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「No 民泊 Airbnb」

東京の湾岸地域の高級マンションの入り口にこんな看板を見つけた。

インバウンドをどう取り込むかというのは、グローバル化が進む日本の不動産投資にとっても大きな課題の一つだ。グローバル化が進めば地域住民との摩擦は生じる。

せっかく大きな投資をして手に入れた資産、あるいは高額の家賃を払ってラグジュアリーな生活を送りたい住民にとって、マナーの悪い旅行者によって住環境に悪影響があるのは耐え難いだろう。

高級マンション販売の下支えは相変わらず中国人富裕層?

国土交通省が発表したデータによれば、2016年(平成28年)の首都圏のマンションの新規販売戸数は3万5772戸と3年連続で減少。外国人投資家による高級マンションの「爆買い」は一息ついたとみることもでき、相続税対策も大きな理由で購入していた国内富裕層も、購入動機であるタワーマンション高層階の評価の変更に伴い節税という目的のひとつが失われた。こういった状況の中では、先行き不透明という悲観論が出て当然だ。

(首都圏マンション新規販売戸数 国土交通省『住宅経済関連データ』より)

さらにマンション価格の高止まりもあり、2016年の平均価格は5490万円と平均的なサラリーマンの年収ではなかなか手が出ない。そうしたなかで、高級マンション販売数の下支えをしているのは外国人、とりわけ中国人富裕層ではないかといわれている。

彼らは高級マンションをセカンドハウスや日本でのビジネスの拠点とする目的で購入する。LCCでやってきて、通り一遍の観光や買い物をし、民泊先で大騒ぎする旅行者たちとは明らかに異なる。だが、潤沢な資金力にものをいわせ高級マンションを手に入れ、違法な民泊を行う人も少なくない。

東京都沿岸部タワーマンション内に貼られた注意文

「街中のワンルームマンションや一軒家を民泊施設に転用している日本人はいても、わざわざ高級マンションを購入して外国人旅行客に貸す日本人は極めて少数」と、ある民泊アドバイザーは語る。

個人が自宅や空き家の一部を利用して行う場合(民泊サービス)であっても、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」に当たる場合には、旅館業法上の許可が必要だ。

さらに国家戦略特区に基づく認定がされていない民泊施設は、この6月から始まる住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)では、グレーどころか、ほとんどの施設が無許可のブラックだ。

ただし、2018年6月に施行される民泊新法は、都道府県や政令指定都市などに届け出た家主は、年間180日以内の民泊営業が可能となる(営業日数は、各自治体が条例で短縮できる)。

民泊新法の適用対象は、住宅宿泊事業者(民泊ホスト)、住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)、住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の3者で、住宅宿泊事業者(民泊ホスト)は都道府県知事(保健所設置市はその首長)の登録、住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)は国土交通大臣の登録、住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)は観光庁長官による登録を受ける必要がある。

高級マンションでは、管理組合で違法民泊の排斥をしはじめ、マンションの規約で民泊禁止を明確にするところも現れている。民泊あっせん会社への指導などもあって、深夜でもお構いなしに大騒ぎするトラブルは減っているという話も聞く。一方でマナー教育を受けていない外国人宿泊者は、なぜ文句を言われるのか理解していないので、住民の苦情は後を絶たないそうだ。

不動産を購入すると在留ビザが取りやすい?

そもそも、東京周辺の高価なマンションの利回りは、良くて4%弱ではないだろうか。なぜ、中国人の富裕層がそのようなマンションを買うのだろうか。

中国から帰化した会社経営者、松本学さん(仮名・38歳)はこう語る。

「私は上海の大学を卒業後、東京の大学で働きながら経営を学び、就職後はさらにMBAを取得し、金融関係の会社を興しました。留学や会社勤めによる在留ビザが切れると、日本にとどまるのはなかなか大変で、経営・管理ビザを取って日本で活動しました。このビザが、住宅を購入すると取得しやすいのです」

