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不動産を所有すると、境界をめぐりトラブルになることが少なくありません。特に収益物件ではその境界線の行方によっては投資の目的を果たせなくなる場合もあるため、曖昧なまま取引をすることはとても危険といえます。今回のコラムでは「境界線」についての基本的な取り扱いをご紹介いたします。

筆界と所有権界

土地の境界線には2種類あります。「筆界」「所有権界」です。土地はその単位を「1筆、2筆」で表します。その呼び方の由来には諸説ありますが、豊臣秀吉の太閤検地の際の検地帳に筆で土地ごとにその情報を1行単位で記録したからという説、その後明治時代の地租改正の条文でも「一筆毎ノ…」と筆単位で読んでいるからという説があります。

法務局に備えられている登記や関連資料及び図面で公的に区画を示しているのは、この「筆界」です。土地家屋調査士の取り扱う境界も筆界です。本来はこの筆界だけが土地の所有権を画するものでなければなりませんが、実際にはズレが生じてきています。

その理由としては、公図が元々明治時代に行われた地押し作業がもとになっていて精度がとても低いことと、年月を経て現地が造作物などにより人為的変更がされたり、天災などによって変動したりで、筆界と実際のラインが少しずつ合わなくなってきていることがあります。

そもそも筆界と実際の所有権の範囲が一致しないことが珍しくなくなり、現在では境界線をこの2種類でとらえることが一般的になりました。現地で利害関係人がここだと主張する線と地家屋調査士が調査・測量した結果で示される線に違いのあるのは、このような経緯があるからです。

境界の確定方法とは

境界の確定方法の説明に入る前に、先ずは「境界が確定している状態」とはどんな状態なのかを検討してみましょう。次の1~4、どの方法で確認したものが「確定した状態」と言えるでしょうか。

1.隣地所有者と現地で境界を確認。書面は交わさず。

2.縮尺不問の略図上に境界線を書き入れ、隣地所有者と立ち合い又は電話で確認の上、お互いに記名・押印(認め印)の上書類を交換した。

3.測量士の測量した現況測量図元に隣地所有者と立ち合い境界線を書き入れお互いに記名・押印(認め印)で交換した。

4.土地家屋調査士の作成した筆界確定書(隣地と立ち合いの上、記名・実印押印 印鑑証明書付)及び官民境界明示も受けた。

今まで不動産の取引を行った方の中には、1または2の方法で境界について確認したことがある方もいるのではないでしょうか。また1~4いずれにも該当せず、「公簿取引のため境界については未確認」と重要事項説明を受けただけの取引もあるでしょう。

不動産売買取引では、境界線につきどこまで確認するのかは当事者間の取り決めによります。境界が曖昧という理由で価格交渉の材料になることもありますから、公簿だけの取引も少なくありません。でも、それは正確には「所有権の範囲」まで確定した取引とは言えません。

では3の確認方法はどうでしょう。測量士さんの測量技術や作成図面にケチをつけているのでは決してありませんが、境界確定度としては100点満点中で50点です。このケースで確認した境界は「所有権界」であることが多いでしょう。法務局や関係官庁で必要な調査をしていない可能性が高く、筆界とは異なっている可能性があります。これらの書類では後日分筆や地積更正登記を申請できない恐れがあります。

4が土地家屋調査士の執り行う「筆界確定」です。現地立ち合いと測量のみでの確定は行いません。法務局及び関係官庁で徹底的に行った調査をベースにします。所有権界ではなく筆界を確定する作業です。道路や水路など公共地と面している部分では官民境界線も明確にします。調査の時点から関係官庁と打ち合わせて作業を進めていくので、最終的に利害関係人と筆界を確定した後その書面を以って登記に反映することができます。筆界と所有権界が相違するケースは筆界を確定したのち、分筆登記等を経て所有権界と整合させていくのが本来の手続きです。

土地家屋調査士が行う筆界確定が最も取引に安全な選択肢です。でも実務では行われていないことのほうが多いのです。それはなぜでしょう。

先ほどの4の手順できっちりと測量をして法務局での調査を行い、筆界確定書を隣地の所有者と取り交わすことで明確に境界線が確定します。しかしその作業には数カ月以上かかることが一般的です。1、2カ月で完了することができると早いほうです。また費用も決して安くはありません。

確定というからには、一部の境界線だけ取り決めても完全ではありません。対象地の全ての点と線で接する部分を確定する必要があります。場合によっては半年以上、費用も数十万円になる可能性もあります。

このため、実際の取引ではあえて境界については「未確認」として触れないか、現地で簡易的に確認したことを重要事項に記載して取引することが多いのですね。筆界確定には時間と費用がかかるため、当事者の利益にそぐわない結果になることもあるからです。

でも明らかに隣地との境界につき現地と登記が一致していない場合や、いずれかの建物や工作物が越境している場合は境界を確定しなくては取引に持ち込めません。時間と費用をかけてでも土地の確定をすることのほうが売主、買主ともに利益を確保できる場合は、売買取引を前提とした確定測量を行う必要があります。

確定測量なしの取引は大丈夫?

