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賃貸物件を自分好みに「カスタマイズ」したい人は、どれほどいるのだろうか。

大手不動産賃貸ポータルサイトで物件を検索してみると、以前は見なかった絞り込み条件がある。それは「DIY可」という項目だ。数年前から、原状回復義務がなく「壁紙を選べる」「DIYできる」「自分好みにカスタマイズできる」といった住まいが、メディアなどでも紹介されている。

国土交通省は2016年から、空き家対策の一環で「DIY可賃貸借」の普及を進めている。同省のリーフレットでは「現在の状態のまま賃貸でき、修繕の費用や手間がかからない」「借主がDIYを行なうため愛着が生まれ、長期入居が見込める」などと貸主側のメリットを説明。借主にとっても「自分好みの改修ができる」「DIY費用を負担する分、相場より安く借りられる」などの魅力があるとしている。

ところが、各不動産ポータルサイトで主要都市名と「DIY可」にチェックを入れて検索しても、検索結果は0件というケースが多く、ヒットしたとしてもサブリース会社1社による物件で占められているのが現状。不動産オーナーからも「『DIY可』で募集しても、DIYしたいという入居者はいなかった」という声が聞かれる。

はたして、賃貸物件でカスタマイズをしたい入居者は本当にいるのか? オーナーにとってメリットはあるのか? どんなことを想定すればカスタマイズ可賃貸のトレンドを活かせるのか? 「カスタマイズ可賃貸」に取り組む3人のオーナーに話を聞いた。

「壁紙を選べる物件」で覚えてもらう

「壁紙カスタマイズを始めてから1カ月以上空室になったことは一度もなく、自分でもちょっとミラクルのように感じています」

自主管理による「物件力アップ大家」を掲げるKOKOさんは、名古屋市の一棟マンションで4年半にわたり、「壁紙カスタマイズ」を物件のセールスポイントとしてきた。21年前に新築した3LDKの物件で、構造や間取りは分譲並みのグレード。しかし「名古屋市内では人気はあまりない」というエリアのせいか、5年前は19室中6室空室があり、1室埋まるのに平均6カ月を要していた。

「過去4年半で壁紙をカスタマイズしたのは空室になった14件のうち6割程度ですが、壁紙カスタマイズを始めた頃から1カ月以上空室になったことはありません」とKOKOさん。壁紙メーカーと話し合って100種類以上のサンプルを用意し、リビング、トイレ、玄関、寝室の4部屋の各1面をアクセントクロスとして入居者に選んでもらっている。

壁紙メーカーは1社に決め、その会社のショールームでコーディネーターを予約し、何度も通ってあらかじめ30枚くらいのサンプルを選んで入手しておく。「良い組み合わせ」「これだけはダメな組み合わせ」を決め、入居者に壁紙を選んでもらう時には自分がショールームのコーディネーターの役割を演じる。例えばリビングと玄関でテイストが全く異なる組み合わせは避け、1つの住まいがトータルでコーディネートされている状態を目指すという。

入居者に選んでもらう壁紙のサンプル

「ただ、すべての入居者が壁紙を選びたいわけでも、カスタマイズに時間をかけられるわけでもないので、基本は『タイミングが合えばどうですか』と提案する形です」とKOKOさん。「壁紙をカスタマイズしない場合でも、アクセントクロスなどを使ってコーディネートした部屋を提供しているため、デザインで差別化できていると思います」

以前は入退去ごとに水回り設備を新規交換し、費用をかけてグレードアップしても、空室期間が縮まることはなかった。KOKOさんは「そういった努力が仲介会社に伝わっていなかったことが原因」と考え、「壁紙カスタマイズ可」にすることで自分の物件を覚えてもらえるように努めた。

まずは近隣の仲介会社12社に毎月メールを送り、関係を築くことから始めた。たとえオーナーが仕組み化をしても、入居希望者と実際に接点を持つ仲介会社にカスタマイズを付加価値として理解してもらわなければ、空室対策として機能しないためだ。

