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人口減少が続く中、増え続けている日本の賃貸住宅。結果として、全国的に空室率が高まる中、入居者の争奪戦が行われている。新しい設備を投入したり、広告費をかけたり、さらには入居条件を緩和したり、多くの投資家・大家は入居者獲得のためにさまざまな努力をしている。

こうした状況において、地域最安値の家賃で入居募集を行う投資家がいる。地域最安値にした結果、実際に入居者は獲得しやすくなっているのか、収益はUPしているのか、そして、そもそもなぜそこまで安く貸し出す必要があるのかなど、実際に地域最安値で戦う投資家3名に取材した。

取材の結果、入居付けには大きなメリットがある地域最安値物件だが、その後の運営におけるデメリットも浮き彫りになった。

地域最安値で入居者の質が変わり、トラブルだらけの問題物件に…

地域最安値で満室稼働中の専業大家Kさん(50代、栃木県在住)は、栃木県宇都宮市の好立地に相続で引き継いだ築35年の鉄骨造のワンルームアパートを運営して5年目。常に満室なのはいいのだが、最近になって入居者トラブルに悩まされているという。

「こんなことをいうとサラリーマン投資家さんに悪いのですが、ローンがない物件を引き継いでいるので、考えるのは建物の修繕や税金のこと。修繕はお金がかかりますが、一度すればそこまで手を入れることもないので、適度なリフォームをして家賃も地域最安値にすればしっかり高稼働します。そんなやり方で、これまでわりと順調に大家業をしていました」

とKさん。問題が勃発したのは5年ほど前からだとか。

「なぜそのタイミングなのかはよくわかりません。まず、2008年のリーマンショック後に派遣社員の大量退去があり、ワンルーム相場がわりと大きく下がったと聞きます。うちも家賃3万円を切るようになって、景気が悪いのだな…と感じていました」

その後、入居者の質が徐々に変わっていったそうだ。

「もともと、うちの物件は古びたワンルーム。3点ユニットで部屋もさほど広くなくて、今時の間取りでもないため若者には好まれません。ただし家賃は安いので、30代から50代くらいの男性が入居していました」

徐々に下がっていく相場家賃に合わせて、さらに家賃を下げていったところ、 入居者層が様変わりしたという。リーマンショック前は3万5000円~3万8000円だったのを繁忙期のたびに数千円ずつ下げて、今の家賃は2万5000円前後。繁忙期を逃したタイミングでは、さらに1000円~2000円値引くこともあるという。

「これまでは部屋で寝るだけのような静かに暮らしている中年男性が中心だったのが、20代の若者も入るようになりました。それどころか狭い部屋に2人入居したり、赤ちゃん連れの若いお母さんも入居したりして、これまでとはまったく違った入居者が増えていきました」

単身向けだったアパートに、様々な層の入居者が入り、騒音やゴミ出しのマナーの悪さ、粗大ごみの放置など共有部もどんどん荒れていったそうだ。

「もちろん、単身の中年男性だってすごくマナーがいい訳ではありません。ゴミの分別ができていない、共有部に段ボールが置きっぱなしになっている…なんて問題はたまにありましたが、入居者層がバラバラになって、なんというか、いつも何かしら面倒な問題が起こるような手のかかる物件になってしまいました」

そのため、長くから住んでいた優良入居者が退去してしまった。新築時からの入居で家賃は今より2万円近くも高かったため、地域最安値で良しとしているKさんも、この退去にはショックが隠し切れない。

「退去した後の入居は、退去された方の約2分の1の家賃です。これまで地域最安値で募集することが満室稼働につながると信じていましたが、静かに暮らしていただいたアパートが騒がしく住みにくいアパートになってしまったことは失敗だったと思います」

そこで、Kさんは今後の募集時は入居審査をしっかり行うことにすると決めたそうだ。

「今のように新築アパートがどんどん建っていくような状況では、築古アパートは家賃を下げていくしかないと思います。ある程度広さがあるとか、都会にあるとか、何かしら手の入れようがあれば『価格』だけにこだわることはないと考えますが、私のアパートのように3点ユニットで狭小となれば、そこは妥協するしかないのです。しかし、入居審査だけはしっかりすべきだと思いました」