では確定測量なしの公簿取引で考えられるリスクにはどんなことがあるでしょう。境界が決まっていない土地を購入した場合に想定される将来のリスクを考えてみましょう。

○隣地からいきなり主張され、境界線でもめるケース

売買で隣地の所有者が変わると突然境界線でもめるケースが少なくありません。今まではお隣さん同士の付き合いで言いにくかったけど、新所有者に変わったからこれを機に主張しよう、と考える隣地の方は結構多いです。

「元の所有者がなんて言ったか知らないけど、境界線はここですから」と言われたり、「そちらの建物が越境している」といった主張をいきなりされたりします。取引時に公簿取引であること、境界は未確定であることを説明された上で購入しているし、それについての瑕疵担保が免責されていたりすると、売主に責任を問うことも難しくなります。

○既存の地積測量図では復元できないケース

「過去に分筆登記が行われており、法務局に地積測量図が備わっているので大丈夫です」と言われて取引することも多々あります。この場合も安心できません。過去の規定に沿った地積測量図では作成された時代によってその精度に大きな差があり、改めて確定測量しなくては境界が確認できない場合があります。詳細はまた地積測量図の読み方として別の機会に説明させていただきますが、平成17年以前の地積測量図では境界が現地で復元できない可能性を疑ってください。

○他人の土地や法定外公共物が含まれていると判明するケース

確定測量を行う時に、土地家屋調査士はとても大きな範囲でその登記関係を調べます。隣接地だけに限らず、一括りの範囲(例えば旧の字単位)でその登記の変遷をたどります。

現在の公図はマイラー化されて(フィルムなどに書き写すこと)見た目はわかりやすいのですが、その殆どは旧土地台帳付属図をマイラーに書き直しただけのものが多く、正確に現地を反映していないものが多いのです。公図と登記の確認だけでは発見できなかった他人の土地が含まれていたり、法定外公共物(里道や水路)が対象地の中に存在したりすることが後になってわかる場合もあります。

これらは筆界確定していないと必ず起きるというような確率ではありませんが、決して珍しくない事例だという認識は持っておいてください。完全にリスク回避するためには筆界確定測量後の面積で取引をすることが100点満点ですが、費用と労力が価格で調整され公簿取引しているのだという意識が必要です。安く購入できる=そういった将来のリスクがゼロではない、ということを承知した上で取引に応じることが最低限必要だといえます。

実際の公簿取引では、重要事項説明の場所でいきなり宅地建物取引士に「この土地は公図と一致していません」「境界標は未確認です」「地積測量図その他の図面は添付の昭和○○年のみです」と読み上げられたけど、よくわからなかったという方も多いのではないでしょうか。

中には隣地に聞き取り確認をして簡単な調書を付けてくれる仲介業者さんもいたり、大手になると地積測量図にある境界標が現地にない場合は取引前に売主負担で復元しておくようにと提案したりする会社もあります。しかし利回りのいいお宝物件に限って、そのあたりについては曖昧なことが多いように思います。初めての取引の場面では「そういうものなのかな」と思い説明に納得をしてしまう人が殆どでしょう。

登記上の筆界や現地境界について、そのような不明瞭な点がある物件ではその度合いを少しでも認識しておくことに重点を置いてみてください。どのように公図が不一致なのか、既存の地積測量図の精度や信ぴょう性はどの程度のものなのか。説明の段階で仲介業者さんに回答を求め、納得しきれない内容はうやむやにせず、もう少し詳しい調査や説明を求めるという決断も必要になります。

とはいっても、私も戸建て投資家の一人ですが、確定測量の完了していない物件ばかりを購入しています。収益性を考慮するとそういった取引もやはりアリです。あまり面倒な要望をしても、売主と仲介業者さんに煙たがられてしまいます。

そんな理由から、全ての物件について事前に自分で法務局、関係官庁の調査だけはしています。確定したい時はこれくらいの労力が必要だ、公図と現況は一致しないが簡易な方法で訂正が可能だといった目星だけはつけています。そして隣接する土地所有者の閲覧も必ず行います。境界について将来関わる可能性のある隣地の所有者が誰なのかを知らずに購入することだけは避けたいですからね。

境界確定測量はいくらかかるのか

境界確定測量費については、物件によって実に様々です。費用に差がでる理由をいくつか挙げてみます。

・対象地の面積
・隣地の件数
・隣地の所有者が多数の相続人や行方不明の場合
・隣接地が分譲マンション
・多数の共有者の土地(敷地権でない旧法の分譲マンションなど)
・現地の測量が容易にできるか否か
・過去の資料が全くない
・国有地(無番地、畦畔、御用邸、陵墓、内務省名義の土地)

これ以外にも過去に係争のあった土地と隣接している場合や、現に係争している対象地、隣接地である場合も調査業務が増えるためどうしても費用がかさみます。

100平米くらいの土地で隣地が3~4軒、前面道路は一般的な市認定道路で法務局の地図、登記に問題がないもっともシンプルな場合で30万円~50万円が目安でしょう。そこへ先に述べた特別な事情についての調査・測量費等が別途かかります。同じ土地でも100万円くらいに費用が膨らむ場合もあります。

投資を行う上で収益を上げるための大事な物件です。所有物件全てについて境界確定しておきたいところですが、費用とその収益効果も重要です。おかしいなと思った場合は土地家屋調査士に調査だけでも依頼し、確認する手立てだけでも理解しておいて損はないと思います。

急ぎの取引の場合でもご自身で簡略的に登記を調査しておくことも無意味ではありません。また別の機会に最低限行っておきたい法務局調査(地積測量図、地図の読みとり方)などもご説明させていただけたらなと思っています。