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皆さん、金融機関の「貸し渋り」や「貸し剥がし」という言葉を聞いたことがありますでしょうか? 金融機関の動向については常にアンテナを張っていないといけませんが、不動産投資家にとって金融機関の「貸し渋り」や「貸し剥がし」という言葉は好ましくなく、できれば耳にしたくないものです。

この点、貸し渋りとは、金融機関が企業や個人から融資を申し込まれた際に、融資することを渋ることを指します。つまり、融資金額を増やさないこと、融資を断る行為です。

一方、貸し剥がしは、既存の融資を期限前に返済してもらうことを意味します。つまり、融資金額を減らすことを表します。

つまり、「貸し渋り」や「貸し剥がし」によって融資残高を減らし、金融機関が自己の経営安定を最優先する行為ともとれます。自己資本比率を上げ、経営の安定化を図るのです。

時代背景

過去を紐解くと、我が国日本においてはバブルが崩壊した1990年代前半以降、巨額の不良債権を抱えた金融機関が自己資本比率の改善、経営の安定化を図るために貸し渋りや貸し剥がしを積極的に行いました。これによって、資金繰りが悪化した企業の連鎖的な倒産が相次ぐことになりました。

銀行は、金融サービス業の中核として、高い公共性を有し、広く経済・社会に貢献していくという重大な責任を全うする社会的な使命があるはずです。しかし、特に景気が悪くなると、この社会的使命を忘れて自己防衛に走る姿勢は、全く変わっていないといっても過言ではありません。

記憶に新しい、サブプライム問題やリーマンショック等の金融危機や欧州債務危機等の世界的な金融事変の際に、「貸し渋り」「貸し剥がし」問題が惹起しています。

リーマンショック時、僕は不動産鑑定事務所に勤務していましたが、振興の不動産ファンドや不動産会社がリファイナンス(債務の借り換え)できずにバタバタと黒字倒産していくのを目の当たりにしてきました。これも一種の「貸し渋り」や「貸し剥がし」の影響と言えるでしょう。

金融庁では、2002年10月から中小企業など借り手の声を幅広く聞くために「貸し渋り・貸し剥がしに関する情報の電子メール・ファックスによる受付制度」(通称「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」)を設け、金融行政・金融サービスに関する利用者からの声にワンストップで対応する「金融サービス利用者相談室」を設置しています。

貸し渋り・貸し剥がしに関する情報についても「金融サービス利用者相談室」で受け付けているようです。

貸し渋りでの構図

貸し渋りでの構図は以下のようになります。

金融機関>>>融資申込者

お金を貸す前の段階ですから、言うまでもなく、金融機関が圧倒的優位な立場にあるといえます。なぜなら、企業や個人から融資申込があった際、金融機関はその申込を受けて融資可否を決めます。融資不可となった場合に、基本的にはその結論が覆ることはありません。

「これまで良好な付き合いを継続してきたのに何故だ?」「先日はうちに融資したいと言っていたのに手の平を返すとは何事だ」「銀行員のノルマのために色々と協力してきたのに」等、道義的には様々な問題や考え方はありますが、法的には何ら問題がないのが貸し渋りなのです。

要は、貸し渋っている金融機関に理屈をこねて融資申込をしたところで、金融機関が圧倒的優位な立場にあるため、徒労に終わってしまうのがオチなのです。

貸し剥がしでの構図

一方、貸し剥がしでの構図は以下のようになります。

債務者>>>金融機関

貸し渋りの場合とは逆で、お金を貸した後の段階ですから、債務者が優位な立場にあると言えます。優位な立場にあるというのは、「期限の利益」というものに守られているからです。

期限の利益とは、期限が到来するまで、債務を履行しなくてもよい債務者側の利益のことをいいます。

この「期限の利益」という存在によって、金融機関は期限までは債務者に対して返済を求めることが出来ないのです。つまり、貸し剥がしには、法的な強制力がなく、債務者はある意味では強い立場にあるのです。不動産投資家である皆さんは、この点をしっかりと認識しておいてください。

ところが、融資実行時の金銭消費貸借契約書をよく読んでみると「期限の利益の喪失」という項目が必ずあります。ここには「契約書に記載してある約束を一つでも反故にすると債務者の期限の利益は喪失し、金融機関は、強制的に一括返済を求めることができる」ということが書かれています。つまり、期限の利益の喪失項目に一つでも当てはまってしまった債務者は、強制的に貸し剥がされてしまうのです。

この期限の利益を喪失させる事由ですが、金銭消費貸借契約の内容によって差異はあるものの、代表的なものには以下のようなものがあります。

・返済日にお金を返すことができなかった

・契約内容に違反や虚偽があった

・破産手続開始、民事再生手続開始、保全処分、強制執行等があった

このように期限の利益の喪失項目に抵触してしまうと、その時点で強制的に「貸し剥がし」にあっても何の文句も言えないことになるのです。

不動産投資家として注意しなければいけないこと

「返済口座にお金を入れておくのを失念してしまった」「1回ぐらいなら延滞しても大丈夫だろう」と返済について安易に考えている不動産投資家がいますが、大きな間違いです。1度でも1日でも延滞は延滞、期限の利益を失うことになります。

期限の利益を喪失し、金融機関から一括返済を請求された場合、金額にもよりますが破綻に追い込まれる可能性もある訳です。

繰り返しにはなりますが、債務者は期限の利益に守られています。貸し剥がしについては期限の利益を喪失させる事由に該当するようなことをしなければ、金融機関から貸し剥がしにあうことは基本的にないはずです。

不動産投資家の場合は、しっかりと保有不動産を運営し、返済日を遵守さえしていれば、貸し剥がしにあうことはありません。周囲の不動産投資家を見渡しても、(僕を含めて)貸し渋りにはよく遭遇していますが、貸し剥がしにあったという話は聞いたことがありません。

○参考:金融庁 – 貸し渋り・貸し剥がしに関する情報の受付http://www.fsa.go.jp/receipt/hotline/index.html