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はじめまして。私は「建物の法律家」という肩書で、違法建築の適法化や用途変更といった法的に問題のある、あるいは法的に難易度の高い建物の改修・改装を専門にコンサルティング・設計を行っている一級建築士です。

私たちの会社には年間50件以上の「建物の法律」に関する相談が寄せられます。それらは今ある建物を改修する過程で、あるいは改修した後で、法的な問題に直面していることが判明している場合がほとんどです。

なぜこういうことが起こるのかというと、オーナーはもちろん、工事業者や建築士でさえ、「改修の法律」について精通している人が少ないからです。私たちへのご相談内容から想像すると、安易な考えで着工してしまい、問題に後から気づく、という事が多いようです。改修工事は新築よりも工事の規模が小さいので、低コストで難易度もそれほど高くならない、と考えがちですが、そうでない場合も多いのです。

知らないうちに違法建築を作っていませんか?

建物を新築する場合には、確認申請という手続きが必要になります。一方、建物を改修する場合、既にある建物に手を入れるので確認申請は必要ない、と思っている方もおられます。しかし、一定規模以上の増改築や、建物の用途が変わる場合には、確認申請の手続きが必要になります。また、確認申請が必要ない範囲だからといって何をやってもいいというわけではありません。下手をすれば、知らないうちに違法建築物を作ってしまうことになります。

私たちに相談に来られる方は、投資案件として物件を購入したものの、行政や消防から違反是正を指摘されて困っていたり、購入後簡単な改装をしただけのつもりが大きな違反を犯してしまったことに気づいて焦っていたりします。

「違法建築」というと、悪徳業者によるとてもひどい物件を想像しがちですが、このコラムで今後ご紹介する事例をご覧になれば、「え!? そんな事でも違反になるの?」と感じられるようなものもあると思います。違法建築は意外と身近なところに転がっているのです。

このコラムでは、そのような事態にならないために、どういった点に注意して物件を選べば良いのかを、私たちの元に寄せられた相談事例や実際の物件を通してご説明していきます。

まず「確認申請」についておさらいしよう

確認申請とは、建築基準法第六条に定められた、一定規模以上の建築物を

1.建築(新築、増築、改築のこと)

2.大規模の修繕・模様替え(主要構造部※1と呼ばれる建築物の重要な部位の半分以上を改修する行為。但し第四号の建築物を除く)

する場合に必要な手続きのことです。

※1 
主要構造部とは、壁、柱、床、はり、屋根又は階段をのこと。ただし、構造上重要でない部分や、局部的な小規模な部分を除く

建築物を新築・増改築したり、一定規模以上の改修を行う場合には、行政、あるいは行政から委託された民間の審査機関に図面を提出し、「建物の法律」に適合しているか審査することになっています。これを「確認申請」と呼びます。

この審査で建物の法律に適合していることが確認されたら、「確認済証」という書面が交付されます。原則、この確認済証が発行された後でなければ、工事に着手することはできません。

また上記の他、延べ面積が200平米以上※2の建物を、ある特定の用途に変える場合にも確認申請が必要になります。この手続きは「用途変更」と呼ばれ、既存建物を改修する時に最も必要となる可能性の高い申請行為です。私たちの会社への相談事例で最も多いのがこの用途変更に関するご相談です。大規模の修繕・模様替えや用途変更など、改修工事で申請が必要な内容については次回詳しくご説明します。

※2 
建築基準法の改正案(2018年6月20日可決、6月27日公布)で、それまで100平米であったこの用途変更の義務の規模が倍の200平米に変わった。法施行は公布から3カ月以内になされることが決まっているため、9月末までには施行される予定

「完了検査」とは?

無事に確認済証が発行され、工事が滞りなく進むと建物が完成します(行政によっては施工工事中に「中間検査」という手続きが必要な場合があります)。

建築基準法では、建物が完成すると4日以内に、建物が法律通りに施工されているかの検査を受けなければならない、とされています。この検査を「完了検査」といいます。

完了検査では、確認申請で審査した内容通りに施工されているかを検査します。行政や民間の審査機関の検査官が実際に建物に来て、申請で提出された図面と実物を目視で照合するだけでなく、仕上げなどで隠れてしまう部分、例えばコンクリートの中の鉄筋や、仕上げ材の裏側に隠れた鉄骨の溶接状況などを、工事写真や工事報告書などを見て細かくチェックしていきます。

