「不動産投資」、そう聞いて皆さんが思い浮かべるのは何でしょう? アパートやマンションを購入して家賃収入を得たり、不動産を転売して得られる売却益を狙ったりするというのが一般的な概念ではないでしょうか。そんな典型的な不動産投資とは一線を画す不動産活用法をご紹介しましょう。

右肩上がりに増加を続けてきた日本の人口は、2010年、遂に減少に転じました。その後も減少傾向が続く日本の人口は、2060年には8674万人、ピーク時の人口の約3分の2にまで減少する(国立社会保障・人口問題研究所による推計による)という予測が出されています。

人口減少に伴って空き家の数が増加していることは、皆さんもご存知の通り。そんな中、遊休不動産を活用したまちづくり事業が日本全国で盛んに行われています。新しいものを作るのではなく、既存の建物を再利用する。820万戸もの空き家を要する日本においては、今後そのような考え方が主流になっていくことでしょう。

そしてひょんなことから、私もそうしたまちづくり事業に関わることになり、先日(4月28日)、かねてから事業化を目指していた「キッチンスタジオ」(料理教室)のオープンを無事に迎えることができました。では、なぜまちづくりにキッチンスタジオなのでしょうか?

舞台は埼玉県草加市

東京のベッドタウンとして今も人口が増え続ける埼玉県草加市。草加せんべいは全国区の知名度を誇るものの、それ以外に草加の特徴を思い浮かべるのは難しくないですか? そうなんです。草加の特徴はベッドタウンであること。人口は約25万人と過疎に悩んでいるわけではありません。私たちに課せられた使命、それは「寝に帰るだけのまち」からの脱却を図るべく中心市街地の活性化に取り組むことでした。

かつて日光街道の宿場町として栄えた草加宿ですが、その面影を残す旧街道沿いの商店街は衰退の一途をたどっています。中心市街地の空洞化は多くの自治体が頭を抱えている問題ではありますが、東京と隣接する草加市でもそのような問題が起こっていたとは、正直意外でした。

原因はいくつかあるものの、駅前にそびえる大型店2店にお客を奪われたことと、お隣の越谷市に完成したイオンレイクタウンへの市民の流出が主な原因だと考えられます。

さびれた商店街にもう一度賑わいを取り戻す! そんな目標を掲げる草加市が民間との連携に踏み切ったのが2016年のこと。遊休不動産を再生し、地域活性化に資する事業の立ち上げを目指す「リノベーションスクール@そうか」なるワークショップを、5年に渡って開催することに。私はその第2回目の受講生として参加し、それがそもそもの始まりとなりました。

仲間との出会いは2017年秋のワークショップ

第1回目の参加者が提案した案件が続々と事業化または事業化を前提に動き出していることが分かり、担当部署や事業化に向けて動いているグループのフェイスブックページをチェックするようになりました。

自分が物件を所有しコインランドリーも展開する草加市がおもしろいことになってるぞ! そんな思いで「いいね!」をしているうちに、それが担当者の目に留まったのでしょう。第2回目のワークショップへの参加依頼をいただきました。

ワークショップの開催は9月下旬。どんな物件を担当するか、どのような人たちと3日間を共にするのかなど、その日を迎えるまで分かりません。そして迎えたワークショップ初日、担当物件とグループ分けが発表されました。

私たちが担当する物件は、築52年、4.5帖+キッチンという間取り4世帯を擁する木造の賃貸アパート。オーナーさんの話によると、このアパートは解体寸前だったとのこと。これをどのような形で再生し収益を上げていくか、メンバー8人が3日間ほぼ徹夜で知恵を絞り、オーナーさんへの事業提案まで持っていきます。

建築家、公務員、学生、デザイナーなど、メンバーのバックグラウンドはさまざま。固定観念に捕らわれない料理教室という業態を実現できたのは、メンバーの個性があってこそだと思います。

これが私たちに任せられたアパートです。青く塗られたトタン張りの外観から「アオイエ」と名付けられました

こんな物件、一体どうやったら再生できるのか? 多くの人はそう思うことでしょう。私たちもそうでした。しかし、ここでチームとしての総合力が発揮されます。チームだと、ものごとをさまざまな側面から捉えることができるようになります。