壁紙カスタマイズを始めてからはブログにアップするなど情報発信を強化し、徐々に仲介会社からもセールスポイントとして認められるようになった。「内見者に『あの物件は壁紙のカスタマイズができます』と説明してくれていますし、最近は担当者が物件の名前を覚えて、ほかの社員にも『あの壁紙のところ』と伝えてくれているようです」

「選ぶ」ことで増す満足感

壁紙カスタマイズは入居者にも好評だという。「内見の時から『壁紙を選べる』のは、サプライズであり、ワクワクしてもらえると感じています。入居までの期間、メールで『引越し前に見にきていいですか』と問い合わせがあるなど、楽しみにしてくれているのが伝わります。引越日になると、『ドキドキするー』『わ、意外にオシャレ』と1室ごとにドアを開けては楽しんでいる様子です」

壁紙カスタマイズ可にする以前は、1年で10%ほど家賃が下落したこともあった。しかし、ここ数年は壁紙を選べることが付加価値となり、仲介会社からの提案で入退去ごとに家賃アップが実現しているという。

カスタマイズ可賃貸で失敗しないための「4つのポイント」

KOKOさんが考える、カスタマイズ可賃貸で成功するためのポイントは以下の4つ。

(1)繁忙期には行わない

「7〜8月など、十分な時間が取れる閑散期こそオススメです。繁忙期はなるべく多くの内見を獲得することに重点を置く方が効率的だからです」。現在は退去日の1カ月後に内装が完成するスケジュールで「この期間に来てもらえれば選べます」と伝え、内装業者には仮に決めた壁紙の種類と、工事日を指定して発注している。

壁紙を選びたいという入居希望者は、この日に合わせて事前に訪れる必要がある。「『3時間ぐらい、たっぷり楽しむつもりの時間配分で来てください』と伝えています。壁紙選びはもちろん契約後に行い、1年未満の入居の場合は違約金を払ってもらう契約を作成します」

(2)コストは原状回復費以上かけない

「通常の白い壁紙と柄物壁紙では、平米単価は200〜300円位しか変わらず、アクセントクロス部の合計が20平方メートルだとしても、通常の白い壁紙との差が4000から6000円しか変わりません」

KOKOさんは壁紙カスタマイズ以前から敷金礼金ゼロで募集しているが、かわりに内装費12万円(クリーニング込み)を償却を前提に徴収し、壁紙カスタマイズもこの範囲内で収めている。

(3)事前に周到な準備をする

「想定外がないように準備をしなければ、関係者に迷惑をかけることもある。どの関係者にも『得した』と思ってもらえないと持続可能になりません」とKOKOさんは言う。「タバコのヤニで汚れた部屋でも、選んでもらう壁には印をつけておき、サンプルを壁に貼って過去の事例の写真も準備しておきます」。目の前の物件以上に、壁紙カスタマイズ後の部屋をイメージさせる準備がポイントとなる。

KOKOさんは「仲介会社は5分で決めさせたいので、内見時に『大家さんに聞いてみます』と言わせないことが重要」と語る。「内見者にどのようなカスタマイズがどのように行われるか伝わっていないければ、『カスタマイズって何するの?』となり、物件のセールスポイントにならない。どのような壁紙のカスタマイズが可能か、仲介会社に過去の壁紙カスタマイズの写真や資料を渡して理解してもらう。コーディネートはオーナーの役割だと明確にすることも重要です」

(4)「なんでもあり」にしない

「なんでもやって、と放置するのは相手も不安。『子供が何歳であと何年住むだろう』とか、入居者のライフスタイルについて十分なコミュニケーションをし、壁紙を一緒に選びます。選べる壁紙の種類、各部屋の貼る面を決めておき、『どれを選んでもいいですよ』と言います。日程も限定し『今日決めてもらうつもりでいるので』と伝えて時間内に決めてもらいます」

