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今月の土曜日は「今、私が初心者だったらこう動く」をテーマに、不動産投資家の方々にリレーコラムを執筆いただいています。
今回の執筆者は大家歴30年を超えるベテラン、加藤隆さん。自身の経験を振り返り、重要なのは「リスク分散」だと語ります。
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今回は、私の「今、初心者だったらこう動く!」をご紹介いたします。
結論から言うと、低リスクな投資から始め、徐々にリスクを取り、かつ、リスク分散する手法を取っていたと思います。どんな時代であろうとも基本は変わりません。長い目、大きな目で見ることが大切です。それを説明するために、私の不動産投資の軌跡をちょっとお話します。
私の不動産経営、事始め
1982年(23歳)、私は、サラリーマンになりました。そのときから資産運用ということで、預貯金、外国為替、貴金属、株とやってきました。
1986年(28歳)から、不動産経営を始めました。当時は不動産賃貸業といえば昔ながらの地主や大家がやるもので、私のような安月給の貧乏サラリーマンがやるものではありませんでした。
そんな時代背景の中、ある不動産会社がローンを活用して、ワンルームマンション経営をするシステムを構築しました。15平米程度の狭めのワンルームで、ビジネスホテルのような、バス・トイレ、洗面所一体型の3点ユニットタイプのものです。今でこそ狭いと思われそうですが、当時は、ホテル感覚と大人気でした。価格は1戸1000万円程度。まだ、安定していました。
当時は調達金利が高く、年利5~8%で、頭金は物件価格の10%(100万円)程度です。諸費用は、7%(70万円)程度。そのころには家賃ですべてのローンを賄うという発想はなく、持ち出しが月1~2万円となっていました。
それでも借入金はどんどん減っていくので、貯金感覚でした。ローンが終われば家賃はほとんど入ってくるし、年金代わりになります。団体信用生命保険という保険機能もあるし、節税機能もあります。
私はしがない貧乏サラリーマンで、時間も金もなかったので、不動産賃貸のシステムができていて、しかも、借入金が活用できるのは、有り難かったです。そして、何よりしがないサラリーマンでも、未来の可能性が見えだしたのです。
ところで、私が買った物件はといえば、西武池袋線の東長崎駅(池袋から各駅停車で2駅目)のそば。池袋は学生時代通っていましたし、東長崎は知り合いも住んでおり、土地勘もありました。
女性専用で、ピアノルームもあるような楽器対応の新築マンションです。楽器をする人は音漏れの関係等で嫌がられがちですが、防音設備も整った仕様のマンションで同趣味の方達を集めることにより、環境を整えようというコンセプトを気に入りました。
その後、このマンションは…
この物件はその後、バブル期で値上がりし、担保余力も出たので、これを担保に結婚資金を借り入れることができました。
実は、結婚資金も含めて株で運用していたのですが、1990年年初からの株の大暴落で、塩漬けになってしまいました。結婚資金としては、私と妻で合計800万円程度(当時は未だバブルの余韻がある頃で、ホテル・新婚旅行等にこのぐらいかかりました)必要だったのですが、そのうち400万円程度、借り入れることができました。
1990年に結婚し、25年ローンで、つい最近の2015年、やっと返済終了となりました。その後、東長崎近隣のエリアには都営大江戸線も通り、新宿等にも出やすくなりました。やがて、当該物件購入資金のローンも結婚資金ローンも返済が終わり、家賃がほとんど手残りとなるようになりました。
さらには、本物件等を共同担保に活用し、長期間かつ低金利の融資を、オーバーローンで活用することもできました。ちなみに、私は長期保有スタンスで、売却はしたことはありません。
私の不動産経営手法
最初は東長崎のワンルームマンションでしたが、次は、上北沢の中古ワンルームマンションに行きました。そして、その次は地方の博多駅そば、中古ワンルームマンションへ…。
続いて、1990年の平成バブル崩壊後は札幌・東京の中古マンションを購入しました。そのあとは博多駅そば、名古屋駅傍(2棟)の新築一棟物アパート。そして、2012年末のアベノミクスからは、中古一棟アパート(名古屋駅そばと東京・永福町)、中古一棟マンション(京都駅そば)、中古戸建て(小樽駅そば)、中古一棟アパート(千葉駅そば)ときました。現状では、108戸になりました。
かように見てくると、当初はリスクの低いところから始め、徐々にリスクも取りつつ、やがては色々な手法を組み合わせて、リスク分散をしてきていることがわかります。不動産経営には色々なやり方があり、それぞれ一長一短があるからです。
