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賃貸経営においては、入居者が無事決まっても安心はできない。その入居者がきちんと家賃を期日通りに支払ってくれるかどうかは、非常に大きな問題だ。これまでにも多くの投資家が家賃の未払いトラブルに巻き込まれている。

今回は、そんな家賃の未払いから訴訟に発展したケースをご紹介する。一般的に「家賃を3カ月支払わなければオーナー側から賃貸借契約は解約できる」というが、解約が認められない事例もあるのだろうか。

「信頼関係が破壊されたか」がポイント

そもそも、「家賃が支払われなかったことで、賃貸借契約を解除できる」ということは法律に定められているが、1カ月程度の滞納で契約を解除することは、認められないケースが多い。入居者の権利を守る意味合いが強い賃貸借契約において、その解除が認められるのは、オーナーと入居者の間で「信頼関係が破壊された」とみなされた場合に限られているからだ。

1952年4月の最高裁判決は「賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約」であると指摘し、「賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、賃貸借を解除することができる」と判示している。

はなみずき司法書士事務所の司法書士・行政書士である淵真一郎氏は「特別な事情がなければ、『3カ月程度の家賃滞納』で信頼関係は破壊されたと裁判所が判断するケースがほとんどです」と解説する。ただし、この3カ月という期間は法に定められたものではない。あくまで「こうした判決が多い」といった積み重ねによるものだという。

○2005年8月・東京地裁判決
物件のオーナーAが、入居者Bが家賃を3カ月分支払っていないことから賃貸借契約の解除と明け渡しを求めた訴訟。

Bはこれまで2年間以上遅滞なく支払い続けてきており、また、今回滞納している3カ月分の家賃についても支払う意思は示していたことなどを主張したが、東京地裁は「Bは支払いの意思は示していたものの約束した期日までに支払いを完了せず、賃料の不払いを継続した」などと判断し、賃貸借契約の解除を認めた。

また、3カ月に満たない月数であっても解除が認められた判例もある。例えば、次のような例だ。

○2003年12月・東京地裁判決
オーナーCは、過去に数回家賃の滞納を繰り返していた入居者Dに対して「今後、家賃を滞納した場合には退去してもらう」と告げ、Dもその申し入れを受け入れていた。しかし、その後Dが再び1カ月分の家賃を支払わなかったため、契約の解除を求めて訴訟を起こした。

滞納期間は1カ月と短期であるが、地裁は、Dが申し入れを受け入れていたにもかかわらず、家賃の支払期日から1カ月遅滞したことについて「Cとの信頼関係を損なうものだ」と指摘し、賃貸借契約の解除を認めた。

家賃回収より早期の退去

淵氏は「家賃が未払いの入居者の方からその滞納家賃の回収をすることももちろん大事ですが、滞納期間が3カ月を超えるようであれば、家賃の回収よりもいかに早く退去してもらうかを優先すべきです」と述べる。

入居者が家賃を滞納していれば、とにかくその入居者と連絡を取って、未払い分を払ってもらおうと力を尽くしたり、管理会社にたびたび連絡したりといったケースも多いが、「3カ月、半年、1年と家賃を支払わない人と話し合いをして、分割払いで合意したとしても、合意した内容できちんと入居者が支払うかと言えばその可能性は決して高くありません。むしろ滞納額が増えてしまうケースもあります。残念かもしれませんが、滞納が続く入居者には退去してもらって、その次の入居者から正当な家賃を毎月もらうということを、少しでも早めたほうがいいです」。

きちんとした会社に勤めているなど、入居者の属性によっては給与の差し押さえといった手段も取れるため、すべて回収をあきらめる必要はない。しかし、淵氏は「滞納して退去された方で、支払い能力があったケースはあまり多くはないのが実情です」と話す。

家賃の未払いや退去をめぐる裁判では、解決方法として和解の手段をとらせたい裁判官や司法委員が多いと淵氏は指摘する。

「経験上、裁判所は『大家=強者』『入居者=弱者』という視点で見ることが多いように思います。入居者が裁判所からの呼び出しを無視するなら話は別ですが、入居者が裁判に出廷して、継続して入居したい旨を述べると、たとえオーナー側に勝訴できるような証拠がそろっていても、裁判官らから譲歩を迫られることがあります」

例えば、「『借主が今後はなんとか支払う』と言っているから、オーナーと相談してみてください」と裁判官に告げられ、オーナーは判決を希望している旨を主張しても取り合ってもらえなかった例もあると淵氏は明かす。

とはいえ、和解することは決してオーナー側に不利ではない。和解条項として▽滞納家賃を分割できちんと支払うこと▽それ以降の家賃は期日通りに支払うこと▽以降一度でも遅れれば即時解約となること―などを盛り込んでおけば、オーナー側のデメリットは無いに等しいだろう。

淵氏が扱ったケースでも、分割払いで和解し、その後2回は支払われたものの、3回目の支払いが遅れた段階ですぐに強制執行の手続きを進めた例もあるといい、結果として判決の場合と大きな差はなかったと話す。

