前回に引き続き、シミュレーションの重要性を再考していく本連載。
今回は、不動産業者から提示されたシミュレーションをうのみにして失敗、あるいは直前で購入を回避したという5人の投資家を取材した。

「いま振り返ってみれば買うべきではなかった」という物件を、彼らはなぜ購入してしまったのか? 不動産会社がはじき出した数字をなぜ疑わなかったのか?投資初心者による失敗が繰り返される背景を、船井総研土地活用コンサルタントの川崎将太郎氏、投資家の石原博光氏の分析とともに紹介する。

シミュレーションの罠1:家賃相場の調査を怠った結果…

木造アパートを新築した葛西聡一さん(仮名)は、「周辺の家賃相場の調査が不十分だった」と悔やむ。不動産会社が提示してきたレントロールの数字は実は1年前の家賃で、現在の周辺相場とはかけ離れたものだった。

葛西さんは昨年、単身者向けの木造アパートを横浜市内に新築した。「建築会社が提示してきた想定レントロールの数字をうのみにしていた」という葛西さんは購入時、周辺相場などを自ら調べることはしなかったという。

建物の引き渡し後、建築会社の提示した数字通りの家賃で入居者を募集した。ところが、管理会社を選定しようと査定を頼むと、どの会社の見積もりも現状の募集家賃より1割ほど安い。そこでようやく、「想定家賃が高かったのではないか」と気付いた。

建築会社に想定家賃の根拠を尋ねると、「1年以上前の家賃相場を使用している」と返答があったという。

「当時はその賃料でも簡単に入居がついたのでしょうが、1年間で競合物件が乱立し、現在はかなり相場が下がってしまっていたんです」(葛西さん)

周辺よりも若干高い家賃のまま募集をかけ、広告料3カ月分を支払うなどしていったんは満室に。だが、現在は全体の2割弱が空室だ。様子を見ながらだが、家賃を下げることも検討しているという。

空室がある状態でもキャッシュフローはマイナスでないため、致命的なダメージにはなっていない。だが、葛西さんは「自分自身で見積もりを十分に行うことの大切さが身に染みました」と話す。現在も投資規模を拡大しており、「新しく買う物件や、検討する物件には、この教訓を生かすようにしています」。

専門家はこう見る

・新築物件を提案する会社の中には、建築費で収益を上げている会社もあり、建物を売ることが目的な場合も。

ポータルサイトをチェックする、あるいは地元の不動産会社に電話するなど簡単な調査でも十分に有効。新築物件の場合は特に、根拠無く想定家賃が高めに設定されるケースがあるので疑ってかかるべき。

・新築の供給が増えた現在、新築というだけでは差別化は長く続かない。入居者が入れ替わる度に家賃改定のリスクを伴うことを考慮した上での投資判断が必要。

シミュレーションの罠2:打ち切られた家賃保証

「家賃保証を打ち切ったことはないという不動産会社の言葉を信じていました」と話す東京に住む古賀智史さん(仮名)。しかし、その信頼はわずか3年で裏切られる。

5年ほど前、不動産会社A社から2戸の区分マンションを購入した古賀さん。いずれも築30年弱のワンルームで、価格はそれぞれ約180万円と約200万円だった。

「2つの物件は、はじめからA社のサブリースがついていました。1件は4万円で、もう1件は5万5000円で家賃保証をするという話でした」

取材に応じてくれた古賀さん(仮名)

古賀さんは検討段階で、近隣の家賃相場なども十分に調査した。すると、A社が提示した保証家賃額が、相場よりも3割以上高いことに気付く。

不審に思った古賀さんが「家賃が下がることはないのか」と問うと、担当者は「下がっても1割程度です。それに、うちからサブリースを打ち切ったことはありません」と言い切ったという。

その言葉を信じ、古賀さんは2物件を契約。3年ほどは問題なく過ぎたが、突然A社から2物件の家賃保証をやめると連絡があった。理由は「会社の体力が持たない」。

「家賃を打ち切ったことがないと言っていたのに、おかしいと思いました。しかし、管理はA社にそのままお願いしていたし、実際の家賃額の保証だったらそのまま続けると言われたので、仕方なくその申し出を飲んだんです」

結果、それぞれ2万円、5000円という実家賃に基づいた保証内容で賃貸借契約を継続。「実家賃でも保証は続けてくれるというので、管理会社は変更しませんでした。売却時に家賃保証付きとして売り出すこともできるというのも大きな理由です」。

実家賃での保証に切り替わり、収入が大幅に減ってしまった

家賃保証を含めて交わした賃貸借契約書。3年が経過して、賃料が5万円下がってしまった

A社は他にも不誠実な対応が。

「サブリース契約を結ぶときも『お金を払うのはうちなんだから、入居者が実際にいるかどうかは教えられない』と言ったり、それなのに買ったあとで『入居者の募集をかけるので、広告料として家賃1カ月分の5万円を払ってください』と言ってきたり…実際の家賃は5万円に到底届かない額なのに」

A社に対しては「ふざけるな、と言いたい」という古賀さんだが、一方で「買ってしまえばなんとかなるだろうと思っていたのですが…痛い目を見て初めて目が覚めました」。

「今回の件でいえば、相場よりも高額な家賃を本当に払えるのか、家賃保証をすることにうま味があるのか…そういった点を、不動産会社の立場になって考えるべきでしたね」と教訓を話す。

その後、2物件とも売却のめどがたったという古賀さん。しかし、いずれも購入額を下回る損切りの状態だという。

専門家はこう見る

・購入を迷っている場合、人は特に「保証」という言葉に弱いもの。「返金対応」や「○年保証」などという謳い文句を信じ、その場で安易に決断することは避けるべき。今回のケースで言えば、最初に抱いていた不信感を徹底的に追及すべきだった。