この検査を経て法的な問題がないと判断されれば、「検査済証」という書面が交付されます。原則、この書面が交付された後でなければ、建物を使用することができません。

確認申請から完了検査までのフロー図(クリックで拡大)

基礎の完了検査では、写真の基礎部分の上部が完成して隠れてしまうので、基礎の高さやアンカーボルトと呼ばれる金物の施工が適切かどうかなどを、目視では施工写真や報告書でチェックする

ほとんどが違反! 検査済証取得率の現状

ところが、この検査済証を取得していない物件が多数あることが、ある公的な調査で明らかになりました。

国土交通省「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」より(クリックで拡大)

上図は2014年に国土交通省が発表した、完了検査率に関するグラフです。黒い折れ線に注目して欲しいのですが、平成10年の段階での検査済証取得率は38%しかありません。およそ3分の2の建物が検査を受けていなかったのです。

検査済証を取得していない物件は、竣工後の大規模の修繕・模様替え、用途変更等の改修工事の申請が非常に難しくなります。適法性を担保する客観的な証明が無いと考えられるため、当時の法律に適合していたことを事業者側で調査し、証明しなければならないのです。

上記の表の出典元である「ガイドライン」は、このような状況を危惧した国土交通省が、検査済証を取得していない建物のその後の改修についてどのような調査をすれば良いかの指針を示したものです。

国は、2013年の国勢調査で明らかになった、空き家数820万戸、空き家率13.5%という数字の改善に向け、中古建物の既存ストックを活用する方針を打ち出していますが、この検査済証取得率の低さが足枷になっていると考え、この状況の改善に乗り出す考えを示しました。その結果が上記のガイドラインなのです。

中古物件の売買、賃貸借契約時の注意点

◎売買時:費用を払ってでも専門家の目で見てもらう

以上を踏まえ、これから物件を購入しようとされている方に私から助言ができることとしては、まず購入前に建築の専門家、特に建築士やホームインスペクターに建物を見てもらうことをお薦めします。

2018年の宅建業法改正により、中古物件取引の際にホームインスぺクションの説明が義務化されました。買主の立場としては、この制度を活用して、建築士やインスペクターに調査を依頼することが良いと思います。特に建築の専門家は、書類や図面から違反や問題点が無いかを洗い出すことができますし、改修に長けた専門家であれば、実際の建物がどの程度の施工レベルで建てられたものか、あるいは耐震性の度合い、シロアリの被害の有無などについてある程度あたりを付けることができます。

売主の側としては、ホームインスペクションを実施すると「この部分は瑕疵に該当するので減額を要求したい」といった面倒なことを買主が言い出すのではないか? と考えがちですが、「契約後の厄介なトラブルを未然に回避する手段」として積極的に考えるのが良いと思います。建築の素人である売主が、重要事項説明書に書かれた建築の専門的な内容まで全て把握し、網羅することは不可能です。

だからといって、もしそれらを記載せずに買主に引き渡して、その後瑕疵が判明した場合にはトラブルに発展してしまいます。取引額が大きいため、建築紛争は長期になる場合が多く、売主も買主も得をしません。そういったトラブルを未然に防ぐ意味でも、買主、売主双方合意の上で、建物の調査を行うことは健全な取引を行う上で非常に重要なことです。

◎賃貸借契約時:安易に「どんな用途でも利用可能」と宣伝しない

物件オーナーの立場として、所有物件を賃貸に出す際にも注意して頂きたいことがあります。戸建て住宅をそのまま貸し出す場合や、アパートをアパートのまま貸し出す場合には特に問題ありませんが、例えば事務所用途の建物をその他の店舗等の用途で貸し出す場合には注意が必要です。

私が日常目にするマイソクには、「事務所/他用途転用可」と大きく謳っているものがありますが、実際に用途を変えるには先述のような確認申請が必要な規模であるケースが見られます。さらには、検査済証を取得していないにも関わらず、そのような記載をしているものがたくさんあります。

安易に「どんな用途でも利用可能」などと謳って契約してしまい、後に違法性が問題となった場合、テナントが通常予定していた期日に開業できないといった事態も起こりうるでしょう。そうなれば損害賠償請求をされる可能性もあります。

今回は既存建物、いわゆる中古物件の現状について概要をお伝えしました。次回以降は、改修工事の際に必要な手続き、そして事例を通して、それらにどのような問題点や注意点があるのかをご説明していきたいと思います。

(佐久間 悠)