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大家さんにとって大敵なのは「空室」。今や空室を埋めるために、敷金・礼金のゼロ・ゼロはもちろんのこと、フリーレントをしたり、賃借人が不動産会社へ支払う仲介手数料を肩代わりしたりと、あの手この手で入居者を募らなければいけないほど、賃貸市場は大家さんにとって不利な状況になっている。そんな中、もっとも効果のある客付方法として広告費(AD)に注目してみたい。

広告費は違法ではないのか

ADとも言われる広告費とは、チラシやネット掲載などの広告活動に必要な費用を指しており、客付会社(賃貸仲介会社)が入居者を仲介して契約成立した際に、大家さんが支払うケースが多い。

一方で、仲介手数料というものもあり、これは、部屋を紹介してくれた仲介業者に、契約成立の時点で成果報酬として支払うお金のこと。宅建業法で、仲介手数料の上限は合計で家賃の1カ月分と決められている。

本来であれば、借主から1カ月分の報酬として仲介手数料を得るため、業者はそれ以上受け取ることができない。つまり、貸主である大家さんは手数料を支払う必要はないのだが、借主からの仲介手数料に加えて、貸主から広告費として報酬を得ているケースが増えている

なおADは「広告にかかった金額がいくら」といった明細が出ることはなく、家賃単位で支払われる。そのため広告費が家賃2カ月分のケースでは「AD2カ月」もしくは「AD200%(100%で家賃の1カ月分となり、200%では家賃の2カ月分を指す)」という表記がされる。これは、「マイソク」と呼ばれる物件資料の一番下の欄、通常業者の連絡先が入るため入居希望者からは見えない部分に記載されており、業者間だけにADの情報が流通される仕組みとなっている。

「これは違法でないのか!?」と言われることもがあるが、宅地建物取引業法には「依頼者から特段の広告などの要請があった場合、その広告費などを併せて請求できる」という、いわば抜け道の様な規定が存在しているため、その解釈によって広告費は合法とされているのが実情だ。

いずれにしても、それだけ賃貸物件の供給が増えており、借り手市場になっているということだ。高額なADが収支を圧迫するのは、大家さんにとって死活問題。今回、首都圏をはじめ全国のAD事情がどのようになっているのかリサーチを行った。これから突入する繁忙期に向けて参考にしてもらいたい。

トップバッターは東京。日本の首都であり人口が最も集中をしている東京にはADは必要ないかと思いきや、ADを使っているケースがそれなりに多いというのは、野良犬たかまんのニックネームで活躍中の投資家ブロガー、中村貴広さん。東京都豊島区の大塚で賃貸仲介中心のショップを経営していたこともあり、入居希望者の接客経験もある。

「基本的に、東京ではADは必須というわけではありません。ない物件もあれば、ある物件もあるという話です。物件力が強ければADのないケースも多く、築年数が古くて室内洗濯機置き場がないといった値段の割に設備が悪い物件、1階で著しく日当たりが悪い物件、新築区分マンションで家賃が高めに設定されている物件などはAD200%、300%のこともあります。

とくに新築区分マンションは露骨で、最初から入居者をつけて転売するのが目的なので、客付の業者内覧会を開いて、行くだけで商品券を5000円配るようなことをする……みたいな話もありますよ」と中村さん。

その一方で、いまだに敷金礼金をしっかり取っている物件もあるというから、これはエリアではなくて物件個別の事情によるところが大きいそうだ。

「不動産投資家も同じ視点だと思いますが、転売をするような業者は利回りキープするため、家賃を下げるのではなくて『ADを積む、初期費用を下げる』といったアプローチすることが多いです。まず、内見率を上げるには初期費用と家賃のバランスが大切。次に成約率を上げるには見た時に気に入るよう印象がよくなるような設備や内装、ステージングなどが効果的だと思います。要はADだけではなくて、トータルのバランスが大切です」

なお、中村さん自身も投資家だが、自身が物件を持つのは東京にほど近い埼玉県南部。この辺りは東京と変らずADは0か1だとか。しかし、駅からバス便といった利便性の低い物件では、敷礼ゼロ・ゼロでAD1が増えている。東京からもっとも離れた北部は北関東の相場であるAD2が多く、同じ埼玉県内でも地域差があるそうだ。

