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投資用物件の立地選びで重視すべきことといえば、駅からの距離、飲食店やコンビニ、スーパーなどの有無、病院の有無などが一般的なポイントとして挙げられる。これらは同時に「入居者」が重視するポイントでもあり、入居者に求められる条件が揃った物件を購入するのが空室リスクへの対策になることは言うまでもない。

そんな空室リスクを回避する立地選びのヒントとして今回紹介したいのが、「育住近接」という概念だ。

「育住近接」とは、保育園や学童保育等をマンションや団地内に設置した住まいや、小学校、習いごと、学童などと住まいとが近接することを理想とする志向のこと。

リクルート住まいカンパニーの2016年の調査結果では、賃貸物件を選ぶ際に「教育環境」を重視する人の割合が過去最高に達したという。

さらに、同社が子育て世帯に調査したところ、「保育園や学童保育が設置されているマンション」であれば、駅からの距離は許容できるという回答が約35%にものぼった。

これまで、どちらかといえば保育園・幼稚園の付近や隣接地は、騒音や送り迎えの車が頻繁に通るなどの理由で、忌避される傾向にあった。実際に、「普段は気にならないけれど、体調が悪いときなどは子どもの声が癇に障ることもあった」(女性、39歳、IT)という声もある。

しかし、これまで賃貸物件を選ぶ際に重視されてきた「駅からの距離」よりも、保育施設との距離を重視する考え方が浸透し始めている。共働き世帯が増加し、限られた時間で子どもを預けてから出勤する人々からすれば、遠くの保育施設に子どもを送ってから仕事に向かうより、家の近くで預けられた方が時間の短縮になるのだ。

「育住近接」物件を求める意見が多数

育住近接についてどう思うか、実際に選ぶなら育住近接物件と駅近物件のどちらがいいか、子どもがいるもしくは子どもを持ちたいと考えている共働きの夫婦10組に話を聞いた。

育住近接と言葉自体を初めて聞いたという人もいたが、ほぼ全員が賛成という結果になった。

「育住近接の考えが進めば、同じ子育て世代の人が集まってコミュニティを形成していくんじゃないかと思う。そうなると同じような立場の人が近くにいる安心感が得られる。育児はけっこう孤独なので……悩みを言い合ったり、励まし合ったりできる人が近くにいるのは精神的に楽になる気がする」(男性、33歳、フリーライター、子ども1人)

「特に共働き世帯にとっては送り迎えが負担。雨の日などは移動手段も限られるし、子どもが濡れないようにする荷物も増えて大変なので、保育園や学童保育が設置されているマンションのように、外を通らずに預け先に行けるのであればなおありがたいです。2人以上子どもがいると、遠出するのも大変。そういうときに助け合えるママ友や知り合いが同じマンション内に住んでいるのは非常に心強い」(女性、33歳、看護師、子ども2人)

「ただでさえ時短勤務のママにとって、今までお金で買えないとされた時間を買えるとなれば投資としてありだと思う」(男性、34歳、会社員)

「仕事をしながら子育てをしようとすると無意識に育住近接を考えるようになった。毎日のことだから送り迎えの負担は少ないほうがいい」(女性、34歳、事務、子ども1人)

父親、母親どちらが送り迎えするにしても距離は重要。一方で、マンション内に保育園や学童保育があるのではなく、もう少し距離があったほうがいい、という意見も見られた。

「もし揉め事が起こったら地獄だと思う。実際に保育園にもご近所にも気難しい人はいる。それでも、通っている保育園が違ったり、相手のお子さんが幼稚園に通っていたりして、離れることでなんとかうまくいく。便利だけど、子どもの環境も考えると、人間関係は狭くないほうがいいのでは」(女性、41歳、編集、子ども2人)

「育住近接な環境はほしいけれど、マンション内に保育園を……というところまでは求めない。個人的にはあまり魅力を感じない」(女性、34歳、販売、子ども1人)

マンション内に保育園や学童保育があるのは間違いなく便利だが、あまりにも距離が近すぎて人間関係が濃くなってしまうことが懸念されるようだ。

育住近接物件に魅力は感じる、しかし実際に賃貸暮らしをする場合、駅近物件とどちらが良いのかというところになると意見は分かれた。

賃貸を選ぶ際、育住近接を重視するという人たちの意見は、

「駅も近い方が当然いいけれど、リモートワークをして移動を伴う仕事を少なくすればいいので、保育園・幼稚園までの距離を優先します」(男性、33歳、フリーライター、子ども1人)

