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突然だが、1つ質問をしたい。「あなたは、ゴキブリがたくさんいる家を収益物件として買いたいですか?」

たいていの人は、「え~? そんな汚い家は掃除も大変で、リフォーム代もかかりそうだし、よほど安く売っているなら考えるけど、あえて買いたいとは思わない」という反応をするのではないだろうか。

ところが、DIYが大好きな女性大家の「ひなたさん」の発想はユニークだ。

「ゴキブリがいるということは、建物が寒くなくて暖かいということ。虫が暮らしやすいということは、人間も暮らしやすいということ。だからゴキブリがいる家はいい家だし、反対にゴキブリも全然いないような寒い家は買いたくないの!」

昨今は、数百万円という手軽な価格で築年数の古いテラスハウスや戸建てを買い、不動産投資に参入する投資家が増えている。そうした投資家の多くが狙う物件の条件は同じようなもので、物件価格が安く、その割に水回りなど修理する箇所が少なくて、リフォーム費用があまりかからない物件だ。価格が高騰しているだけでなく、プレイヤーが増えた分、ここ数年は割安な物件を探すのが難しい。

そんな厳しい状況を勝ち抜いていくには逆転の発想や経験が必要なのだ。ひなたさんのユニークな着眼点の根源は、多額の借金をたった2年で返済するなど、波乱万丈の人生の荒波をくぐり抜けたことが大きく影響している。

行動力抜群の女性大家

ひなたさんは20戸の戸建てやテラスハウスを所有する、大阪在住の大家さんだ。築年数の古いボロ物件の壁を自ら壊し、自身で天井裏に潜って配線するなど、女性大家とは思えないDIYをする。購入した物件の間取りが使いにくいと感じると、さっと間取りも変えてしまう。

台所の床に穴を開けて配管を移動させたり、お風呂の場所を動かし、タイル張りの既存の風呂からユニットバスに変えたりもする。ヤフーオークションで落札したユニットバスを、200キロ離れた解体現場まで友人大家さんと一緒に取りに行ったこともあった。

中古のユニットバスを5000円で購入し、入れ替え(左がBefore、右がAfter)

ちょっとやそっとではまねできないほどパワフルでユニークなDIYにもかかわらず、会ってみると笑顔のステキな美人だ。

購入する物件の選び方も独特で、冒頭に紹介したようなゴキブリのいる物件に限らず、「ボロボロで腐りかけている物件の方がDIYのやりがいがあるので嬉しい」という。床や壁などが腐っていても取り替えればいいだけだからだ。これまで、実際にゴキブリがいた物件も購入したことがあるが、断熱材がしっかりと入っていたため、リフォーム時に新しく入れる必要がなく、その分安く済んだという。床や壁をはがしたときにゴキブリの卵がびっしりついていた時にはそれらを捨てて、シロアリ駆除のための薬をかけて対処するのだそうだ。

その一方で、物件の床下を覗いた時にジメジメと湿っていたり、柱が傾いていたり、外壁に横方向へ大きな亀裂があったりした場合は、再生は難しいので購入しない。

こういった物件情報は、懇意にしている地元の不動産屋さんに紹介してもらうことが多く、ついでに入居者候補も紹介してくれることがあるので助かっていると話す。

父の借金の返済を迫られて

ひなたさんは、厳しい父親のもとに育った。夫婦喧嘩になり、殴られる母をかばって、ひなたさんも父から殴られた。不登校になりながらも、教師に恵まれたこともあり、無事卒業。19歳で結婚し、21歳で息子を出産。22歳で新築の戸建て2600万円を自分名義で建てた。夫名義にしなかったのは、結婚しても自分の収入があったため、「自立した女性」として自分の責任で建てたかったからだという。

しかし毎月の返済が15万円と高く、だんだんと支払いが難しくなってしまう。そこで、住んでいた新築戸建を借家にし、家賃をローンの支払いに充てれば良いと思いつき、子供を連れて実家に戻る。これが大家業を始めたきっかけだという。

実家に戻ったものの、工場を経営していた父が病気に倒れ、入院してしまった。父は会社を大きくするために新しい機械を導入し、銀行から多額の融資を受けていたが、工場主の不在から信用が落ちて注文が減ってしまい、借金が大きく膨らんでいた。悪いことは重なり、ひなたさんの母が詐欺に合い、借金を重ねてしまう。信頼して工場経営を任せていた重役も逃げてしまった。残された借金は1億円。当時の銀行は「お父さんの代わりに、娘のあなたが借金を返済しなさい」と強く迫ったという。

