中編から続く)

わずか4年弱でおよそ800棟もの女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を販売し、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していたかにみえたスマートデイズ(東京都)。それが一転して破綻への道を歩み始めたのは、ほぼ全ての物件の融資を行うなど積極的な姿勢を示してきたスルガ銀行が、昨年10月に方針を変更したことが契機とみられている。

融資が引き締められたことで建築のペースが急激に鈍り、販売利益でサブリース事業の赤字を補填できず資金繰りが悪化した―というのがスマートデイズ側の説明だ。しかし、「もともとこうなることが分かっていたのでは」「これだけの融資を出した銀行側にも責任がある」といった見方も多い。700人にも上るオーナーの未来を一変させたビジネスモデルの裏には、スマートデイズとスルガ銀行の「歪んだ関係」が見え隠れする。

不確かなビジョン

「はっきり言いますが、我々には資金がありません。自力ではどうすることもできないんです」

今月17日、スマートデイズ側がかぼちゃの馬車のオーナーを招いて開いた説明会。昨年7月にスマートデイズと資本提携し、説明会直前に引責辞任した大地則幸社長に代わってトップを兼任することになったオーシャナイズ(東京都)の菅沢聡社長は涙ながらにこう語ったという。

説明会に出席した複数のオーナーによると、スマートデイズ側は「昨年10月に金融機関から新しいオーナーへの売買を制限するという申し出があった」と説明。それまで月15件程度だった販売件数が10月はゼロ件となり、11月は10件程度まで持ち直したもの、12月は再び3、4件の融資しか実行されなかった。そのため資金繰りが悪化し、賃料の支払いが困難になった―という内容だった。

菅沢社長は入居率が30~40%で推移していたことを説明した上で、「2020年までの3年間は物件数を増やさず、入居者を毎年2800人ずつ増加させて満室を実現する」と宣言。男性や外国人、生活困窮者などをターゲットにしていく戦略などを示し、「金融機関に対してはオーナーの方で個別にリスケ交渉と金利交渉をしてほしい」と繰り返したという。

しかし、出席したオーナーの1人は「ただ入居者を増やす増やすというばかりで、話にならない。納得できる具体的なビジョンや戦略もなく、銀行との交渉に使える材料は一つもなかった。これから毎月100万円以上のマイナスキャッシュフローが積み上がっていく中で、オーナーとしてどうすればいいのか全く分かりません」と憤る。

「ある支店」の存在

スルガ銀行の方針変更は、シェアハウスの販売管理を行うサクトインベストメントパートナーズ(東京都)の破綻が引き金になったという見方が強い。ある金融業界関係者は「スルガ銀行は支店・支店長への権限委譲が強く、それが他行との差別化、ひいては利益の源泉となっていた面がある。しかし、今回の一件に関しては支店の権限の強さが裏目に出たという見方もできます」と語る。

関係者の話を総合すると、かぼちゃの馬車に関してはスルガ銀行横浜東口支店がほぼ一手に融資を引き受けていたとされる。スマートデイズと横浜東口支店が強固なタッグを形成し、属性の良いオーナーに3.5~4.5%の高金利でフルローンの融資を組ませ、急速に物件数を増やしてきたという見方だ。

横浜東口支店ではスマートデイズのセミナーも開かれており、一部には「全オーナーの約8割はこの支店で融資を受けたのでは」という声もある。スルガ銀行以外の金融機関から融資を受けて参入したオーナーはほとんどいないとみられ、かぼちゃの馬車のビジネスモデル自体がスルガ銀行ありきだったことは疑いようがない。

横行していた手口

「私はこのビジネスモデルそのものが、スルガ銀行主導で進められた可能性もあると思っています」

2016年に約2億円で都内のかぼちゃの馬車を購入した会社員Eさん(40代)は、確信めいた表情でそう語る。

「私がかぼちゃの馬車を購入した時、手持ちの金融資産は株式350万円のみでした。普通に考えれば、これだけで2億円もの融資をフルローンで引っ張るのは難しい。融資審査を通った後、周りのオーナーからある噂を聞いて、もしかしたら…と感じたんです」。思い切って販売会社の担当者に聞いてみると、恐れていた言葉が返ってきた。

