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元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな言葉は『増税』です。

ぼくは大学を卒業して、東京国税局に入庁、法人税の調査官を経て、現在は、よしもとクリエイティブ・エージェンシーでお笑い芸人をやっています。ブラックホールより暗い、漆黒の芸能事務所からすずめのヒナの涙みたいな賃金をもらって生活をしています。

ライブに出たり、税金や貯金術に関するセミナーを実施したり、月1回くらいテレビの仕事があったり、ウェブで連載記事を書いたり、出版に向けて動いたりしています。それもこれも全て、国税局の経験と現在に至るまでの自己研鑽の賜物だと認識しています。努力を怠らなくて良かった。

こちらの連載では、不動産の売買を行う方々を中心に、個人事業や法人の代表者、あるいは一般の会社員に方に愉しく、かつ役立つインフォメーションとインテリジェンスをお届けします。

調査の仕方はいろいろ

さて、まずはぼくが国税局時代にやっていた調査の概要から。法人税の税務調査が主な仕事です。『マルサの女』のように惣菜屋やカフェ、パチンコ屋に行くこともありますし、土建屋さんやITベンチャー、不動産投資をしている方のところにも行きました。

しかし、会社に出向く実地調査だけでなく、準備調査や調査先の選定のために申告書類や預金口座を調べることもありますし、調査対象法人の取引先に出向く「反面調査」もあります。

「内観調査」と言って、こっそり様子を見に行って、飲食店であれば食事をし、風俗店であればプレイに臨むこともあります。数えたことはありませんが、2年と1カ月いた国税局で、数百の法人や個人事業者に関わったかと思います。

法人税の調査といっても、法人税に関する資料だけ見るわけではありません。同時に、消費税、印紙税、源泉所得税の調査も行います。これらは「4点セット」と呼ばれ、調査時には必ず否認事項を見つけたい項目です。

「否認」というのは、法人や個人事業者が行なった経理処理や申告処理を認めずに、所得を増やすことを指します。

税務調査によって所得を増やされると、追徴税額が発生します。追徴税額が発生すると、本来払うべき本税に加算税と延滞税が加わるので、内容や遡及した年数にもよりますが、1.1倍­~1.4倍程度になります。ぼくの調査官時代の成績は決して悪くなかったのですが、4点セットのうちの印紙税だけは、なかなか否認できませんでした。

というのも、印紙を貼る文書や金額というのは法律で定められているのですが、そもそも貼る機会が多くないのです。身近なところですと、みなさんが物を買ったり、サービスを受けたりしてお会計をしたときに5万4000円以上になると、レシートに200円の印紙が貼付されます。しかし、その貼付した領収証は、お客様に交付するもので、調査先には残っていませんから、ちゃんと貼ったか貼っていないかわかりません。

さらに、ほとんどの方が貼付しなければいけない事実を知っていますから、概ね貼られています。調査先に書類が残っていて、印紙税の貼付漏れが想定されるものには、不動産の売買契約書や請負契約書、金銭消費貸借契約書があります。

しかし、これらの書類を日常的に作成する業種ならともかく、小規模な法人であれば、作成する機会すらないわけです。そうなると印紙税を否認するどころか、印紙税の課税文書さえ見つけることができない。4点セットを網羅するのは難しいのです。

印紙税の代わりに力を入れたのは

その代わりにぼくが力を入れていたのが「不正の発見」です。現役時代、ぼくの不正発見率は5割でした。当時の国税局では、不正発見率が3割を超えていれば優秀な調査官とされています。自分が優秀だったとは思いませんが、憲法15条にある全体の奉仕者として結果を出すことはできたと思います。

お笑い芸人になりたくて辞めてしまいましたが、税務調査は他のどんなことよりも愉しかった。やりがいの塊みたいな仕事でした。それを切ってまで、お笑い芸人になったのですから、どんなに事務所からの給与が少なくとも辞められません。自活するために、法人の役員になったり、税理士さんを斡旋したりしていますが、純粋な「お笑い」の仕事だけで生活できたらどんなにいいことか。

