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猫専用賃貸について全国のオーナーさんからご相談頂きますが、ここ数カ月、立て続けに同じ質問を受けました。それがこちら。

「猫専用シェアハウスを作りたいのですが、どうすれば良いですか?」

私は猫専用シェアハウスは好きではありません。今回は、その理由をご説明します。

ダメな理由その1:猫が快適ではないから

まず第一にダメだと思う理由、それはシェアハウスという形態が猫にとって、必ずしも快適な環境であると言えないと思うからです。猫は犬と違い、一般的に「社会性に乏しい生き物」。

初対面でも仲良く一緒に遊ぶことができる犬と違い、猫は初対面だと大抵、喧嘩をします。特に発情期の若い野良猫オス同士の喧嘩は時に壮絶で、相手を瀕死の状態に追いやるまで攻撃することも。

もし猫専用のシェアハウスを作り、このような特性を持った猫を、共同スペースや自室に自由に出入りできる環境を作ったら、どうなるでしょう。複数の猫が顔を合わせる機会が大幅に増えるため、各所で喧嘩が勃発するはずです。

猫は環境適応能力があるので、時間と共にある程度はその環境に慣れてきます。しかし、たとえ慣れたとしても、入れ替わり立ち替わり違う人間や猫が出入りする環境は、猫にとってストレスになることは間違いありません。

ダメな理由その2:猫の糞尿問題

私が運営、監修する猫専用賃貸は、全て「猫を完全室内飼いにする」ことを前提に設計しています。完全室内飼いにすると言うことは、猫の糞尿は室内で行うということです。猫トイレは飼っている頭数+1の数が必要だと言われていますので、2匹の猫を飼っていたら猫トイレは3つ用意する必要があります。

例えば5室のシェアハウスだったとして、1人あたり2匹の猫を飼っていたとしたら、そのシェアハウスには猫が10匹同居することになります。完全室内飼いを条件にしている場合(そう願いたい)、トイレの数だけでも15個は必要という計算になります。

シェアハウスのそれぞれの自室に3つも猫トイレを置くスペースを確保できるのでしょうか?「それができないからシェアハウスなんじゃないの!」と言われるのであれば、共有スペースに15個のトイレを置く必要があるということになってしまいます。

勿論、私もこれは無理なことは承知しています。では現実的に、自室に1つ、共有スペースに5つ程度の猫トイレを設置したとしましょう。そうすると、きっとこういう問題が発生します。

複数の猫が同一空間にいると、ヒエラルキーを形成します。頂点に君臨するであろう若く勇ましいオス猫は、縄張りや自身の強さを誇示するため、各所へオシッコやウンチをして廻ります。この行動はマーキングと言われ、野良猫社会では一般的な行動です。

ボス猫は、共有スペースのトイレは勿論、各部屋へ自由に出入りし、部屋に設置されたトイレにマーキングして廻ります。半野良のように外に出せる環境で、外で糞尿が出来るならまだストレスも緩和されるでしょうが、シェアハウスに住む猫たちは、外に出られないため、どこかで糞尿をしなければならないのです。快適なトイレで排泄ができない環境は、猫にとって大きなストレスとなり、ひいては粗相をする原因になります。

してはいけない場所、例えば他の人の部屋のベッドの上、共有スペースのキッチン、お風呂などで排泄をするようになってしまうと、片付けや猫の躾を巡って人間関係にもヒビが入りそうです。

「ITリテラシー」という言葉があります。ネットワークを利用し、目的に即した活用ができる能力を指す言葉ですが、これになぞらえ、猫に慣れている、猫の特性・習性を熟知して飼っている人のことを「猫リテラシーが高い人」と呼んでいます。猫リテラシーが高い方々は、上記の「ダメな理由その1&2」を熟知しています。そういう方が、わざわざ「ダメだ」と思っているシェアハウスへ入居することを望むでしょうか?

逆の見方をすると、猫専用シェアハウスへ好んで入居される方は、猫リテラシーの低い方である可能性が高くなると考えます。但し、猫リテラシーの高い方で「ウチの猫は社交的で、他の猫とも上手くやれる」と確信している場合、好んでシェアハウスに入居することもあるでしょう。でも、これはとてもレアケースだと思うのです。わざわざレア中のレアを狙いにシェアハウスを作らなくても…と私は考えてしまいます。

猫専用シェアハウスは難易度が高い

猫リテラシーの低い人でも、猫との時間が増えるにつれ自ずと猫リテラシーが高まります。猫専用シェアハウスに住んでいて「あれ? ウチの子、最近元気ないな」とか、あからさまに他の猫と仲が悪かったりすると、早々に退去を決めるケースも多くなると思うのです。そういう事態に陥った場合、シェアハウス運営側としては痛手ですよね。

もし検討されるのであれば、いま一度「そのシェアハウスは、誰の何を解決するのか?」を熟考し、マーケティングリサーチを行い、需要があるかどうかを確認されることをお勧めします。