他人の言うことを鵜呑みにしてはいけない―。不動産投資の「鉄則」だ。それでもなお、人に勧められるがままに物件を購入し、思うように収益が上がらず苦しむ人は後を絶たない。

以前、楽待新聞では「新築ワンルームに人生を狂わされた男たち」と題し、区分マンション投資で失敗した3人の投資家を取材した。取材を通じて分かったのは、常識のあるごく普通のサラリーマンでもこうした事態に陥る可能性があるということだ。

一体なぜ、彼らは他人に言われるがままに事を進めてしまったのか。その答えを知るには、実際に営業を受けてみることが最も手っ取り早い。

そこで編集部では、投資用マンション営業の現場に潜入取材を敢行。どのようなトークで近づいてくるのか? 物件はどのようなものなのか? シミュレーションは妥当なのだろうか? を検証した。今回はその様子を前後編2回に渡ってお届けする。

目印は「バインダー」

潜入調査を行うには、まず営業マンに接触しなければならない。SNS等で情報収集をしたところ、どうやら彼らはJR新橋駅前の「SL広場」に頻繁に出没するらしい。ある平日の午後6時、さっそく現地に足を運んでみることにした。

そう簡単に出会えるのか―。不安とは裏腹に、彼らはすぐに見つかった。仕事帰りや待ち合わせ中のビジネスマンでごった返す中、大きな「バインダー」を持って周囲を見渡すスーツ姿の男性数名が目に付いたからだ。

近寄ってみると、バインダーには何やらアンケート用紙のようなものが挟まれている。前をゆっくり移動してみると目が合い、笑顔でこちらに近づいてきた。

営業マンの第一声は「保険に関する意識調査に協力してほしい」というもの。しかしその後、すぐに投資用マンションの営業マンであることが判明する。

 
 

渡された名刺によると、この営業マンは首都圏にある不動産会社A社の社員のようだ。20代前半とおぼしき若い男性で、グレーのスーツに鮮やかな赤のネクタイという出で立ち。「いかにも」という風貌であったが、物腰は柔らかく態度も慇懃、それでいて時折人懐っこい笑顔を見せ、悪い印象はない。

路上で話すこと約30分、最後には「次回、もう少し詳しい話を聞いて欲しい」と切り出す営業マン。まだ業界経験が浅く込み入った話はできないため、後日、上司同席の元で改めて不動産投資の魅力をプレゼンしたい、ということのようだ。その場でLINEを交換し、その日は別れた。

男と別れてから数分後、メッセージが届く。内容はその日のお礼と、次回打ち合わせ日時の調整について。最後には「雨が強くなるので気をつけるように」との気遣いも忘れない。

A社の営業マンとのやりとり。スタンプや絵文字などは使わず、終始丁寧な口調であった

上司が登場「お客様を幸せにしたい」

翌日、LINEでのやりとりを数回経て、打ち合わせの日取りが決まった。先方が打ち合わせ場所に指定したのは某ファミリーレストランだ。

当日、指定時刻に現地へ行くと、先日声を掛けてきた若い営業マンとその上司だという男性がすでに待っていた。上司の男性は端正な顔立ちで、見るからに仕立ての良さそうなスーツに身を包んでいる。

まずは簡単な互いの自己紹介から始まる。笑顔を絶やさず、まっすぐにこちらの目を見て話し、大きく頷いて相づちを打つ姿が印象的だった。

早速打ち合わせが始まる。てっきり物件のパンフレットを広げて契約を迫ってくるものかと思いきや、マンション投資とは一見縁遠い保険、年金、老後の資金などについての講釈が2時間以上も続く。

途中、扱っているのが新築のワンルームマンションであること、毎月手出しが生じることは明かしたものの、物件についての情報は出してこない。「目の前のお客様を幸せにしたい、それが私のミッションだ」という旨のトークを繰り返す。

あえての「遠回り」

約2時間×3回に渡ったA社との打ち合わせだが、結局、利回りや詳細なシミュレーションなどは提示されないままだった。

A社営業マンによると、「詳しい数字については次回(4回目)の打ち合わせで話す。そこでゴーサイン(契約)を出してほしい」とのこと。急がば回れ、とばかりにあえて遠回りして信頼関係を築いたうえで最後の最後に数字を出し、考える時間を与えずそのまま契約に持ち込む、という計画だったのかもしれない。

3日間の「遠回り」の過程で営業マンが話題に挙げたのは以下の3つのテーマである。

1.不動産投資は保険の代わりになる
営業マンによると、物件を購入すると毎月約1万2千円の手出しが発生するという。営業マンの言い分は「保険料だと思えば安い」というもの。団信に加入すれば万が一の際に残債は免除されるし、掛け捨ての保険とは違い区分マンションという資産が残るのだから保険よりも優れているという。

2.不動産投資は年金対策になる
昨今の年金不安を話題に挙げ、「備えとして不動産投資が有効だ」という。老後、1年間に必要となる生活費を「厚労省のデータ」として具体的に挙げ、年金ではとても足りないと説く。その不足分を、不動産投資でまかなうことを勧めてきた。

3.不動産投資は節税になる
不動産投資で減価償却などによるマイナスを計上することで、「損益通算」で大きな節税効果が見込めるという。節税効果により、毎月の手出しが帳消しになり、終始としてはプラスに転じるとも話した。

それぞれについて、上司の男性は終始、流れるようなトークを展開していた。これまでかなりの場数を踏んできたか、あるいは相当な練習を積んだのだろう。仮に営業マンの主張におかしな点があったとしても、十分な勉強や経験を積んでいなければその場で指摘することは難しいかもしれない。

上記のトークに使用したメモ書きは複数枚に渡った。「勉強したいのでメモをくれないか。難しければ写真を撮らせてくれないか」と尋ねたところ「コンプライアンス上の問題」としていずれも拒否されてしまった。

その後、何度か4回目の打ち合わせを催促するメッセージが留守電に残されていたが、応じずにいると、数週間が過ぎるた頃には連絡はパッタリ途絶えた。LINEへの連絡も1度のみで、その口調は最後まで丁寧なままであった。「脈ナシ」と見て早々に諦めたようだ。

A社の場合、とにかく顧客との間に信頼関係を築くことに力を入れていた印象が強い。実際、営業マンも打ち合わせの最後には「数字よりも信頼関係が重要」と豪語していた。しかし、これはすべての業者に共通の手法ではない。

実は楽待編集部はA社とは別に、もう一つB社からも平行して営業を受けていたのだが、B社のアプローチはA社とはまったく異なるものだった。

次回、そのB社との打ち合わせの様子をレポートする。また記事後半では、投資用マンションの元営業マンによる匿名インタビューも収録。合わせてご覧頂きたい。

(楽待新聞編集部)