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これまでこのコラムでは、元土地家屋調査士としての立場から、主に不動産の表題部登記に関するトピックや境界についての記事を書いてきました。現在は行政書士として実務を行っておりますが、最近は投資先として「民泊」を選ばれた不動産投資家の方から、民泊の申請に関するご相談を数多くいただいております。

そこで今回はこれまでと少し趣向を変え、「いま、民泊実務の現場で何が起こっているのか」をみなさんにお伝えしたいと思います。私の地元である関西地方の情報が多くなりますが、ご容赦ください。

6月15日、民泊関連法はどう変わった?

楽待編集部さんの記事でも既に取り上げられているのでご存じの方も多いと思いますが、今年の6月15日は「民泊解禁日になる」と世間でも注目されていた日でした。その背景として、以下の2点が挙げられます。

・「旅館業法」の改正による規制緩和

・「住宅宿泊事業法」(いわゆる「民泊新法」)の施行

まず旅館業法の改正内容については、「ホテル営業・旅館営業の種別を統合して1つに」「1客室の最低床面積の緩和」「最低客室数の廃止」「玄関帳場(フロント)設置に代替措置」などが挙げられます。そのほか、「便所・洗面所の設備基準の緩和等」も行われました。

旅館業法関連で他に注目されていたのは、「罰則規定の強化と立ち入り検査の対象拡大」です。改正以前は、無許可営業に対する罰則は最高でも3万円以下の罰金だったのに対し、改正後は「6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金」又は「これらの併科」と厳罰化されました。

加えて、以前は既に許可を得て営業している施設に対してしかできなかった「立ち入り検査」が、無許可営業施設も対象となりました。私自身、罰金規定よりもこの「立ち入り検査の対象拡大」が、違法民泊を一掃するカギになるのでは…と感じていました。

民泊関連法として新たに「住宅宿泊事業法」も施行されました。この新しい法律の目的は「国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、国民経済の発展に寄与する」(本文第1条より抜粋)こととされています。もう少し踏み込んで言えば、これは事業施設としての民泊ではなく「住宅」を宿泊施設へと安全に活用するための法律であり、全国で空家等を民泊として活用できるようにするためのものです。

民泊新法が分かる「3つのキーワード」

民泊新法を理解するには、以下の3つのキーワードを覚えておく必要があります。

(1)住宅宿泊事業者

(2)住宅宿泊管理業者

(3)住宅宿泊仲介事業者

(1)の「住宅宿泊事業者」は、空き家や空室を利用して実際に宿泊施設を運営する者のこと。民泊新法下での民泊運営は許可制ではなく届出制なので、届出をすることで、原則として年間180日以内であれば民泊を運営することができます(市町村による条例制限あり)。

(2)の「住宅宿泊管理業者」とは、住宅宿泊事業者から委託を受けてその事業を行う者のことを指します。その住宅に事業者が住んでいない場合や、居住している建物で5室以上の事業を運営する場合は、住宅宿泊管理業者に委託することが義務付けられています。具体的な業者としては、賃貸の管理業者さんや不動産業者さんを想定しています。

(3)の「住宅宿泊仲介業者」は、いわゆる民泊仲介運営サイトを指します。「Airbnb」などが有名ですね。登録制度が施行されたことでこの仲介事業者も法律の様々な規制を直接受けることになりました。

さて、この新法、旅館業法よりもハードルが低いはずのものでしたが、実際には民泊新法にかかる消防法の規定は旅館業法並みに厳しいため、意味のない法律だという声もあがっています。それでも、エリアによっては空き家対策に有効に活用できる法律だと私は感じています。

いずれにしても、6月15日を境に、改正旅館業法による規制緩和、住宅宿泊事業法(民泊新法)、そして既設の特区民泊制度によって、民泊を合法に行うための3法がようやく揃ったわけです。

民泊向き物件の奪い合いも

法の施行を控え、6月15日以降の民泊業界はどうなるのだろう…と、様々な憶測が飛び交っていました。罰金強化と立ち入り検査が実施される前に、早々に自分の物件を合法化したいと決断される方もちらほらと増えていました。大阪の話ですので「特区民泊申請」がメインです。

なかには特区民泊の規定である「床面積25平米」をクリアできない部屋で民泊を行っていた方が移転先に困り、床面積や消防設備等の条件が揃った物件が取り合いになったマンションもあります。消防法の規定をクリアできる建物が少なく、「他の事業主よりも先に取らなければ!」という焦りがあったのでしょう。共同住宅として特例を受けているマンションは消防設備が整っていないために、民泊物件として使用する場合、新たな消防設備の設置に多額の費用がかかるのです。