ご存知の通り、外国人が日本に在留し経済活動をすることは簡単ではない。民間人であれば、留学、研究、芸術や高度な専門職以外で在留するには、経営・管理ビザを取得する必要がある。松本さんは独立して会社を興すにあたって、約款の会社の目的に不動産業を入れ、住宅兼オフィスとしてマンションを購入して、在留ビザの取得の準備をした。

申請からビザが下りるまで6カ月ほどかかったという。さらに賃貸を目的にワンルームマンションに投資し、家賃を事業の拡大費用の一部にあてながら、着実に不動産投資を続けた。本業の投資コンサルタントで成功し、今では湾岸エリアのタワーマンションの上階を購入してセレブな暮らしをしている。

一方で、不動産に投資すれば在留しやすいというのは、中国人同士の「都市伝説」のようなものかもしれない。

『外国人雇用の実務』(中央経済社刊)の著書がある入管実務専門行政書士の近藤秀将さんは「経営・管理ビザは500万円以上の投資と事務所を借りることが条件ですが、これ自体はハードルが高いわけではありません。逆に言えば、不動産に投資しているだけではビザは下りません」と語る。

働く拠点は賃貸でもいい。500万円以上の投資というのは不動産投資と指すということではなく、2人は雇用できる金額と解釈でき、地域に貢献できるかどうかを暗に示すものである。ただ、申請には近藤さんのような入国管理のプロが手伝っても3カ月以上はかかる可能性がある。

とくに日本国として在留を拒否する前提というわけではなく、ビザを申請する人の数に入国管理局のキャパシティが足りないというのが現実のようだが、外国人の間では少しでも早くビザが取れるにはどうしたらいいのかを同胞同士で情報交換をしているのだろう。

中国人富裕層は経済合理性だけでは動かない

数多くの入管手続きに携わる近藤さんは、高級マンションを購入する外国人、特に中国の人たちの傾向についてこう分析する。

「高級マンションに投資するような中国人は富裕層です。例えば、その購入したマンションを貸して利回りを出すのが目的という経済合理性だけを求めていません。子供に日本の教育を受けさせたい、安全で自由な日本が好きだから住みたいという理由も少なくないのです。それに、日本だけでなく他の国にも分散投資しています。日本での投資は、お金儲けのためだけではないのです」

本国で不動産投資をすることは可能だが、中国ではそもそも土地の「所有権」は個人に認められない。個人が購入することができるのは、「使用権」のみである。たとえ購入したマンションであっても、そこを立ち退けと政府に言われれば立ち退かざるを得ない。

地方の農村から大都市に稼ぎにきても、なかなか都市の戸籍が得られないなど、移動の自由も制限されている。中国国内の現金や土地建物も政策次第で価値を失うかもしれない。一方、日本は思想も言論の自由も憲法で保障されている。だから本国に近く自由を満喫できる日本は、中国の富裕層にとっては、地政学的にも安全な格好の投資先の一つであり、生活しやすい移住先なのである。

「亡命」の果てに

自由を求めて日本にやって来た人もいる。いわゆる新興の富裕層というわけではないが、マンションを複数所有している。移住したというより感覚としては亡命に近い中国人芸術家の劉凌風さん(仮名・69歳)は、反体制派として目をつけられ母国にいづらくなり、来日して作品を発表し続けている。

「制作活動を続けるには資金が必要です。社会保障もない外国人ですから、老後の心配もしなくてはなりません。最初は株式投資をしていたのですが、上がった下がったで、気が散ってしまい制作に支障がでました。そこで、放っておいても安定した収入が得られるので、20年ほど前からマンション投資をしています」

住居兼アトリエのほか、超高級というわけではないが銀座の1LDKマンションを含む23区内に3室の区分マンションがあり、家賃をローンにあてるなどして、着実に資産を増やしてきた。

