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カントリーリスクの低さ、透明性の高さ、高いキャピタルゲインが見込める…など、さまざまな理由で人気のある米国不動産投資。

しかし、本当にサラリーマン大家でも米国に投資をすることができるのか、融資はつけられるのか、日米の税金、申告はどうすべきなのか…など疑問は数多くある。

テキサスに物件を購入したサラリーマン大家・小笠原和久さん(仮名)に話を聞き、そこから見えてきた税金の課題について検討してみたい。

なぜ海外、なぜ米国、なぜテキサスなのか?

小笠原さんはアメリカの築45年ほどのアパートメント・コンプレックス物件(日本でいう区分)、2016年5月に購入した。場所はテキサス州コーパスクリスティ市。テキサス南部に位置する湾岸都市で、石油・天然ガス産出の中心地だ。

石油精製が発達していることからオイル採掘関連の労働者が多く住み、物件価格は1ベッドルームでおよそ6万ドル(当時約630万円)だったという。

購入時から現在まで入居者が入っており、管理費やその他諸経費を引いて現在月およそ500ドル(約5万円)の家賃収入がある。計算上は実質利回り10%だが、今後の課題となる売却や、日米の税務対策などについては日本ではまだ情報が少ないため、どう対策していくべきか頭を悩ませているそうだ。

そもそも、なぜテキサス州の物件を購入したのか。

「現在、日本と海外合わせて5物件所有しています。日本は数年前から不動産の価格が高騰していてなかなか手が出せない状況です。もともと海外不動産には興味があり、インドネシアの不動産を購入したんです。こちらはまだ売却時期ではないので値が上がるのを待っている状況ですが…。インドネシアの経験から海外不動産の状況には少しは明るいと思っており、次に物件を購入するなら、なんとなく米国かなと思っていました。そんな時に不動産投資仲間に誘われて参加したのが米国不動産投資、特にテキサス州の物件がメインのセミナーでした」(小笠原さん)

投資を決意したポイントは?

テキサス州は物件自体が手ごろな値段で、サラリーマン大家が投資しやすいと言われている。しかし、その中でもどのポイントが投資するきっかけになったのだろうか。

「日本は人口が減り、空室率も上がっていく中、物件の供給過多という不安な要素が多い。その一方、米国は人口が増え続けており、中古物件が市場の大半を占め、物件が足りないと言われるほど。すべてが日本と真逆であることに目からウロコが落ちました。加えて、木造築22年超であれば、日本では4年で償却できる加速度減価償却による節税も魅力的でしたし、物件の値段が手ごろだったので投資しやすいなと思ったんです」

小笠原さんは、セミナーで初めてコーパスクリスティ市を知ったという。そこでは、魅力の投資エリアだという説明がなされていた。

「しかしながら、セミナーではいいことしか話をしません。私は英語が全くわからないので、物件を購入して騙されたりしないか、変なテナントかつかないか、トラブルがあったらサポートしてもらい日本語できちんと説明を受けられるのだろうかなど不安だらけでした」という小笠原さん。だが、その当時、不動産仲間がちょうどテキサスに物件を購入したといい、「手続きや税務の話を聞けたし、どういうトラブルが想定されるのかなど、情報交換などもできたので不安はだいぶ軽減されました」と語る。コーパスクリスティ市に知見があるわけではないが、物件の視察もせず購入をしたという。不安要素が多い中、なぜ投資を決断したのだろうか。

「日本での3年の不動産投資経験で、賃貸需要さえあれば『いける』という自信がありました。米国は人口も増加していますし、コーパスクリスティ市ではこれからもオイル関連の労働者が増えるだろうと思い、今後の雇用も期待できることから、投資の可能性は十分にあると投資を決断しました。物件の金額が手ごろというのもありましたが、最後は正直、勢いです」

米国不動産投資の融資の場合、日本居住者が米国の金融機関で融資を組むことは、信用を測る値である「クレジットスコア」がないことから非常に難しいと言われている。一方で日本の金融機関なら融資を組める可能性はあるが、日本の物件へのローン金利よりも高めで、借入期間も短いことが多い。

小笠原さんも日本で2つの金融機関に融資を打診してみた。1つはセミナーで紹介を受け、もう1つは日本の不動産投資の融資で付き合いがあるところ。しかしながら、フルローンやオーバーローンができる金融機関はなく、そのうち1つではおよそ不動産取得価格の50~70%掛目で金利が約4~6%、返済期間が5年未満と厳しかった。

