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不動産の購入や賃貸経営には、多かれ少なかれさまざまなトラブルが発生する可能性がある。実際に弁護士のもとに持ち込まれた事例や裁判例から、こうしたトラブルについて知識を得て、自身の不動産投資に役立ててもらいたい。

今回は、相場よりも高額な物件を購入してしまったトラブル。相場よりも高値での物件購入はどこにでもあり得そうな事例だが、こうしたことでの損害賠償請求を認められるためには、どのような要件が必要になるのだろうか?

差額分1500万円を求めて提訴

少し古い事例だが、1994年、東京地裁で下された損害賠償請求事件の判決を紹介したい。

1992年、医者であったAは節税を目的として、B社(代表取締役C)に投資用不動産の紹介を依頼。その際には、収支管理や節税対策も委託することとした。B社はAに対して約5000万円の物件の購入を勧めたが、その金額が高額であるため、Aは他の物件を探してほしいとB社に要求したという。

しかし、B社は「他に適当な物件はない」と話し、Aは結局この物件を購入することに。その金額は当初より高く、約5800万円での契約となった。だが、Aは物件購入後、実際の物件の価値は4000万円程度であり、その差額分の損害を被ったとして債務不履行による損害賠償を求めてB社およびCを相手取り、訴訟を提起した。

この事件についての判決は、B社およびCに1500万円の損害賠償の支払いを命じるものだった。

判決によると、東京地裁は「B社やCは、Aに不動産を買い受けるかどうか、判断できる情報を提供する義務がある」と指摘。その上で、「Aはいったんその不動産購入を価格が高すぎることを理由に断っているのだから、それを知りながら再度購入を勧める以上、情報提供の義務はいっそう増すものだ」としている。

にもかかわらずB社は値上がりの理由などを明確な説明をしていないと地裁は判断し、「十分な情報も与えず、かつ合理的な理由もなくより高額な売買契約を締結させているのだから、B社らの行為は債務の本旨に従った履行とは到底評価できない。むしろ、正確な情報が与えられさえしていれば、Aは売買契約を締結しなかっただろうと推認できる」と述べている。

損害賠償請求が通ることは難しい

今回の事例で、地裁はB社(およびC)の「債務不履行」を認めている。これは民法415条の規定だ。あおい法律事務所の浅井淳子弁護士は「この事例の場合、不動産会社が十分な説明をするという義務を果たさなかったということで、損害賠償が認められました」と解説する。

物件価格が高騰している今、不動産会社が提示した価格が本当の価値よりも甚だしく高いケースはあると考えられる。浅井弁護士は「購入後、時間がたってから『実は高く買わされたのでは…』と相談に見える方は少なからずいます」と明かす。ただ、こういった事例で損害賠償請求が通ることは「非常に難しい」という。

「例えばダイヤではないものをダイヤの価値があると言って買わされたら、それは違法になります。ですが、不動産の場合はある程度の相場があるにせよ、価格に流動的な要素が多く、例えばファミリータイプの広さの物件であれば、1部屋で1000万円くらいの増減がある場合は多い。また、その物件の価値が本当に価格より著しく低いと客観的に定めるということも難しいという事実があります」(浅井弁護士)

そのため、提訴まで至らないケースも多いという。そういった場合にはオーナーが弁護士に解決を依頼し、不動産会社に物件の買い戻しなどに応じてもらうよう交渉をお願いするケースは多々あるそうだ。

ポイントは「説明義務」

今回の事例では判決にあるように、Aがいったん購入を断っていることから、「情報提供義務のハードルが高くなっている部分はポイントだと思います」と浅井弁護士は話す。

「執拗な勧誘があり、その違法性が認められるという以外で、持ち掛けられた商談ですぐに買ってしまったようなケースでは、損害を受けたとしても『うっかりしていたんだろう』と判断されてしまう可能性は高いです」

民法に基づくと、不動産会社には説明義務があるとはいえ、「どのように説明するか、こういうふうにしなさいという細かなガイドラインがあるわけではない」(浅井弁護士)。どこまでの情報提供が求められるかは、ケースバイケース、あるいは裁判官の判断次第となってしまうのが現状だ。

