2015年、26歳の時に不動産投資を始め、現在は夫婦で東京、愛知、千葉に6棟70室を所有する八木エミリーさん(28)。総投資額は6億円を超え、年間家賃収入は4930万円、税引き後キャッシュフローは1410万円に上る。「目標は20代で総投資額10億」とスケールは大きい。

しかし1棟目を購入するまでには、不動産会社50社ほどを回っても全く相手にされないという試練の日々を送り、現在も管理会社のおざなりな対応に悪戦苦闘するなど、若い女性ならではの困難に直面している。それでも決してへこたれることなく、オーナー業に日々邁進するのは、不動産投資での成功の末にかなえたい「2つの夢」があるからだ。

生まれ育った地元を再生したい

「街を変えるには、市長になるかお金持ちになるしかない」

愛知県の海に近い田舎町に生まれ、急速に過疎化が進む地元の将来に漠然とした不安を抱いていた。「今は東京に住んでいますけど、家族や友達が暮らしている場所。『もっと魅力的な街にしたい』という思いがずっとあって…。それで、市長は無理だけど、お金持ちになれば自分にもできることがある、と考えたんです」

そのためには「まずはお金の勉強だ」と、新卒で東証一部上場の証券会社に入社した。朝4時に起きて新聞を隅から隅まで読み、飛び込み営業を続ける毎日。金融や経済の知識も少しずつ身に付いてきた入社2年目、24歳の時、地元にある海辺のホテルが売却を考えているという話を聞いた。

「もともと、ぼんやりとホテル経営をしたいという夢があったんです。ホテルの目の前に有名なカフェやカヤック場があって、きっと集客も見込めるし、地域活性化につながると思いました」

売却価格は2億円。当時は想像すら及ばないような金額だった。「それでも、『私、ここ買いたい!』って思いました。ただ、親に頼んで借りるぐらいしか思いつかなくて…。買うならどうすればいいんだろう、2億貯まるまで待てない! と考えた末に行きついたのが、不動産投資だったんです」

セミナーに出ても相手にされず

それから約1年間、土日をすべて使ってセミナー漬けの日々を送り、不動産投資に関する書籍も100冊以上読んだ。「仕事でだいたいの投資については知識がありましたけど、不動産投資に関しては素人なので、とにかくいろんなセミナーに一通り参加しました」

ただ、訪れたセミナー会場では、常に冷ややかな視線に晒された。「オジサンばかりの中に一人小娘が混じっているので、『どうせ冷やかしだろ』と思われて全く相手にされないんです」。いつも最前列で一生懸命メモを取っていたが、個別相談に申し込むと、順番が回ってくるのは決まって最後。必ず新人の担当者が対応した。

「隣で居眠りしている人よりは頑張って聞いていたはずなのに、自分は後回し…。本当にナメられてるな、と悲しかったです。いつか名前が知られるように頑張って、見返してやろうと燃えました」

当時の年収は460万円で、自己資金は貯金300万円と株式200万円ほど。「大家さんの知り合いも全くいなかったので、とにかく汗をかいて足で探すしかありませんでした」。ひたすら飛び込みで業者を回る毎日。証券会社の厳しい営業で鍛えられたフットワークと鋼のメンタルが生きた。

50社ほどを回ったが、9割はまともに相手にされなかった。「入った途端、受付の女性から『今日は誰もいませーん』と門前払いされることもありました。あとは、どう考えてもマイナスにしかならないような売れない物件を紹介されたり…。見た目がトロいので、たぶん『適当に言っときゃ買うだろ』と思われたんでしょうね」

2015年、ようやく運命の1棟目に出合った。ある業者に紹介された愛知県一宮市の築18年の重量鉄骨アパート。全10室で、販売価格は4800万円、利回りは10.79%だった。

「自分が一人暮らしをするなら」という視点で考えた。「駅から物件までの街並みが明るく、帰り道がさみしくない。メイン通り沿いで、いろんな店が並んでいたので、ここなら入居がつくだろうと直感しました」

自己資金を250万円入れ、業者に紹介された金融機関から金利3.175%・32年で融資を引いた。「融資審査はド緊張で口から心臓が飛び出るかと思いました。カミカミだったと思いますが、『不動産投資をしたいから不動産投資をするんじゃなくて、将来やりたいことがあるからそのためにやるんです』って、とにかく熱意を一生懸命伝えました。向こうの反応も『応援してあげるよ』みたいな感じでした」