沿線格差の激しい神奈川県

続いては、東京都の西側~神奈川県に詳しい賃貸仲介専門「ヘヤサポ」の中村圭佑さんに話を聞いた。田園都市線や東横線は、神奈川県といっても渋谷の客付会社のパワーが強いため、入居募集に対するルールも東京流になるという。

「たとえば、渋谷~中央林間を結ぶ田園都市線では、渋谷から溝の口は渋谷の業者の範疇です。つまり、東京と同じスタンスで家賃相場も高くなります。それが、中央林間に近づくにつれ物件価格が安くなり、客付のルールも神奈川県に準じることになります。

どういうことかといえば、渋谷で1LDKの部屋に住むためには家賃10万円では厳しいですよね。それが渋谷から少し離れれば安くなります。電車で一本というアクセスであれば、神奈川も東京も変わらない……という考えです。そのため東京都内と同じ感覚で、渋谷の客付会社が入居者を案内してくれるのです。溝の口まで相場賃料であればADなしでも決まります

それでは、どのような場合にADを使うのかといえば、家賃を相場より高くしたい時だいう。また溝の口より先になると、相場であってもADが必要になる。

「東京ルールは溝の口まで、溝の口より先は神奈川県のルールになりますから、ADは最低1カ月必要です。家賃が安すぎるような物件になるとADは3カ月分くらいあったほうがいいです。これは結構な差になりますので、田園都市線、東横線で購入する場合は、どこまでが渋谷の業者が東京ルールで客付してくれるのか、それをしっかりリサーチした方がいいでしょう」

これが、神奈川県の中心となる横浜や川崎近辺になるとADはそこまで重要でなくなるそうだ。そんな中、最近増えている横浜市郊外の狭小物件は、新築であっても苦戦している現実がある

「一見、同じように見える新築アパートであっても、物件によって仕様が違います。同じ家賃でバストイレが一体のユニットのケースもあれば、分かれているケースもあります。その他、室内洗濯機置き場が室内なのか室外なのか、独立洗面台があるのかないのかで差がつきます」とのことだ。

新築オーナーの中には、頭金や初期費用で手持ちのお金を使いきっていて、ADも出せない、ローン支払いがあるから、家賃も下げられず、空室が埋まらないまま半年も経ってしまう……という悪循環にハマってしまうこともある。

続々と新築が建ち続け、「新しい」だけがウリにならない中、「新築だからといって手間もかからず満室になるという目論見は少し甘いと思いますよ」というのが、賃貸市場の現場をよく知る中村圭佑さんの意見だ。

続いては、ADの相場が高いと全国的にも有名な札幌をリサーチした。話を聞いたのは、投資家の田中宏貴さん。田中さんは地元である埼玉を中心に投資をスタート、その後全国に投資エリアを広げていった経緯を持つ元サラリーマンだ。

「札幌は一般的に、単身者向け物件の供給が過剰になっていますから、いい立地でないと最低でもAD2カ月、早く決めたいのであれば3カ月が基本になるかもしれません。ただ、家賃相場も安いので、一つの目安として『一部屋決めて10万円』という基準もあるようです。たまに、ADが4カ月も5カ月もかかるという話もききますが、それは家賃設定のかなり低い物件か、ガラガラの物件を買って埋める業者さんのようなレアケースだと思います」と、田中さん。

ちなみにファミリー向け物件はエリアが悪くなければ、AD2カ月で決まることが多いそうで、札幌でも比較的安定しているという。

「私の経験値でいえば、中央区、西区あたりは人気エリアで、それ以外はエリアによって供給過剰になっているエリアもあるので、よく地元の需要を吟味して購入することは必要だと思います」と、田中さんはいう。

高利回り物件が多い札幌だが、その裏には空室で苦しむ大家さんも多い。高利回りといわれるエリアほど、賃貸需要をよくリサーチして購入することが重要だ。

意外と知らない名古屋のADの相場

同じく田中さんは愛知県名古屋市にも物件を所有する。名古屋といえば、賃貸需要は底堅いが、なかなか物件価格が下がらず、投資家にとっては欲しくても手が出ないといわれるエリアでもある。