「インダストリアル」「ナチュラル」「シャビー」などいくつかのテイストの中から好みのもの選んでもらい、その系統の柄の組み合わせから各部屋の壁紙を決めていく。「選ぶ過程では2〜3時間かかるのが当たり前ですが、楽しませてあげられる状況を大家が作ること。どの壁紙を選ぶか迷っている人には、『変えるならこっち』『これならこっちの方が良いですね』などとアドバイスし、『お子さんが小学校に入って大きくなってもこれで満足ですか』など、それぞれのライフスタイルを考え、時には選んだものに反対もします」(KOKOさん)

入居者の好みは徹底して聞くが、「写真写りはどうか」「あとで仲介会社に説明しやすいか」など、オーナー自身にも得になるよう「あなたたちのセンスで価値が上がった部屋を見せてください」と、入居者の趣味だけでなく賃貸する部屋のバリューを上げることまで一緒に考える。基本は「好きなようにカスタマイズしてください」ではなく、「相談してもらいたい」という伝え方。輸入壁紙を使いたい、などと言われたら「希望としては伺います」「ここまでの予算はこちらが出します」などと部分的には受け入れつつ、時には断ることも大切だという。

「『DIY可』での募集をやめたら内見者が殺到しました」

ひとくちに「DIY可」といっても、その方法はオーナーによって千差万別。KOKOさんのような「壁紙カスタマイズ」ではなく、入居者がより自由にDIYできることをアピールポイントにするオーナーもいる。ただ、「DIY可」で思ったような効果が得られなかったり、特有の苦労を経験したりといったケースも多いようだ。

神奈川県の在住のオーナーSさんは5年ほど前、田園都市線の急行停車駅から徒歩8分、築47年の2LDK区分マンションを購入した。前のオーナーが数年前にフルリフォームし、水回りなど設備もグレードアップされた物件。ただ、エアコンや照明がすべて撤去され、壁紙が少々古ぼけていること、床がフローリングなのに収納は押し入れのままだったことなどが難点だった。

客付けを依頼したリノベーション専門の不動産会社から「今はDIYがブームなので、絶対にDIY可にして募集してください。DIYが好きな人が借りるのだから、大家の側があれこれ事前に変えるよりそのままの状態で、何もせずに募集したほうがいいですよ」とアドバイスを受けた。その通り、中古として購入した状態のまま「DIY可」として専任募集したが、3カ月間のうち内見はたった1人。「駐車場がない」という理由で決まらなかった。

3カ月を過ぎた頃、「DIY可」での募集を中止して一般媒介にし、約40万円をかけてアクセントクロスを含む壁紙を一部交換。押し入れをウォークインクローゼットにするリニューアル、エアコン設置などをしたところ、内見希望の連絡が相次ぎ、約1カ月後に入居申込みがあった。

Sさんの物件

Sさんは「そもそも本格的にDIYしたい層は、ボリュームとして相当限定されていると分かりました。それに部屋が原状回復以前の状態で内見しても、壁紙変更後のキレイな部屋のイメージが浮かばなかったのでは」と考えている。

DIYによるペット用設備で排泄物が

岡山県で戸建てを安値で仕入れて賃貸する原田さんは、敷金、礼金、広告費も一切なしで募集し、平均表面利回り50%のいわゆる「ボロ戸建」投資を実践。現在は戸建て4件中3件を「DIY可」にしている。DIY経験のある入居者が多く、風呂のコーキング剥がれから雨漏りがした箇所を自ら修繕したり、エアコン2台を取り付けたりしているという。

原田さんが所有する戸建て

「元々ボロ物件だったので、原状回復は求めていませんでした。DIYの許諾は大きな工事を除き、事後報告でも構わないと入居者さんに伝えています。家賃を安くしているので、過剰な修繕コストはかけたくないんです」。入居者の多くは「ボロ物件」の状態に納得して入居を申し込む。「入居者さんには、できたらLINEで施工部分の画像を送信してもらうようお願いしています」(原田さん)

