神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が発見された事件。不動産のオーナー視点で考えると、所有する物件でこのような事件や事故が起こった場合、入居者の退去や資産価値の下落など、将来的な事業計画が一変してしまう可能性があることをあらためて思い知らされる結果となった。

オーナーにとって、所有するアパートやマンションなどが「事故物件」となることは大きなリスクといえる。突発的な事件や事故より身近な「孤独死」の件数は年々増加しており、もはや対岸の火事ではない。大きなコストをかけず、大切な不動産を守る方法はあるのだろうか。

「わけあり」と感じてはいたが…

「危うく事故物件になるところでした」

こう語るのは、自宅を建て替えて、1階は貸店舗と自らのガレージ&倉庫、2階を自宅、3、4階を2部屋ずつ、計4部屋を貸している東京都世田谷区のオーナー掛田義道さん(仮名、76歳)だ。

築32年ながら、かつて建築業を営んでいたこともあり、建物のメンテナンスはほぼ自分で行ってきた。住人が入れ替わるたびに部屋も入念に手を入れてきたため、それほど古さを感じさせない。渋谷まで15分ほど、地下鉄直通で大手町にも一本で行ける。各部屋2DKで、家賃は15万円ほど。安くはないが、駅から2分という抜群の利便性で、空室が出てもすぐに埋まる好物件だ。

若い夫婦2組と1人暮らしの男性が暮らし、1部屋空いたが、間髪を入れず入居希望者が現れた。掛田さんは地元の不動産会社に仲介を一任し、家賃は振り込みではなく現金を手渡ししてもらう方法を取っている。

「小さな集合住宅だけれども、家賃を銀行振込にしたらまったく顔を合わせることもないからね。家賃を直接いただけば、月に1度一言二言は話もできるでしょ」

住人とのコミュニケーションをはかると同時に、生存確認もできるというわけだ。

新たな入居者

そんな掛田さんの物件に新たに入居してきた中年女性は、不動産会社が頼みこんできた人物だった。職業不詳でわけあり風だったが、情に厚い掛田さんは保証人もつけず、なじみの不動産会社の申し出を断ることはなかった。

しかし、女性は日中仕事をしている雰囲気もなく、深夜に外出している様子。しばらくすると、他の住人に「4階のAさんがあなたの悪口を言っていた」と吹聴するなど、人間関係ををかき回し始めた。もともと住人同士仲が良かったので、逆に新しい住人が嘘を言いふらしていることはすぐに住民に伝わり、女性は孤立していった。かかわると厄介だとすぐにわかったからだ。もちろん、大家である掛田さんの耳にも入ったが、大人同士のことなのであえて静観した。

しかし、2カ月目には早くも家賃を滞納し、翌月も姿を現すことはなかった。掛田さんは上の階に住んでいる女性の部屋を訪ねた。家賃が払えないなら相談に乗るつもりだった。インターフォン越しに対応した女性はろれつが回らず、酔っていることはすぐにわかった。「とにかく顔を見せなさい」とドアを開けさせた。

合鍵でドアを開けると…

「入居して3カ月もたたないうちに、玄関まで足の踏み場もないほどコンビニ弁当の容器、ビールの空き缶、日本酒や焼酎の紙パックが散乱していました。ゴミ屋敷の惨状はテレビで見たことがありましたが、まさか自分の貸している部屋がここまでになっているとは。私がへたり込みそうになりました」(掛田さん)

生ゴミが腐った臭いにアルコールやタバコの臭いが混ざった、これまで嗅いだことのない悪臭だった。これは出て行ってもらわなければと思ったが、女性が酩酊しているうえ、精神状態も普通ではないことはすぐにわかったので、翌朝改める旨を伝えた。

女性を紹介した馴染みの不動産会社の社長も連れて、翌朝、再び女性の部屋を訪れた。しかし、インターフォンを鳴らしても返事はない。そこで、開けることをドアの外で宣言し、合鍵でドアを開けてみると、なんとまさに首を吊りかけているところだったのだ。すぐに不動産会社と二人で降ろし、119番通報。意識はあり、一命を取り留めた。

その後の調べの中で、首吊りは掛田さんたちが鍵を開けるときにタイミングを見計らった狂言だったこともわかった。とはいえ、女性が加減を誤れば惨事にもなりかねず、事故物件になってしまう可能性もあった。

女性は前に住んでいたアパートの部屋もゴミまみれにして追い出され、住むところがないとその不動産会社に泣きつき、無理がきく掛田さんに頼み込んだという。

掛田さんは女性のことを不憫に思い、滞納した家賃はあえて請求せず退去させた。ただし、不誠実な仲介を行った不動産会社には原状回復の負担をしてもらった。料金は5万円くらいで済んだという。

