「ホームステージング」は1972年にアメリカで生まれた不動産販売の技法のひとつで、家具や小物類で部屋を演出することをいいます。最近、賃貸物件の空室対策として取り入れる大家さんが少しずつ増えてきているようです。今回は「ホームステージングとはどんなものか」という基本的な部分から、内見からの成約率をアップするためのポイントまで、空室対策のひとつとしてのホームステージングについてお話しします。

「ホームステージング」は空室対策に役立つ!?

「ホームステージング」という言葉をご存知でしょうか? ここ数年、不動産業界のいろいろなところで耳にするようになりましたが、もともとは1972年にアメリカで確立された不動産販売のひとつの技法のことです。私も1970年代後半、ロサンゼルスの大学に留学中、学校が休みのときなどにはホームステージングしてあるオープンハウスをよく見学させてもらったものです。

ホームステージングとは何かということを簡単に言ってしまえば、家具や小物類で部屋を演出して、内見に来てくれたお客さまに「ここに住みたい」と感じてもらうための対策です。

私は、空室対策のひとつとして、このホームステージングを実践してきましたが、内見に来てくれたお客さまの成約率を高めるために役立つことを実感しています。実は、私の空室対策のひとつとして、このホームステージングの考え方が根底にあるのです。

そこで今回は、私が考える「空室対策のひとつとして有効なホームステージング」のポイントをご紹介しましょう。

ホームステージングが生まれた背景は?

冒頭で申し上げたように、ホームステージングの技法は1972年にアメリカで発祥したと言われています。

アメリカの住宅市場で流通しているのは中古住宅がメインですが、中古住宅を販売する際、多くの場合は、人がまだ住んでいる状態で購入希望者に内見させることになります。そのため、家の中は基本的に、住人が使用中の家具や生活雑貨がそのまま置かれた状態になっています。

そんなとき、家の中があまりに散らかっていると、それだけで内見者に悪い印象を与え、家そのものに対する評価も大きくダウンすることになりかねません。それは売主にとっても、仲介業者にとっても、大きなマイナスになります。

そこで、あるときから、売主や販売業者は「購入希望者の内見前に、家の中はきれいに片付けておくべきだ」と考えるようになりました。そして必要とあらば、住人に代わって室内の清掃や片付けを行ない、見る者によい印象を与えられるよう、室内の模様替えまで含めたコンサルティングを行う専門業者さえ現れたのです。

こうして、アメリカの不動産業界では、中古住宅の販売前に「ホームステージング」、すなわち、家(home)を演出する(staging)という発想が生まれました。そして、中古住宅の販売で有効性が確認されたホームステージングは、その後、新築物件についても適用されるようになっていきます。

このような「家具や小物類で住宅を演出して販売する」という発想は、アメリカを皮切りにカナダやヨーロッパでも急速に広がっていきました。アメリカでは「ホームステージャー」という専門職まで生まれており、現在、ホームステージングを専門に行なう業者が数百社存在するとも言われます。

一方、わが国の不動産業界ではこれまで、ホームステージングの導入はほとんど進んでいませんでした。せいぜい、新築分譲マンションのモデルルームに取り入れられていたくらいでしょうか。

それが近年、にわかに注目を集め始めたのは、わが国の住宅政策が転換を迫られるとともに、リノベーションのブームもあって、中古物件が改めて見直されるようになったからだと私は考えています。また、空室率が年々上昇を続ける賃貸住宅市場においても、成約率を少しでも上げるために、ホームステージングの手法を導入しようという大家さんが少しずつ出てきました。

賃貸物件においても、ホームステージングの重要性はまったく同じです。要は内見者に、その部屋での暮らしぶりをいかに魅力的にイメージさせるか。私の考えるホームステージングとは以下の通りです。

「ホームステージング」とは、空き部屋に家具や小物類を適切に配置して、上質な生活感を「演出」し、その物件の持つ魅力を最大限に引き出すことで、ただの装飾ではなく演出するということ。いささか前置きが長くなりましたが、ここから、賃貸物件の空室対策のひとつとしての「ホームステージング」を紹介していきます。

ホームステージングに明るい照明は必須

新築物件にしろ、入居者が退去した物件にしろ、空室には普通、照明器具がついていません。中には昼でも室内が暗い物件もあるでしょうし、普段は日当たりのいい物件でも天候が悪ければ部屋の中は暗くなってしまいます。そんな薄暗い空室に案内された内見のお客さまは、その部屋に対してどんな印象を抱くでしょうか?

