今年3月17日に内覧会を開催、同時に入居者募集を開始した猫専用賃貸物件が、オープンから約2カ月で満室となりました。今日は、この物件が満室になるまでの経緯をご紹介したいと思います。

1階の賃料が最も高い理由

猫専用アパート「Chaton Garden」外観(木造3階建て全5室)

私が全面監修したこの物件は、東武鉄道亀戸線「東あずま駅」から徒歩3分、総武本線「平井駅」から徒歩11分の場所に建つ、猫専用の新築木造アパートです。1階に1部屋、2階と3階に2部屋ずつの全5室。建設は地場のハウスメーカーさんが担当しました。各部屋とも、44平米の1LDKという間取り、定員は人2名と猫5匹までとしています。

部屋の見取り図

賃料は、1階>3階>2階の順で高く設定しています。結果的には、1階の部屋が最後まで残り、他の4部屋はオープンから約1カ月で埋まりました

ですが、「やはり1階は苦戦するのか」と思われるのは早計です。入居の要望や問い合わせが最も多かったのは1階の部屋でした。最後まで残ってしまった理由は、入居を申し込んだ方が途中でキャンセルになり、募集をいったん止めたといった経緯があったからです。実は最初に入居申込が入ったのも、この1階の部屋です。1階の部屋の賃料が高い理由、それはこの部屋だけに「専用の庭」が付いているからです。 

2階、3階の部屋には3.5平米の比較的大きなバルコニーが付いています。1階はこのバルコニーに加え、なんと10平米の専用庭が付いています。猫を安心して庭に出せるよう、2メートルの塀で隙間なく囲い、容易に脱出できないようにしました。この「安心して外に出せる工夫」がされていることが猫を飼っている人にとって、最も魅力的に映るポイントの一つなのです。 

日本で飼われている猫の多くが「雑種」と言われています。つまり出自が「野良猫」だったり、「保護猫」だったりするケースがほとんど。外の世界を知っている猫は、室内の生活にどうしてもストレスを感じてしまいます。「愛猫にストレスをかけたくない」と思う飼い主さんのニーズに、1階の部屋は応えることができます。お金をかけて安全な塀を設えたのは、こういう理由からです。

「木造でこの家賃は…」不動産会社も心配する強気な賃料

今回、入居者募集は私が独自に行っている方法と、不動産会社を介した一般募集で行いました。一般募集には、地場の不動産会社と猫賃貸を専門に取り扱う賃貸サイトの2箇所(猫専用サイトの情報公開は、4月中旬から行いました)。結果的に全室、私がご紹介した入居者にご入居頂きました。

不動産会社の方と打ち合わせをしている際、家賃の話になり賃料をお伝えしたところ、その方の顔が一瞬曇りました。「かなり強気な賃料設定ですね。この値段だと新築マンション並の賃料なので、厳しいかもしれません。最近の入居者は、鉄骨造か木造かということも気にされますから」と言われてしまいました。

確かにこの物件は木造3階建て、仰ることはごもっともです。物件の賃料ですが、実は近隣の新築マンション並かそれ以上の値段になっています。それでも満室になるのは、本当の猫好きが納得し、費用対効果が高いと思ってくれているからです。

それから、この賃料設定、私は「適正価格」だと思っています。ご存知の通り、首都圏を中心に賃貸物件が余っている状態で、需要と供給のバランスが完璧に崩れています。供給量が増加すれば、競争力を高める施策を実行しなければ、入居者は集まりません。

普通の賃貸の場合、そもそもの競争力が低いため、結局「家賃の低さ」で勝負せざるを得なくなります。賃貸が密集する地域ではこの傾向が顕著で、新築物件ですら軒並み家賃競争に巻き込まれてしまいます。なので、私は「私の監修物件は家賃が高いのではなく、周りの物件が安すぎる」と考えています。

また、意図的に近隣相場より割高にしている訳ではなく、収支計算を行った上で最も適切な賃料設定として、しっかりと事前にシミュレートした結果の賃料にしています。そのため、単に「猫専用にすれば家賃が相場の3割増しになるらしい」と考えるのではなく、ご自身でしっかりシミュレーションしていただければと思います。

それでは、改めて「本物の猫好きが本気で作った、猫好きと猫が快適に暮らせる賃貸」のお部屋に施した4つのポイントをご紹介します。

ポイント1 猫トイレ置き場

完全室内飼いにすることが飼育条件なのに加え、この物件では猫5匹までOKとしているため、猫トイレが無理なく5個設置できるスペースを、洗面室と人間用トイレに設けました。それぞれに猫砂やマットなど交換用品を収納できるスペース付き。

ポイント2 猫脱出防止扉

猫が不用意に玄関ドアから脱出することを防ぐため、居室と玄関の間には猫が開けられない脱出防止用の扉を設置。この玄関スペースは、猫に触られたくないもの=毛だらけにされたくないものを置くスペースとしても有効活用、つまり「人間のエスケープスペース」になるように設計しています。

ポイント3 猫が3次元に動ける工夫

ウォークインクローゼットの上部に猫しか入れない隙間を敢えて作り、「猫専用ロフト」を作りました。また猫が外の様子を伺うことができるよう猫専用の窓を設置。ここに猫が来るまでの動線は、飼い主さんがその猫の特性に合わせてカスタマイズできるよう、あえて窓だけを作っています。

ポイント4 猫を安心して外に出せる工夫

1階のお部屋には、専用の大きな庭が付いています。猫が容易に脱出できないよう2メートルの塀で隙間なく覆いました。それでも心配な場合を想定し、塀にはフックが付いていてネットを被せることができるようになっています。

2階、3階のお部屋には3.5平米の専用バルコニーがあり、そこに猫を出すことができるようになっています。手すり部分に「猫返し」を設置し、落下などの事故を未然に防ぐ工夫を施しました。

次回プロジェクトは、初の猫専用リフォームに挑戦!

私が監修した猫専用賃貸は東京と神奈川に計4棟ありますが、全棟全室満室です(2018年6月末現在)。私が提唱する猫専用賃貸の装備を実現するには新築の方が現実的なため、4棟全てが新築です。

しかし現在、神奈川に初となるリフォーム物件を手がけています。日々、様々な問題と障害を突破しながらプロジェクトを進めています。この猫専用リフォーム物件は、今年2018年11月に完成予定です。本コラムでも随時、このリフォーム物件について報告いたしますので、ぜひ楽しみにしていてください。

(木津イチロウ)