このケースでは、家賃の手渡しなどを通じて入居者の様子をこまめに気にしていたことが、最悪の事態を避けることにつながったといえる。掛田さんは「情は大事にしたいとは思うけれども、今後は入居希望者とは面談して、トラブルを起こしそうな方はお断りしようと思います」と語る。

不動産会社「入居者確保が先決」

もし事故物件になれば、5年間は開示しなければならず、家賃は最低でも2、3割は下げざるを得ない。掛田さんのように貸している部屋が少ない場合は、まさに死活問題だ。

いわゆる事故物件も手掛ける不動産会社は「いまは保証人不要という物件も増えてきていますが、汚部屋にしたのち夜逃げしてしまうケースも少なくない。犯罪に巻き込まれたり、引きこもって最悪の事態に陥ることだって、もうレアケースとはいえないでしょう」と説明する。

「やはり保証人を立て、可能な限り入居者と面談して、この人は大丈夫と自身が判断したほうがいいわけです。ただ、昨今では全部不動産会社に仲介を任せきってしまう。われわれ不動産会社にしたら入居者確保が先決で、変な人だなと思っても、その先に起きるかもしれないことまでは考えませんよ」と本音を漏らす。

こんな物件は要注意

孤独死が出やすいアパート、マンションはあるのだろうか。

(社)日本遺品整理協会理事で、生前整理・遺品整理アドバイザーの上東丙唆祥さんは「『またお願いしますね』といって、何度も事故による遺品整理や退去時に部屋いっぱいのゴミを片付ける仕事を依頼されるお客さまがいます。都下のマンションを一棟お持ちの方なのですが、ベランダが物置状態になっています。枯れた植木が並んでいたり、窓のカーテンが外れていたり、住人がそういうのを気にしないんでしょうね。実は私の経験上、このような建物に事故物件が多いのです」と語る。

上東丙唆祥さん

依頼を受けてさまざまな現場を訪れると、事故物件になるような建物には以下のような共通点があるという。

・ベランダが使わなくなったものであふれている

・窓のカーテンが外れている

・障子が破れたままになっている

・マンションのエントランスの掃除が行き届いていない

・郵便受けにチラシがあふれている

・共用スペースに私物が置かれている

・ゴミ捨て場が汚い、もしくは張り紙などで厳しく日時を指定している

すでに棟単位で投資している人や、現在物件を探している人は、こうした雰囲気がないか確認したほうがいいかもしれない。

どこにでもいる「セルフネグレクト」予備軍

では、どのような入居者が危険なのだろうか。

部屋をゴミ屋敷状態にする人には必ず兆候があるという。いわゆる「セルフネグレクト」状態だ。セルフネグレクトとは、簡単に言えば生活環境や栄養状態が悪化していても改善しようという気力さえ失せ、社会や周囲に対し助けを求めようとしない状態のこと。社会から孤立してしまっているため、当然ながら孤独死にもつながりかねない。

セルフネグレクトに陥るきっかけは、配偶者や家族の死、自分の病気、仕事の悩みや退職などさまざま。高齢に多いと思われがちが、最近では少し状況も変わってきている。

シンクタンクのニッセイ基礎研究所によれば、65歳以上の高齢者で誰にも看取られずに亡くなった方は3万人以上、2030年には3世帯に1世帯が単身世帯、高齢単身者は7世帯に1世帯になる(2008年総務省統計局のデータより推計)という。しかし、最近では、セルフネグレクトに起因する若年層の孤独死も増えている。少額短期保険協会の統計では保険金が支払われた440例の平均が59.3歳というデータもあり、一般的な定年と言われる60歳にも満たない。孤独死は決して高齢者だけの問題ではないのだ。

誰にでも起こりうる

「実際、年齢に関係ないと思いますよ」と前出の上東さんは語る。数々の凄惨な現場に赴き、特殊清掃も行ってきた経験から「セルフネグレクトは誰にでも陥る可能性があると思います。兆候としては、気力が衰えてくるようなので、移動するのが億劫になって歩かなくなりますね。すぐ近くのコンビニに行くにも、スクーターで出かけます」と説明する。

さらに「偏食になり、コンビニ弁当、カップ麺、ペットボトル入りのジュースなど、食生活が乱れて運動不足になりますから太ります。そして、栄養ゼリーに手を伸ばします。娯楽はDVD、雑誌など、外から内へと変化していくようです。そうなってきたら、食べることすら億劫になってきますから、ゴミなど出すわけもなく、ゴミの上で生活するようになります」と指摘。「そこからは、孤独死まで一直線でしょう」