「名古屋も中心の中区、東区、中村区から地下鉄で20分以内であれば、AD1カ月が基本だと思います。ただ、少し離れた単身者の過剰エリアでは、かなり賃料相場が安く2~3万円台も結構あります。そこを考えると2カ月にすればかなり決まる可能性は高まると思います。私の物件は広めの1Kで家賃も低めに抑えているので、1カ月でも決まりますが、AD2カ月の方が圧倒的に決まる速度が速いという印象があります。

ただし、地元の投資家の方はエリアに限らず2カ月出して即埋めるという考え方の方も多い印象です。というのも、AD1カ月なら下手すると3カ月の空室もあり得るけど、AD2カ月を出せば1カ月で埋まるといった感覚でしょうか」と田中さん。名古屋ではADを多く払うことで、空室期間を短縮させるという考え方が一般的になっているそうだ。

続いてリサーチしたのは関西。地方1棟マンションと戸建て・テラスハウスを組み合わせるハイブリッドスタイルの投資を行う、玉崎孝幸さんに話を聞いた。

「首都圏に住みながら、対象を全国に広げて投資しています。所有している物件でもっとも規模が大きいものが京都市にある1棟RCマンションで、40戸あります。その他、関西には大阪府・兵庫県に戸建て・テラスハウスを所有しています」と、玉崎さん。

関西の賃貸の慣習で関東と違うところといえば、「保証金」や「敷引き」だが、現在はどうなっているのだろうか。

「2012年に京都市に物件を購入した当時、以前からの入居者については保証金・敷引きなどがありましたが、今はあまり聞きませんね。テナントについてはいまだに保証金、敷引きはあります。ADについていえば、競争力が弱かったり供給過多だったりする地域では、ADを多く用意するように客付会社に言われることが多いようです」

先月、玉崎さんが所有する大阪府寝屋川市にある築43年のテラスハウスに退去があったそうだ。この地域は築古テラスの供給過多の地域で、約100万円かけて、台所の床やお風呂を新調し、2階の2部屋を和室から洋室への変更リフォームをしたものの、管理会社のアドバイスで、賃料は以前の5万円から5000円下げた4万5000円で募集することになり、さらにADまで相場以上に求められたという。

「その地域は、通常AD1カ月が相場。ところが1.5カ月か2カ月にしてくれと言われました。ADを上げることで、不動産会社の賃貸営業担当者のやる気が上がるのは間違いないようです。それでも、賃料設定が高すぎるようで、入居者は決まっていません。現在、さらに値下げをして募集しようか迷っているところです」

やはり供給過多のエリアでは、多額のADを求められる傾向にあるという。しかし、リフォームをして、ADを支払って、家賃を下げて……といった対策ができる投資家もそこまで多くない。

「僕は戸建てやテラスハウスについては、現金購入なのでローンの支払いがありません。退去になって家賃が途絶えるのは困りますが、支払いがない分、余裕はあると思います。ちなみに京都市に物件を所有して5年が経ちましたが、この5年でもAD事情は様変わりしましたね」と、玉崎さん。

購入当時は稼働率75%で、空室が10室ほどあったそう。ほとんどの部屋が約20平米の3点ユニットで、競争力は高くないものの、当時は普通にリフォームして清潔感を保っておけば、AD1カ月分だけで客付けがうまくいっていた。さらに敷金・礼金も1カ月ずつ取れていたという。

それが3年ほど前から、風向きが変わり、敷金・礼金はゼロ・ゼロが当たり前になり、ADも閑散期は1.5カ月から2カ月分出さないと決まらないようになった

「繁忙期は1カ月で大丈夫ですが、閑散期はダメですね。特に1階部分のテナントは客付けに苦しみ、AD2カ月を要求されるのが当たり前になりました。テナントは賃料も高いため、ADが1カ月分増えただけでもかなりの痛手でしたね」

そこまで競合の激しくない地域でも、周辺に競合物件が増えていけば、競争にさらされるのは道理。ただADの値上げ合戦になってしまうのは、問題があるように思えるが、そこまで賃貸市場の飽和があるのもまた現実だ。

需給バランスのよい広島ではADは不要!?

