お金を残す不動産投資コラム。今回は、僕がこれまで不動産投資専門の税理士として活動してきた中で見聞きした、「これはアウト!」な事例をご紹介します。
雑費を「だいたい」で計上!?
税理士には最低年に1回、確定申告時期に無料相談会で相談業務をするというお仕事があります。ここに相談に来る方々は、顧問税理士を付けず自分で確定申告をしている人ばかり。そしてその中には、小規模な不動産を運営している人もいらっしゃいます。
ご存知のように、サラリーマンなど給与を得ている人が不動産を運営した結果、不動産所得がマイナスになれば、給与所得と合算(損益通算)でき、それに応じて所得税が還付されます。
ある日、この無料相談会でビックリする事例に出会いました。ある相談者が「雑費」の科目に、20万円と記載されていたので、「この金額は何の経費ですか?」と尋ねると、「概算でだいたいこれぐらい掛かっているかな? と思いまして」と回答をされたのです。
実は昔は業種ごとに適正な経費率が定められていて、収入に対してその経費率を掛けて申告をすることができました。でも現在は、必要経費として認められるのは次の2つです。
1.総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
2.その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
したがって、概算で「これぐらいかな?」と経費を計上してはいけないんですね。経費にするためにはまず領収書を、領収書がない場合にはメモや清算書など、しっかりと根拠のある証拠に基づいて計上する必要があります。
この時はしっかりと指導させていただきましたが、皆さんも何かを聞かれても根拠を示せるように、日頃から気を付けてくださいね。
こちらは2013年に有罪判決が出た事例です。経営コンサルタント会社「グローバルワークス」の社長、本多弘樹被告が、顧客49人に架空の副業で赤字が出たと偽りの確定申告をさせて、所得税を不正還付させていました。
手口の一例としては、持ってもいないマンションの一室を「自宅から賃貸にした」などの理由で不動産運営を始めた形にします。そして、減価償却費や金利、保険料や管理費などを架空計上することによって、赤字を発生させるのです。
家賃収入が年間120万円、経費の合計が300万円だとすると、差し引き180万円の赤字になります。
家賃収入120万円-経費合計300万円=▲180万円
これを所得税率20%の人が給与所得と損益通算すれば、36万円の所得税が還付されるわけです。
▲180万円×所得税率20%=還付額36万円
このような手口で脱税を指南し、顧客に合計で約2531万円の所得税を脱税させたのです。
この事件は、税理士資格がないのに顧客の税務相談を受けたり、顧客に代わって確定申告書を作成したりするなど、本多被告の税理士法違反行為が招いたものですが、顧客の税に対する無知も原因だと思います。
この記事をお読みの不動産投資家、大家さんの皆さんに気を付けてもらいたいことは、次の2つです。
1.投資と節税は相反することを肝に銘じること
2.税理士資格を持っていない人の、税金の話を鵜呑みにしないこと
誰しも、税金はできる限り少なくしたいものですが、しっかりとした知識を持って、適切な節税をしなければ後で痛い目に遭うことになりますので、十分気を付けてくださいね。
「かきあげ」で嘘を重ねる!?
最近は少なくなったようですが、ちょっと前までは、物件を購入するときに「かきあげ」という手口を使う人がいました。楽待新聞の企画でも以前取り上げられていましたね。
これは、売買契約書を1つは実際の取引用に、1つは銀行用にと、2種類作って融資を受ける手口です。例えば、フルローンで物件を購入予定だとして、実際の取引金額は1億円だとしましょう。このとき、銀行用には1億1000万円の契約書を用意し、それを銀行に提出すれば、1000万円余分に融資を受けることができるというわけです。
余分な1000万円は諸費用などに使うことで、自己資金を使わずに物件を購入できるため、やる人が結構いたんですね。
これは、銀行を欺く行為で法律的にも問題があるわけですが、税務申告的にも問題が出てきます。当然、融資をした銀行は毎年の確定申告書を見るわけですが、その確定申告書には、実際の取引金額を計上しなければ、逆に税務署に対して脱税となってしまいます。それを回避して、銀行用に申告書を作れば、それはそれで、また銀行を欺くことになります。
どちらにしても、1つ嘘をつくと、それを隠すためにずーっと嘘を重ねていかなければならないわけです。そうなると心理的にも大変ですので、この記事をお読みの皆さんは、まっとうな不動産賃貸業で、利益を出すように心がけてくださいね。
不動産投資専門税理士の叶温先生に、執筆いただきたいコラムテーマを募集します。 「○○といった税金の情報を教えてほしい」 「○○といったときはどうしたら節税になるのか」 など、記事下のコメント欄にぜひ投稿してください。
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