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いつも不動産の境界や登記に関してご紹介していますが、今回はその中でも比較的新しい制度である「筆界特定制度」について取り上げたいと思います。境界トラブルで隣地ともめていて、取引や建て替えをあきらめていた……。そんなケースを、裁判以外の方法で解決できる有効な制度です。

境界の基本事項は以前のコラムで取り上げましたので、併せてみていただければと思います。

境界問題を裁判で争う場合

裁判で境界を明確にさせたい場合は、「境界確定訴訟」や「所有権界確認訴訟」、時にはその両方で解決させます。それぞれの訴訟の違いは次の通りです。

○境界確定訴訟

「筆界」、つまり公法上の境界を裁判により確定させる方法です。土地の所有者のみが当事者となります。共有名義の場合は、その共有者全員が当事者になる必要があります。この訴訟は所有権の範囲を争うものではなく、時効取得や占有に関する問題はこの訴訟では行えません

また、裁判所はこの請求を棄却することもできません。途中、当事者間で合意や任意の交渉で折り合いをつけることもできず、自己の主張する境界について立証する責任もありません。元来よりあったはずの筆界を確定する裁判です。

○所有権界確認訴訟

私法上の境界線の確定を求める裁判です。原告と被告それぞれが主張する境界線のどちらが正しいのかの判断を求めます。時効による取得なども関係してきます。和解も可能です。所有権の主張する線についての解決はできますが、筆界ではないため、その後の登記申請で例えば分筆などを行いたいと思っても、この裁判の判決だけでは行えない可能性があります。

いずれの裁判による方法でも、境界問題の解決には標準的に約2年かかります。そこで、2005年、「筆界特定制度」が境界紛争の迅速な解決手段として創設されました。詳細は後述します。このほかにはADR(裁判外紛争解決手続)で紛争解決する手段もあります。4つの方法をまとめると次のようになります。

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筆界特定制度とは

筆界特定制度の仕組みを簡潔に説明すると、以下の通りとなります。

1.公法上の境界「筆界」について特定したいときに

2.土地の所有権の名義人の申請により

3.法務局の筆界特定登記官が境界の位置を特定し

4.その内容が告知され登記に反映される

登記官は、土地家屋調査士などの外部の専門家の調査をもとに登記官の職権による調査結果と照らし合わせて位置を特定します。ただし、この結果は行政処分ではないので不服があっても法務局に審査請求はできません。

1.申請

土地の所有者がその土地を管轄する法務局を経由して本局に申請します

2.公告

隣接所有者に申請がなされたことが通知されます

3.資料収集

調査が始まり、測量費用が算出され、申請にはその概算を予納します

4.測量

対象地の測量が始まります

5.関係者の意見徴収

調査と測量の結果をもとに、筆界特定登記官が申請人や関係人からの意見を聞く機会を与えます。土地家屋調査士などの筆界調査委員が立ち合います

6.筆界特定

登記官が筆界を特定し、申請人と関係人に通知されます

7.登記に反映

筆界特定された土地の表題部に「○年○月○日 筆界特定」と記載され筆界手続き番号も明記されます。その番号を基に保管されている図面や資料の写しの交付請求や閲覧請求ができます

もめている相手方の隣地所有者が、登記官からの要請による立ち合いや意見聴取に出てこないとしても筆界は特定されます。ただし、隣地の了承なしに境界標の設置はできません。

申請手数料は固定資産評価額を基にします。測量費用は法務局が定めた計算方法で算出されます。一般的に、土地家屋調査士が測量を行う場合よりも若干低めになることが多いです。

また標準処理期間は9カ月から11カ月となっています。裁判よりは断然早いと言えるでしょう。本人申請することもできますが、土地家屋調査士を代理人として申請することも可能です。その場合には法務局への測量費用は不要になります。

また、土地家屋調査士以外にも、弁護士と一定の要件を満たす司法書士も代理人になれます。ただし、評価額に基づくその土地の「基礎となる金額」が140万円以上の場合は司法書士には依頼できません。

基礎となる金額=(申請地の評価額+隣地の評価額)÷2×0.05

「筆界特定制度」が境界確定のハードルを下げた

筆界特定制度が創設される以前、境界確定訴訟の件数は年間約800件でした。今ではその件数は約半分の400件台になっています。一方で筆界特定制度の年間申請件数は約2500件です。今まで裁判が億劫で躊躇していた人にとって、白黒はっきりさせやすい環境が整ったと言っていいでしょう。

筆界特定による結果は審査請求ができない代わりに、不服のある場合は裁判で争うことができます。裁判判決のほうが効力として優先されるため、もし判決で筆界が覆されると筆界特定した結果は効力を失います。

しかし、法務局と筆界の専門家がかかわった筆界特定の結果は、後に裁判となってもその内容がとても重んじられます。裁判官よりも登記官、土地家屋調査士のほうが筆界確定について日頃取り扱う実績は断然多いので、その調査結果は簡単には覆されないようです。

重要なのは「登記と現状の一致」

登記には公信力はありません。ですから時間と費用のかかる境界に関する手続きをあえて経ないで取引をすることが少なくありません。

対抗要件としては、登記を現状と一致させておくことが最優先となります。所有権界で決着がついても、それを登記に反映しないと後の取引に持ち込めないでしょう。融資を受けたくても筆界問題で担保にとってもらえない物件もよくあります。

また相続した土地で、ずっと筆界が確定せず、裁判でもしない限り処分できないとあきらめている物件もあるのではないででしょうか。そのような場合には、筆界特定制度による境界確定で問題の解決ができるかもしれません。ぜひ一考してみてください。

(片岡美穂)