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物件を相続し、オーナーとなった「二代目大家」。このようなオーナーの全員が、引き継いだ時から現在に至るまで何の問題もなく満室経営を実現できている人ばかりではない。物件の70%以上の空室や家賃滞納部屋を抱えながら、多くの努力を重ねて現在、成功を収めている人もいるのだ。

満室経営に至るまでには果たして、どのような苦労や努力を積み重ねてきたのだろうか。これらの経験から、現在の不動産投資家は、次代へ物件を引き継ぐために知っておくべきことはなんだろうか。3人のオーナーに話を聞いた。

空室率7割物件の経営参加を決めたワケ

関西地方に住む永田雅崇さんは、祖父の代から所有する物件を家族と共有名義で相続している。現在築45年以上のRCマンションで、全45戸中空室は1戸のみだが、永田さんが5年ほど前に賃貸経営に本格的に携わるようになった時は、12戸しか入居していない状態だった。

空室率は7割。この状態で賃貸経営に参加することはリスクが大きいようにも見える。そんな中で永田さんのきっかけになったのは、 仕事でかかわった不動産鑑定士から言われた言葉だったという。

「入居率の平均はどのくらいか、と問われ、自身の物件が(入居が)3割程度だから、平均は7割くらいでしょうか、と答えたんです」

だが、鑑定士から返ってきた言葉は辛らつだった。「そんな入居率では経営は失敗している。平均は9割だ」。永田さんはこの言葉に悔しさを覚えた。その一方で、現在の状態から9割入居の状態にまで持っていくことができれば収入も驚くほど向上することもわかり、「今のままではもったいない、なんとか改善しなければ」という思いで自身で成功させるために動き始めたという。

当時は、不動産鑑定士試験の受験勉強をしながら、鑑定士事務所で助手をしていたという永田さん。しかし、結婚などの事情もあり、物件の空室を埋めるために賃貸経営に専念することにした。

父から「お金をかけずに」と言われ

賃貸経営初心者の永田さんは、まず不動産会社に電話連絡をしてアドバイスをもらった。不動産会社からは間取りの変更や設備更新が必要だと言われたものの、賃貸経営を主導していた父親は「お金をかけずになんとかするように」と永田さんに伝えたという。

そこで永田さんは室内壁のペンキ塗装や、手すりの塗装、ベランダの防水、キッチンの交換などありとあらゆることをDIYで行ったという。「材料代だけは勘弁してくれと父に頼み込みました」

サイクルポートまで自作したが、一番記憶に残っているのは共用階段の蛍光灯の交換だという。「昼白色だった蛍光灯を電球色に変えたほうが良いと思う、と提案すると、父からは『まだ使えるのにもったいない。自分は昼白色の方が好きだ』と反対されたんです。そこで、近隣のアパートで、雰囲気の良さそうな場所に父を連れて夜中にドライブして納得させたことがありました」

自力でのリフォームのため、1カ月に2、3室しか修繕できない。綺麗にしては不動産会社に営業に行く、というようなサイクルだったという。

手当り次第に試した結果、効果があった営業は?

不動産会社への客付けの依頼も、一筋縄ではいかなかった。長く空室が多かったため、その物件に対する不動産会社のイメージも良くなかったのだ。「客を連れて行っても決まるような物件ではないとの思いが強かったようで、反響は恐ろしく悪かったです」と永田さんは振り返る。

広告費の上乗せや担当者ボーナスなど、さまざまな先輩大家の意見を参考に手当たり次第試した永田さんだが、効果があったと感じているのは、捨てにくいケースごと営業資料を入れて渡したことだという。

「ちょっと高そうな、捨てにくいケースに物件概要や写真、空室情報の資料を入れて、さらにケース内の空室情報を毎週更新しに行くようにしました。チラシだととにかく捨てられてしまいますが、毎週私が空室一覧資料を渡すので、ケースが(捨ててしまって)無ければ不動産会社さんも気まずく思ってくれますし、私のやる気も感じてくれたのかもしれません」

自力でリフォームし、少しずつ営業をかけること2年。ようやく満室経営を実現させることができた。

永田さんは自身の経験から、「私と同じように家族と一緒に経営をするのであれば、一緒に勉強し、お互いに納得のいくまで議論を重ねることが大事だと思います。その上で、2人で結論を出し、そして一度出した結論に対して文句は言わない。うまくいかなくても一定期間観察し、その後再度2人で検討する。とにかく、大事なことは2人できちんと決めて行動することだと思いました」と話している。

相続物件の経験を不動産投資に生かす

「突然のことだったので、鍵や書類の管理が何もわからず苦労しました」
そう語るのは、関東地方に住む山根宏一さん。4年ほど前に父親が亡くなり、父親が自主管理していた2棟のアパートと1戸の戸建てを相続することになった。しかし、賃貸経営についての引き継ぎはそれまでに何もなかったため、「何歳の、どんな人が入居者なのかもわからなかったんです」。

