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今年8月、大手ハウスメーカーの積水ハウスが、東京・五反田駅近くの土地購入のために63億円も支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受け取ることができないという事態があったと発表した。これは、他人の所有地を利用して詐欺を働く「地面師」による詐欺事件とみられている。
さらに11月には、大手ホテルチェーン「アパグループ」との土地取引をめぐって、約13億円をだまし取ったとして地面師グループの男女9人が逮捕されたという報道があった。逮捕者の中には本物の司法書士も含まれており、性善説に基づいた不動産取引には限界が来ていることを思わせる事件となった。
地価の上昇が続く中で、暗躍している地面師。一般の不動産投資家も巻き込まれるリスクはあるのだろうか。注意すべきポイントについて考える。
地面師の手口とは
そもそも地面師とは、土地や建物の所有者になりすまし、不動産を転売して代金をだまし取ったり、借金の抵当に入れたりする詐欺師のこと。土地取引が活発だった1990年前後のバブル期に横行したが、近年、都心部の不動産価格の上昇に伴って再びその被害が目立ち始めている。
背景には、低金利による融資拡大で不動産の購入希望者が増えていることもある。取引の数自体が増えれば、その分地面師詐欺も発覚しにくくなると考えられるためだ。
こうした地面師の多くは放置されている空き家や空き地をターゲットにしていて、所有者が生存不明だったり、遠方に住んでいたりいるケースなどが狙われやすい。積水ハウスの事案の舞台となった土地も、所有者が所在が不明だったとされている。
誰もが欲しがる土地だった
報道などによると、積水ハウスの事案の舞台となったのは東京のJR山手線五反田駅から徒歩5分程度、およそ600坪のまとまった土地で、周辺の不動産業者の間ではかねてから注目されていた案件。何年も営業していない古びた旅館の建物が建っていた。
所有者はこの旅館の女将で、抵当権などの権利関係も付着がなく、いわゆる「更な土地」だった。そこに目をつけた地面師がこの女将に成りすまして不動産取引をしたことになる。積水ハウスはマンション用地として絶好の場所と判断し、結果的には所有者の権利関係の十分な調査をしないまま、購入代金の9割の63億円を相手方に支払ってしまったとされている。
この取引は物件の真の所有者との直接取引ではなく、第三者の法人が「この不動産を買う」という形で売買予約の契約をこの真の所有者と取り交わしており、その条件で同時に積水ハウスが売買予約による所有権移転仮登記をしていたことになる。
積水ハウスは4月に売買契約を結び、6月1日の決済日に数十億円の決済金を支払った。通常の取引通り、所有権移転の登記関係の書類や本人確認を済ませ、法務局に所有権移転の登記を申請。ところが、申請から8日後の6月9日、法務局から、土地所有者は真の所有者ではないので所有権移転の登記はできない旨の通知をもらう。
法務局によれば、所有者である女将はすでに亡くなっており、親族が相続でこの土地の所有権を得たという説明だった。したがって真の所有者ではないため、所有権移転はできない。つまり、取引の場に現れたのは真の土地所有者ではなく、地面師が所有者に成りすました偽者で、パスポートや印鑑登録証明書なども偽造されていたのだ。積水ハウスはこの時点で初めて「騙された」と気づくことになる。
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