ホームステージングの第一歩は、全室に適切な照明器具を設置することです。それも、通常よりワット数が少し高め(=明るめ)のものを使うのが望ましいでしょう。そして内見時には、日中でもすべての照明を点灯させた状態で見てもらうのが基本になります。室内が暗いと実際以上に老朽化して見え、みすぼらしい印象を与えてしまいます。

照明器具に使う電球は、暖色系で温かみのある「電球色」を基調にすることが基本と言われています。それを踏まえた上で、子ども部屋には自然光に近い「昼白色」を選ぶなど、メリハリのある演出も楽しいものです。

カーテン、シェード、ロールスクリーン、ブラインドなど、窓回りの装飾品を総称して「ウィンドートリートメント」といいます。空室の窓には、基本的にカーテンなどはついていません。そのため、内見のお客さまが室内に入ると、窓の外の光景がダイレクトに目に飛び込んでくることになります。

都市部の賃貸物件の場合、多くの物件はお世辞にも景観がいいと言えるものではありません。そのため、窓はウィンドートリートメント(カーテン、シェード、ロールスクリーンなど)で覆っておいたほうがいいでしょう。レースのカーテンが1枚掛かっているだけでも、印象は大きく変わります。

特にファミリータイプの物件では、開口部が大きく取られている場合が多く、ウィンドートリートメントの効果は大きいはずです。ただし、カーテンの色・柄・材質によって部屋の雰囲気が一変してしまうので、慎重に選ぶことをおすすめします。

部屋にマッチした家具で上質な生活感を演出

ソファ、ダイニングセットなどの家具は、その空間で生活するイメージを感じてもらうために欠かせないアイテムと言えるでしょう。また、レイアウトによって、部屋を実際以上に広く見せることも可能です。

私が考えるホームステージングにおける家具選びのポイントは、部屋の雰囲気にマッチしていながら、実生活より少しだけグレードの高いものを使うことです。

内見のお客さまに「こんな空間で生活したい!」と思ってもらうことが目的なので、実際の使い勝手よりもビジュアル重視で考えています。そこが、「居住者の希望や暮らしやすさ」を優先する「インテリアコーディネート」との違いと言えるのではないでしょうか。

問題はコストです。そういった上質な家具を用意するには、それなりにコストがかかるため、賃貸アパートの大家としては、空室が出るたびに家具を買いそろえている余裕はありません。そこで私の場合は、ソファ、ダイニングセットなど主だった家具は専用の空き部屋にストックしておき、空室が出るたびに、そこから持ち出してセッティングするようにしています。

また、私のやり方とは逆に、大型量販店などで購入した比較的安価な家具を使い、入居者さんにそのままプレゼントしている大家さんもいます。

どういう方法を取るかは、どこまで費用と手間をかけられるかによって判断されるのがいいのではないでしょうか。

おしゃれなエレメンツ(小物)でイメージアップ

観葉植物、鉢植えの花、絵画や彫刻、花瓶、ランプなどの小物類を「エレメンツ」といいます。ホームステージングでは、生活空間に何かおしゃれなエレメンツをプラスすることで、部屋全体のイメージをワンランクアップさせることが可能になります。エレメンツがひとつもないホームステージングはあり得ません。

観葉植物は、置くだけで雰囲気を和やかにしてくれるため使い勝手がいいのですが、水やりなどの管理を怠ると、しおれたり枯れたりしてしまってかえってイメージを悪くします。最近では、観葉植物のフェイク(模造品)もかなり良くできているので、上手に利用したいものです。

内見のお客さまが、ランプなどのエレメンツを気に入ってくれた場合、そのままプレゼントしたり、物によっては買い取ってくださったりということもあります。

私自身は、エレメンツも本物にこだわっているため、アンティーク物をよく使います。そのため、すべてをプレゼントしたり、買い取っていただいたりすることはできないのですが、それほど値段の高いものでなければプレゼントする場合もあります。それで入居者さんに喜んでいただけるのであれば安いものだと考えています。

室内にこもっているニオイに注意

上でご説明した4つのポイントは、インテリアの基本となる4要素ですが、4番目の要素として視覚や触覚以外の五感で感じるものも、ホームステージングでは重要です。

特に、空室を内見してもらう場合に気をつけたいのが、閉め切った部屋にこもってしまっている「ニオイ」です。

キッチン、洗面所、浴室などの水回りは、日常的に水を流していないと、どうしてもドブのような異臭がしてしまいます。生乾きになった排水管の内部で雑菌が繁殖してしまうからです。