またもう1つの金融機関では事業計画や決算書を作り込んだだけでは相手にされず、米国不動産にかかる事業、税務、手続きを把握していないと融資が下りないため、現金で購入することにした。

ポイントは為替レート

現金購入の場合、ポイントは為替レート。小笠原さんが物件を購入した時の為替レートは1ドル約105円だったが、現在では約112円(2017年11月)で、この為替の違いは大きい。小笠原さんは今と比べると40万円ほど安く買えた計算になるが、逆になることもあり得るし、さらにその幅が拡大する可能性もあるからだ。

また、仮に日本の金融機関で融資を組んだ場合でも、日本円から米ドルへ変換するため、為替レートによって物件利回りが左右されることもある。

小笠原さんは必要経費を差し引いて毎月500ドルほどの家賃収入を得ているとのことだが、毎月払っている経費や、実際の内訳はいったいどのようなものだろうか。

小笠原さんの米国不動産家賃収支は以下の通りである(単位はドル)。

家賃

750.00

収入小計

750.00

   

HOA※

130.00

管理費

75.00

事務手数料

20.00

修繕費

0.00

固定資産税

0.00

支出小計

 225.00

 

 

収支合計

525.00

※HOA:「Homeowners Association」の略。日本の管理組合にあたる。

売却時のコストは?

購入時から入居者がおり、実質利回りは10%。ただし、月の内訳を見る限りは実質利回りが10%のようだが、固定資産税の支払や予期せぬ修繕、その他費用などが発生すると予測されるため、実質利回り10%とは言いづらいと考えられる。その一方で金額としてはわずかだが、日本での節税にはなっている。こうした状況を踏まえて、小笠原さんはこうも話す。

「実際投資を始めてから、いろいろ疑問点や不安が出てきました。例えば、サラリーマン大家は、はたしてどれくらい節税できるのだろうか。米国の確定申告はどう手続きすればいいのか、米国の税理士にお願いするといくらするのだろうか、かかる費用は何をいくらくらい見込んでおけばいいのか…など、を把握せずに投資をしてしまいました」

加速度減価償却の期間の4年が終わったら売却をするべきなのか、そのまま所有するか、そのときの税務インパクトは日本と米国でどれくらいあるのか、などさまざまなことを疑問に思ってきたという小笠原さん。「ただそれを明確にする情報はそれほど多くはなく、誰に相談していいものなのか困っています」

全米リアルター協会が運営するウェブサイト「Realtor.com」によると、エージェント(日本でいう仲介業者)に払う手数料が売却価格の約6%、その他クロージングコストとして売却価格の約2%の費用がかかるものと想定される。

クロージングコストとは主に、エスクロー費用(売買代金のやりとり、名義変更を行い取引を監視する第三者機関への費用)、固定資産税、公証費用などが挙げられる。また、キャピタルゲインがあればさらに税金もかかる。

基本的に米国に所有する不動産の収入については米国において源泉徴収され、そこで完了するか、あるいはその後に申告納税をする必要がある。一方、日本は「全世界所得課税」であり、米国に住んでいなくても、米国の不動産を所有して家賃収入を得たり売却したりすれば、課税されるしくみとなっている。

そのため、日本居住者が米国で納税した分は二重課税が発生してしまうことになるので、日本での申告時に外国税額控除制度を適用し、日本で発生する税金額から米国で納付した分をマイナスすることができる。

小笠原さんが購入した6万ドルの物件の売却シミュレーションを行ってみたい。前提として、計算をシンプルにするため、購入から売却までの期間、資産価値が上がるような改築は行っておらず、売却価格は上がらず購入時と同じ金額とする。

売却額

6万ドル

エージェントに払う手数料

3600ドル(売却額の6%を想定)

エスクロー、その他費用

1200ドル(売却額の2%を想定)

米国源泉徴収額

9000ドル(売却額の15%)

売却後入金額

4万6200ドル

米国非居住者が不動産を売却した時には、売却価格の15%が米国で源泉徴収されてしまう(州によっては、州でも源泉徴収される場合もある)。

ここで留意しなければいけないのは、源泉が売却益ではなく売却価格にかかってしまうことと、原則として売却損が出たとしても源泉の対象となってしまうことだ。

米国での源泉徴収の完了後に確定申告をする場合、申告時に源泉額が多ければ税金の還付を受けることができるが、還付は申告後になるため、売却資金を次の投資へと考えている場合は、キャッシュフローが厳しくなることが考えられる。