「日本では言論の自由が制限されつつあるとマスメディアは伝えますが、中国からみれば本当に自由ですよ。仮に政府に対して不満を述べても身柄を拘束されるようなことはないでしょう。その緊張感というかこの感覚は恐怖感というか、日本人にはわからないと思います」

永住権もあるので日本に骨を埋めるつもりだという劉さん。マンションはあくまでも生活の保険のようなものだという。この先も日本に住み続け、いずれは一人娘に相続するつもりだという。

2020年問題は起こりうるが、絶好の買い場でもある

ここで、今後の日本の不動産市況に目を向けてみよう。

東京オリンピックが開催される2020年に、マンションをはじめとする不動産の価格が暴落する、2022年に生産緑地が住宅に転用されさらに需給バランスが崩れるなど、不動産価格の大きな衝撃があるかもしれない。

「おそらくマンションを含めた不動産価格は下がると思います。それは、2020年に物件を売る準備をしている投資家が多いからです」

とあるシンクタンクの不動産アナリストは語る。

なぜ2020年なのかといえば、東京の人口増が止まるのではないかということや、オリンピック開催都市の前例から、開催後の経済の落ち込みがあるというのではという予測があるからだ。2014年頃から始まったマンションバブル時には、本来の適正価格よりも3割は高く販売されていた物件もあった。しかし、物件価格もいつまでも高止まりしているはずはない。

「不動産価格とオリンピックの関係は合理的な考えとはいえないと思います。リオデジャネイロ、バルセロナ、ソウルなどは、東京、日本と比較し、都市の予算、国の予算が違いすぎます。実際、ロンドンでは、オリンピック後に海外からの投資を呼び込み新たなビジネス街が生まれるなど、他の開催地とは異なる動きもありました」

ロンドンの場合、日本のような区分住居に対しての投資は一般的ではなく、開発から行うリートなので、単純な比較はできないが、落ち込むようなことはなく、現在も進化を続けているという。

「2020年に不動産価格が下がるでしょうから、いまは売り場であり、オリンピック後は絶好の買い場であるともいえます。東京の魅力はオリンピック開催によって疲弊するとは考えにくく、オフィスビル、商業施設などにも海外からの投資が見込まれると思います」

中国人富裕層はどっしり構えている

投資コンサルタントの松本さんは、本当にお金に困るようなことがあれば、所有している不動産を売却する可能性はゼロとはいえないという。

「留学中は六本木のクラブで皿洗い、ボーイなどをしながらなんとか大学を出ました。生活が苦しく帰国したくても帰国できませんでした。MBAを取得したのも、とにかく日本で成功したいとの思いでした」

いまのタワーマンションに住むことは自身の成功の証であり、不動産価格が下落したから売るというようなものではないという。研究者の父と医師の母の間に生まれたエリートではあるが、上海の住まいは大学の職員寮で2DKほどの集合住宅。政策が変わり所有することが許されたが、持ち家という感覚にあこがれもあったという。だから住まいにはこだわりがあり、簡単には手放せない。

芸術家の劉さんも、詳しくは語ってもらえなかったが、母国の不動産が知らぬ間に他人の手にわたっていたという過去がある。不動産への執着はそれなりにあるという。

違法民泊における外国人観光客のマナーの悪さは報道でも目にする通りだ。同時に、高級マンションの違法民泊のオーナーには中国人も多いという。そのオーナーの多くは、経営・管理ビザを取得した富裕層だ。

LCCでやってきて民泊で泊まり、挙句は空港で暴れる観光客とは明らかに違う。オリンピックを境に物件価格が下落するかもしれないから売る、という経済合理性では動かないのではないだろうか。

しかし日本の法律では、旅行者でも不動産が購入できる。もしかすると、有名ブランド店で爆買いをしていた人たちの中にも、お金にモノを言わせて高級マンションを購入した人がいるかもしれない。そうした人々には日本に根をおろそうとしている人たちとは異なり、キャピタルゲイン重視派だ。はたして、一斉に売りが出て大暴落はあるのだろうか。

(三星雅人 / 楽待新聞編集部)