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元国税局職員、さんきゅう倉田です。隠居後に住みたい場所は『タックス・ヘイブン』です。

お金持ちの間で一大ブームを巻き起こした節税方法に「タワーマンション節税」があります。タワーマンションの可能な限り上の階を購入し、それを子供などに相続させる方法で相続税を圧縮するのですが、相続税対策を目的としたマンションの購入に、国税局は厳しい目を向けています。

法の抜け穴や不備を見つけ、課税を恣意的に免れる行為は「租税回避」と呼ばれ、国際的なスキームを考案できる巨大企業だけがその恩恵を受けていました。タワマン節税は、租税回避とは言われないまでも、その目的や方法から同一直線上にあるものと考えられます。

節税はあくまで手段であって、目的となってはならない。客観的な事実に基づいて、節税が手段を超えたとき、あなたの行為は国税局によって否認されてしまうかもしれません。

今回は、タワーマンションを利用した相続税の節税に失敗した事案を解説しますが、その前に相続税の基礎知識を押さえておきましょう。

タワマンが節税になる理由

そもそも相続税は、誰かが亡くなって、亡くなった人の財産を相続したときに払う税金です。他人が相続によって財産をくれることは日常的に行われることではないので、基本的には親や配偶者といった血縁関係、婚姻関係のある人が亡くなって、財産をもらったときに払う税金です。ちなみに、生きているときにもらうと「贈与税」がかかります

相続税では、現金を相続するより不動産を相続するほうが、相続税を計算する財産の評価が低くなります。なぜかというと、現金であればその金額がそのまま相続税の計算に用いられますが、不動産は購入金額と評価額に差が出るからです。

不動産を現金に替えるのには、手間がかかりますよね。購入者がいなければ現金に替えられませんし、手数料もかかります。そういった理由もあって、取得金額より評価額が低くなる。簡単に言うと、相続前に土地や建物を購入したならば相続税が少なくなります

もちろん、財産としての価値が実際に下がっていると考えられますので、不動産の購入が相続する人にとって得かどうかはケースバイケースとなります。

不動産を購入するとどのくらいの評価額になるかというと、おおよそですが、土地は購入金額の8割、建物は5割になります。さらに、建物を他人に貸し付けている場合は評価額が2割程度下がります。さらに「小規模宅地の特例」という制度を使って評価額を下げることができます。

そういった制度を利用して、現預金を1億円のマンションに替え、相続するときには2000万円程度の不動産になっている、というのがポピュラーな節税方法でした。

さらにタワーマンションが人気の理由として、建物の評価がその建物の建築費全体をあなたの購入した部屋の床面積で按分したものになるからです。通常、床面積が同じでも、上層階のほうが購入金額は高くなります。もちろん、貸し付けや売却にあたっても金額は高くなります。

しかし、相続時の評価額は床面積を基に算出される。例えば、5000万円で買った2階の部屋と1億5000万円で買った最上階の部屋の評価額は同じになるのです。実売価額と相続の評価額に乖離が生まれるわけです。

 

ここまで理解していただいたら、具体的な事案を解説します。

ある日、Aさんというお金持ちが入院しました。翌月、Aさんの名義でマンションの売買契約書(代金2億9300万円)が作成され、代金の支払いが行われました。Aさんは、さらに翌月、亡くなりました。

相続人であるBさん(Aさんの子供)は、マンションを相続財産として、財産評価基本通達によって評価して(約5000万円)相続税の申告をしました。翌年、Bさんは2億8500万円でマンションを売却しました。

3年後、税務調査が行われ、相続財産はマンションではなく現金(2億9300万円)であるとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしました。

※「更正」とは、修正申告に応じない場合に、国税局の権限で処理するもの。「重加算税」とは、申告内容に不正がある場合に課される、罰金のようなもの。

○税務署の見解

過去の事実関係を調べた結果、Aさんには意思能力がなかった。よって、AさんからBさんにマンション購入の委任があったとは認められない。Bさんが勝手に委任状を書き、近い将来亡くなるであろうAさんからの相続に対応するため、相続税の節税のため、BさんはAさんの財産でマンションを購入した。

だから、マンションの相続税評価額はマンションの購入金額2億9300万円として評価する。一般的な相続のときの不動産の評価にしません。

○これに対するBさんの主張

Aさんは入院前から入院中にかけて、自分にマンションの購入を指示し、自分はAさんの代わりにマンションを購入した。Aさんはマンション購入の翌月、最後の遺言をしており、亡くなるぎりぎりまで意思能力があった。

だから、委任契約は有効だし、売買契約の効力はAさんに帰属する。相続財産はマンションであり、その評価額は評価基本通達に基づき評価した5800万円とすべきです。

と、税務署とBさんの話し合いがまとまらず、税務署は更正処分し、Bさんは「納得いかない!」と国税不服審判所に訴えることにしました。

※「国税不服審判所」は、国税局や税務署の処分に納得がいかないときに、訴えるところ

○国税不服審判所の判断

マンションの購入目的は、相続税の節税である。Aさんがマンションを訪れたことはなく、Bさんもマンションを利用した事実は一切ない。Aさんが亡くなった4カ月後には、Bさんはマンションの売却を依頼する一般媒介契約を締結し、2億8500万円で売却した。

Bさんは、マンションの購入価額とマンションの評価額との差額が大きいことを認識し、差額について相続税の課税価格を圧縮し相続税の負担を回避するためにマンションの売買契約に及んだことが認められる。

このような場合には、相続におけるマンションの時価は取得価額とほぼ同等と考えられるから、マンションは2億9300万円と評価するのが相当である。

つまり国税不服審判所は、

「節税目的でマンションを買ったでしょ? だって、買ってから住んでもいないし、Aさんが亡くなったら、すぐに買い手を探してたじゃん。最初から相続税を少なくするつもりだけでマンション買ったのなら、現金をただマンションに替えて相続しただけだから、その評価額は購入金額にするよ」

といって、問題となったタワーマンションについて、一般的な相続税評価額ではなく、購入金額を基礎とした相続税を課したのです。

この結果は、タワマン節税界に大きな影響を与えました。いわゆる、タワマン節税を行う納税者への抑止力となったのです。

節税はあくまでも「ルールを守って、納税額を減らすこと」です経費を増やしたり、制度を正しく利用したりといった、ルールの範囲で頑張ることです。脱税は「ルールを破って納税額を減らすこと」です。厳密には、マルサが動いて、強制調査をされるような事案にのみ当てはまります。

租税回避は「各国の税法の違いを利用して納税を減らすこと」です。悪魔的なコストがかかるので、巨大企業にしか実行できない不公平なやり方で、各国の課税庁も厳しく対応しています。

それらの違いを正しく認識して、過度な納税額の圧縮は控えるようにしましょう。流行りの節税方法は、どこかの誰かがスケープゴートにされる可能性があり、それはこの記事を読んでいるあなたになるかもしれません。