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不動産の購入や賃貸経営には、多かれ少なかれさまざまなトラブルが発生する可能性がある。実際に弁護士のもとに持ち込まれた事例や裁判例から、こうしたトラブルについて知識を得て、自身の不動産投資に役立ててもらいたい。

今回は飲食店などが入るソシアルビル(商業用ビル)の入居をめぐってのトラブルを紹介する。ソシアルビルを所有するオーナーとすれば、安定的な収益が望める人気店は願ってもいない「良客」のはず。しかし、その「人気店」のせいで他の入居者と裁判沙汰になってしまったという事例だが、なぜそんなことになってしまったのだろうか。

居酒屋の繁盛で、別法人「賃料減額すべき」

1998年、東京地裁において判決が下された明け渡し請求、およびその反訴である賃料減額請求訴訟を以下に紹介する。

Aが所有するAビルの3階と6階は、もともと法人Bがオフィスとして借りていた。Bは3階と6階を行き来する形で、一体としてその2フロアを利用していたという。ところがその後、この事務所に挟まれるように4階と5階に大手居酒屋のチェーン店が入居することになる。

入居した居酒屋は繁盛しており、判決によると毎日繁忙時間帯には満席状態が続いていたという。

ところが、Aビルには6人程度が乗ることのできるエレベーター1機しかついておらず、それ以外には平常時は使えない非常用の外階段しか備えられていなかった。そのため、毎日午後5時半から8時ごろまで、このエレベーターは居酒屋に向かう客と帰る客で常に満員、乗ることができないような状態に陥ってしまったという。さらに、居酒屋を利用した酔った客や従業員らの大声などといった迷惑行為も、日常的に発生していたとBは主張している。

Bはこの状況で、本来の目的であった3階と6階を一体的に活用しての業務が不可能になったとして、3階の契約を解除、さらにその損害賠償などと相殺できるとして、6階の賃料を支払わなくなった。このため、Aは6階部分の明け渡しを求め提訴。一方Bは前述のとおりを主張し、6階を明け渡す必要はなく、賃料も減額すべきだとして反訴を提起した。

オーナー側敗訴になった法的根拠

下された東京地裁の判決では、Aの明け渡し請求は認められず、一方、Bが求めた家賃の減額については認められることとなった。

東京地裁は、オーナー側は「共用通路や階段、エレベーターなどの移動経路についても、単に空間を提供しさえすれば足りるというわけではない」とし、「人気の居酒屋を入居させたのであれば、他の賃借人に支障のないよう、上下の移動手段や経路の確保、増設などの措置を講ずるべき義務を負うもの」と判断したのだ。判決によると「月90万円程度であった家賃は、月80万円程度が相当」だとしている。なお、Bが求めた3階の契約解除についても有効だと判断されている。

みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は、この判決について「民法611条では、賃借物が一部滅失した場合などの賃料の減額や解除について定められています。今回の判決では、これが類推適用されました」と解説する。

「共用施設も、賃貸借契約によりオーナー側に提供する義務のあるサービスの一環です。今回の場合は、入居者がエレベーターを使うことができず、貸した側であるオーナー側の義務が完全に履行されていない。民法上の『債務不履行』にあたると判断されています」

三平弁護士によると、このような裁判例で公表されているものは決して多くない。そのため、今回のケースは多くの裁判の参考とされるような裁判例だ。その一方で、「裁判官によっては判断が分かれる」とも指摘している。

「今回のように民法の類推適用であるということは、逆に言えば賃貸借契約でどこまで提供すべきか、という点については解釈次第だということです。主張・立証(証拠提出)次第で、判断が逆になった可能性もあり得ます」(三平弁護士)

ソシアルビルの入居をめぐっては、こうしたトラブル以外にもオーナー側が訴えられるといった可能性があるという。

「特に繁華街に多いと思いますが、消防法上、飲食店が入居してはいけないような設備になっていたり、避難経路がしっかり確保されていなかったりということがあります。そうなると、監督官庁からの指摘で飲食店側は営業ができなくなり、オーナーに敷金も含めてすべて返還するように求めるケースがあるんです」

入居者側からすると、オーナーがきちんと貸す義務を果たしていないという主張になる。こうした場合、オーナー側には返還義務が生じてしまう。ただし、三平弁護士によると「仮に返還すべきだとなっても、入居者側も事業者なので、過失割合が0対100になる可能性はほとんどないと思います。お互いに、きちんと気づくべきだった、と判断されるでしょう」という。だが、いずれにしろ飲食店を入居させる場合には消防法を含め関連法規を十分に確認する必要がある。

入居前の事前確認を怠らない

三平弁護士は、このような入居トラブルを避けるために気を付けるポイントを3点指摘する。「まずは、当然かもしれませんが同じエリア、同じ種類の物件の仲介に慣れた仲介会社と取引をすることです」

これまで見てきたように、商業用と住居用では、求められるスペックが異なってくる。このあたりの事情をよく知る仲介会社探しには時間をかけるべきだ。また、2点目としては、この仲介会社に、入居を予定する営業に関する適法性(許認可など)をしっかりと確認してもらうことを挙げる。

「3点目は、契約締結の前段階で、図面や写真を提供してもらうか、撮影させてもらい、許認可を得る監督機関に申請前の相談をすることです」(三平弁護士)

許認可を得られるかどうか事前に相談をしておくことで、あとあと指摘を受ける可能性を減らせるだろう。また、「監督機関の代わりに、許認可の申請を行っている行政書士や弁護士に相談することも可能です」と話す。行政書士と弁護士、どちらに依頼するかは許認可の種類によって変わるが、「一般的な種類の店舗であれば、行政書士が適任でしょう」という。

一般的な住居用物件でもそうだが、商業用のソシアルビルで入居トラブルになれば、かなりの損害を被ることもあり得る。手間をかけることになるが、事前の準備に注力することはトラブルを避けるために重要だ。

(楽待編集部 浜中砂穂里)