また、排水管は通常、S字やU字に折れ曲がった形をしていて、U字に折れ曲がった部分に溜まった水が「栓」の役割をしていますが、何日も水を流していないと、この部分の水がすべて抜けてしまい(蒸発してしまい)、下水からの臭いが直接上がってきてしまうこともあります。

家具やエレメンツがどんなにいいものでも、室内に悪臭が漂っていると、それだけでイメージは台無しになってしまいます。

そうならないよう、内見のお客さまがいらっしゃる前には、窓を開けて空気を入れ換える、水をしばらく流しっぱなしにするなどのニオイ対策が必要になります。私の場合は、洗濯機用の排水口をポリエチレンラップ+輪ゴムで密閉したり、消臭剤を適宜利用したりするなどしています。

そうやってイヤなニオイをあらかじめ除去したうえで、私は内見のお客さまがやってくる30分くらい前に、芳香剤スプレーを軽く吹いておきます。室内にほのかにいいニオイがしていると、それだけで部屋の印象がぐっと良くなります(基本は無臭がいいと言われています。香りには人それぞれ好き嫌いがあるからです)。

見る人の心に強く印象を残すためには、「見せ場」をつくることが大切です。

この見せ場のことを「フォーカルポイント」と呼びます。たとえば、子ども部屋にティピー(インディアンテント)を張っておくとか、書斎の椅子にロボットの形をしたライトを座らせておくとか、見る人の心に残るポイントをつくっておくのです。

ただし、見せ場が多すぎると、注意力が分散して印象に残りにくいので、物件全体で1〜2個、多くても1部屋あたり1個程度が目安と考えています。

特にフォーカルポイントの演出候補としておすすめしたいのが、トイレです。トイレは空間的にも面積的にも小さいので、床材や壁紙を思い切ってガラリと変えても、その分のコストは低く抑えられます。つまり、リフォームなどで手を加える際の費用対効果がきわめて大きいスペースと言えるでしょう。

少ない投資でイメージを一変させることも可能ですから、印象的な壁紙を張ったり、カラーのトイレットペーパーを用意するなど、自分なりのアイデアを盛り込んだフォーカルポイントをつくってみましょう。

ホームステージングのチェックポイント

最後に、内見のお客さまをお迎えする前の、ホームステージングのチェックポイントをまとめてみました。

1.生活のニオイチェック

排水口からの戻り臭はないか。基本は無臭状態が望ましいが、内見者の世代や性別を考慮し、適切な消臭剤と芳香剤で生活臭を軽減する。

2.照明のチェック

基本は電球色。日中でも、すべての照明をつけた状態で内見してもらう。

3.家具の数や配置をチェック

高級な家具でも、数が多すぎると乱雑な印象に。また、背の高い家具を奥に、背の低い家具を手前に配置するなど、部屋を広く見せるよう工夫する。

4.エレメンツのチェック

小物類が雑然としていないか。生活感のある小物は極力排除するほうが望ましい。

5.フォーカルポイントのチェック

フォーカルポイントが印象的につくれているか。数が多すぎる場合はポイントを絞ること。

フォーカルポイントは、ドアを開けた瞬間に視線が集まるポイント、視線に飛び込んでくるポイントです。ステージングでは、フォーカルポイントを意識してエレメンツなどをディスプレイします。ところどころで色彩を入れると視線に飛び込んできます。内見のお客さまに目を引かせ興味を持ってもらう、つまり、CTA(Call to Action:行動喚起) です。

こうしたことを意識して、基本を学びながら自分の感性を信じてステージングすると、とても楽しいものです。

必要最小限の予算で最大の効果を上げる。それが分譲物件とは違った「賃貸のステージング」と言えるでしょう。ステージングは「装飾」ではなく「演出」です。ごちゃごちゃと生活感を出しすぎてステージングすると失敗してしまいます。

適切なホームステージングを行えば、内見からの成約率は格段に上がります。私の物件で言えば、細かな統計を取ったわけではありませんが、実感値として、いまのところ内見者の90%以上が成約に結びついているのではないでしょうか。

もちろん、それなりにコストもかかりますが、高級な家具はストックしておくことで使い回しも可能となり、その分コストを抑えることもできます。長い目で見れば、仲介業者に家賃数カ月分の広告費(AD)を払って客付けしてもらうより、費用対効果は大きいといえます。

インターネット上には、ホームステージング物件を扱っている不動産ポータルサイトがいくつもありますから、そういったサイトも参考にしてみてはいかがでしょう。

(林浩一)