Kさんは、これまでは保証会社をクリアすればそれでOKと考えていたが、今後はしっかり勤め先や転居理由も確認し、「安くてもいいから、良い方に入っていただく。これは今後肝に命じます」という。地域最安値で高稼働という路線は変えずとも、来る者拒まずの姿勢を改めて、入居審査を管理会社任せにしないことでアパートの改善を図っていくことを決意したそうだ。

高利回りでも退去で赤字

次に紹介するのは、夫と協力して不動産投資を進めている千葉県在住のYさん(30代)。現在は千葉県郊外のT市に築古アパート1棟を所有し、同じT市に戸建ても持つ。

「どちらかといえば私主導で不動産投資を始めました。念願のアパートを2年前に購入できて、すごく喜んでいました。2015年はすでに物件は高騰し始めていましたが、なんとか条件を満たす物件を購入できました。

条件は自分が住む千葉県で自宅から車で1時間以内、利回りは12%です。なかなか見つからず途中くじけそうになりましたが、なんとか買うことができました。当初11%の売値だったのですが、指値が成功して利回り12%を達成しました」

築36年の6戸アパート、購入時に2部屋空室だったものの、夫とともにDIYを実施。低コストでのリフォームを施し、地域最安値の家賃で募集、リフォームが完成して3カ月後には無事満室になったそう。

「最初はすごく順調だと思っていました。利回り計算も家賃を地域最安値で設定して計算しているので、安くても問題ありません。これはすごく競争力があるなと感じていましたし、実際に問合せもすぐあって満足していたのです。ところが、その後計算外の出来事が続きました…」

まずは、長く住んでいた入居者の退去。それも2部屋続けて退去してしまったそう。さらに、10年以上住んでいた入居者だったため、部屋の傷みがひどかったという。

「部屋は2DKで30平米ちょっとなのですが、キッチンの交換やバランス釜の交換もあり、リフォームに1部屋100万円近くかかるという状況でした。そこで、自分でできるところは自分で行い、できないところは業者さんに任せるというやり方でリフォーム費用を圧縮するはずだったのですが、まさかの主人の転勤で、自分たちでリフォームするのが難しくなってしまいました」

当初は週末だけDIYをすることも考えたが、それでは何カ月もかかってしまう。とりあえず多少部屋の程度がよい1室だけ直すことにして1室を保留。翌年になってようやく2部屋のリフォームが済んだという。

「さらに1年ほど経ってまた退去がありました。その部屋はそこまで傷んでいないのですが、それでも原状回復に5万円ほどかかりました。家賃が2万5000円で入居募集にAD2カ月がかかるので、空室期間の家賃を考えなくても入退去があるだけで10万円、つまり家賃4カ月分がかかってしまう計算です」

結局、2年間で5部屋ほどの入れ替わりがあり、そのたびにキャッシュアウトが続き、お金はなかなかたまらないという。

「とくに最初の2部屋の大規模リフォームが大きく響いています。家賃が低いということは、原状回復を行うだけでもすぐ赤字になってしまいます。加えてADの支払いや空室期間の家賃ロスを考えると、これを取り戻すために一体何カ月かかるんだろう……と気が遠くなりそうです」

とYさん。いくら高利回りで購入した物件でも、出費が続いてしまえば儲からないのは事実。これからは修繕にコストがかからない物件を購入したいという。

「新築物件を買えば当分は修繕費はいらないでしょうし、家賃も高くとれるでしょう。しかし、それだけ利回りも下がります。これまでは家賃を下げても高利回りが得られる物件が一番良いと信じていましたが、どんな物件を買ったらいいのかわからなくなってしまいました……」

安い物件を買って安く貸すという投資手法を取っていたYさん。実績を踏まえた結果、今後の投資手法に迷いが出ているという。

最低家賃を求める入居者のニーズを知らずに後悔

最後に紹介するのは、はじめての戸建て投資を埼玉でスタートさせたサラリーマン投資家のTさん(40代、東京都在住)。購入した物件があるのは埼玉北部の某駅。湘南新宿ラインが停車するものの、とくに栄えている街でもなく、そのうえ駅から車で20分ほど。バスも走っていない。