最後に、なかなか物件情報が出てこない広島についてリサーチした。話を聞いたのは前出の田中宏貴さんだ。

「広島市はあまり所有歴が長くありませんが、ADがなくても決まります。繁忙期を逃したときなどADを1カ月でも出せば、すぐに決まる印象なので賃貸需要のバランスが取れているエリアだと思います」

地理的に物件の数が増えにくい広島市では、都市圏であっても供給過多にはならず、需給バランスがとれている日本でも珍しいエリア。そのため、未だにADがなくても入居者が決まることがあるという。

「全国に物件を所有していますが、家賃が相場であれば、ADも相場を出せば大丈夫だと思います。よっぽど物件の競争力が劣らない限り、必要以上に多く出す必要はありません。金額よりも、きちんとそのADが客付会社さんに提供できている状況化を確認することの方が重要だと思っています。たとえADを2カ月出しても、1カ月管理会社、1カ月客付会社ではあまり意味がありません。客付にしっかりADが渡っているのか確認してください」と田中さん。

ADについては管理会社と客付が分け合うことが多いが、そこは客付会社にADが全額支払われるようにすることがポイントだという。

今回は客付会社、投資家どちらにも意見を聞いたが、全国どのエリアでも共通するのは、前提条件として、物件を買ってから「ADが高すぎて利益が取れない」という事態にならないように、事前にその地域の賃貸ニーズや需給バランス、ADをはじめ客付にどれくらいのコストがかかるのか、しっかり把握しておくことが必要ということ。

そのために購入前の調査が重要になる。不動産投資ではつい「買うこと」に注力しがちだが、大切なのは「買ってから」なのだ。

中村貴広さん(なかむら・たかひろ)のプロフィール

1978年、東京都生まれ、埼玉県在住。学習院大学 経済学部 経営学科卒業、宅地建物取引士、日商簿記1級。不動産投資系の本をよみあさり最初に購入した区分所有マンションをきっかけに不動産投資を開始。(当時の年収340万円)。アパート経営で作った資金で不動産会社を開業。得意エリアに特化し地元の金融機関を利用した不動産投資で、10年で投資総額1億3000万円、家賃年収2400万、年間キャッシュフロー1200万円。手取り月収100万円を達成。

ブログ https://ameblo.jp/planetcojp1/

 

中村圭佑さん(なかむら・けいすけ)のプロフィール

1986年滋賀県生まれ。20歳で起業し芸能キャスティング会社を経営した後、不動産業界に転身。主に都内の賃貸物件の客付営業を行う「ヘヤサポ」を立ち上げ、2016年にリスクキャリア(株)に合流。現在は、不動産投資関連事業を行う同社の事業部として活動中。

賃貸紹介専門「ヘヤサポ」:https://heyasupport.riskcarrier.co.jp/

 

田中宏貴さん(たなか・ひろたか)のプロフィール

大学卒業後、大手鉄道会社に入社し経験を積む。平成17年より不動産投資を開始し、現在東京・千葉・埼玉・名古 屋・札幌・広島に13棟162室の物件を所有。全物件をほぼ満室で10年以上運営を続けている。現在はさらなる資産拡大と共に、これから不動産投資を始めるサラリーマンや投資家へ向けた「田中式エターナル投資塾」を主宰。著作『満室経営で“資産10億円”を目指す田中式“エターナル投資術”』(ごま書房新社)が好評発売中。

HP:http://tanakaestate.com/ 
楽待コラム:
https://www.rakumachi.jp/news/archives/author/hiro480915

 

玉崎 孝幸さん(たまざき・たかゆき)のプロフィール

1979年生まれ。全国紙新聞社記者、大手教育サービス会社勤務を経て、独立。勤めていた教育サービス会社の将来性に不安を感じて不動産投資を開始。2012年不動産投資をスタート、2016年退職、独立。資産規模は2億円。著作『不動産投資でハッピーリタイアした元サラリーマンたちのリアルな話』(青月社)が好評発売中。

書籍HP:https://goo.gl/Q4Bc21
ブログ:http://tamazaki.net/