今回は「今は『売り時』なのか?」というテーマについて考えてみます。
3月下旬、平成30年の公示地価が発表されました。これによると、全国的に広くゆるやかな地価の回復傾向が明らかとなり、特に地方圏では商業地の平均が平成4年以来26年ぶりに上昇。住宅地を含めた全用途の平均でも、26年ぶりに下落を脱して横ばいに転じた、とのことです。
この発表から分かることは、日本は平成バブルの崩壊以降、長い長い下落を経て、やっと回復傾向がみられたということです。あくまでも「ゆるやかな」、しかも上昇ではなく「回復」です。
下の「全国地価公示価格推移」を見ると、全用途で平成3年をピークに26年間下落し続けていたのが、ここに来てやっと横ばいに転じた、というのが分かります。全国の地価を長期間で見ると、まだまだ「上昇に転じた」とは言えない状況なのです。
ただし、これが投資物件に限ると、また違う様相が見えてきます。以下は日本不動産研究所が出している「投資家調査」です。
直近の第37回投資家調査(2017年10月現在)では、オフィスやビジネスホテルをはじめすべてのタイプで期待利回りが下落しました。調査が始まって以来過去最低の水準まで下がっているのが分かります。
利回りが下がるということは、価格が上昇しているということです。アベノミクスが始まった2013年4月から、2017年10月の調査結果まで下げ続けています。
ここから分かることは、
・全国的に地価は上昇または回復している
・投資不動産に関しては価格が5年以上、上昇し続けている
ということです。
不動産市場のサイクルは?
ここで、過去の地価バブルとバブル崩壊について見ていきたいと思います。
平成バブル 1986(昭和61)~1991(平成3)年
↓
バブル崩壊 2003(平成15)年が底
↓
投資バブル 2005(平成17)年
↓
リーマンショック 2008(平成20)年
↓
アベノミクス発生 2012(平成24)年12月
↓
現在に至る
不動産市場は7~10年サイクルと言われていますが、上の図と照らし合わせると少し誤差があるようにも感じます。
平成バブルが始まってから終わるまで5年間(プラザ合意で始まり、総量規制で終わる)、次の投資バブルが始まるまで13年間ほど間がありました。この間、日本でもREITが始まり大きなビルの売買が盛んになったことと、不良債権の売却が進み、負の資産に片が付きました。
そして、2005年に投資バブルが始まりました。当時の状況は今とよく似ていますが、2008年にリーマンショックが起き、3年でバブルははじけました。そして5年後、アベノミクスが発生し、現在(6年目)に至っています。
価格上昇は今後も続くか
平成バブルは総量規制で終わり、投資バブルはリーマンショックで終わりました。今回のバブルは6年目で、期間としては長い方です。その原因としては「低金利と金融緩和」「インバウンド効果」「オリンピックへの期待」などが複雑に絡み合い、投資意欲が旺盛だからだと思います。この価格上昇は、「インバウンド効果」「オリンピックへの期待」を考えると、まだ続くことも予想されます。
ただ、ここにきて不安要素もあります。融資が引き締まってきたことです。一昨年、金融庁のレポートが出たことにより少しずつ融資環境は悪くなっていましたが、かぼちゃの馬車の一件で金融庁がスルガ銀行に立ち入り調査に入ったことで、今まで投資家に積極的に貸し出してきた銀行も融資条件がさらに厳しくなることが考えられます。
ただし、不動産投資市場に参入しているプレーヤーは個人の投資家だけではありません。上記に述べた機関投資家のほか、相続税対策を目的とした富裕層や外国人投資家などがいて、その数の方が圧倒的に多いのです。
実際に、融資が付きづらく頭金が必要になってきていることから、個人投資家向きのアパート等は売却しづらくなり、値段が下がってきているのです。しかし、ビルや相続対策用の規模の大きな不動産の価格は下げていません。
以上のことから今後の不動産市況を予測すると、ひとつの区切りはやはり2020年開催のオリンピック前後ではないかと思います。ただ、この時期にみんなが注目しているため、まだまだ延びる可能性もあります。
では、今年新規に参入する人はどんな物件を買えばいいのでしょうか?
初心者が買うべき物件のキーワードを挙げると、
1.総額が小さいこと
2.返済比率は50%以内であること
3.良く知っている地域であること
となります。何れもリスクを回避する買い方です。投資初心者は普通はリスク許容度が低いはずです。中には不動産投資のリスクそのものを良く分からずに買ってしまう方もいますが、きちんと勉強した方であればあるほど、怖くて買えなくなります。
たとえ物件選びに失敗したとしても、総額が少なく返済比率が50%以内であれば打撃は小さく、時間をかけての立ち直りが十分に可能です。小さな物件でしっかりと経験を積み、次のチャンスを狙うのがいいと思います。返済比率は利回りが高いものを探すか、頭金を入れるか、融資期間と金利等で調整するか、もしくはそれらを組み合わせることで50%以内にします。
不動産市場の崩壊の時期について書きましたが、本当は、どんな状況になろうとそれに耐えうる不動産を買えばいいだけのことなのです。市況が悪ければ売らないで持っていればいいのです。大暴落が来ようと、賃料収入がきちんと入っていれば全く恐れることはありません。
結局、今は「売り時」なのか?
そして最後になりましたが、今まで述べてきたことから、今が売り時かどうかを検証したいと思います。
今後訪れる価格下落要因としては、
・2020年オリンピック
・2022年生産緑地問題
が考えられます。
通常であれば売却時期としてはオリンピック前あたりか? と予測したくなります。実際私も以前のコラムでは、「景気も株も為替もそして不動産も、循環サイクルがあります。ずっと上がり続ける景気や相場はないのです。そのきっかけとなるのが2020年の東京オリンピックかもしれません」と書きました。
でも、いろいろなところで、いろいろな方が「オリンピック前後に不動産は下がるから、下がってから買おう」という発言をされています。その発言を聞くたびに、「実際はそれほど下がらないのではないか?」「もし下がるとしても、もっとずっと後ではないか?」「みんなが忘れて油断した時に、暴落は突然やってくる」と思うようになりました。
過去にも、東京オフィス市場の「2003年問題」というのがありました。景気が低迷していた当時、大型のオフィスビル建築がこれまでにない規模で集中するため、需給バランスが崩れ、大空室時代が来るのではないか? と騒がれましたが、ふたを開けると何事もなく過ぎました。あまり騒がれすぎると、意外と何事もなく通り過ぎるものなのかもしれません。
だからと言って、今に比べて今後さらに不動産市場が良くなるとは思えません。やや厳しくなった融資状況から考えると、今利益が出ている人はいったん売って現金に換えるのもいいと思います。そして、次に来るかもしれない暴落の時に備え、資金を蓄えておくと上手く市場のサイクルに乗ることができるのではないでしょうか。
次に来る暴落、と書きましたが、いま日本の不動産市場は世界の経済状況に左右されています。以前に比べて、世界はより緊密になっているということです。次に来る暴落は過去のリーマンショックの時のように、日本そのものというよりも世界からやってくる可能性が高いと思います。アメリカの金利動向、中国情勢、さらにイスラム圏の紛争等に注目しつつ、投資家は世界情勢についてもより深く知る必要があるのです。
浅井佐知子の予測
暴落はオリンピック前後にはやってこない(以前の予測はやや修正)。オリンピックが終わった数年後、みんなが油断した時に、海外の思いもよらぬことが原因で突然やってくる。当たらなかったらごめんなさい!(笑)
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