また、共同住宅の場合、建築時は消防の点検規程も緩く、そのまま放置されて消防設備に不備があったり、是正をしなくてはならないような物件も少なくありません。その費用を負担してでも民泊運営を続けたいという事業主さんが、多額の消防設備を支払いオーナーの承諾を得るというケースも珍しくありません。この設備是正費用負担を民泊協賛金、消防工事負担金といった名目で費用を支払うことで、民泊運営の承諾を受けている方も少なくありません。

そして6月15日が近づき始めた6月2日、大手仲介サイトのAirbnbから、無許可の民泊物件が一斉に削除されました。それまで約5万8000件あった物件は現在、1万5000件ほどに減ったとされています。こうした状況を受け、私の所にも「削除されるとしても6月15日以降だろう」「さすがに全件削除ということはないだろう」と考えていた運営者から新規の問い合わせが急増しました。

大阪市では、過去に無許可で民泊を運営していたことが判明すると、これから合法で認定申請しようとしても受け付けてもらえません。大阪市の保健所職員や違法民泊撲滅チームのメンバーは、かなりの件数の違法民泊を把握しています。私の事務所でもきっちりと無許可での民泊を休止したというご依頼人に限り、対応させていただいています。

他府県からの相談も急増

同時に、他府県の方からのご依頼も急増しました。いま私が受けている民泊申請(旅館業、特区民泊、民泊新法)案件の約3分の1は、地元関西の方ではなく関東方面の方、そして外国人の方です。どうやら代行業者さんが許可の取りにくい関東地方から関西への移行を勧めているようです。

他府県の方のほとんどは賃貸契約での事業申請ですが、外国人の方のほとんどは自己所有物件での申請です。大阪の方ならこのような価格ではまず借りたり買ったりしないな…と感じる価格で取り引きされています。

物件そのものも、昨年同時期の2~3倍の価格で取引されています。例えば星野リゾートが進出することで噂の西成区付近では、以前見られたような500万円以下のテラスハウス(長屋)はほとんど見かけなくなりました。今では似たような物件が民泊用にある程度リフォームされ、2000万円前後で取引されています。狭い場合は50平米以下、広くても80平米前後です。駅近物件だと広さに関わらずこのような価格でも取り引きされるケースも見られるようになりました。

まるでバブル、ホテル用地が高値で取引

違法民泊はいまでもAirbnbなどの仲介サイトにかなりの件数が残っているそうですが、6月2日の一斉削除の後は、合法を偽っているものも含め、平均宿泊費が激安価格に陥っていた時から50%程度、本来の価格へ戻しているように思えます。

さらなる宿泊費の正常化を見越して、不動産価格や賃料がまだまだ上がってくるのでは…という考えも否定できません。全ての地域で起こっている現象ではないですが、個人的に古家投資をしていた者としては、市内の穴場であったところも民泊バブルに巻き込まれ、もはや手が届かないな…とは感じています。

既存のビルや住居が一夜にして取り壊され「ホテル建設予定地」の看板が立てられているのも多く見かけるようになりました。大手法人や資力のある人は土地を購入し、既存建物を取り壊して一から建設する方向へと動いています。まるでバブル期に一瞬戻ったような錯覚になる珍しい光景です。

そしてこれらの事業計画に多くの海外系事業主が関わっています。案件相談も「この土地にホテルを建てるので申請をお願いします」といった購入後の事後相談も少なくありません。繰り返しになりますが、こうした「絶対にお金になるから、とりあえず買っておく」という感覚はやはりバブル期を思い出しますね。

ただし、地元関西の方は消防設備に問題を抱えたビルを格安で購入して工事を行い、民泊に仕上げていくというスタンスの方がまだ多いように見えます。既存の建物を活用するという事業計画には賛同したいのですが、かなり難易度の高い課題を抱えているビルでの相談が多いことは否定できませんが…。

今後の動きと不動産市場への影響

民泊だけに目を向けると、不動産市場への影響は「一時的なもの」と捉えるのが妥当でしょう。しかし、外国人が訪日する理由は単なる観光やオリンピック効果だけではないことにも注意しなくてはなりません。

街を歩いているのは観光客だけではなく、既に日本で事業を行って在留している外国人も多いのです。以前は貿易会社や旅行会社がメインだった在日外国人事業ですが、そこへ不動産業や医療業等も増え、複合企業として日本ビジネスに直接関わってきています。

大々的な移民法の改正はありませんが、在留するために必要な条件や書類規定も少しずつ緩和されています。日本人にはあまり知られていないような些細な緩和などにより、これから旅行者ではない外国人の来日もどんどん増えることでしょう。少子高齢化の日本においては、このままでは外国人事業主や労働者にどうしても頼らなければならなくなっていきます。

私自身、行政書士として民泊業務に関わっていなかったら、こんな場面を目にすることもなく、変化にも気付けなかったと思います。不動産投資の場にますます多くの外国人が影響を与え始めていることを、皆さんにも認識しておいていただければと思います。

(片岡美穂)