日米それぞれにキャピタルゲイン税

日本居住者が米国不動産を売却した場合、日米両方のキャピタルゲイン税について考慮しなくてはならない。

米国では基本的に売却時の源泉徴収額が高いため、確定申告時に追加納税はないことが多いが、保有期間によりキャピタルゲイン税率が異なる。1年以上保有していた場合は15%の税率が適用され、1年以下の短期保有の場合、通常の所得税率(10%~39.6%)で累進課税が適用される。

米国内のみならず、日本でのキャピタルゲイン税もかかる税率は物件の所有期間によって下記のとおり異なる。

短期譲渡=譲渡する年の1月1日時点で5年以下の所有。税率39.63%
長期譲渡=譲渡する年の1月1日時点で5年超の所有。税率20.315%

小笠原さんは2016年5月に物件を購入した。仮に加速度減価償却が終了する4年後の2020年5月に売却した場合、所有期間は4年で、売却した2020年の1月1日現在で3年6カ月経過しているため短期譲渡となり、39.63%もの税金がかかってしまう。

一方、2022年5月に売却した場合、所有期間は6年で、売却した2022年1月1日現在で5年6カ月経過しているため長期譲渡となり税率は20.315%になる。 小笠原さんが物件を6万ドルで売却した場合、日本、および米国のキャピタルゲイン税は以下の通りとなる(単位はドル)。

・2016年5月に物件取得
・価格:6万ドル
・建物比率:80%
・償却対象額:4万8000ドル
・償却期間:日本4年、米国27.5年

加速度減価償却後すぐの2020年5月に売却した場合

 

日本税務上

米国税務上

取得価格

6万

6万

償却額

4万8000

6982

簿価

1万2000

5万3018

 

   

米国売却額

6万

6万

簿価

1万2000

5万3018

キャピタルゲイン

4万8000

6982

 

   
日本短期譲渡税(39.63%)

1万9022

1047

2022年5月に売却した場合

 

日本税務上

米国税務上

取得価格

6万

6万

償却額

4万8000

1万473

簿価

1万2000

4万9527

 

   

米国売却額

6万

6万

簿価

1万2000

4万9527

キャピタルゲイン

4万8000

1万473

 

   

日本長期譲渡税(20.315%)

9751

1571

例えば加速度減価償却終了後の2020年5月に売却した場合、米国では売却時に売却額の15%が源泉されてしまう。そして2021年3月には2020年度確定申告において、日本で短期譲渡税を払わなければならない。

米国での還付申請は可能だが、米国確定申告後4~6週間かかるケースがあるため、日本の確定申告2021年3月から2021年8月くらいまで(米国非居住者不動産投資向け確定申告締め切りは6月15日)の間、キャッシュフローは悪くなる。

米国側でキャピタルゲイン税を払うが、日本の確定申告時に外国税額控除の適用を受けることができ二重課税を避けることは可能。他方で加速度減価償却の4年で償却し節税をしたとしても、売却をすれば日本の譲渡所得税を払わなければならない。

渡邊浩滋総合事務所の税理士・司法書士の渡邊浩滋氏は「譲渡税の節税としてなかなか難しいものの、個人の譲渡税の計算は、給与や不動産収入とは別で計算(分離課税)をすることになっています。不動産所得の赤字と相殺することはできませんが、同じ年に売却した不動産の譲渡益と譲渡損との相殺はできるため、売却損の出る物件を、同じ年に売るというのも1つの方法です。譲渡益が出る売買をした年は、譲渡損が出そうな物件の損切りのチャンスでもあるんです」とアドバイスする。 

減価償却での節税は一要素に過ぎない

サラリーマン大家の場合、減価償却による節税額というのはあくまで源泉徴収額が上限になってしまうため、大きな節税効果は見込めない。

加速度減価償却が終わったからといってすぐに不動産を売却するのではなく、日本の譲渡税を考慮し、売却のタイミングを見極めることが大切である。

償却による節税はあくまで補足的なもので、収益性を見ながら5年超物件を保有していくという考え方で米国不動産投資をしていくのも1つだ。

米国不動産の特徴として不動産価格が上昇傾向にあり、キャピタルゲインが期待できるため、税金を払ってもある程度の益が見込める時、あるいは、他の投資をするために資金が必要な時に売却をするなど、コストや税金を考えたトータルでの出口戦略を立てることが重要となる。

(楽待編集部/土屋明衣(米国税理士))