「エリアでいえば、とてもマイナーで需要もどこまであるのかわかりませんでした。だから、一般的には買ってはいけない物件なのかもしれません。ただ広さが100平米近くあって平成築なのに300万円で売られていました。水回りはそのまま使えるので、購入してから60万円程度のリフォームをして貸し出しました。

立地も良くないし、とにかく入居を早く決めたかったので、相場が5万5000円~5万8000円のところ、2000円下げて5万3000円で出すとすぐに決まりました。この金額はかなりの安値です」

安い価格帯から若いファミリーが引っ越してくるかと思いきや、入居を決めたのは近所に住む老夫婦だったそう。

「大きなゴールデンレトリバーを買っているご夫婦です。なんでも近くの戸建てに住んでいたそうですが、広さが50平米以下だったそうで、犬と住める広めの部屋を探していたのだとか。ちょうどニーズとぴったり合って、先方から『急いで引っ越したいから早くリフォームを済ませてほしい』と言われました」

ただ後悔した点がいくつかあるという。それはリフォームにかけた費用がムダになったこと。そもそも延床面積の広い戸建ては、壁と床をキレイにしようと思っただけでもかなりコストがかかってしまう。

「後から聞いた話ですが、壁も床も犬が傷をつけてしまうことがあるので、クリーニングだけで良かったと言われました。床も犬がすべらないようにマットを敷いているそうで、それならば床のCF(クッションフロア)を貼り直す必要もなかったという話です。

このことを知っていれば、数十万のコスト削減になりました。なんとなく部屋はしっかりキレイにするものという思い込みがあったのですね。後悔しました」

安い家賃で広い家に住みたい層のニーズを考えると、「家族が多い」「ペットを買っている」「荷物が多い」といったことがあげられる。そうした層は「部屋がキレイであるよりは、部屋が安い」といったことを重視する傾向。つまり、家賃を「最安値」まで下げるのであれば、リフォームコストも「最安値」(最低限)にすべきだという。

低家賃に対するリスクを事前に洗い出すことが大事

基本的には築古物件を購入する場合、地域最安値の家賃でも収支が合えば問題ないだろう。また、安い家賃で入居募集できれば、ライバル物件との差別化にもなり高稼働が実現しやすいと考えられる。

そもそも地域最安値で募集を行う物件は、「築古」「アクセスが悪い」「間取りが使いにくい」「地方なのに駐車場が戸数分確保できていない」といった物件力が低い物件であることが多い。そうした物件が家賃を下げて「家賃が安いなら、多少のことには目をつぶる」という入居者をターゲットにする。

値段だけを重視する入居者だからうるさいことを言わない、ということはない。低家賃の入居者だからこそのデメリットもあるということは、上記の事例で紹介した通りだ。

注意点として「安い家賃で入居する層は一体どんな入居者なのか」を考える必要がある。それは物件やエリアによっても変わってくるため、自身の物件はどうなのかしっかり把握し、それに合ったリスクヘッジを行うことがポイントになる。

たとえば、ペット可物件であれば、ペット規約をしっかり作る。外国人入居可であれば、多言語対応の外国人に慣れた管理会社に委託する。複数人で入居するなら、保証会社に加えてそれぞれの保証人を取る。

家賃滞納や入居トラブルはどんな物件であっても避けたいことだが、低家賃物件ではただでさえ少ない利益が削り取られてしまうから切実だ。

入退去における高コストの問題も低家賃ならではのデメリットだが、とくに原状回復工事についていえば、最初から部屋のグレードを下げるのもやり方だ。たとえば壁紙は張り替えずにクリーニングで済ませる。汚れた場合は一面の張り替えでなく部分的な張り替えで済ませるといった具合だ。

また、単身向けの物件では短期間で退去されることも多く、AD2カ月にフリーレントをつけたのにも関わらず入居から3カ月後に出られては完全に赤字になってしまう。

そこで、半年や1年といった期間を決めて、短期退去に違約金を設定する手もある。こういった対策方法は管理会社から提案があればいいが、ない場合は地域最安値の家賃での貸し出しを行っている先輩オーナーから知恵を借りるのもいいだろう。

いずれにしても、今回話を聞かせてもらった投資家が共通して言うのは「ただ漫然と家賃を下げてしまうのは絶対にNG。後悔します」。満室稼働は実現しやすいが、その後の管理運営や退去後のことまで考えて行うべきだということだ。