その頃、夫と離婚しシングルマザーとなっていたひなたさんは、2歳の子供を育てながら毎日必死に働いた。

「早朝に朝刊の新聞配達をして、朝8時から夕方4時30分までは建築会社で営業や社長付の運転手をしました。そして、夕方5時から夜遅くまでは本業の講師業で、毎日別の場所に教えに行っていました。週末も泊まり込みで働き、ほとんど休みがなかったです。子供は、朝は母が保育園に連れて行ってくれて、夕方はママ友が自分の子供と一緒に面倒を見てくれました。本当に助かりました」。

多くの人の支えがあり、そして自身が必死に働いた甲斐もあって、たった2年間で2000万円を稼ぐことができたという。

当時はバブルの時代。貸していた新築戸建も賃貸してから2年後に購入金額よりも700万円も高い金額で売り抜けることができた。そして父の工場を6000万円で売り、ひなたさんの姉も協力してくれて他からもお金をかき集め、2年で1億円の借金を完済することができた。

「今なら、父名義の借金を娘の私が返さなければならない義務はなかったことがわかります。でも、当時の銀行は、私に父の名前で毎月返済金額を振り込ませたのです」。

借金を完済し、ホッとしたのもつかの間、借金返済のために工場を売ることに大反対していた母が、ひなたさんと姉の制止を振り切り、自分が経営者となって別の場所で工場を再開してしまった。ところが、経営がうまくいかず倒産。800万円の借金が残った。今回は法人名義での借金だったので、法的手続きをとることができたが、弁護士に依頼した費用など150万円はひなたさんと姉がまた負担した。

初めての収益目的物件での苦労

自身でもアイスクリーム店やリサイクルショップを経営し、繁盛させたこともある商才あふれたひなたさんだが、大家業は23歳で新築戸建てを貸してから始め、その後、再婚して最初に住んでいた家を貸し、また次の家を買ってその前の家を貸す、という「ヤドカリ方式」で続けていた。

転機は36歳の時。初めて収益目的で区分マンションを買ったという。そのマンションは修繕積立金を自主運営で貯めており、住民が持ち回りで会計をしていたが、住民の1人が積立金約700万円を持ち逃げしてしまう。古い物件だったので、修繕が行われないと住み続けることができない。長年そこに住むおばあちゃんが困っていたのを見たひなたさんは、41歳の時にマンションの管理組合を立ち上げ、総会を開き、修繕費を再度積み立てることの合意をとりつけた。

1戸あたり毎月5500円、14室分を6年間積み立て、550万円ぐらいまで貯まったところで知り合いの業者さんに安くリフォームしてもらい、下水や塗装、雨漏りの修繕、駐車場、ポスト、玄関部分などの大規模修繕を終えることができた。

「大規模修繕が終わった時に、『お役御免』と思ってこの区分を売りました。この経験から、修繕費を貯めないといけない区分は二度と買わないと決めました(苦笑)」

その後、少しずつ戸建てやテラスハウスを買い足し、また売却した物件もあるので、現在は20戸を所有している。夫も自分も自営業で将来を年金だけに頼ることができないため、家賃収入を年金代わりになるように物件購入をしているのだと語る。

DIYにのめりこんだきっかけ

小学生時代に犬小屋を製作するほど、元々DIYが大好きだったひなたさんだったが、大家業を始めた当初は自分が住んでいた家を貸家にしたので、あまりリフォームせずに貸していた。

ところが、ある時入居者が「自分が費用を出すので、リフォームしてもいいですか?」と聞いてきたと言う。承諾したところ、その入居者が連れてきた大工さんは大手ゼネコンの元・型枠大工さんで、定年退職後に一人親方として独立していた大ベテランだった。その入居者の退去時にもそのベテラン大工さんにリフォームを頼んだことから、親しくなったそうだ。

「その大工さんの仕事ぶりを見ているうちに、自分でもやってみたくなったのがDIYにのめりこんだきっかけですね」。それ以来、ベテラン大工さんに物件のリフォームを発注しつつ、彼を師匠として、自分の物件のペンキ塗りから始めて、少しずつ技術やコツを教えてもらった。

もう一つ、DIYが好きな理由は、本業のストレスを解消できるからだ。ひなたさんの本業は講師業。子供の成績を上げて結果につなげなければいけないというプレッシャーや、保護者からの過剰な期待といった対人関係のストレスがきつい仕事でもある。常に多くの人と接する本業と比べ、一人で黙々と作業できるDIYは、ひなたさんにとって心の平安を取り戻すために必要な時間でもあった。

当初はDIYの進捗状況を、FacebookなどのSNSで共有。間取り変更のために壁をぶち壊し、抜け落ちていたボロボロの床を大工さんに基礎工事をしてもらってから自分でコンパネを打ち付け、フロアー材を貼ったり洗面台を設置したりといった内容に、友人達からは「ドン引きされた」そうだ。

