女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズ(東京都)がサブリース賃料の支払いを完全停止してから約5カ月。700人以上にも及ぶオーナーの多くはスルガ銀行から高金利で融資を受けており、家賃収入ゼロで月100万円にも上る返済のみがのしかかることになった。

オーナーたちは審査書類の改竄二重売買契約などの不正行為に加担した可能性が指摘されているスルガ銀行への訴訟のほか、返済の停止や金利交渉など、さまざまな方法で出血を止めようとしている。ただ、物件を保有し続けながら自らの努力でリカバリーを目指すオーナーの姿はあまり報じられていない。

物件は各部屋が7平米と狭く、共用リビングが存在しないなど建築面の問題も山積。同じ被害者すらライバルとなる厳しい状況の中で、オーナーたちは自主管理への切り替えや管理会社の変更、物件のリノベーションなど、さまざまな方法で入居者集めに力を注いでいる。

蓋を開ければ空室率8割

「これは『賃貸事業』ではない、銀行から金を借りて株を買ったようなものだ、と気づいたんです」

30代の会社員Aさんは2015年夏、販売会社からの紹介で都内のかぼちゃの馬車を9800万円で購入した。物件は全10室、利回りは8.5%という説明で、スルガ銀行から金利3.5%で融資を受けた。月の保証賃料は69万円で、返済は45万円。諸経費を引いた年間の手残りが220万円ほどというシミュレーションだった。

購入後、知人の大家から「なんでこんな物件買ったんだ」と言われ、目が覚めた。「本当に30年家賃保証されるかどうかもわからないし、自分でコントロールできないものに対して融資を受けていること自体が危険すぎる」と我に返った。

物件が完成して保証賃料が入るようになったのは2016年夏。すぐスマートデイズ側に売却を申し入れたが、「賃料が入っているのになぜ売るのか」という反応で、次のオーナーにサブリースを引き継ぐ条件として、賃料を6万9000円から5万円に引き下げると言われた。「スマートデイズ側は『我々も1年で売られると困る、スルガ銀行との関係も悪くなってしまう』というような説明でした」

それから1年間、交渉の日々が続いた。2017年10月、ようやく6万5000円でサブリースを引き継ぐという条件で話がまとまり、「解放される」と思ったのも束の間、その1週間後に賃料減額通知が届き、1年間の努力が水の泡に。翌年1月、サブリース賃料が完全に停止され、月45万の返済のみがのしかかることになった。

それから2カ月は借入の返済だけを続けたが、その間、入居者が何人いるかも開示してもらえなかった。2月頭にようやくサブリースを解除したところ、入居は10室中2室のみで、うち1室も2週間後に退去予定ということが発覚。しかも、保証賃料は6万9000円なのにもかかわらず、実際は4万8000円~5万円で入居させていたことが分かった。

「あっという間に破綻する」

このままでは毎月45万の支出のみが続いていくだけ。「自分の給料と変わらない金額が毎月出ていったら、すぐに生活が破綻してしまう。3月の繁忙期のうちに何が何でも満室にする」と決意を固めた。

2月後半から本格的に物件の再生に取り掛かったが、当時の入居は2室のみ。管理会社に管理を委託すればマイナスとなる。「自分でコントロールできないことに期待してはいけない」というのが、かぼちゃの馬車購入で得た教訓。自主管理しか選択肢はなかった。

まず、退去を予定していた入居者と連絡を取り、家賃を下げるので残ってもらえるように頼んだ。さらに、女性専用から1階のみ男女兼用にすることを決断。入居者の女性からは反対意見もあったが、理解を得られるよう何度も物件へ足を運び、新たな入居者との「顔合わせ会」も行うことで同意を得ることができた。

Aさんが所有する物件

シェアハウスの募集サイトでは、無機質なベッドフレームの写真ではなく、居住イメージが湧くようにモデルルームを作るなど、「見せ方」を改善した。1円も使うことなく、自宅にある布団をベッドの上に置き、妻に借りた服やぬいぐるみなども用意。写真も5枚から20枚に増やし、外観や共用部、周辺の店舗などの写真も載せるなどの努力を続けると、次第に問い合わせのメールが増えた。

深夜3時のメールも対応

「管理会社に勝てるのは『スピード』だけだと思いました」。問い合わせのメールが届けば、2、3分後には必ず電話をかけた。仕事終わりの夜中に「今から内見できますか」と連絡があっても即対応した。「土日まで待つと他の物件に流れると思っていたので…。これは自主管理だからできることです」

夜中の3時にメールが来ても、5分後には「明日の朝に電話します」とメールを送った。「相手は学生が中心なので、遅い時間にメールがきても失礼ではないはず、と自分に言い聞かせていました。次の月末に45万円が出ていくのが確実なのだから、必死になるのは当たり前でした」

内見当日は、待ち合わせ場所からシェアハウスに向かう道すがら、内見者が東京に、シェアハウスに何を求めているのかをさりげなく聞き出すよう努めた。フリーランスや起業予定者もいたため、自身が融資や税金に関する知識も伝えられることをアピールした。「市場に同じ形のシェアハウスがあふれている中で、少しでも付加価値を感じてもらうことが必要だと思ったからです」