しかし、今は自分にできることをやるだけです。税金で困っている方や、税金の知識のない子どもたちに、ぼくの持っている社会でサバイバルするための知識を提供したいと思っています。

税務調査によって、どのくらいの追徴税額が発生するかは、ケースバイケースですのでなんとも言えません。ぼくが一人で担当した調査で300万円くらいでしょうか。大勢で連携して調査したもので、数千万円です。新聞やテレビで報道されるような、数億円の規模のものは稀で、稀だからこそ報道されるともいえます。

なぜお笑い芸人だった?

そんな経験をしたぼくが、なぜお笑い芸人になったか。週に1回くらい、人と知り合うたびに聞かれるのですが、「お笑いがやりたかった」。ただそれだけです。本当に好きなものに理由などなく、純粋に好きだからです。

おそらくほとんどの芸人が、言葉にできない理由で「好きだから」芸人をやっているのではないかと思います。好きじゃなかったら、いますぐ芸人を辞めて就職したほうがいいはずです。芸人の90%以上がアルバイトをしていて、月に15万円くらいの収入で、税金や年金を払わずに生きています。保険証を持っていない同期もいました。

そんな辛い生活、お笑いを悪魔的に愛していないとできない。お笑い芸人は、お笑いを愛しています、世界中の誰よりも。

不動産投資家の方々は、独自のネットワークがなければ情報や良い物件を手に入れるのが難しいと聞きました。きっと、業界内の横のつながりで、税務調査の情報も入ってきやすい環境にあると思います。

しかし、誰が調査に遭ったとか、どんな否認事項だったといった情報は、ほとんど流れてこないのではないでしょうか。不動産業を営む方の全体数は、法人や個人事業者全体から見ると少数派で、ほとんど税務調査がありません。もし、この記事を読んでいただいている方の中に調査を受けた経験がある方がいれば、すこぶる運の悪い方です。

まだ経験のない方も、これから調査の連絡がくるかもしれません。きてしまったものは仕方がない。あなたが正しく記帳したはずの帳簿を見せ、契約書を提示し、領収書をコピーさせてあげてください。不動産賃貸業の税務調査でよく否認されるのは、帳簿上は家族に給与を払って経費にし、実際は仕事をさせず、給与も代表取締役が個人的に費消している事案です。

収入と比較して、経費にできるものが少ないのでしょう。納税額を圧縮するために、愚直な不正に奔る方が多くいます。しかしそんな方法では、調査があれば簡単にバレてしまいます。

少し家族に話を聞けば、仕事内容や給与の支払い方法で社長の話との矛盾が明らかになり、さらに追求されることになります。源泉徴収をしなくてもいいように家族の月給を8万8000円以下にしている場合や、振込ではなく現金手渡しの場合は、不正を疑われやすく注意が必要です。

もちろん、それが経理の方法として間違っているわけではありませんが、怪しいと思われていいことはありません。労働に見合った給与を振込で支払うと良いでしょう。

家族と食事をしたときの支払いなど、個人的な飲食代を経費にされる方も多いです。特に自宅近くの飲食店で、人数やメニューが分からないようにレシートではなく領収証で保管されている方は、調査官に疑われるかもしれません。経費は領収証でなくレシートでも認められます。レジでひと声かけて領収証にするのは、何か理由があると調査官は考えます

家族での食事は業務関連性がありませんので、経費として認められません。家族全員が従業員の場合は、福利厚生費として認められる可能性もありますが、従業員全員が参加しているなどの要件を満たす必要があります。

大切なのは、税法を知り、正しい処理と正しくない処理、そしてグレーな処理を認識することです。あなたがダメだと思っていた経費が税法上は認められ、良いと思っていた経費が否認されることもあります。不安であれば、税理士に依頼することをおすすめします。