裁判になる前に和解

家賃滞納が一時的な理由によるもので、具体的な滞納解消案があり、以降は予定通り支払えるようなケースであれば退去を迫るのではなく、和解することも有効な手段の一つだ。

裁判になる前に入居者と話が可能で、和解ができる際には、「訴え提起前の和解(即決和解)」という方法を使うことがよいと淵氏はアドバイスする。

訴え提起前の和解とは、入居者との間で話し合いができた場合に、当事者で和解書を作成して和解をするのではなく、裁判所で和解を行う手続き。手続き自体は裁判所で行うが、裁判で争うわけではないので、当事者の抵抗感が薄れる。

「訴え提起前の和解は、当事者が作成した和解書ではなく、裁判所が作成した書面で和解することとなり、裁判官から入居者に対して家賃の支払いが遅れた場合には退去しなければならない旨の説明があるため、入居者から支払われる可能性が高くなりますし、なにより和解成立後に支払いが遅れた場合に、改めて裁判をすることなく強制執行ができることが大きなメリットです」(淵氏)

内容証明郵便と特定記録郵便を同時に郵送

だが、以上のような措置がとれるのは、当然のことながら入居者が和解に応じる、裁判所に出てくることのできる人であるという大前提のもとだ。話し合いのテーブルにつかない入居者に対しては、毅然とした対応が求められる。

賃貸借契約に限った話ではないが、契約の解除を行う際には、一方に債務不履行があってもいきなり解除をすることは原則としてできない。まず必要となるのは家賃の支払いを求める「催告」だ。

「家賃を支払ってください、支払ってくれないのであれば契約の解除となります、という催告をしなくてはいけません」

催告をしても支払わない場合に初めて、契約の解除ができる。なお、催告の後に改めて契約を解除する通知も必要となるが、催告書の中に「滞納家賃が期日までに支払われない場合は賃貸借契約を解除する」旨を記載しておけば、一度の通知で問題ない。

こういった催告や解除の通知は、裁判になったときに立証するため、「内容証明郵便」などの記録が残る方法で入居者に郵送するが、淵氏は「私の経験上、郵便を受け取らない人は非常に多いですね」と指摘する。

催告や解除の通知が入居者に届かなくては、契約を解除して退去を求めることができない。そうした時に有効なのは、配達完了日時の記録が残せる「特定記録郵便」だと淵氏は述べる。

「内容証明と特定記録郵便の2つの方法で催告書を同時に送ります。内容証明郵便を受け取ってくれればそれでいいですが、内容証明郵便を受け取ってくれない場合でも、特定記録郵便は入居者の郵便受けに勝手に投函されるので、少なくとも特定記録がこの日に届いているということを立証すれば、裁判官は催告などの通知が届いたことを認めてくれることが多いです」

ただし、特定記録郵便も「本人が見られる状況にある」ということを前提として裁判官は「届いた」と判断する。国外にいる、刑務所にいる、など特定記録郵便を送っても見ることがかなわない状況にある場合には、催告されたことにはならない。

一方で、入居者が行方不明になっているような場合には催告自体が無意味であり、催告することなく解除が可能だと淵氏は述べる。この場合、解除の通知ができないため、裁判を行い、公示催告という手続きで通知をするという。

おおむね3カ月以上の滞納であれば、特殊な事情がない限りは「信頼関係が破壊された」とみなされ、賃貸借契約の解除は可能となることは多い。では、解除が認められなかった場合にはどのようなケースがありえるのか。

○2011年12月・東京地裁判決
オーナーEの物件に入居するFは、居室に修繕の必要があるにもかかわらずEが修繕してくれなかったとして、その分の家賃を勝手に差し引いて38カ月間にわたって支払っていた。

Eは契約を解除しようとしたが、地裁は「Fは入居当初から不具合を主張していたのに、入居から4カ月経過しても修繕されなかった」などEにも非があるとして、勝手な家賃減額の幅が大きいと認めたうえで、賃貸借契約の解除はできないと判断した。

○1976年12月・最高裁判決
6階建てRCマンションのオーナーGは、そのうちの1部屋の入居者Hが家賃を滞納したため、訴訟を提起。しかし、訴訟においては「次回以降家賃の支払いを一回でも怠ったときには賃貸借契約は解除となり、建物部分を直ちに明け渡す」とした内容の和解が成立した。

だが、それから約2年後、Hによる家賃の支払いが1カ月遅れたため、Gは家賃の受け取りを拒否して契約の解除を告げ、それに対してHがその無効を訴えた。最高裁は、「賃貸借契約については、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係」で、「別個の配慮を要する」と指摘。Hの家賃滞納は1カ月分であり、和解成立後から受け取りを拒否されるまで2年間にわたって毎月期日に支払っていた上、当該滞納も何らかの手違いによるものであるなどとして、解除を認めなかった。

滞納額が大きくなる前に

以上のように、「オーナー側に非がある」「入居者側に特段の事情がある」といった場合には、裁判所は賃貸借契約の解除を認めないことがある。

繰り返しになるが、法律上は「信頼関係が破壊されたかどうか」が重要なのであって、その期間が「具体的に何カ月であれば必ず解除できる」というものではない。

ただし、家賃の未払いというトラブルが起きた際には、いかに素早く対処できるかがポイントとなる。1カ月、2カ月の滞納であれば早期に話し合いを持つことで解決できる場合も多いだろう。しかし、3カ月を超えたあたりから、解決の可能性は大きく下がってしまう。ずるずると滞納額が大きくなる前に、早めの対応を行えるように心がけたい。

(楽待新聞編集部 浜中砂穂里)