こうした努力が実を結び、3月末に10室すべて埋めることができた。賃料収入は約50万円で、返済に光熱費などを含めるとプラスマイナスゼロだが、自らの努力だけで出血を食い止めたことになる。

築古を買い増して収益改善

これだけではない。Aさんは物件を買い増すことでリカバリーする道を選び、収益改善の努力を続けている。

「1棟目がかぼちゃの馬車だったからこそ、購入後から『このままではマズい』と勉強のスイッチが入ったんです」。勉強を進める中で、築古の戸建てを安く仕入れてリフォームして貸し出す手法にたどり着いた。サブリース賃料が停止される前の2017年春ごろから物件探しを開始し、土日は1日3、4件回るペースで、半年の間に50件以上の物件を見学した。

千葉県の築50年の戸建てを100万円で購入したのは、くしくもスマートデイズがサブリース賃料の減額を発表した10月。支払いが完全停止になるかもしれないという恐怖と戦いながら、DIYに全力を注いだ。土日はすべて費やし、クッションフロアを貼ったり、壁や屋根を塗り替えたりといった作業を実践。リフォームの経験は全くなく、当然苦労したが、それ以上に必死だった。

スマートデイズからサブリース賃料の完全停止が発表されたのは今年の1月17日。それから間もなく、2月に初めての子どもが生まれた。

会社から5日間の特別休暇が与えられた。誕生の瞬間にはギリギリ立ち会うことができたが、当日午後からはDIYのため物件へ向かった。夕方、ペンキまみれの服を着替えて病院に戻り、少し顔を見てから深夜に再び物件へ向かい、明け方まで作業。翌日も朝に1時間ほど面会し、その後は1日中作業に没頭した。

「あの5日間はほとんど寝ていませんが、それ自体は苦しくありませんでした。ただ、生まれたばかりの子どもに向き合ってあげることができない葛藤が深夜に襲ってきても、作業を続けなければならないことが辛かった」とAさん。当然、我が子の顔を見たい、妻のそばで人生の節目を大切に過ごしたいという気持ちはあった。それ以上に、「このままでは破綻する。リカバリーしなければいけない」という思いで必死だった。

妻は怒らなかった。代わりに、「事故らないように気をつけて」「少しは寝てね」という言葉をかけてくれた。

今後も築古再生の道を進む

当初、リフォーム業者の見積もりは150万~200万円だったが、3カ月半にわたるDIYによって50万円に抑えることができた。リフォーム費用を差し引いた利回りは30%を超える。

大家仲間のサポートも受け、1月には大阪でも戸建てを購入した。リフォーム代込みで150万円程度となる見込みで、利回り25%超は可能とみている。

今後も築古戸建てを買い進める計画だという。「今、シェアハウスは満室ですが、いつ空室が出るか分からないから緊張状態が解けません。今後、相場が下がることを見越して、戸建てを買って補てんしたいという気持ちで今も必死です」

他のオーナーの力に

かぼちゃの馬車の購入については「自己責任と思って必死に努力してきた」と語る一方、スルガ銀行が審査書類の改竄などの不正に加担した可能性が取り沙汰されていることについては、やり場のない思いを抱えている。「白黒が完全にはっきりしたら、スルガ銀行にしかるべき措置、つまり代物弁済を求めていきたいという思いはあります」

周辺のかぼちゃの馬車はいまだに全空の物件も多い。「自分が短期間で埋められたのは時期や立地、住居との近さも含めた特殊な例で、リカバリーは簡単なことではない。ほとんどのオーナーは今も不安や恐怖と向き合いながら戦っているんです」

現在は、ほかのかぼちゃの馬車オーナーの物件の入居付けのサポートもしている。「もちろん同じ立場の人たちの力になりたいという気持ちもありますが、それ以上に、自分の物件が空いた時に埋まるかどうかが不安なので、人の手伝いをしながら自分のスキルを上げたい、つまり恐怖がモチベーションになっているんです。結局は泥臭く地道にやるしかない。今後も積極的に相談に乗っていきたいと考えています」

管理会社を切り替えたら赤字に

自主管理ではなく、管理会社を切り替えて運営するオーナーもいるが、リカバリーの道は険しい。

神奈川県の会社員Bさん(30代)は2015年に都内のかぼちゃの馬車を購入。スルガ銀行から金利4.5%の融資を受けた。「以前に一棟アパートを購入した仲介業者からの紹介でした。本当にこのビジネスモデルが成り立つのか疑問もありましたが、最初から借り換えを予定していたので許容しました」

月の保証賃料は60万円で、しばらく15万円ほどの手残りが続いていたが、1月にサブリース賃料が完全停止。2月に入ってすぐにサブリース契約を解除し、管理会社を切り替えた。「自主管理では自分で埋められる自信がなかったからです」