方向性が定まったら、多様な意見をもとにアイデアをブラッシュアップすることさえも可能。つまり、チームが持つポテンシャルによっては、1+1=2ではなく3にも4にもなる可能性を秘めているんだなぁと、改めて感じることができました。

紆余曲折を経てたどり着いたアイデア、それがベッドタウンパパをターゲットとした「メンズキッチン」でした。寝に帰って来るだけの草加のパパ。そんなパパたちをまちに連れ出したい。

パパと地元コミュニティの懸け橋になることはできないか。コミュニケーションを図るには共同作業的な要素を含む「料理」が最適と考え、メンズキッチンというアイデアが誕生しました。収支や広告宣伝効果のことも考え、最終的には女性も対象としたキッチンスタジオとすることで事業化を検討することになりました。

このキッチンスタジオが目指すもの。ひとことで言うと、それは「地域交流の場」です。一緒に料理を作ることで参加者同士がコミュニケーションを図ることができる、これは先述のとおりです。そして、老若男女あらゆる客層を対象としたコンテンツを提供することで、世代間交流・異文化交流も生まれるようになるでしょう。

人との関係が希薄になりつつも、つながりを求めている人は意外と多い。まちの人と話をしているうちにそんなことも分かってきました。気軽に立ち寄れる交流の場を中心市街地に設けて魅力的なイベントやコンテンツを提供すれば、市外に流出していた草加市民を街中に呼び戻すことはできないか、そう考えたわけです。

こうした目新しい取り組みは、人々の関心を引くものです。その取り組みが口コミで広がれば、さらに多くの人が関心を寄せ訪れるようになるでしょう。地域に人が増えればその地域にお店を出したいと考える人が現れます。こうして点が線を成すようになります。

線ができてしまえば、その線上に人の流れが生まれます。そして1ブロック隣の通りまで足を延ばす人も増え、やがてはそこに出店を希望する人も現れるでしょう。そのようにして線が面になれば、そのエリアを目指してやって来る人の数は自然と増えていくものです。

旧街道沿いに「線」を形成しつつある草加市。今回のキッチンスタジオのほかにバルもオープンし、今後は洋食店やカフェなどのオープンが控えています。今後の展開から目が離せません。

メンバーで120万円を出資して株式会社aoieを設立。日本政策金融公庫からは600万円を借り入れました。さらに、オーナーさんからは解体費用に充てる予定だった100万円を寄付していただくことになり、820万円の資金を調達することができました。それに対して開業に向けての初期費用は650万円ほど。その内訳は次のとおりです。

・会社設立費用:25万円

・改築費用:400万円

・設備費用:200万円

・広告宣伝費:30万円

開業直後の売上高と月当たりのランニングコスト(いずれも見込み)は次のとおり。開業当初34万円/月と見込んでいる売上高を、1年後に63万円/月まで伸ばすことが目標となります。

・売上高:34万円 → 63万円(1年後)

・人件費:10万円 → 24万円(1年後)

・材料費:6万5000円 → 12万円(1年後)

・水道光熱費:3万円

・通信費:7000円

・消耗品費:2万円

・旅費交通費:2万円

・広告宣伝費:2万円

・家賃:3万円

・地代(隣の緑地):1万円

・返済:7万3000円

・その他:1万円

計画通りに売上が伸びれば、開業5年で投下資金を回収できる計算になりますが、それも今後の努力次第と言えるでしょう。

目指すのはまちづくり

最後に、生まれ変わった木造アパートをご覧いただきましょう。

第1号案件は、奇しくもコンセプト料理教室という珍しい業態となりましたが、遊休不動産を開発してまちづくりにつなげていくというのが、我々が本来目指すべきものです。

次に我々がどのような物件を手掛けるのか、その物件がどのような形で再生され町に寄与するか、どうぞお楽しみに。

○キッチンスタジオ アオイエ
https://www.aoie.jp/