唯一理解を示してくれた友人からブログを書くことを勧められ、日記代わりに書き始めると、「すごいDIYをする女性大家さんがいる!」と関西のDIY系大家の間で話題になった。

請われて、恐る恐る出てみたオフ会が楽しくて知り合いの輪が広がり、たくさんの女性大家さんやプロ級のDIYの技と速さを誇る大家さん達と出会うきっかけになった。

そして、第二種電気工事士など多くの資格を持つ女性大家さんに電気の基礎を教えてもらったことがきっかけで、仲間の大家さんと一緒に「第二種電気工事士」の受験にチャレンジすることに。この資格があれば自分で電気工事をすることができるためコストパフォーマンスが高いと、DIYをする大家さんには人気の国家資格だ。

筆記試験に備えるため、照明器具や漏電遮断器など器具や工具の図記号を覚え、電気の基礎理論や電気工事の施工方法、そして実際にスイッチや照明器具をつなぐ配線図など、講師業に行く前の約5時間、毎日毎日参考書を読み、何度も過去問題を解いた。

その甲斐あって無事に筆記試験に合格すると、今度は1カ月後に迫った技能試験対策。技能試験は事前に13問の候補問題が発表されるが、試験本番ではそのうちの1問が出題され、40分間で照明器具やスイッチなどを接続させる電気工事を完成させなければならない。

どの問題が出ても40分で完成できるよう、毎日電気ケーブルと照明器具等を電気工事用の工具で接続し、電灯回路の施工技術を上げる練習をした。

ほとんど男性ばかりが受験していた技能試験も一発で合格し、ひなたさんは晴れて第二種電気工事士の資格を取得した。

ちなみに、ひなたさんが受けた2016年度の第二種電気工事士の筆記試験受験者数は約11.5万人、筆記試験合格者は6.7万人なので合格率は約60%だった。技能試験は、1度落ちて再チャレンジした人も含めて受験者数8.5万人のうち、合格者は6.2万人なので合格率は約70%だ。合格率を見ると簡単そうに見えるかもしれないが、受験者の多くが工業高校在学者や既に電気工事関係会社で働いている人。そんな人々に混じって、独学で合格を勝ち取ったひなたさんは「すごい」の一言だろう。

30万円の工事が2万円にコストダウン

築古戸建てをまるまる自分でリフォームしてしまう凄腕大家さんにも弟子入りし、水道の配管や給湯器の付け方、屋外の外壁やベランダにつける平面アンテナの設置方法なども教えてもらっていたひなたさん。第二種電気工事士の資格を取得してからは、天井裏に上って、配線することでコンセントやスイッチの位置も自在に変える電気工事も可能になった。

例えば、平面アンテナ設置をプロに頼むと約2万円かかるところを、自分でやることで材料代の7000円で済む。キッチンの方向を変えて水道の配管工事が必要な場合でも、30万円が2万円に、トイレを和式から洋式に変更する工事では、20万円かかるところを約5万円で行った。このほかにも、分電盤や古臭いスイッチの交換も7分の1程度の金額で実施できるようになるなど、大幅なコストダウンにつながっている。

分電盤

ホームセンターでの「ナンパ」!?

よく行くホームセンターでも偶然の大きな出会いがあった、とひなたさんは話す。

「アンテナの部品を探していて、どちらの部品がいいかわからず、売場で2つの部品を手に持ってずっと悩んでいたの。そしたら、若い男性にナンパされたんです(笑)」

その男性は工務店を経営している大工さんで、親切に正しい部品を教えてくれたという。ひなたさんの手にペンキがついているのを見たその男性とDIY談義になり、翌日にはひなたさんのリフォーム現場に立ち寄ってアドバイスもしてくれた。その上ひなたさん一人ではできなかった、トイレの温水洗浄便座の付け方も後日教えてくれることに。

「大工さんを引き寄せたんですね(笑)。後で聞いたら、買おうと思っていた部品の前に私がずっと立ったままで邪魔だったから、声かけてどいてもらおうと思ったそうです(苦笑)。「師匠」のベテラン大工さんが引退して困っていたので、彼と出会えて本当にラッキーでした!」

これ以降、ひなたさん自身がDIYするには難しい部分、例えば壁に新しく窓をつけたり、間取りを変える時に邪魔な柱を抜いて、代わりに強度を保つための梁を入れたりするといったリフォームはプロの彼にお願いしている。自分でもできる部分は凄腕DIY大家さん達に教えてもらいながらDIYを楽しむ。自分でやってみて、最終的にできなかった部分を再度プロにお願いするという、大家業と趣味のDIYをするための理想的なパートナーが見つかったのだ。

目指す利回りは「16%」

ひなたさんは不動産投資をするうえで物件利回り16%を目指しているが、ついDIYをやり過ぎてしまうのが悩みの種だという。ベテラン大工の師匠にお願いしていた最初の頃は、なるべく大がかりなリフォームはせずに70万円ぐらいで納めていた。