しかしある日、入居者の1人から設備の不具合について連絡があり、訪問すると、独特な動物臭が漂っていた。その時初めて、「犬が部屋に入らないよう、玄関近くに木材で犬の柵を作りました」と打ち明けられた。「柵を設置後、床に尿が染み込まないようビニールシートを敷き、その上にタオルやパネルを置いて糞尿のたびに拭いていた」とのことだった。

犬の尿でもフローリングや内部の木が膨れ上がったり臭いが染み付いたりするのではないかという懸念があるが、原田さんは「柵の撤去などは全く考えていない」という。もともとペット可の物件で、「簡単なDIYなら事前承諾や原状回復は不要』という条件で募集しているからだ。

こういった経験を持つ原田さんだが、「DIYは大家にとっても入居者にとってもメリットがある」と語る。「入居者さんにとっては賃料が他よりも圧倒的に安いというメリットがありますが、わざわざ面倒なDIYをしないで済むなら多分しないと思います。でもDIYをやっているうちに不器用でも満足感を持ち、その結果物件への愛着が湧き、さらには入居期間が長くなっていくことがあり得る。契約による明確な線引きがあれば、『DIY可』は両者にとってメリットではないでしょうか」

「どのタイプなのか」を明確にする

現状のカスタマイズ可賃貸は、大きく「消極的」「積極的」の2パターンに分類できる。

原田さんの例のように、コストも家賃も抑えるスキームは「消極的カスタマイズ可賃貸」といえる。入居者にとってのカスタマイズは住むための必然であり、オーナーにとっては物件購入後の修繕費を安く抑えられる。原田さんの場合、雨漏りの修繕やエアコン設置で12万円ほどがかかる工事を入居者自身が行ったこともあったという。このタイプの場合、賃貸契約の特約で貸主・借主の費用負担などについてしっかり取り決めることが大切といえる。

KOKOさんの場合は「積極的カスタマイズ可賃貸」で、カスタマイズは住むために必要があるからではない。入居者にとっては、自分らしい住まいを手に入れ、心豊かに生活を楽しむことがカスタマイズの目的と言える。だからこそ、すでに完成された物件を前にして「何もかもご自由に」と言われるとどこから初めていいかわからず、オーナーによるサポートが重要になる。

Sさんの失敗は、そもそも家賃は相場並みかそれ以上、フルリフォームされた「積極的カスタマイズ可賃貸」タイプの物件であるにもかかわらず、「消極的カスタマイズ可賃貸」のように、カスタマイズをターゲットに任せ切って何の準備もサポートもしなかったことにあるといえる。

差別化戦略の1つとして

このように、一言で「カスタマイズ賃貸」といっても、入居者のタイプも、物件も、オーナーと入居者との関係性もそれぞれ全く異なる。ただ、「賃貸だから」と与えられた物件に満足せず、カスタマイズやDIYを楽しみながら「自分らしい住まい」を求める入居者は存在していることが分かる。

KOKOさんと原田さんの共通点は、オーナーと仲介会社・入居者のコミュニケーションが一般的な賃貸物件よりも密なこと。物件のカスタマイズという共通の話題を通してコミュニケーションが頻繁になり、お互いの協力関係が築かれやすくなる。このような関係が入居者にとっての「住みやすさ」につながることもある。

個人オーナーにとっては「カスタマイズ可」を仕組み化し、サポートや宣伝も行うというハードルは高い。しかし、KOKOさんのように仕組み作りと仲介会社との協力関係構築を地道にしていけば、空室対策や長期入居につなげられる可能性はある。カスタマイズ可の物件が比較的限られているからこそ、空室に悩むオーナーにとっては、差別化戦略の一つとして検討する価値はあるかもしれない。

(楽待新聞編集部/ジョーダン・美奈)