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不動産投資を行っていく中では、入居者が引き起こすトラブルに見舞われることもあり得る。例えば、自身の物件における入居者の自殺や死亡事故といったトラブルもそのうちの1つだ。

こうした時、その告知義務の法的根拠はご存じだろうか。「『1回転』で告知義務は終わる」との声も聞こえるが、事故後の告知義務はいつまで続くのか。

入居者が自殺…オーナーは遺族らを提訴

入居者の自殺をめぐって行われた、2007年8月の東京地裁判決をご紹介する。この判例には入居者の自殺をめぐって、のちの参考となるような事例が多く含まれているため、ぜひ知ってもらいたい。

2006年、オーナーであるAが所有する単身者向けワンルームアパートの室内で、入居者が自殺した。入居者の自殺によって借り手がつかないことや、家賃の減額を強いられることとなったAは、「入居者は物件の価値を減じることのないよう使用すべき注意義務があるにもかかわらず、物件の室内で自殺したことは、賃借人としての善管注意義務違反だ」と主張。その部屋のみならず、その両隣りと階下の部屋の家賃減額も強いられるなどとして、入居者の母親Bと入居者の連帯保証人Cに対して約670万円の損害賠償を支払うよう求めて、提訴した。

結論を先に述べると、東京地裁はBとCに対して、連帯して約130万円の損害賠償を支払うよう命じている。

この裁判における争点は(1)入居者の自殺は善管注意義務違反にあたるか、(2)Cの連帯保証責任の範囲はどこまでか、(3)損害はどの程度か―の3点。

まず1点目について、判決によると東京地裁は「賃借人が物件内で自殺すれば心理的な嫌悪感が生じ、一定期間賃貸することができなくなり、できたとしても相当額で賃貸できなくなることは常識的に考えて明らか」と判断。

「賃貸物件内で自殺しないようにすることも、賃借人の善管注意義務の対象に含まれる」と述べている。これに基づき、母親であり、入居者の権利・義務を承継したBには損害を賠償する責任があるとした。(2)についても、連帯保証人であるCにはBと連帯して賠償する責任があると認めている。

自殺の告知義務を裁判所が判断

最後に(3)について。判決では「自殺があった建物(部屋)を借りて居住することは心理的に嫌悪感を覚える事柄であり、原則、賃借希望者に対する重要事項説明として、当該物件において自殺事故があった旨を告知すべき義務がある」と述べている。

その一方で、「自殺による嫌悪感は時の経過により希釈するもの」としたうえ、「一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、その賃借人が一定期間生活すること自体により、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなり薄れるものと考えられる」と指摘している。そのため、事故の後に入居した賃借人が退去した後、さらに賃借する場合には、「告知義務はない」と断言している。

こうしたことから、判決では1年間は自殺があった旨を告知しなくてはならないために賃貸できず、その後一契約(2年間)は家賃が半額となる一方、この3年間が経過した後はこれまで通りの家賃での賃貸が可能との計算のもと、Aの損害額を約130万円と計算している。

また、判決では、入居者の自殺があった部屋以外の部屋を賃貸する際には「自殺事故があったことを告知する義務があるとは言えない」と指摘。そのため、自殺があった部屋以外の部屋の逸失利益は認めなかった。

法律では決められていないものの

みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は、物件で自殺があった場合の告知義務について「法律できっちりと定まっているわけではありません」と説明する。

「例えば告知事項を説明していないとなれば、民法における賃貸借契約違反となります。しかし、その内容まで決められているわけではないので、解釈として『こういうことを知ったら普通は取引をしない』という判断につながることは、言うべきだということです」

つまり、入居者がその物件を借りるか借りないか、あるいは買主がその物件を買うか買わないか、という判断に大きくに影響する事項は言わなくてはいけない、ということだ。そういう意味では、先に紹介した裁判例について「あくまで地裁の判決ではありますが、基準となる裁判例の1つです」と話す。判決では前述のとおり、「その部屋で自殺があった旨を告知する義務がある」と述べている。

法律で定められているわけではないものの、判決に述べられているように、自殺があった後に入居者が1度入れば、その次からは告知義務はなくなる可能性が高い、というのが一般的な解釈だ。

一方で事故物件があった後も1度入居させてしまえばその後は告知義務がなくなると判断される場合が多いため、三平弁護士は事故物件の「ロンダリングにも似ている」と指摘する。

この点については先の判決では「自殺事故の後の最初の賃借人が『ごく短期間』で退去したという特段の事情が生じない限り、この賃借人が退去した後にさらに賃借する場合には、自殺事故があったことを告知する義務はない」と例外を付け加えている。

ただし、この「ごく短期間」の具体的内容は判決で示されていないため、「何カ月ならいいのか、何週間ならいいのか、というのは解釈次第です」(三平弁護士)。さらには、その事件・事故の程度にもよるといい、「自殺や他殺、事故死などさまざまなケースでかなり違ってくるでしょう。極端に言えば、10人殺されたような部屋に、入居者が1人、1カ月住んだからといってその嫌悪感が薄れるのかどうか、という問題です」

また、三平弁護士がこれまでの判例を告知期間に焦点をあてて分類してみたところ、「おおざっぱにくくると、売買の場合ですが、自殺だと7年間、事故死だと7~10年間、殺人だと少なくとも10年間は告知すべきだ、という傾向がみえます」と解説する。賃貸の場合はもう少し短期間になり、また、単身者向けの場合にも短くなる。

ファミリー向け物件だと、一般的に住む期間も長くなるため、告知期間は長くとるよう求められるケースが多いようだ。三平弁護士は「人の死が、入居することに与える嫌悪感の程度が大きいか小さいか、ということで告知義務が続く期間に影響するという関係です」と解説する。

土地自体の売買でも告知義務

残虐な殺人事件などがあった場合には、「建て直せばいいだろう」という考えも浮かぶが、三平弁護士によると「土地自体の売買でも告知義務があると判断される場合もあります」という。

例えば2006年大阪高裁の判決では、その土地に過去存在した建物で起きた殺人事件は、8年以上経過してもその土地の瑕疵として認められている。

「その建物で惨殺があったことは、地元の人間であればみんな知っているような出来事、と判断されると、土地の売買でも告知義務があると認められることがあります。建物だからといって壊せば、というのは100%OKではありません」(三平弁護士)

こうした中で、オーナーができることはどのようなことだろうか。

三平弁護士は「まず、こういったリスクはあり得るということを前提に取引をする気持ちは大事ですね。万が一起きてしまった時、例えば賃貸をするオーナーの立場では、保証人に対する損害賠償は理論的には問題ないので、保証人をきっちりととることです。また、購入(売買)をする者の立場では、パーフェクトなのは保証事項で『10年間はここで人の死はない』などときちんと契約書に書くように求めることでしょう」と話す。

入居者に起こり得るさまざまな出来事は、もちろん起きないことが何よりも望ましい。しかし、万が一起きてしまった場合に、しっかりとした対応をとれるようにしておくことは非常に重要だ。

自身が損をすることを避けるのはもちろん、「ロンダリング」と判断されたり、告知義務違反と指摘されたりしないよう、事故物件の告知義務についてしっかりと知ってほしい。