ゴミの堆積した部屋

部屋の中で地層のようにゴミの種類が変化して堆積していく。孤独死した遺体は、ゴミに埋もれるように横たわるという。

上東さんの経験上、孤独死のリスクが高い人のイメージは以下の通りだという。

・きわめて内向的な人

・食事は自炊せず、コンビニで買えるモノで済まそうとする人

・最近、親、配偶者など身近な人を失ったばかりの人

・定職を持たない人

・スクーターを足にして太った人

オーナーとしては入居時に面談し、さりげなく上記項目を確認することが予防策になるだろう。それができない場合は仲介会社にこれらの項目を最低限チェックしてもらい、該当する項目が多ければ入居を断る勇気も必要かもしれない。

異臭がヒントに

だが、このような人はどこにでもいるし、ここに挙げたタイプの人以外でも、事故物件につながりかねない人に大切な部屋を貸したとするならば、どうしたらいいのか。

前出の掛田さんのように、家賃を振り込みにせず手渡しの方法を取れば、住人の様子がわかる。いくつものアパートやマンションを所有するオーナーは、そこまでケアできないかもしれないが、自宅から離れた場所に物件を持つ人も管理会社に相談することは一つの選択肢だ。

ゴミ屋敷状態になるには、ある程度時間がかかる。上東さんによると、ゴミ出しをしなくなることによる異臭がヒントになるという。隣人が異臭に気づき、管理者や警察官がドアを開けて…ということになるわけだが、その前段階として、溜め込んだゴミの異臭が漂い、特に隣室から苦情が寄せられるものだ。

そのときに何らかの手を打つことで、最悪の事態は避けることができる。まずは本人への電話かメール。事態が進んでいる場合は反応がないはずなので、そのときは自身で赴くか、管理会社に頼んで様子を見てもらう。

アパート1棟を持っている人なら、住人の中にアパートの管理者のようなことをしてくれる人がいるケースがある。その人に報告してもらうことができれば、全体の状況がつかみやすい。まずは問題の入居者に一声かけることが、事故物件にしないための水際作戦ということになる。

万一の時、リフォーム代までは請求できない?

住民とのコミュニケーションに苦労するオーナーも多いが、住民からの苦情を受け付けるメールやSNSを2年前に設定し、オーナー側からも声をかけられる環境を整えたというオーナーもいる。東京都青梅市に60室ほどのアパート、マンションを提供している梅木誠さん(仮名・57歳)だ。

入居時には不動産会社が用意した書類に署名捺印して契約するが、梅木さんはそれに加え、メールアドレスの記入のほか、指定のSNSの登録を義務付けた独自の契約書を作成し、仲介会社に託してある。

少しでも異変があれば、オーナー自身で状況を確認し、住民に対しても注意喚起する。SNSに登録しても確認しないネットが苦手な住人には、チラシでも効果があるという。空室対策だけでなく、住環境を守り、最悪の状況にさせない対策も不可欠な時代になったという。

「ただ、住人の方々のプライバシーは絶対に守ることに気をつけています。グループは形成せず、あくまでも大家と店子の1対1。私も個人情報を漏らさないという誓約書をお渡ししています。当たり前のことですが、例えばゴミ出しのトラブルがあったことを伝えるにしても、他の住人に当事者本人を連想させないように注意して発信しています」(梅木さん)

実際、隣人から異臭の連絡をSNSでもらい、ゴミ屋敷状態になっていた部屋が見つかり、退去してもらったこともあるという。オーナーに気軽に連絡ができるので、住民が直接苦情を言って住民同士のトラブルになることも避けられ、住みやすい環境の維持にもつながるのではないか、と梅木さんは効果を実感している。

自らを守る対策を

このような策を講じても、最悪の事態になる可能性はある。そのようなとき、オーナーは保証人や遺族に原状回復費などを請求することになるわけだが、孤独死の場合、親族が縁が切れているなどと主張し、なかなか支払ってもらえないことがある。裁判を起こして原状回復費は請求できても、完璧なリフォームをする代金までは回収できないようである。

ファイナンシャルプランナーの安田まゆみさんは「アパート、マンションの約款には原状回復して退去することが記されていても、たとえ自死でもリフォーム代まで住人の責任として問われないのではないでしょうか」と指摘。「オーナーは保険に加入してリスクに備えることをお勧めします。1戸あたり月300円の掛け金で原状回復補償100万円、事故後の空室、値下げ家賃保証200万円などがカバーされる少額の短期保険などもあります」

オーナーはいつでも事故物件の「被害者」になりうる。入居審査時には孤独死のリスクについてしっかりチェックし、定期的に物件の様子を見ること。さらに、他の入居者から異変について連絡をもらえる関係性づくりや、事故や事件に対応した保険に加入しておくことも重要といえる。

(楽待新聞編集部 / 三星雅人)