東京から始めて、地方都市も。区分所有マンションから始めて、一棟物アパート、一棟物マンション、戸建ても。単身者用から始めて、ファミリー用も。新築から始めて、築浅、中古も。さらには、資金調達においても同様です。
自己資金多め(10%)から始めて、少な目(5%)、フルローン、オーバーローンも。固定金利から始めて、変動金利も。元利均等返済から始めて、元金均等返済も。団体信用生命保険有り(パッケージ型ローン)から始めて、無し(事業用(プロパーローン)も。
私が不動産投資を始めた頃と違って、今は資金調達が有利な状況です。融資が引き締まったとは言え、比較的融資受けしやすいですし、低金利で資金調達し、高利回りで運用でき、イールドギャップ(運用利回り―資金調達)も多くとれるいい時代です。
昔の日本では調達金利は高く、また、海外でも調達金利は高く、現在の日本のような不動産投資は不可能でした。今の日本だけが、イールドギャップが取れているのです。家賃で支払金利のみならず、返済元本も含めてローン返済できる物件もあります。
とはいえ、例の書類改ざん事件等もあって、規模がまだ小さかったり、1棟目を検討していたりする人、優良ではない物件等については、融資受けは厳しくなっているかと思います。
過去の歴史から見るに、好景気な時には家賃は安定しつつ物件価格のみが上がるので、利回り・資金繰りは悪くなっていきますが、資金調達が容易です。特に昨今は低金利政策が続いています。
逆に、今回のような事件があったり、不景気になって、融資引締めになったりすると、家賃は安定しつつも物件価格のみが下がっていくので、利回り・資金繰りは良くなっていきます。従って、どんな時代でも、一長一短ありますので、常にアンテナを張り、ウオッチしておいた方がいいかと思います。
世に出る本はすべて読む!
私が始めた昔は、一介の若い貧乏サラリーマンが不動産経営をやるなど珍しく、ネット(インターネットやメールマガジン、電子メールなど)は勿論ありません。書籍やセミナーも少なく、情報もあまりありませんでした。
でも、今はインターネット、書籍、セミナーなどが充実していますので、情報収集に努めやすい、いい時代です。そういった情報を活用して、不動産、法令、会計・税務など、スキルを身に付けたらいいと思います。
私が今、不動産経営を始めるとしたら、世に出ている不動産経営の本は、ほとんど読みます(今でも、ほとんど読ませていただいています)。早いと、1日で1冊読んでいます。通勤時間・朝の喫茶店・夜寝る前等の時間を活用しています。
不動産経営には色々な手法があり、それぞれ一長一短あると思いますが、自分と家族の性格、ポリシー、性別、年齢、職業、収入、財務内容などに応じて、最適なプランを選ばれたらよいのではと思います。
仮に、自分のポリシーと異なる本であったとしても、何かしら得るものはあると思いますし、場合によっては、反面教師にしてもいいかと思います。
また、相場感を養うためにも不動産サイトを見たり、不動産経営仲間・不動産会社・金融機関と接触したり、利回り・キャッシュフローを計算してみたりしたらいいかと思います。
信頼できるパートナーを
続いて、信頼できる不動産会社(設計・施工・販売・仲介・建物管理・賃貸管理会社)や金融機関を選定します。逆に言えば、悪徳不動産会社や金融機関に関わらないように注意します。メリットばかり言ってデメリットには触れず、選択肢を狭め、自分で判断させないような不動産会社は、良くないかと思います。
書類(「源泉徴収票」「預貯金通帳」「健康診断書」「レントロール」「重要事項説明書」「売買契約書」「手付金領収書」など)の偽造をほのめかしてくる金融機関や不動産会社にも気をつけましょう。
その次は、自分の財務諸表(貸借対照表・損益計算書・資金繰り表)を作成し、不動産会社、金融機関に提示したら融資条件・融資可能物件を聞き出し、それらを踏まえて自分の希望物件を絞り込み、その情報を不動産会社、金融機関に開示し、マッチングした物件が出たら情報を貰うようにしておきます。
情報が来たら即断即決し、融資内諾が出ていることも材料にし、取引を有利に進めます。仮に1番手が取れていなくても、ひっくり返せる可能性もあります。
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賃貸経営において最も大事なことは、不動産会社や金融機関等、良いパートナーを大切にし、立地や環境のいいエリアの物件を、いい条件の資金調達(融資割合・融資期間・金利)を付けて、割安価格で購入すること。そして、入居者の方を大切にすることかと思います。
不動産経営においては、家賃収入や保険効果、節税効果をうまく活用しつつ、あくまでインカムゲイン狙いに徹することが私の持論。「お金を残す」というよりは、「お金が入り続ける仕組みを構築する」「ノウハウを残す」というイメージが大切かと思います。
(加藤隆)
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