「実は『株式350万円』を『現金3500万円』に書き換えて提出しました」

営業マン自ら、オーナーの資産状況に関するプロフィールシートの改竄、つまり金融資産の増殖行為を認めたというのだ。「この発言は録音もしています。他のオーナーに話を聞く限り、おそらく今回の一件では複数の販売会社がこの手口を使っていた。支店長がこれを把握していないはずはなく、私は完全に共犯だと思っています」

Eさんが販売会社の担当者に手渡したプロフィールシート。のちに書き換えられたとみられる

スマートデイズ「誠意を持って対応する」

サブリース問題解決センター(東京都)理事長の大谷昭二氏は「普通の人なら1億、2億を借り入れての投資に尻込みしますが、『融資審査が通った』ということは、銀行がこの事業は大丈夫と判断した、と安心感を持ってしまうわけです」と指摘。「スマートデイズもスルガ銀行も、それを分かった上でこのビジネスモデルを続けていた。過剰融資の責任は重いです」

一部では、スルガ銀行はすでにオーナーの連帯保証人の資産状況を洗い出し、差し押さえの準備に入ったという情報も流れている。

スマートデイズは楽待新聞編集部の取材に文書で回答し、スルガ銀行との関係性について「金融機関とオーナー様の契約・やりとりに関しては、弊社で分かりかねますのでお答えできません」とした。

今後の事業再建プランについては「現経営陣の話し合いの中で、今後は新会社を設立して現在空室となっているシェアハウスの入居率を埋めていく計画」と回答。新規ターゲットの勧誘やイングリッシュハウス、新社会人ハウスなどのコンセプト物件へ切り替えての利用を考えている」と説明し、「可能な限り早い段階で事業を再建し、オーナー様方に安心していただける状況を作れるよう誠意を持って対応させていただく予定です」としている。

スマートデイズの本社が入るビル=26日、東京都中央区

置かれた状況は千差万別

被害に遭ったオーナーたちには今後、どのような道が残されているのだろうか。

コンセプト型集合住宅の企画・運営を手がけるLivmo(東京都)代表で、シェアハウス業界に詳しい源侑輝氏は「1日2、3件のペースでかぼちゃの馬車オーナーからの問い合わせが来ていますが、40~50代の真面目な人が目立ちます。誰もが知るような有名企業に勤めている方や士業の方、そして中級レベルぐらいの不動産投資経験者も意外と多い」と語る。

中にはカードローンを使って来月の返済を乗り切ろうとしている人もいるといい、「自己破産者が続出するのは時間の問題だと思います」と源氏。「ただ、士業のオーナーは自己破産すると国家資格や職業に対する制限を受けることになり、資産と職を同時に失うことになるので簡単には決断できない事情があります」

一口に700人といっても、物件の立地が良くほぼ満室状態の人、逆に条件が悪く全空が続いている人、さらに建物すら完成していない人など、オーナーによって置かれた状況は大きく異なっている。それぞれリスケや金利交渉を続けながら、自主管理への変更、別の管理会社への管理委託などの選択肢を模索している。

満室でも赤字に

ただ、スマートデイズは異常なペースの建築による空室率の向上に対応するため、家賃を相場の半額程度まで下げて入居させていたケースも多いとみられている。そのため、たとえ満室経営を実現しても、キャッシュフローがマイナスになるようなケースも想定される。

源氏は「基本的にオーナーは入居者の素性を把握できていない状態なんですが、法人が全室一括で2年契約して又貸ししているケースもけっこうあります」と説明。「その場合、2年間は相場の半額程度の家賃を上げる手立てがないので、満室でも毎月数十万程度の手出しが確定してしまいます」

