前回の記事では、新橋の路上から始まった投資用マンション営業の実態をレポートした。潜入取材で見えてきたのは、彼らの意外な営業手法。物件の詳細には触れず、年金や保険、節税などの話題に多くの時間を費やし、あえて遠回りをすることで信頼を積み上げるという作戦であった。

一方、中にはよりストレートな方法で購入を迫ってくる業者もいる。今回は、前回とは別の不動産会社の営業現場に潜入、その手法をレポートする。さらに編集部では、元投資用マンションの営業マンにコンタクトを取り、インタビューに成功。浮かび上がってきたのは、経験者にしか分からない投資用マンション営業の過酷な現場であった。

「早い者勝ち」で即決迫る

今回潜入取材を行ったのは、首都圏の某市に事務所を構える不動産会社B社。最初の接触は前回のA社と同様、新橋のSL広場である。バインダーを持った若い女性が「保険に関するアンケート」の名目で声を掛けてきた。

その後、上司立ち会いのもと打ち合わせを行うことに。先方が指定した場所は奇しくもA社と同じファミリーレストランだった。

待ち合わせ場所に現れたB社の営業マンは、恰幅のよい中年の男性。見た目はごく普通のサラリーマンという印象である。A社のようにメモを使った「講義」のようなものはなく、軽い世間話を終えるとすぐに本題へと進んだ。前回取材したA社の場合、具体的な収支のシミュレーションは最後まで提示されなかったが、その点、B社の営業スタンスは対照的だ。

B社の場合、A社に比べ比較的ガードは緩く、事前に収支シミュレーションを入手することができた。物件は首都圏某市にある新築ワンルームマンション。価格は約3400万円で、最寄り駅からは徒歩約7分だ。営業マンによると、かなりの人気物件ですぐに売れてしまったが、この日、編集部との打ち合わせの直前に「たまたま」一番手の融資に否決が出たのだという。以下、動画にてB社による営業トークをご覧頂こう。


 

検証:シミュレーションの内容は本当か?

入手したシミュレーションシートをよく見てみると、数字に曖昧な点がかなり多いことに気がつく。動画では細かな点まで触れていないので、ここで改めて1つずつ検証してみよう。

検証1:そもそもこの物件の収益性はどうなのか?

まずB社が提示してきた物件の収益性について見てみよう。

B社が示した資料には想定される利回りの記載はなかったが、資料によると物件価格は約3400万円。月額賃料は約11万円という想定のため、表面利回りは約3.9%ということになる。

まずはこの数字をもとに、楽待のCFシミュレーション機能を使用して収益性を検証してみた。

楽待のCFシミュレーションの結果。中央のグレーの直線がゼロを示す。ピンク色の線はCF、緑色の線は年間家賃収入、紫色の棒は累計のCFを表している。紫色の棒が中央から下方に向けて伸びており、累計CFのマイナスが年を追うごとに増えている。 ※クリックで拡大できます

営業マン側も打ち合わせの中で「月に1万円程度の持ち出しがある」と説明してはいるものの、その持ち出しが毎年積み重なり、ローンを完済できる35年後には、その後に得られる賃料収入では賄えないほどのマイナスとなることが見て取れる。

続いて、提示された資料の数字をさらに細かく見ていこう。

検証2:「税金還付」の落とし穴

B社は打ち合わせの中で「物件を購入することで税金が還付され節税になる」と説明していた。実際、「住民税の節税分と所得税の還付金」という名目で、年間30万円程度が節税できるというシミュレーションも示してきた。ただし、渡されたシミュレーションは以下のようにかなり大雑把なもので、その数字の根拠が分からない。

B社の営業マンが示してきたシミュレーションの一部(物件購入1年目の収支)

上記のシミュレーションでは、「税金還付金」(所得税)として約18万円、住民税節税分として約30万円、合計で約48万円の節税効果を謳っている。編集部ではこの金額の根拠を探るべく、物件概要をもとに細かな試算を行った。

編集部が作成したシミュレーション表の一部(物件購入1~3年目)

まず月額の賃料収入約11万円は、周辺にある条件の近い物件の賃料と大差はなかったためそのままとした。経費としては、管理費や保険料、固定資産税、修繕積立金を計上、また、減価償却費も実情に合うように計算してみた。すると、1年目からCFは約16万円のマイナスになるにもかかわらず、帳簿上は不動産所得として3万円以上のプラスになってしまった。いわゆる「デットクロス」の状態だ。

所得税の還付を受けるには、この物件に関する所得がマイナスにならなくてはならない。つまり、試算によると業者側が謳うような「所得税の還付」「住民税の節税」という結果は得られないのである。

検証3:「減価償却費」のトリック

動画でも説明した「減価償却費」について、ここでもう少し詳しく触れておこう。まずは業者側が「減価償却費」を説明するために提示してきた以下の資料を見てほしい。

そもそも今回の物件の販売価格は3400万円。このうち減価償却の対象となるのは「建物」のみで、その価格はB社によると約1800万円。そのうち、建物の躯体と設備は耐用年数が異なるため、分けて計上されている。それぞれ耐用年数は47年と15年。ここまでは問題ない。

だが資料には、「躯体」として1800万円、「設備価格」として900万円が記載されていた。本来なら設備価格は建物価格1800万円の中に含まれているはずなので、躯体価格+設備価格=建物価格でなければならない。つまり、ここで示された「設備価格900万円」は完全に上乗せされたかっこうなのだ。そして、それぞれの減価償却費を計算しているため、この900万円の設備価格の分、多く減価償却が取れるという構図だ。

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