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元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな建物は「鉄骨鉄筋コンクリート造」です。

これまで多くの不動産投資家の方にお会いしてきましたが、だいたい30人に1人は税務調査に遭ったことがあるようです。ただし、不動産収入で税務調査に遭ったことがある方を見つけるのは難しいようにも感じます。たまたま調査が行われていないのか、はたまた、不動産収入には調査が入りづらいのか…。

脱サラ後に税務調査を受けた投資家Aさんの話

さて、ここで一つ、不動産投資家Aさんの事例をご紹介します。

Aさんは会社員をしながら不動産投資を始め、少しずつ利益を増やしていたそうです。不動産所得が会社からの給与所得と並んだ頃、会社を辞めて専業大家になりました。

その後、個人事業者として不動産投資を行っていましたが、売上も増え、また借入のこともあり、法人を設立することにしました。税務調査の連絡があったのは、法人設立から3期目の法人税の確定申告を終え、半年ほど経ってからのことだったそうです。

Aさんの話

本店所在地を自宅にしていたので、調査も自宅で行うことになりました。まずは1時間ほど、調査官と世間話をしました。元々勤務していた会社での業務や不動産投資を初めたきっかけ、家族構成、不動産投資家同士の繋がりなどについてです。それから帳簿の確認に移りました。

「賃貸借契約書を見せてください」と言われたので、提出しました。契約書をパラパラとめくり「印紙は貼っていますか?」と確認されましたが、建物の賃貸借契約書は印紙税の課税文書に該当しないという認識だったので「貼っていません」とだけ答えました。

続いて、賃貸借契約書と売上帳を突合しているようでした。売上帳の摘要欄には入居者の名前があったので、契約書と売上帳の名前と数が一致しているかを見て、売上の計上漏れを探していました。計上漏れはないと思っていたのですが、2期目の決算期末に家賃の滞納があり、それを3期目の途中で数カ月分まとめて受け取っていて、その処理について指摘されました。

入金ベースで3期目の売上に計上していましたが、それは、2期目の売上になるとのこと。税理士の先生にちゃんと説明していなかったので、正しい処理ができていなかったようです。

税理士の先生は限られた顧問料や決算書作成費用の中で、できる限りの対応をしてくれますが、コストに見合わない聞き取りは行ってくれない場合があります。

「月8万円の給与」が目立つワケ

この法人では、代表取締役であるAさんの奥さんとお母さんを従業員にして、毎月8万円の給与を支払っていました。この8万円というのは、調査においてとてつもなく目立ちます。なぜでしょうか。

まず月8万円という金額は、12カ月分だと96万円となるので年間103万円以内で働くことができます。103万円以内なら、Aさんは配偶者控除や扶養控除を受けられる可能性があります。また、8万8000円未満なら、毎月の給与から源泉所得税を引く必要がありません。月額8万円台の固定の給与というのは、労働の対価としてではなく、そういったことを考慮しての算定である可能性が考えられるのです。

Aさんの話

調査官は、妻と母の労働内容を確認してきました。妻には帳簿の作成、母には物件の管理をさせている旨を伝えましたが、電話で本人に確認され、業務としてそれらを行ったことはあるものの、実際にはほとんど従事させていないことがバレてしまいました

さらに、交際費についても確認されました。領収書やレシートを念入りにチェックし、自宅周辺での飲食に対して聞き取りがありました。調査官は、不動産投資を行う上でどのような人間を接待、供応するのか疑問に感じたようです。実際には、接待などほとんどありません

不動産屋とも飲みに行くことはありませんし、不動産投資家同士の場合は割り勘にするので、金額が高額になることもありませんでした。その代わり、交際費の中には、家族で行った飲食費が多く含まれていました

ファミリーレストランに行くこともありましたし、時には自宅からタクシーで移動して、ひとり2万円程度の食事をすることもありました。調査官は領収書の一部をその飲食店の住所から抽出して、聞き取りを行っていたようでした。調査官の予想はまんまと的中、私が私的な支払いを経費計上していたことが発覚してしまったのです。

またAさんは、税務調査前に税理士の先生から「お土産」を用意するようにも言われていました。

税務調査において否認事項、不正や申告書の誤りが見つからない場合はお咎めなしで「是認」となります。調査官からすればあてが外れた形になるため、そのままでは格好がつかずなかなか帰ってくれません。そこで必要になるのが「お土産」です。

ある程度調査が進み、否認事項が見つからないようであれば、こちらから誤りを見つけさせ、さっさと帰っていただくように仕向ける。これが「お土産」の役割なのですが、今回の調査のように他に否認事項が見つかってしまうと、お土産も意味をなしません。

また、調査官側はお土産の意図に気づきません。自分で見つけたものなのか、意図的に見つけさせられたものなのかの判断はつかないのです。基本的にはすべての否認事項について「自分でみつけた!」と思っているはずです。

Aさんの話

最後に、調査官は敷金についても追求してきました。とある建物の賃貸借契約において、敷金のうち半分が敷引き(敷金のうち、一定の額を返還せず差し引くこと)されていたことについて疑問を持ったようです。敷引の金額が500万円だとすると、その敷引を契約期間5年で割り、均等に毎年100万円ずつ法人の収入として計上していました。

私は、この敷引は、あくまで前払の家賃であり、それを賃貸している期間で均等に分けるのは当然と考えていました。

気になる税務調査の結果は?

さて、調査はどのような結果となったのでしょうか。

Aさんの話

印紙については貼付の必要のない文書でしたので過怠税はありませんでした。

しかし、従業員の給与については否認されてしまいました。母と妻に勤務実態はありませんでしたが、少しくらいいいだろうと思っていました。

次に交際費の中の私的な支払いについては、3年分抽出して、金額をまとめてから提出するように指示を受けました。

最後に敷引きの件については、敷引の金額は敷金を受け取った年、つまり契約のあった年の売上に計上するのが正しかったようです。税理士の先生に確認したところ即答はありませんでしたが、後日「調査官が正しい」と連絡をいただきました

奥さんとお母さんの給与は実際には支払っておらず、代表取締役のAさんが懐に入れていて、勤務実態もなかったため当然の処理だと思います。交際費も事業と関係ない支払いです。法人を設立したばかりの社長さんによくあるのですが、経費計上はできませんので注意してください。

敷引きについては、法人税の基本通達に「賃貸借契約の保証金、敷金として受け入れた金額であっても、賃貸借契約の終了前における一定の事由の発生で返還しないこととなる部分の金額は、その返還しないこととなった日の属する事業年度の益金の額に算入する」とあります。

つまり、今回の契約によって、あらかじめ敷引きであることが明記されているのならば、はじめから返還しないことが確定しており、その金額は契約期間によって均等に割るような収入ではなく、契約の年にすべて収入として計上することになります。

税務調査の話をするAさんは、納得のいっている部分といっていない部分があるようでした。過少申告加算税と重加算税の適用については認識されていないようでしたが、存在しない従業員をでっちあげるために、関係書類を捏造し、架空給与を経費に算入していれば、不正とみなされて重加算税の対象となります。

見解の違いであれば、過少申告加算税で済みますが、重加算税を賦課されたとなれば税務調査の頻度も増えてしまいます。出来心の不正が、リターン以上の不幸な結果を招いてしまうかもしれません。

事業を行う上で、税負担が多いことは理解できます。ただしそれでも、「税金は、社会に対する会費」です。学校や道路や公園を眺めて、美しい申告を心掛けていただきたいものです。