1室5万円で募集し、10室中7室から満室までこぎつけたが、10%の管理委託料に加えて光熱費や備品代、清掃代などを引いた手残りは30万円ほど。借り換えで金利は4.5%から2.0%まで下げたが、月の返済は35万円で、毎月手出しが発生している状況だ。

「買ったことは当然後悔していますが、騙されるほうが悪いし、恨み節を言ってもしょうがない。売却もできないので、とにかく借金を早く返し終わりたいという思いだけです。スルガ銀行からは借り換えをしているし、経営破綻したスマートデイズを相手に訴訟もできない。前を向いて満室経営を続けるしかないです」

入居率は持ち直したものの

2016年に約2億円でかぼちゃの馬車を購入した都内の会社員Cさん(40代)は、サブリース賃料が停止された1月の時点で12室中11室が空室という危機的状況だった。3月中旬、口コミで選んだ評判のよい管理会社と契約。管理委託料は15%とやや割高だが、わずか1カ月ほどで入居率8割まで向上した。

Cさんが所有する物件

「外国人の入居者が多いとはいえ、家賃はサブリースのころと変えていません。スマートデイズがどれだけ入居付けをまじめにやっていなかったか分かります」とCさんは言う。ただ、管理料が高いこともあり、マイナスが発生しているのが現状だ。

吹っかけられた見積もり額

サブリース賃料の完全停止によって、700人のかぼちゃの馬車オーナーは物件の行く末について選択を迫られることになった。多くのケースは実勢価格より割高な値段で取得していることから、購入価格よりかなり安い金額で手放すケースも多発。競売で2000、3000万円のかぼちゃの馬車を購入し、低家賃で利回りを確保している投資家も出てきた。もともとのかぼちゃの馬車オーナーは価格競争では勝ち目が薄く、近隣に競合があれば「差別化」が重要になってくる。

そんな中、自らの強みを生かした戦略でリカバリーを図るオーナーもいる。

東京都在住のDさん(30代)は昨年夏、新築ではなく築2年のかぼちゃの馬車を9980万円で購入した。「前のオーナーは3.9%で借りていたそうですが、どうシミュレーションしてもそれでは回らないので、信金から1.9%で融資を受けました。土地が割高だという認識はあったし、家賃保証がずっと続くとは思っていませんでしたが、築浅で返済比率は55%程度、消費税還付が取れて利回りを確保できればいいと思っていました」

もともとの利回りは8.6%という説明で、保証賃料は67万円。月の手残りは30万円弱だった。レントロールは1室8万円で10室中8室が埋まっているという記載だったが、今年1月にサブリース契約を解除すると、家賃は6万円で10室中2室しか埋まっていなかった。

サブリース契約の解除後、どこから聞きつけたのか管理会社からの営業が相次いだ。共用リビングがないと大手のシェアハウスサイトで募集ができず、2部屋を削って共用部屋を作ろうと考えていたが、各社から出された見積もりは300万円にも上った。

Dさんの本業は内装設計デザイン。「自社でやるとしたら壁の解体と床の張り替え、電気工事など含めて20、30万。300万円というのはあきらかにどんぶり勘定で、こんな吹っかけるような会社に管理を任せるなんてありえないと思って、自主管理の道を選びました」

「勝てるシェアハウス」に

もともとの設計会社とも連絡を取り、法令面や耐震性などを相談しながら、自社で2部屋を解体して15平米ほどの共用リビングを作った。差別化の戦略としてペット可部屋や筋トレルーム、華道室なども検討したが、現入居者の意見も聞き、癖のない部屋にしようと50インチのテレビとテーブル、ソファを置いた。

それから大手のシェアハウスサイトに掲載しようとしたが、「物件名も変えているのに、『元かぼちゃ』というだけで掲載拒否されるケースが多くて困りました」。家賃も6万円から下げず、現在も女性のみで募集しているが、2/8室から現在5/8室まで埋まった。それでも、まだ少し手出しが発生している状態で、入居付けに力を注いでいる。

「シェアハウスにはとにかくお金がなくて安いところに住みたい人と、仲間とワイワイやりたい人の2種類がいて、後者の方を積極的に取り込みたいと思っています」とDさん。「ほかのシェアハウスにはない経営をしたい」と、入居者とはLINEグループでやり取りしながら、関係性を構築するよう努めている。

共用リビングでテレビを見る入居者も現れ始めるなど、徐々に交流の芽は出始めた。入居者には「レンタカーを出すから旅行に行くのはどうか」「お金に関する勉強会をやろうか」などと提案している。「基本的にシェアハウスは退去が発生しやすい物件。入居者の顔が見える関係を続けていけば、少しでも退去を防げるのではと考えています」

取材したオーナーの多くは、「なるべくなら自分の戦略を表に出したくない」と本音を漏らした。他のかぼちゃの馬車オーナーは同じような苦境に立たされた仲間でもあるが、構造が一緒のシェアハウスで限られた入居者を取り合うライバルでもある。この厳しい状況の中で、どうやって他にはない価値を生み出し、満室を維持していくか。今後も戦いは続いていく。

(楽待新聞編集部・金澤徹)