さらに「2014年のスタート当初に建築された100棟ほどなど、最初期の物件については好立地で利回り9%というようなケースもあるんですが、その後につられて買った人は微妙な立地の物件を掴んでいることも多い」と指摘。あるオーナーは「今後は立地や入居率のよい物件だけ救済し、立地が悪く空室の多い物件は切り捨てるつもりでは」とみている。

サブリースの賃料が完全に停止され、返済や固定資産税など毎月100万円を超す持ち出しに何カ月も耐えられるオーナーは多くない。早期に売却して損切りに動く手段もあるが、実勢価格にスマートデイズ側の儲けを上乗せした価格で購入している分、売却しても借金を返済しきれず手元資金での穴埋めを覚悟せざるを得ない。

源氏は「あるオーナーからの相談で物件を調査したところ、木造物件で坪単価が150万円でした。これは平均の2倍ほどで、もちろん価格に見合った仕様とは言い難い造りです」と語る。毎月積み上がっていくマイナスキャッシュフローに耐えきれず、大幅に安い価格で売りに走るオーナーが増えれば、さらに価格が崩壊することも予想される。

再び破られた約束

17日の説明会でも「問題解決のため全力を尽くす」と繰り返し、サブリース契約の解除には無条件で応じると説明したスマートデイズ。しかし、被害に遭ったオーナーからはその対応姿勢に疑問の声が出ている。

都内在住の会社員Fさん(40代)が所有するかぼちゃの馬車は現在、法人契約でほぼ満室状態。賃料支払いの完全停止で毎月100万円以上の持ち出しが発生する状況を受け、早期に自主管理へ切り替えようと、説明会の数日後にスマートデイズの本社を訪れてサブリース契約の解除を申し出た。

しかし、「一日に何度電話しても、担当者は『上に確認するので待ってください』の一点張りで、一向に応じようとしないんです」とFさん。その理由は、のちに明らかとなった。

契約では、入居者からの家賃振り込み期限は27日となっていた。入金までに自主管理へ切り替えることができれば、2月分の家賃約80万円は自分の手に入るはず。期限まであと数日しかない。焦ったFさんが毎日電話を続けても、スマートデイズ側は引き伸ばしにするばかりだった。

契約解除の合意が得られないまま迎えた25日、危惧していた事態が起こった。法人側がスマートデイズに2月分の家賃約80万円を入金してしまったのだ。その日の夜中、Fさんがスマートデイズに電話すると、担当者の態度は一変していた。「今まであれだけ時間稼ぎに終始していたのに、いきなり合意に前向きなことを言いだしたんです。ここまで露骨なことをやるのか、と愕然としました」

それでも前を向く

サブリース問題解決センター理事長の大谷氏は「自己防衛に必要なのは結局、利害関係のない第三者に相談することなんです」と強調。「今回のケースでも、誰かに相談していれば半数は救われていたはず。もちろん投資家の勉強不足という見方もありますが、どれだけ勉強しても業者の方が上手なので追いつけない。サブリースという制度自体の方向性を考えるべき時期にきたのかもしれません」

自身の親族がサブリースのトラブルに遭った経験を持つ隼綜合法律事務所(愛知県)の加藤幸英弁護士は「今回の契約は『管理業務委託』ではなく『サブリース賃貸借』なので、業者の方が借地借家法で保護される立場にあるんです。一方でオーナー側にとっては賃貸経営『事業』になるので、消費者契約法による保護が極めて受けにくい面がある」と問題点を指摘する。

わずか4年弱で、700人ものオーナーが総額1000億円もの被害に遭う結果となった「かぼちゃの馬車」事件。一部のオーナーは被害者の会を結成し、スマートデイズとスルガ銀行に徹底抗戦する姿勢を示している。放っておけば毎月100万を超す持ち出しが発生する中で、オーナーたちに残された時間は少ない。奪われた未来を取り戻すため、人生をかけた戦いが続いていく。これから1カ月後

(楽待新聞編集部・金澤徹)