このような事件が発生すれば、退去や家賃下落などさまざまな悪影響が考えられる。では、それらを予防するためにオーナーができること、そして、万が一起こってしまった場合に考えるべきことはあるのだろうか。事故物件の経験者や専門家に話を聞いた。

これまでに所有物件で首吊りや練炭自殺、不自然死などが発生した経験を持つ投資家の加藤隆さんは、心理的瑕疵物件の告知義務について「最低1回転・2年間で解除されるという判例もありますが、今回の事件は心理的瑕疵のレベルは相当高いので、当面は告知し続ける必要があるでしょう」と指摘する。

室内に残る異臭の除去も難しい問題だが、「例えば体液が床下まで浸透しているようであれば特殊業者に頼んでリフォームした方がいいと思いますが、その場合は通常の倍程度の時間とコストがかかると思います」と語る。殺人や自殺に対応した事故保険に入っていれば、腐敗臭の除去や特殊リフォーム、空室時家賃補填、家賃下落補填などもある程度カバーされるという。

今後の対応については「こういった事件を気にしない人に低家賃で入居してもらい、徐々に賃料を元に戻すか、退去が多いようであれば建物を取り壊して再建築する。あるいは駐車場や倉庫などとして活用するなどの道も考えられます」と話す。

首吊り物件でも躊躇しない人はいる

今年3月、所有する物件で入居者が首吊り自殺したという投資家の森田正雄さんは「部屋は30平米の1DKでしたが、腐るようなものはほとんどなく、荷物も少なかったため処分費用が約10万円、原状回復は床、壁、天井などの張り替えで約30万円でした」と説明。家賃は本来の8割に下げて募集したが、リフォーム中に申し込みが入り、「こうした物件でも躊躇なく入ってくれる人はいるということが分かりました」と振り返る。

今回、事件が発生した物件が木造であったことは、オーナーにとって不幸中の幸いだという。「孤独死で腐敗した場合は床下に体液が落下してしまったりするのですが、木造であればその部分を取り換えれば済みます。RCだとその部分を除去するためにコンクリートを斫(はつ)る必要があり、大変な作業でかなりのコストがかかるんです」

事故物件でも気にしない入居者

前出のBさんも、実は自殺による事故物件アパートを所有していた経験があり、「当時はかなり混乱しました」と振り返る。ただ、Bさんの場合は退去が1件も発生しなかった。これは入居者に生活保護受給者が多かったためだ。

生活保護受給者はオーナーに入居を拒否されるリスクがあり、一度退去すれば新たな部屋探しに苦労するケースも多い。Bさんは「経験上、生活保護受給者は事故物件でもそれほど気にしない傾向にあるので、正しく説明すると案外スムーズに入居してくれます」と語る。

物件は事故のあった部屋以外を貸し出すことで運用を続けた。2年ほど経過すると、事故の事実を伝えても「住みたい」という入居者が現れ、現在の入居率は87.5%。もともと現金で安く買えたため、利回りは35%に上るという。

「自分の場合は建て替えを選択しなくて正解だったと思っています。事故物件になってしまったとしても、もし受給者が多いようであれば、そういった方向けのアパートとして運用を続ける道もあり得るかもしれません」

家賃下落は避けられない

資産価値に与える影響はどうなのだろうか。不動産鑑定士で不動産コンサルタントの浅井佐知子さんは「今回のような史上まれにみる凶悪事件の場合、一般的な資産価値低下では査定できません。ここまでひどい犯罪でない場合でも資産価値は大きく下がり、建物をそのまま残した場合は2~5割くらいの減価になります」と説明する。

「今回のケースでは建物自体も築30年近いので、取り壊しも視野に入れるべきではないでしょうか」と浅井さん。「更地にしてしばらくそのまま放置しておき、何年か経った後、業者に市場価格の2~5割引きで売却するのが一番現実的な出口だと思います」と語る。

「一般的に家賃下落の影響は他殺が最も大きく、自殺、自然死の順です。自然死の場合も発見が遅れて室内の状況が悪ければ下落幅は大きくなり、告知義務も発生する。両隣や下の階の部屋は3~5割引き、そのほかの部屋も2割程度は安くなると思います。ただし、日常的に生死に関わる仕事をしている人などの中には全く気にしない人もいるので、家賃次第でニーズはあるのではないでしょうか」

浅井さんはこういった事件の予防策として「入居申し込み時に人柄をしっかりチェックすることはもちろんですが、更新時や新年にはがきを出して連絡を取ったりすること。あとはエントランスや階段に防犯カメラをつける、定期的に物件の見回りに行ける場所を選ぶことも重要だと思います」と話した。

不動産オーナーの未来が一瞬にして暗転してしまう可能性があることを、あらためて思い知らされるような今回の事件。やはり、入居審査の厳格化や物件の見回りなど、地道な取り組みが抑止策になる。突発的な事件や事故はオーナー自身の努力だけで防ぐことは不可能だが、巻き込まれる可能性がゼロではないということを念頭に置き、できる範囲での対策を講じることが重要になってくるだろう。

(楽待新聞編集部)