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お金を残す不動産投資コラム。今回は、私が平成29年10月にM&Aで不動産所有会社を取得した経緯や、そのメリットについて、わかりやすく解説したいと思います。

不動産所有会社をM&Aで取得

去る平成29年10月、私はうちの顧問先が運営していた不動産所有会社をM&Aで取得しました。M&Aとは、「Mergers And Acquisitions」の頭文字を取ったもので、直訳すると「合併と買収」という意味になります。

要するに、物件を所有している会社を、会社ごと購入する方法です。

そもそもは、顧問先との打ち合わせの中で「物件売却を進めているけど、買い側の融資等の関係で、なかなか前に進まない」という話を聞いたのがきっかけです。売り出し条件は、4億円でRC造の築18年、表面利回りが9%弱。2年ほど前に大規模修繕も終わっていましたので、現在の市況を考えるとなかなかいい条件でした。

そこで、「それなら私が購入を検討してもいいかも?」と思ったわけです。

また、これから叶税理士法人の新しいサービスとして、不動産所有会社M&Aのマッチングサービスを立ち上げようとしていたところですので、まずは実験的に自分自身で取り組んでみれば、様々なことがわかるだろうという思惑もありました。

結局、平成29年8月初旬に話が持ち上がり、2カ月半で決済まで終了することができました。

M&Aで売却するメリットは?

では、不動産所有会社をM&Aで売却するメリットは何があるのでしょう? まず、売却側のもっとも大きなメリットは、税金が節税できることです。

○不動産をそのまま売買して2億円の売却益が出て、その後会社を清算するケース

【売却益に対する法人税】

売却益2億円×法人税実行税率34%=6800万円の税金

【会社清算後の株主配当に対する所得税】

残りの1億3200万円×55%=7260万円の税金

【手残り】

売却益2億円-法人税6800万円-所得税7260万円=5940万円

○不動産所有会社M&Aで2億円の株式売却益が発生するケース

【株式譲渡所得に対する所得税】

株式売却益2億円×株の譲渡所得税率20%=4000万円

【手残り】

株式売却益2億円-所得税4000万円=1億6000万円

このように、同じ売却益が発生しても、手残りの差、なんと最大で2.7倍になるわけです! 他にも以下のように、M&Aで不動産所有会社を売却すると多くのメリットがあることがわかります。

・金融機関の違約金が発生しない

・売却後に物件がない法人が残らない

では次に、不動産所有会社をM&Aで買収するメリットは何があるのでしょう? 買収側のもっとも大きなメリットは、通常、不動産そのものを購入するときに必ず必要となる、登録免許税と不動産取得税が不要になります。

なぜなら、不動産所有会社をM&Aで取得するということは、不動産を取得するのではなく、その会社の株式を取得することになるからです。要するに、物件の入った箱(会社)ごと購入するので、登録免許税と不動産取得税がいらないんですね。

他にも、以下のように様々なメリットがあることが分かりました。

・売却側の手残りが多くなるので、相場より安く買える可能性がある

・決算書等を見て購入できるので、安心して購入できる

・買収後、管理会社等の契約関係の引継ぎが楽

不動産所有会社M&Aのネックは?

不動産所有会社をM&Aで取得すると、売主も買主もメリットが大きいのですが、ネックはあるのでしょうか?

それは、対象会社が金融機関から融資を受けているケースで、代表者の保証を変えてくれるかです。ほとんどのケースで、不動産所有会社で融資を受けている場合は、その会社の代表者が連帯保証をしていますよね。

そして、融資が付いたまま不動産所有会社を売却する場合、買収側の代表者に連帯保証を移す必要があります。その際、買収側に信用力があればスムーズにいきますが、信用力がなければ代表者保証を変えてもらえない可能性があります。

だから、不動産所有会社M&Aのネックは代表者保証の引き継ぎなんですね。

今回、私たちが実際に取り組んだ案件では、売却側の金融機関が代表者保証の変更を問題なく承認していただけたので、とてもスムーズにM&Aを進めることができました。

このように、不動産所有会社をM&Aで売買することによって、売却側、買収側、双方に大きなメリットがあります。叶税理士法人でも不動産所有会社M&Aのマッチングサービスをスタートし、サイトも立ち上がっています。不動産を会社ごと売却、買収する手法は、今後注目されるでしょう。