「保育園もですが、小学校も問題。特に1年生は心配が多いので、治安の良い小学校の近くを優先するかと思います。現在は小学校まで徒歩3分、小学校の隣に学童ありです」(女性、41歳、編集、子ども2人)

「預け先が近ければ、子どもを預けてから一度家に戻って多少の家事や身支度をしてから出かけることも可能。家事や身支度も、子どもがいる状態だとものすごく時間がかかるので」(女性、33歳、看護師、子ども2人)

「1人で動くのに対し、子どもを連れて歩き回るのはとても大変。だから保育園・幼稚園が近いほうがいい。駅から離れていても子どもを預けてから移動するのはさほど大変じゃないから」(男性、35歳、会社員、子ども2人)

一方で、下記のような理由から駅近を選択するという声もある。

希望の保育園に必ず入れるとは限らないので駅近を選んでいる。入居者が近くの保育園に無条件で入れること前提なら教育施設の近くを選択」(男性、34歳、会社員、子ども3人)

「今住んでいるところが、駅の近くに保育園が点在しているので、保育園は若干家から離れるけど不便は感じていない。ただ周辺の交通量が多いので不安はある」(女性、36歳、販売、子ども1人)

駅のそばに保育園があると時間ロスがないので助かる、という意見もみられた。

今後、育住近接になるエリアは?

最後に育住近接を実践する上で、具体的にどんなエリアを想定しているか聞いてみた。

神奈川県相模原市など、都心から距離があり、若い世代の転出に困っているようなエリアなら、育住近接を売りにできる気がする。リモートワークも増えてくるのであれば通勤しなくてもいいので、都市部にこだわる必要はない」(男性、33歳、フリーライター、子ども1人)

「23区のうち保育園の数が少なく、かつ100戸以上のマンションが多い地域(世田谷区など)は、育住近接を進めていかないと結果的に人が入らないことになりそう」(男性、34歳、会社員、子ども3人)

「利便性が高いエリア……たとえば渋谷区は待機児童が多いので、保育所を完備したマンションの開発は需要があるだろうし、期待している」(女性、32歳、IT、子ども1人)

こうした「育住近接」志向を、不動産投資家はどう考えているのだろうか。

ファミリー向けの戸建物件を所有する実践大家コラムニストの強制脱サラ大家さんは、「育住近接」についてこう語る。

「戸建、マンション、アパートどれでもファミリーを想定した物件の場合、保育園(幼稚園)と小学校までの距離は賃貸を決める判断に大きい影響を与えると思います」

ファミリー物件は入居期間が長いからこそ、教育を重視する保護者は小学校に進学した際のことまで考慮して物件を選ぶ。その際、重要なのは距離だけではないという。

「距離だけではなく、歩道がちゃんとあるか、踏切や交差点などの危険度がどうか、人通りや住宅が多いかどうかなど、経路の安全性も重要な要素になると思います」(強制脱サラ大家さん)

強制脱サラ大家さんの所有する物件では、小学校までの通学路に「踏切」があったことが原因で、なかなか入居が決まらないことがあったという。保護者の送迎なく学校に通うようになるからこそ、交通量の多い幹線道路や歩道もない狭い道など、危険なルートを登下校せざるを得ない立地は敬遠されるのだ。

また、関東近郊の地方都市で小学校と隣接するファミリーアパートを所有するN氏は、全6世帯のうち半分以上の入居者が「小学校の真横」であることが決め手でその物件に入居したのではないかとみている。

「入居者さんは夫婦共働きの世帯や母子家庭の世帯が多い。子どもたちが学校が終わったあとすぐにアパートに帰宅できるのは、家を留守にする親御さんにとって安心なのかもしれません」(N氏)

一方で、同物件に入居した単身世帯の中には、やはり騒音に耐えられず数ヵ月で退居が発生したケースもあったという。

小学校の隣接アパートで満室経営を実現するN氏だが、今後の投資対象物件選びの基準として、「住まい」と「保育施設」との近さを重視するかどうかについては、慎重な考えだ。

「今後、地方では人口減少に伴い、スモールシティの構想に基づいて町造りが進められると考えられます。人口減少が進んでも存続し続ける事が確実と考えられるエリア内の公立の小中学校の近くの物件ならば、投資対象として検討すると思います」

首都圏では保育園の不足が叫ばれているが、地方は人口減少の一途を辿る。空室対策のひとつとして「育住近接」志向の入居者を対象にした物件選びは有効といえそうだが、人口動態、保育園の競争率や小学校の統廃合にかかわる情報を慎重に収集したうえで検討する必要があるだろう。