「ユーキャン新語・流行語大賞」や「日本レコード大賞」といった、数多くのアワードが開催される12月。これらのアワードは、この1年に起きた出来事を振り返るのにうってつけ、年の瀬の風物詩と呼ぶにふさわしい催しとなっている。

そんな中、不動産関係者が高い関心を寄せるアワードが存在するのをご存知だろうか。きょう12月1日から一般投票がスタートした「クソ物件オブザイヤー2017」がそれだ。

前身から数えて今年で4回目開催となる「クソ物件オブザイヤー」は、この1年で注目された不動産プロジェクト(住宅・オフィスビル・商業施設・ホテル・高齢者施設・物流施設・開発用地・不動産会社・ITサービスなどを含む)を取り上げ、ツイッター上のユーザー投票で大賞を決める参加型のイベント。

回を重ねるごとに存在感が高まり、2017年は不動産関係者にとどまらず、多くのネットユーザーが注目するイベントへと成長。ツイッターのハッシュタグ「#クソ物件オブザイヤー2017」はトレンド入りを果たすまでになった。

おもしろ間取りから社会派ネタまで

まずはどんなイベントなのか知らない人のため、今年のエントリー物件をいくつか紹介してみよう。

<限られた専有面積を最大限活用すべく、玄関土間がバス・トイレスペースを兼ねるという斬新な間取り>

 

<UB現(あらわ)し物件。無機質で工業的なインダストリアル系のトレンドに乗じたチャレンジングな部屋。UBの収まりや仕上げを考慮しない分コスト削減効果が期待できそうだ。余談だが、ツイッター上では投稿者とグッドルーム公式アカウントがコメントで心温まる交流をしている。これもクソ物件オブザイヤーの醍醐味といえる>

 

<左上>

 

<いくらなんでも遠すぎる…でも竣工ホヤホヤ>

 

<おもしろ系ばかりではなく、ニュース番組やワイドショーを賑わした物件も数多くエントリー。非常に社会派なアワードである>

年々、注目度が高まっているこのイベントについて、主催者である「全宅ツイ」の中心人物「全宅ツイのグル」氏に話を聞いた。

「全宅ツイ」とは

「全国宅地建物取引ツイッタラー協会」の略称。ツイッター上で盛んに交流し合う宅建業者により結成された団体で、不動産に関する調査研究、政策提言情報提供活動のほか、クソ物件取引等啓発事業、インターネットを通じた不動産購入検討者向け情報の発信など、我が国の不動産取引の文化を広く啓蒙する活動を精力的に行っている。なお、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)とは一切の資本的・人的関係のない独立した組織である。

 

——まずは自己紹介をお願いします。

30代の会社員です。自己勘定(※不動産会社が自社の資本を用いて行う不動産売買のこと)による不動産取引や、不動産開発を東京都心で行っております。不動産業に関わって十数年となります。

——全宅ツイはいつ頃どのように発足して、現在の形になったのでしょうか。

2015年5月頃に誕生しました。もともとツイッター上でフォロー関係にあった不動産業関係者のアカウントを眺めていて、「不動産業関係者や、不動産に興味があるユーザーが、不動産情報を発信をしているアカウントを簡単にフォローできたらいいのでは」と考えて、リスト化したのがきっかけです。

最初は不動産業関係者のアカウントを並べて紹介文を書いただけのシンプルなものでしたが、現在はその属性により「部」に分けられた会員一覧ができ、さらに会員一覧だけでなく、これまでの活動を記録した公式サイトも誕生しました。

——全宅ツイのグルさんは、全宅ツイにおいてどのような役割を果たしているのでしょうか。

全宅ツイの設立者は私ですが、会の大きな方針、決定事項などは「新宿太郎」さんのご指示を仰ぎながら運営しています。

——全宅ツイの組織構成について教えてください。

会員は全部で30名ぐらいかと思います。「会員」とはいっても、私が勝手に認定しているだけだったりします。会員の職業は、地主、大家さん、個人投資家、大手デベロッパー、PM、AM、仲介会社、金融機関、税理士、弁護士、マンションブロガー、ブローカーなど多岐に渡ります。

全宅ツイにはいくつかの部会が存在していて、中でも活発にツイートしているのは、有り余る資産と時間を投入できるという強みを持つ「家主と地主部」ですね。加入歴の長い古参メンバーは、会の成り立ちもあって「ブローカー部」所属者が多いと思います。

——全宅ツイの会員はリアルでも交流があるのでしょうか。

皆さんの想像以上に、かなり活発にリアルで会員間の交流がなされてます。その交流の中から、毎回エリアを決めてその街の銭湯と酒場をめぐる「銭湯部」、早めに仕事を切り上げて夕方からお酒を飲む「16時飲酒倶楽部」などが生まれています。

また、全宅ツイ会員間で実際に不動産の取引が行われており、会員に収益をもたらしています。少し真面目な話をすると、全く面識のない不動産業者同士が、ゼロから信頼関係を築くというのは何気にハードルが高いことだったりします。しかし、日頃のツイートには意外とその人の不動産に対する考え方であったり、人となりが滲み出るようで、ツイッター上での交流を経てリアルで会うと、不動産取引に至る良い関係を築くまでに、それほど時間がかからない気がします。あとは、私個人がお会いするのはブローカー部の人が一番多いでしょうか。

全てはここから始まった

——2014年にクソ物件オブザイヤーの前身となる「次世代に語り継ぎたいプロジェクト100選」が開催されました。どのようにして誕生した企画なのでしょうか。

2014年当時、若い不動産業者の方々と接していると、やはり世代の差というか、私たちにはすごく重要で示唆的だった不動産業界における出来事を、彼らは全く知らないというケースが多くありました。2007年のサブプライムローンの不良債権化からリーマンショックへと続く、不動産業界を襲った強烈な信用収縮の局面において、我々が経験した出来事を後に続く世代にも何らかの方法で伝えておくべきと考えたのが、そもそもの始まりです。

最初の頃、とりあえず私も10件ぐらい「#不動産屋さんが選ぶ次世代に語り継ぎたいプロジェクト100選」というハッシュタグをつけたツイートをしました。その後は全宅ツイメンバーを中心に続々とツイートが増え、ある段階からものすごく勢いがついて、あっという間に100件集まった記憶があります。その時のツイートを一般の方にもわかりやすい解説をつけたまとめサイトを作ってくれたのが「かずお君」で、これが後の「クソ物件オブザイヤー」の原型となっています。

今回、久しぶりにプロジェクト100選を見返したのですが、2017年の今見ても十分に読み応えがあり、集合知がもたらした不動産業界における歴史の最もコンパクトなまとめだと感じています。リアルタイムでこれらを経験した不動産業関係者はもちろん、これからの若い不動産業関係者にこそご覧いただきたいですね。

——当時の反響や手応えというものは、現在と比べていかがでしたか。

当時、プロジェクト100選についてアンケートを集計して順番をつけましたが、1位となったプロジェクトでリツイート数は74、ファボ(いいね)は26でした。そして今年のクソ物件オブザイヤーの投稿には、単独のツイートでリツイートとファボの合計数が6万を超えているものがあります。こうして比べると隔世の感がありますね。