特に、山根さんはサラリーマンのため思うように時間が取れず、相続手続きは非常に手間だったと振り返る。「鍵や書類といった管理は、自分以外にもわかるように引き継ぎをしないと、あとあと苦労するんだと勉強になりました」

幸いだったのは、物件が自宅から徒歩で行ける距離にあったこと。入居者の確認のために、週に1、2回物件を訪れた。「築40年以上の物件で、高齢の入居者が多く、孤独死なども怖かったので確認しに行きました」

また、山根さんの父親はインターネット証券も所有していたといい、「どんな株をどのくらい所有しているのか、現在どの程度の資産なのか、確認まで本当に大変でした。パソコンの中にしかデータがないのに、そのパスワードもわからず…身内でもすべてを知らせることは難しいかもしれませんが、ネット証券でもある程度は印刷して記録に残しておいたほうがいいんだと思いました」

山根さんは、苦労をしながらも物件を相続して良かったと感じているという。「相続した時には、私自身は区分マンションしか持っていなかったのですが、相続で初めてアパート経営をすることになり、いろいろな経験や知識を得ることが出来ました。今は自分もアパートを買い進めていますので、それにも生かせていると思います」

二代目で満室経営へ

「二代目大家塾」を主催する米生啓子さんもまた、空室の多かった物件を満室経営に逆転させたオーナーの1人だ。5年ほど前、父親が所有していた築30年超のRC物件を買い取った。当時は、24戸中7戸の空きがあり、さらに別の1戸では家賃の滞納もあったという。一番多かったときは9戸の空室があり、3年の間入居がなかった時期も。

当初は父親の賃貸経営を手伝う形で参入したが、「入居付けするのに、いちいち父と相談しなくてはいけないし、空室を埋めるためにはスピードが遅い」と感じた。「築30年超の古い物件でしたから、リノベーションしなくてはいけない。けれど、いっぺんにもできないので、1度やってみてよさそうであれば『次もやっていい?』と聞いて。少しずつ変えていきました」

空室は、それだけで損になる。入居者はいないのに、固定資産税は支払わなくてはならないからだ。それが長期間になればなおさらのこと。「建物だけで125万円の固定資産税です。空気しか入れていない1部屋に、毎月4000円支払っている計算でした」。父親には、数字でスピード感を持って入居付けをすることの意義を説明した。そうした後、1棟すべてを買い取り、大規模なリノベーションを施すことになる。

内装では、3LDKだった間取りを2LDKに変更。ファミリー向けの物件にしては、リビングが狭かったからだ。

「壁をぶち抜いて、2部屋を繋げて15畳のリビングを作りました。別の部屋では、収納も取っ払い、17畳のリビングに。その広さが強みになって、この部屋は募集をかけて30分で入居が決まりましたよ」

1部屋にかけたリフォーム費は約80万円ほどだ。リフォーム費は家賃収入から優先的に捻出したという。「先行投資という考え方です。何もしないと、永遠に空室のままですから…」

また、昔ながらの和室は、あえてそのままにしている部屋がほとんど。「仲介会社には、『古い物件なので入居者は入りません』と言われたこともありました。けれど、畳があっても外国人や、また、腰が悪いから畳の部屋の方がいいという人もいて、一定の需要があることがわかったんです」。実験的にすべてクッションフロアや、一部フローリングにして和室をなくした部屋もあるが、そうした部屋のリフォーム費は約120万円と金額が跳ね上がってしまったため、次回からはここまでかける必要はないと判断することができた。

外観も大規模修繕を実施したが、特徴的なオレンジ色の塗装は、まったく同じ色を塗りなおした。「入居者からの希望もありましたし、何より父親の思い入れのある色でもあるので、そこまで変えてしまったら物件を手放したさみしさがより募ると思いました」。ただ、アドバイスとしては、一新感を出すためには外観の塗装は本来であれば変えるのがベストだそうだ。

築36年なのに家賃約1万円アップで相場より高く

父親がこの物件を運営していた時代、家賃は駐車場1台分込みで月々6万4000円だった。それを、現在は7万3000円にまで引き上げることに成功。満室経営も実現できている。周辺相場は月6万円だという。「現在築36年ですが、古くてもいろいろなやり方で満室にすることができます」と米生さんは語る。

二代目大家のほとんどは、中古や築古物件を相続することが多い。「ダメな二代目大家にありがちなことは、『古いからこの物件には入居が付かない』と物件のせいにして何もしないこと。そうすれば、家賃を下げるしかなくなってしまう。古くなった分は、知恵でカバーできると私は考えています」

米生さんの基本的な考え方は、入居者に長期間入居してもらうことで、安定的な収益を生み出すことだ。長期間入居のために、さまざまな工夫を重ねている。
そのうちの1つが入居者に向けたペーパーだ。米生さんの法人名を冠した「グラウンドワークレター」と名付けられたペーパーは家賃の請求書に同封しており、内容は入退去や新生児の誕生といった情報から、簡単な料理のレシピ、リサイクル方法など「生活の知恵」まで多岐にわたる。

