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元国税局職員、さんきゅう倉田です。将来の夢は『天下り』です。

国税局の仕事には、確定申告の対応や滞納者への差押えなどがありますが、最もたのしく、かつ意義のあるものが「税務調査」です。税務調査は、法人税、消費税、所得税、源泉所得税、印紙税、贈与税、相続税といった税目に対して行われます。

ほとんどが確定申告の提出を受けて行われ、日本の申告納税制度を支える一つの柱となっています。確定申告を行った全ての納税者に対して税務調査を行うことはできませんので、結果が伴いそうな調査先を、経験やテクニカル分析で選んでいます

毎年、すべての個人事業者や法人に税務調査を仕掛けることはできませんが、いつ調査が来るか分からないという不安は、多くの納税者に正しい申告を行おうという思考を生みます。これを「税務調査の牽制効果」と言い、調査が納税者に不利な結果になり、それが納税者間に伝聞で広がることで実現します。

だから、国税局の職員は税務調査に全力で取り組んでいます。それ以外にも、ノルマや達成感、充実感があるので、納税者から嫌われ、罵られても、調査の手を緩めることはありません。

調査先をどのように選定している?

では、どうやって調査先を選定しているのかというと、上司である統括官が選んだり、新人が適当に選んだり、売上が伸びているところを選んだり、利益が大きいところを選んだり、経費が異常に多いところを選んだり、事業開始から3年が経過したから選んだり、過去に不正を行ったから選んだり、不正の多い業種だから選んだり、元従業員からのタレコミがあったから選んだり、簿外口座(納税者が帳簿に載せていない預金口座)の情報があったから選んだり、無申告なのにフリーペーパーに求人広告を載せていたので選んだり…など様々です。

選定中には、提出されている確定申告書をチェックし、これまでの調査履歴や過去の担当者の情報を整理します。取引銀行や納税者の生活範囲にある銀行に照会をかけ、銀行取引の情報を得ることもあります。確定申告書の情報はExcelでデータ化し、上司と共有して、実際に調査に出向く材料とします。このような作業を「準備調査」といいます。

「調査に行く前から、脱税しているか分かるの?」とよく聞かれますが、基本的には分かりません。確定申告書の作成過程で明らかに誤りがあったり、簿外口座の情報があったりすれば別ですが、それでも100%ではありません。80%くらいではないでしょうか。

そもそも脱税とは、国税局の査察部、通称「マルサ」が逮捕を視野に入れて強制調査を行った結果であり、国税局の調査部や資料調査課、税務署が行った税務調査では脱税になりません。報道では、「所得隠し」や「申告漏れ」と表記されます。

先述したような80%の確率で不正を発見できる税務調査は、ほとんどありません。調査官は、何も分からないまま税務調査に臨場しています。しかし、準備調査を行っていますから、不正や誤りの出やすい部分に目星はつけています。

他の勘定科目と比較して特に過大な経費や、通常の取引方法とは決済や手順が異なる売上などです。税務調査は、個人事業であれば1日、中小法人は2日と決まっていますので、効率的に調査をすすめるために、調査項目を絞っているのです。それでも、何も見つからなければ、予定より調査の範囲を広げることもあるでしょう。

そもそも税務調査における不正とは、「仮装・隠ぺい」があることを意味しています。仮装・隠ぺいとは、売上を除外したり、架空の経費を計上したりすることです。方法は様々ですが、やっていることは基本的にこのどちらかになります。

売上の計上漏れというのは、どこの会社でも大なり小なりあるわけです。領収証控えの転記ミスとか請求書の処理忘れといった人的ミスは、ゼロにすることは難しい。

逆に、架空経費の計上は、悪意のある積極的な不正行為なので、比較的少なくなります。領収証を偽造したり、この世に存在しない人間を従業員にしたりといった仮装は、エネルギーを消費します。そこまでして、納税額を圧縮してやろうと考える人間はマイノリティです。必然的に、売上除外のほうが、件数としては多くなります。

しかしこれらは、準備調査の段階では分かりません。調査先に出向いて、納税者の話を聞き、帳簿資料を確認し、取引先に反面調査をかけ、銀行に出向き、従業員の話を聞き、それらの情報を、調査対象者に突きつけることで、不正を認めてもらうのです。

それでも、選定・準備調査の段階で、選ばれやすい個人事業者、法人は存在します。税務調査の連絡が来ると、「運が悪い」と税理士の先生は言うかもしれませんが、調査対象として選ばれるには、それなりの合理的理由があります。主な理由を以下にまとめました。

○事業開始4年目である

税務調査は最低でも確定申告書を3年分確認します。事業開始1年目では、確認する確定申告書がありませんし、2年目や3年目では見る量が少なく効率が悪い。最低でも、3年分の確定申告書をチェックできる4年目以降に調査先として選ぶようになっています。もちろん、4年目でも税務調査がないことは多々ありますが、「4年目である」という理由だけで、調査が行われることがあるのです。

○帳簿上、従業員となっている家族に、他の勤務先がある

家族を従業員にして、所得を圧縮しようと考えるのは、事業を行う方であれば当然といえます。しかし、その家族に勤務実態がなければ、経費として認められることはありません。勤務実態がない人間に支払った金銭は、調査先からの個人的な支払いです。

帳簿上は家族を従業員にし、給与を払い、実際は給与相当額を家族に渡さずに個人的に費消する不正は、小学生の子供でも容易に考えつく不正です。その家族に他の勤務先があれば、不正を想定して税務調査が行われやすくなります。

○確定申告書に記載していない預金口座がある

確定申告書には、業務で使用する全ての預金口座を記載するようになっています。しかし、法人名ではなく、代表取締役やその家族名義の口座で取引をして、その預金口座は確定申告書に記載しない人間がいます。そのようなケースを想定し、銀行に対して、法人名だけでなく、代表取締役やその家族名義で、事前に照会をかけ、預金口座を把握するように努めています。

今後、マイナンバーにより、異なる銀行にある同一名義人の預金口座が繋がれば、簿外の預金口座を使うことはますます難しくなるでしょう。準備調査の段階で、怪しい口座を見つけ、そこに多額の入金があれば、調査官は必ずやってきます。

○従業員からのタレコミがある

タレコミは、電話や手紙で行われます。何らかの不正を行っていて納税を忌避している、という連絡が多いのですが、あまりあてになりません。ほとんどの場合が、個人的な恨みに依るもので、思考に偏りがあるからです。

しかし、不遇の扱いを受けていた従業員のタレコミは、若干の信憑性があり、調査に繋がりやすくなっています。会社の内部にいたということで、不正の正確な情報が得られる可能性があるからです。従業員の恨みを買わないというのは、事業を行う上でとても大切です。

このように、不正を疑われるような申告や取引は、税務調査の実施率を著しく上げてしまいます。清く、正確な書類の作成を心がけると良いでしょう。また、不正か不正でないかは、曖昧な部分も多く、調査官の処理次第の場合があります。納得がいかなければ、税理士の先生によく相談し、間に入ってもらうことをお勧めします。