4500万円を超す借入にも、一切ためらいはなかった。「ローンを抱える恐怖よりも、『これでようやくスタートラインに立てたんだ』という興奮の方がはるかに大きかったです。借金をすることは全然怖くなかった。それで成長できると思っていたから」。現在は金利引き下げ交渉にも動いている。

半分空き状態で購入した物件。客付会社をローラーで回り、毎週明けに必ず管理会社から問い合わせ数と案内数、そして「ダメだった理由」をヒアリングした。そうした地道な努力が実り、3カ月ほどで満室を実現した。

結婚を機にペースアップ

同時期に、名古屋市で8400万円の新築木造アパートを購入した。駅徒歩3分の好立地で、利回りは7.6%。自己資金100万円で、業者から紹介された別の金融機関から1.975%で融資を受けた。「シックでスタイリッシュな印象にしたかったので、ブラックを基調にした外観です。ここもずっと満室続きで、全然苦労はしていないです」

27歳の時に結婚。「投資が大好きで、憧れはドナルド・トランプ」という夫の協力を得て、規模を拡大していった。「1、2棟目を買って、フウーと満足しかけたんですけど、これじゃいかん! と思って…」。2棟目購入から1年ほどかけて、少しずつ自己資金を貯めた。

昨年6月には千葉県船橋市で築21年、利回り8.04%の重量鉄骨アパートを1億5000万円で購入。頭金300万円を入れ、地銀で1.2%の融資を受けることができた。「ここも優秀な物件で、まったく苦労しません。18室ですが、空いてもすぐに埋まります」

4棟目は初めての店舗付き物件として、八王子のRCマンションを9200万円で購入。利回りは7.44%で、自己資金200万を入れて信金から1.88%で融資を受けた。「1年間家賃保証が付いていたのでのんびりしていたんですが、2店舗中1店舗がまったく埋まらなくて焦りました」。家賃保証が切れるギリギリの時点で、ポンっと弁当店の入居が決まった。「今はラーメン屋と弁当店なので、単身男性に喜ばれています。でも、店舗付き物件の入居付けは大変だと実感しました」

今年9月には、愛知県一宮市で築16年のRCマンションを購入。駅徒歩3分で、販売価格2億円に対して積算価格が2億4000万円と高く、利回りは8%だった。

融資を相談した大手銀行の担当者に、自分の考えや将来のビジョンを丁寧に伝えた。すると「投資目的でやる人は多いけど、女性でここまで夢やビジョンを持つ人はなかなかいない」と、今までにないような良い反応を得ることができた。

当初、業者から紹介された際は金利1.7%程度という話だったが、最終的には0.55%で融資を受けることができた。「おそらく、ここまで自分のことを大っぴらに話す人はあまりいないんじゃないでしょうか。今後どんどん規模を大きくしていきたいということを伝えたら、『じゃあ半年後でも1年後でも、いつでも来てください。応援しますよ』と言ってくれて、うれしかったです」

物件選びでは積算価格を重視し、利回り8%以上、税引き後キャッシュフロー2%以上、返済比率50%以下を条件に探している。「あとは直感というか、物件の周りに何があるか、落ち着いて住めるかをチェックして、自分で住むならどうかな、というのをみます」。現在、全物件の入居率は97%となっている。

1棟目の物件の内階段の踊り場には、小物などを置けるような小さな出窓がある。「ここをかわいくしたら面白いかな、と思ったのも購入の決め手でした」。季節ごとに飾りつけを行い、現在は花や木、松ぼっくりなどを置いて入居者を喜ばせている。すべて100均グッズで、合計わずか500円だという。

「ステージングも、いかにお金をかけないかを考えています」と、豪華なモデルルームなどは作らず、キッチンなども100均グッズで飾り付け。「今は季節柄、カボチャの置物を選んでいるんですが、これは『今月中に決めてください』という管理会社へのサインです。そしたら『じゃあ11月になったらカボチャは撤去しますね』というので、「いや、そうじゃなくて! っていう(笑)」

キャッシュフローは順調に拡大しているが、「ぜいたくは目標を達成した後」と、不動産から得た収入は一切生活費に使っていない。給与は慈善団体に1割を寄付し、1割を実家へ、3割を貯金し、残りの5割で生活している。「だからけっこうカツカツの毎日なんですよ(笑)。家賃年収が5000万円近いようにはとても見えないと思います」