ちなみに、違法性の認められる悪質な営業についても、浅井弁護士に事例を教えてもらった。

「先日実際にあった例としては、何時間も同じ場所に拘束されて、『ワンルームマンションを買え』と勧誘され続けたケースです。昼間から始まり、解放されたのは夜だったそうです」

面と向かって「帰ってくれ(あるいは帰してくれ)」と告げたにも関わらず居座ったり、留め置かれたりして勧誘が継続される場合には、消費者契約法違反、宅地建物取引業法違反、あるいは各自治体の迷惑行為防止条例違反に当てはまると考えられる。

万が一こうした勧誘で不動産を購入してしまった場合には、消費者契約法に基づく契約の取り消しが可能だという。浅井弁護士が扱った上記のケースでも、契約を取り消すことに成功し、物件は業者に買い戻させたという。

「違法性が強い場合には、業者側もそれをわかっているので、応じてもらえる場合が多いです」。ただし、基本的には契約から1年間が期限となるので注意が必要だ。また、断り方も「きちんと勧誘を辞めてくれ、という意思を表示しなくてはいけません。『別の用事があるのでまた今度』などという断り方では認められない場合もあります」

こうした営業は、基本的に電話でのアポイントメントがきっかけになることが多いという。「電話があまりにも多いので、断ろうと思って仕方なく会ってしまい、気づいたら契約をさせられている場合が多いです。契約しさえすれば電話もなくなる、これで終わるのだというふうに疲れ切っている人もいます」

営業電話は職場にかかってくることが多いという。特に、役職がある人にかけてくると浅井弁護士は話している。「名前がわからなくても、『店長さんいますか』『課長さんいますか』というように、つなげやすいからだと思います。それで、仕事もあるのに何度も電話をかけられて、本当に嫌になってしまって断ろうと思い、会うことになった。そして気づいたら買うという流れになっていたというケースも知っています」

「過失相殺」にならないために

どのようにしたら損をすることがなく、物件購入ができるのか。こうした被害に遭わないためのポイントを、浅井弁護士は次のように語る。

「不動産投資家の方には当たり前のことだと思いますが、投資家自身がきちんと情報を集めて、その不動産会社の言っていることだけを鵜呑みにするのではなく、ほかの不動産会社にも話を聞くであるとか、ネットで検索するといったように行動し、知恵をつけていく必要があります。裁判では『過失相殺』という考え方があり、通常の社会生活を営む大人であれば、こうした被害にあって、例え損害賠償請求が認められたとしても、金額が低くされてしまうこともあり得ます。つまり、『自己責任だろう』ということです」

また、不動産会社から提示された資料やメモをきちんと残しておくことは重要だ。「手書きのメモでも、裁判になった時に違法性を見つけやすくなりますから、残しておいていただきたいです。また、難しいとは思いますが録音があれば本当にありがたいです」(浅井弁護士)。これは、悪質な営業に対する防御策としても有効だ。

一度は断る勇気

浅井弁護士は、年間利回りも十分に認知しないまま営業トークにのって物件を購入してしまう人もいると話す。「楽待を見ている方は能動的に購入を検討している人だと思いますが、中には悪質な営業を含め、飛び込み営業にのってその場で買ってしまう人もいるので…持ち掛けられた商談で物件を購入するときには、かならず、一回は断ってほしいと思っています。本当に買いたいと思うのであれば、自分から再度アクセスすればいいだけです」と浅井弁護士。

「興味があったら自分から連絡するので、もう電話してくれるなと断る、応じない強い気持ちが必要です。1回目で会ってしまい、とんとん拍子で3回目くらいに契約してしまえば、『無理に買わされた』と認められにくいです。弁護側は十分な説明をしていないと主張するしかなく、訴訟が難しくなってしまいます」

改めて、不動産投資で成功するためには知識を身に着け、主体的に動くことの大切さがわかる。

「本当にきちんと投資をしようと思っているのであれば、業者に言われたことだけではなくて、自分からいろいろと調べることが何より重要だと思います」と浅井弁護士は念を押した。

(楽待編集部 浜中砂穂里)