写真© tatsushi-Fotolia

12月に入り、紅葉シーズンも終盤。物件調査などで各地へ向かう際には、色付いた山々を車窓から眺めています。不動産投資に関わるまでは各地への移動はそれほど多くなかったのですが、最近は不動産関連業務で彼方此方へ訪れることも多くなりました。以前よりも季節を敏感に感じるようになったのではないかと思います。

さて、今回は再調達価格についてです。住居系の収益物件で建物の資産評価をするにあたり、金融機関や保険会社などでよく使う指標として「再調達価格」というものがあります。正確な資産評価は不動産鑑定士などが評価するようですが、簡易的に決まった方式で算出した価格を基に判断材料とするのです。今回はこの再調達価格について、建築士の立場から検証してみたいと思います。

再調達価格って何?

再調達価額とは、建築物においてその建物の再現における評価基準となります。例えば建築物が火事で全焼してしまった場合、焼失したものと同一の質、用途、規模、型、能力のものを再現した場合、その再現に必要になる費用が再調達価格となるのです。再調達価格を算出するに際しては、各構造別に基準単価が提示されています。

鉄筋コンクリート(RC)

20万円/㎡

重量鉄骨(S)

18万円/㎡

木造

15万円/㎡

軽量鉄骨

15万円/㎡

この価格は目安であり、金融機関によっては設定単価が異なります。実際にはこの単価よりも安く評価されることが多いかと思います。上記単価に建物の床面積を乗じれば再調達価格となるのです。例えば、RC造で床面積1000㎡の建物があった場合の再調達価格は、20万円×1000㎡=2億円となるのです。

金融機関では融資審査で物件の現状資産価値を評価するときに「積算法」を使います。積算法では積算価格というものを算出するのですが、残法定耐用年数に法定耐用年数を除した値を再調達価格に乗じます。

積算価格=再調達価格×(残法定耐用年数÷法定耐用年数)となります。例えば、築19年のRC造で床面積1000㎡の建物があった場合の再調達価格は、2億円×(28年÷47年)=1億1914万8936円となります。

再調達価格というのは、あくまでも基準となる構造別の単価によるものです。そのため、実際の建築価格とは違うことはおわかりいただけると思います。建物を細部まで拘り、設備機器も高価なものを使った豪華な造りでも、公団仕様で設備機器も廉価な物を使った造りである物件でも、同じRC造で同じ用途、規模、型、能力であれば同額になってしまうのです。

しかも、この再調達価格に使われる平米単価は実情に合っておらず、地域差も考慮されていません。実際にRC造の建築単価は現状首都圏では安くても25万円/㎡以上となっています。

地方でも22万円/㎡以上が普通ではないでしょうか。単価だけを見ると20万円と22万円で「たった2万円の差か!」と感じますが、2万円の差を床面積で乗じると大きくなることが重要です。1000平米ともなると2000万円の評価損となりますので、深刻です。このように、実際の建築価格とは大きな乖離が発生しています。

金融機関で積算を出すときにこの再調達価格を利用する訳ですが、実際には建物の単価は更に下げられてしまいます。単価を引き下げるだけであれば良いのですが、金融機関によってはRC造でも築25年超であれば建物の資産評価はゼロというところもあります。こうなってしまうと、余程土地の資産評価の高い物件でなければ融資額は期待できなくなるでしょう。こちらは金融機関の方針によります。

実建築から見た再建築価格

実際に今所有する物件で築年数が経過して建物の傷みも大きくなった場合、現状建物を解体して再建築するといった計画も想定されます。この場合、前記したような再建築価格で試算するのは危険なことはもうおわかりでしょう。しかも、再建築する前には全空室にする費用と解体費用も発生します。解体費用の目安は前回のコラムを参照下さい。

では、具体的に構造別の単価はどうでしょう。これも前記したように、建物や設備の質によって単価は大きく変化します。ここでは平均的な収益物件建築と考えて下さい。

鉄筋コンクリート(RC)

22万円/㎡

重量鉄骨(S)

20万円/㎡

木造

17万円/㎡

軽量鉄骨

17万円/㎡

この値は現状の私の感覚での一般単価とさせていただきます。首都圏ではこの単価では無理のようですので、首都圏以外の地域と考えてください。首都圏では普通にゼネコンや工務店に依頼した場合、2割増し程度高くなるでしょう。現在、この地域ではオリンピックの影響なのか単純に人手不足なのか、建築単価が異常事態になっています。

いずれにしても、建築業界は高齢化のため熟練職人が不足しています。私の担当する建築現場でも、高齢者が多く若者は少ないのが現状です。今後も人手不足→供給減→価格上昇となっていくことは避けられないでしょう。

再建築する場合、「もとの建築物よりも良いものを!」と考えがちです。例えば「もとの建物が4階建てだったけど今度は6階建てにしよう!」といったときです。この場合、建築基準法で不可能な危険性があります。都市計画法との関連で用途地域別に高さの制限が設けられているからです。

また、最悪の場合はもとの建物が新築された当時と用途地域が変わっていて、同規模の建物も建てられない可能性もあります。このあたりは再建築計画初期に予め調査しておく必要があるでしょう。

さらに、再建築時には地中埋設物にも注意が必要です。既存建築物が木造や軽量鉄骨造などの軽量構造で、地盤が良好であれば地中に杭が打たれている可能性は低いので、整地すればそのまま再建築できます。ところが、RC造や鉄骨などの重量構造で地盤が軟弱な場合は問題です。地中に杭が打たれている可能性が高いからです。杭が打たれている場合、再建築にあたって予め杭の除去が必要で、大きな費用が必要になります。

逆にRC造や鉄骨などの重量構造であった場合で、地盤が若干軟弱な場合、もとの建物では杭が必要でなかったと想定されます。そこで再建築を計画する場合、元と同じ規模で計画するから杭は不要と思ってはいけません。もとの建築物が新築された当初の建築基準と現在の建築基準では、構造計算をはじめとする耐震基準内容が強化されています。30年前の構造計算では不要だった杭も、現在の構造計算では必要になるケースも多いでしょう。

このように、法律改正による影響も考慮しなければなりません。特に昭和56年前後では大きな建築基準法改正が行われています。元々自分の収益物件が建っていたところに再建築する場合は大体の費用予想はつきますが、元々所有者が第三者であった土地に再建築をする場合は更に注意が必要です。

特にその既存建物の用途が違う場合は要注意です。例えば化学工場の跡地や病院の跡地は厄介な場合もあります。土壌汚染されている場合もあるからです。東京の豊洲問題や大阪の森友学園問題も土壌汚染が原因です。こういった土地は再建築する場合にはリスクが高いので避けた方が良いでしょう。

再調達価格は物件ごとに大きく異なる

建築物の再調達価格は、建物の価値を判断する値と、実際に再調達(再建築)する場合で価格に差があることはおわかりいただけたでしょうか。

再建築する場合には「建物を建築する」価格だけではなく、事前に行わなければならない入居者の退居費用や建物解体費などの建築費とは別で高額な経費が発生します。場合によっては再建築費と同等以上の経費がかかる事例もあるほどです。

再調達価格はケースバイケースで、実際にはそれぞれの物件ごとで大きく異なりますので、金融機関などで使われる簡易的な再調達価格とは違うということは重々把握しておいてください。