米生さんが作っているペーパー。これまで発行したものはすべてファイリングしている

「グラウンドワークレター」

このペーパーは、もともとは父親から物件を買ったときに、入居者に安心感を与えるために始めたという。

「この物件は父の個人の名義だったものを、私が代表の法人で買い取ったんです。そうすると、当時の入居者さんとすれば、いきなり大家さんが個人から会社に替わってしまったということになります。結婚して代表である私の名字も父の名字とは違う。それで、自己紹介を兼ねて、大家さんが替わっても安心してくださいということをアピールしたいと思ったんです」

米生さんは入居者との交流を大事にすることで、長期間の入居を実現させている。クリスマスにはちょっとしたお菓子をドアノブにかけておく。入居者に気を遣わせないため、「大げさにやらないことがコツ」だという。

父親の時代を含めて15年以上住んでいる人に対しては、設備交換などにも対応する。「そのほうが、家賃は高く取れるままなので、逆にお得なんですよ」

また、入居付けのためにも一工夫。「古い物件の築年数は入居付けには不利ですが、例えば写りのいい写真を使ったホームページを作るとか、仲介会社さんへの営業にもきれいにリノベーションしたという証拠になる写真を持っていくといったことをしています」と説明する。

親の「時代錯誤」に苦労する二代目

米生さんは「今の二代目大家は、一代目よりもスキルが高くないといけません」と指摘する。「ひと昔前は、『大家さん』はただ家を確保する、ただ家を建てていればよかった時代でした。しかし、今は部屋が余っている時代で、営業力が必要になる『賃貸経営者』でなくてはいけないんです」。

そのためには、物件を相続する前からの勉強やネットワークづくりを大切にすべきだとしている。本を読んだり、大家の会に参加したりするほか、親の賃貸経営を手伝うことが重要だという。「急に相続することになると、書類がどこにあるのか、入居者が誰なのかといったことすらわからず、二代目大家が不利な立場に立たされることになってしまいます」。最悪の場合には空室が増え、そのまま売却となり、安く買いたたかれてしまう可能性も考えられる。

注意しなくてはならないのは、親の賃貸経営を手伝う際、親と子で意見の食い違いが発生するケースがよくあることだ。「昔からの大家さんは、お金をかけなくても入居者が決まった時代を知っているのでリフォームにお金をかけることを嫌がったり、そのエリアの人口分布などの変化を知らなかったりします。また、物件も『継がせてやる』『残してやる』といった思いが強く、親の時代錯誤で苦労している大家さんも多いです」(米生さん)

米生さんが実践したように、家賃下落や支出の多さを具体的な金額を示し、根気強く説得するのも1つの手ではある。しかし、二代目大家側が相続前に自身で区分マンションや戸建てなどを購入することも推奨している。そうすることで、知識だけではなく、実績も積むことができるからだ。さらには、相続予定の物件について親から借り受ける「親子間でのサブリースをすることもいいんじゃないでしょうか」とアドバイスする。

相続対策で買い取った物件と米生さん

「争族」を避けるためには

不動産投資家は「絶対に遺言書を残すべき」と米生さんは話す。「争族」を避けるためだ。子供が複数いる場合には、なぜその物件をその子に相続させることにしたのか、という説明書きも付けるべきだという。「相続が発生するころというのは結婚して、家のローンが残っていたり、子供が進学していたりとお金のかかる時期が多いです。そうなると配偶者は『もらえるものはもらったほうがいい』と言って、例えどんなに仲のいいきょうだいであっても争族になってしまうケースは多々あります」。

さらに、物件を共有名義で相続させることは「やめてほしい」という。「共有で持っていても、賃貸経営は絶対に片方に偏ります。私が相談を受けたケースでもよくあるのですが、賃貸経営をしていないほうに限って『家賃の半分をちょうだい』と言ってきます。こういったケースは争族のもとですから、名義は明確にしておくべきです」。相続した人は、修繕費用の支出額などを含め、賃貸経営の大変さをアピールすることも大事だとアドバイスする。

相続させない選択肢も

最終的には「子供に物件を残すことが当たり前ということでもない」と米生さんは言う。子供に賃貸経営の能力や意向があるのかはしっかりと確認すべきだ。

「子供に持たせることで破産させてしまう、不幸にさせてしまうということであれば、売却し、現金で残すことも選択肢の1つです。特に地主系の方に多いと思うのですが、物件を処分する、売却することを罪だと思う人も多いですが、本当に価値のある財産に組み替えることは決して悪いことではありません」

今後、オーナーを続けていけばいつかはその物件をどうするか、ということについて検討しなくてはいけない日が来る。来るべき日のために、今から自分が物件を手放した後のことを考えておいてほしい。

(楽待編集部 浜中砂穂里)