ところが、ついリフォームに燃えてしまい、台所が玄関から見える場合はなるべく奥に移して見えない様にするなど、水回りの場所なども大胆に変えてしまうこともある。物件価格が100万円代でも、リフォームに300万円かけてしまうことも何度かあった。階段の幅が狭くて角度も急だと考えると、つい掛けなおしてしまうそうだ。

「昔、近所で解体している家があったので、知らない人の家だったんですけど、お願いしてタダでユニットバスをもらってきたことがありました」というひなたさん。購入した物件は玄関が小屋のように独立した建物だったため、万が一水漏れしても大丈夫だろうと考え、広い玄関をお風呂場に変更したそうだ。

ユニットバスの土間打ちから配管までをDIYで行っている

「自分で設置できるようなったら、次回からは買って取り付けたいと思っていたところだったのです。重いユニットバスを運びこむのは家族に手伝ってもらい、なんとか組み立てたんですが、隙間をコーキングしたもののどうしても水が漏れて…最後はプロに頼みました(苦笑)。原因は、古いユニットバスのジョイントが劣化していたのに対して、コーキングの量が足りなかったみたいです。今は、ユニットバスメーカーの組立研修にも参加したし、何度も物件現場で組み立てているのですが、何度やっても忘れていることが多くて…(苦笑)。ユニットバスもアンテナの設営も、わからなくなる度に教えてもらっています」

そんなパワフルなひなたさんが考える不動産投資の楽しさは、ボロだった家が生き返り、そこで家族が増えていく過程を見ることができることだ。

「自分が作った作品が価値のあるものとして認定されて世の中に出ていく時は、自分が描いた絵が高く売れたような気分です。失敗したかもしれないと思っても、長く借りてもらえたり、途中で修繕したりと時間をかければプラスで終わります。焦らず、粘り強くやればいいので安心と安定がありますね!」

リフォームでは、女性大家ならではの工夫も。例えば、主に家事を受け持つ女性にとって使いやすい間取りへの変更だ。片付いていない台所が玄関から見えてしまう間取りは多くの女性入居者が嫌うため、対面式のキッチンに変えるなど、最近のトレンドに近い間取りに。

また、和室が2部屋続く場合は間仕切り上部の垂れ壁を撤去して広い洋間1部屋に変えたり、屋外だった洗濯機置場も室内にしたりしている。

6畳+6畳の和室(Before)

変更途中の様子

リビング・ダイニングキッチンに(After)

節約志向で、お手軽な雑貨を取り入れることもある。心理学的には内覧時の第一印象が最も重要なので、一番先に目に入る玄関を特に美しく見えるようにしている。カフェ風の小さな黒板や造花、ぬいぐるみなど、100円均一などで買ったものに一工夫を加え、そのような値段には見えないような雑貨を置くのだ。

玄関飾りは、入居者が気に入ってくれた場合はプレゼントする。「時には『この雑貨は、好みではないので結構です』と言われることもありますが、ほとんどの人は喜んでくれました」(ひなたさん)

「DIYを楽しみながら不動産投資を」

DIY初心者へのアドバイスを聞くと、「壁紙を貼ったり、床にクッションフロアを敷いたりするところから始めたらいいと思います。まずは人目につかない押し入れで練習するといいですよ。回数を重ねると上手くなります! 水道の蛇口交換など、あまり力が必要でなく、部品も小さいDIYも簡単で楽しいですよ」

定価より材料を安く仕入れられれば、費用を抑えてDIYも可能。ホームセンターで格安の在庫処分品を見つけた時に買いだめしておいたり、ネットオークションで落札したり…欲しいものを公言していたら、友人大家さんが不用品をくれたこともあったという。また、近くの工事現場で声をかけ、捨ててしまう余った建材をもらうこともあると教えてくれた。

知らない人に声をかけるのに躊躇しないのか聞いたところ、「いえいえ。知り合いじゃないから、かえって気軽に声をかけられるんです!」と断言する。

「例えば、『犬小屋を作りたいので、何か余っていたらもらえますか?』って聞くんです(笑)。そして、自分の物件で再利用できるものは捨てないことも重要です。ゴミの処分に一番お金がかかるので、ゴミにしない方法をいつも考えて再利用しています」

入居後の賃借人とのコミュニケーションや、大家仲間や不動産業者、建築や設備関係業者との情報交換など、人間関係の構築も得意なひなたさん。

「これからもDIYを楽しみながら、不動産投資を続けていきたいです!」と明るい太陽にように、にっこりと笑った。

○取材協力 「ひなたのDIY 収益不動産 南大阪大家です」https://ameblo.jp/hinata0535/

(楽待編集部 / 野原ともみ)