虚偽報告に唖然

順調に見える賃貸経営だが、問題もある。最近になって衝撃の事実が発覚した。1棟目の物件の空室について、管理会社は毎週3件から5件の案内はしていると報告していたが、先月、黙って部屋を見に行ってみると、ものすごい湿気でトイレの壁はカビだらけ。挙句の果てに、ベランダには上階の入居者の洗濯物が落ちていた。

「ウソでしょ? と思いました。どう見ても内見案内をしている形跡がないんです。厳しくしているつもりなんですけど、やっぱりナメられています。難しいですね」。管理会社の変更も検討しているが、「先輩大家さんからは『客付け強いところだから外すとキツいよ』という意見もあって…。悩んでいます」。

これまで、不動産会社に何度突き返されても、どれだけナメた対応をされても、心が折れることはなかった。頑張りを貫けたのは、2つの大きな目標があったからだ。

一つは、生まれ育った地元の街を活性化させること。「海もきれいだし、海産物もおいしいし、やりようによっては大きな可能性があるはずなんです。今はさびれたホテルしかないけど、手を加えれば絶対にお客さんは集まる。それで雇用を生み出し、地元に恩返しがしたいんです」

まずはリゾートホテルを開業するのが夢。「親や友達がずっと住んでいく街だし、便利でにぎやかになったらいいと思う。それに、仕事がなくて苦しむ同級生の姿も見てきたから。そういう人たちのための雇用の場を創出したいんです」

もう一つは、シングルマザーのためのシェアハウスをつくること。「いろいろなセミナーに出る中で、自分が恵まれているということ、そしてシングルマザーが増えていることが分かりました。大変なお母さんをたくさん見てきて、シングルマザーの子どもたちもなかなか幸せになれない現状があると知った。だから小さい頃からお金の教育をしたり、人と関わり方を教えたりしたいんです」

シェアハウスで子どもたちを教育し、ホテルを建設して雇用を生み出す。「子どものころからしっかりと面倒を見て、その子たちが高校・大学を卒業して、もしも行くところがなかったときに『じゃあおいで』って言ってあげる。そんな大人になりたいんです」

そのために「20代で総投資額10億」という目標を立てた。「この2つの夢があったから、どんな場面でも心が揺らぐことはなかった。自分で選んだ道なので、ちょっとやそっとじゃへこたれません」

転職にもためらいなく

今年に入り、東証一部上場の証券会社からフリーランスの仕事に転職した。「迷いはなかったです。証券会社で億単位のお金に触れることはありましたけど、不動産投資を始めてからそれが自分ごとになって、働き方も意識も変わった。不動産投資という大きな柱があったから、心に余裕ができて、転職も含めていろんなことに挑戦できるようになったんです」

20代で不動産投資を始めることのメリットも感じている。「若いことの特権は、分からないことがあった時に『分からないです、教えてください』と堂々と言えること。みんな優しいから教えてくれます。あとは吸収力と行動力があることも強み。それに10年スパンでも20年スパンでも余裕を持って事を進められるし、うまくいかなかったら方向転換すればいいので」

「今、『夢のない若者』とか言われてるじゃないですか。絶対そんなことはなくて、表現するすべを知らないだけだと思う。だから、夢は持っていいし、人に言っていいし、言ったらできる、ということを伝えたい。その一歩を踏み出すきっかけに、自分がなれたらいいなって思っています」

夢は100億

周囲には、アドバイスを振り払って毎月持ち出しになるような新築区分マンションを買ってしまった友人もいる。「ちょっと収入が増えて、かつ将来に漠然とした不安を抱えているような人が狙われる。だから、そういう人たちに『自分で考えて』とか『実際にやっている人の声を聞いて』ということを届けたいんです」

若い女性たちに不動産投資の魅力を発信したいという思いは強い。「女性の不動産投資家ってけっこうキラキラした人が多いので、『自分には無理』とあきらめている人は絶対いる。でも、こんな私でも毎日楽しくできている。だから、誰でもできるはずなんです」

「20代で10億」という目標は現実味を増してきた。「最終的には40歳までに100億」と夢は膨らむ。「まず、地元の海辺のホテルを一番に買う。今では『2億円』という金額も当時と全く違って見えるから。その後、2つの夢を必ず実現します」

(楽待新聞編集部 金澤徹)