要がある」と指摘し、次のような成約事例と考え方を話してくれた。

「動線が良くない物件をSOHO(Small Office/Home Office:小規模事業)利用や、ペット飼育可能物件扱いにして成約を得たケースはあります。通常の間取りと違って居住に不便をきたすのであれば、発想を転換し、ターゲットを変えると成約に結びつくケースが多いと思います」

また、別の都内不動産会社の担当者Bさんも「ペット可物件にする、家賃をリーズナブルに設定するという対応をします」と話す。

一見使い勝手が悪くても、入居者目線で不便さを解消することで人気物件になった例もある。Bさんの会社ではかつて、DINKS(Double Income No Kids:共働きで子供を意識的に作らない夫婦)向けの約40平米のワンルームで1年近くも空室が続き、困っていた。しかし、不人気の原因がリビングに間仕切りがないことだと判明。折戸を設置し、ワンルームで使いたい人はそのまま、来客時は折戸を閉めて簡易的な1LDKとして、シーンに合わせて用途を変えられるようにしたところ、2〜3日程度で入居希望者が現れたという。

一方、郊外で投資用物件を持つ大家からは、「使い勝手が悪い間取りの物件は、大学の近くに多い印象があります。一般的に学生にはお金がないので、多少の不便さがあっても賃料が安ければ入居します。とくに需要がある都市部の学生街であれば、賃料次第でどうにかなるのでは」という意見も挙がった。

三角地や旗竿地といった土地に建ち、さまざまな理由で結果的におかしな間取りとなった物件でも、発想や視点の転換で入居が決まる物件になり得る。「ダメに決まっている」とあきらめず、周辺の状況からニーズをつかみ、魅力を高めたいものだ。

取材協力:竹安功さん

夜な夜な間取り図を見て妄想しつつ、Wiiリモコンで操縦するドローンや、子供向けのiPhoneアプリを自作するしがない会社員。

まどりましょ http://madori.andhandworks.com/

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