シミュレーションの罠3:想定外の「固都税」で手出し2倍

「心配ないですよ。確定申告をすれば全額戻ってきますから―」

不動産会社のこの言葉に安心し、昨年、新築の区分マンションを4戸、サブリース契約付きで購入した武藤健介さん(仮名)。購入から3年が経った現在、ローン返済額から家賃収入を差し引いた約1万5000円に、想定していなかった固都税(固定資産税+都市計画税)が加わり、毎月3万円ほどの手出しが生じている。

「購入時に提示されたシミュレーションに固都税が含まれていないことは気付いていました」と話す武藤さん。

不動産会社に何度か確認をしたが、「全額戻ってくる」を繰り返すばかり。結局「そういうものなのか」とそれ以上深く考えることはしなかった。

武藤さんが不動産会社から提示されたシミュレーション表を編集部が再現したもの。月々の収支には固都税が含まれていない

インターネットで見つけた新築区分販売会社のセミナーに参加したことが購入のきっかけ。初めての不動産投資で知識もなかった武藤さんの質問に、担当者が丁寧に答えてくれたという。

当時、母親を亡くしたばかりだった武藤さんは、相続で受け継いだ約2000万円の現金を「資産に換えて、家族のために将来に残したい」と考えていた。

現金があることもその会社に伝えていたという武藤さんは、「今思えばいいお客さんだったでしょうね」と悔しさをにじませる。

「4戸目の購入時などは終電ギリギリまで商談が続き、『絶対に逃がさない』という気迫すら感じました。最後は私が折れて『分かった、買うよ』と伝えると、その瞬間、見たこともないような笑顔で、両手で激しく握手されたのが印象的です」

毎月1万5000円の手出しがあることは納得した上で購入したため「そこは恨んでいない」と武藤さんは言うが、想定していなかった固都税についてはやはり腑に落ちていない。

「固都税が戻ってきたのは、赤字が大きかった初年度だけ。2年目以降は固都税の分がそのまま赤字になり、想定していた額の2倍の手出しが出てしまっています。まんまと騙されてしまった、という印象ですね」

とはいえ、物件はすべて都市部の好立地にある。相続した2000万円はすべて頭金に消えたが、「今後の市況次第では売却益が出るかも知れない。成功か、失敗かはまだ分かりません」。

専門家はこう見る

・税金や諸経費など見えにくい数字は隠される傾向にある。固都税が還付されるかどうかは人それぞれ条件によって異なるが、自分の場合どのくらい還付されるのかを追及すべきだった。

・将来のキャピタルゲインを考える場合、新築から価格が安定してくる築6~7年目の物件価格が「いくらで売れるのか?」を知るよい参考になる。

シミュレーションの罠4:家賃に含まれた「水道代」に気が付かず

熊本県内にオーナーチェンジで1棟アパートを購入した古田淳司さん(仮名)は、物件購入前の賃貸借契約書の確認を怠ったために、「ある事実を見落としてしまった」と悔やむ。レントロールに記載された賃料に水道代が含まれていたのだ。

古田さんが購入した物件は、築30年ほどの鉄骨アパート。賃料は1室あたり約5万円だが、この賃料には水道代が含まれていた。

古田さんが購入した物件資料。家賃に水道代が含まれていることまでは分からない

前オーナーの頃から水道代を家賃と合わせて徴収し、オーナーが一括で支払う形で賃貸借契約が結ばれていたようだった。水道代の名目で徴収しているのは3000円×8戸で計2万4000円。

しかし、古田さんが毎月水道代として実際に支払っているのは約6万円と、3万円以上足が出てしまっている。

古田さんがこの事実に気付いたのは引き渡し後、入居者の賃貸借契約書を確認している時。書面にはしっかりと、水道代が家賃に含まれていることが記されていた。

「売主側の仲介業者からの説明は一切ありませんでした。意図的に隠していたのでしょう」と古田さんは憤る。

現在は満室を維持しているというが、使用量によって毎月変動する水道代は不安要素だ。

退去が出るたびに賃貸借契約を巻き直す方法もあるが、「水道の契約変更などの手続きを1戸ずつ進めていくのは大変な手間がかかる」ため、二の足を踏んでいる。

「出費は痛いですが、勉強代と思うしかないですよね」と話す古田さん。「水道代固定が入居付けに有利に働く」と前向きに捉え、入居者にはせめて水を無駄遣いしないようにとお願いしている。

専門家はこう見る

・今回のトラブルは事前に見つけづらいケース。ただし購入前の賃貸借契約の確認は絶対にやるべきだった。

・夏と冬は光熱費が上がることも考慮し、子メーターが付いている物件では、水道代を含めた家賃設定は避けた方が無難

・オーナーチェンジ物件では今回のようなトラブルに陥りがち。賃貸借契約の確認と事前の市場調査が必須。

シミュレーションの罠5:「100万円のコンサル料」で購入取りやめ

東京都に住む木原尚斗さん(仮名)は「不動産会社にはめられそうになった」が、事前の勉強で「裏のあるうまい話」を回避した。提案された物件は空室率や家賃下落の考慮がなかった上、謎の「コンサル料」が入っていた。

木原さん(仮名)が、当時の状況を明かしてくれた

昨年、木原さんは2棟目の物件を探すために不動産会社B社に赴いた。地方の一棟モノを中心に扱うB社は都心の一等地にオフィスを構え、知名度も高い。木原さんも当初は「良い物件があるのではないか」と期待して担当者と面談したという。

しかし、B社担当者から提案されたのはたった1物件。関東地方郊外にある単身者向けの木造アパート。当時で築30年超だった。「この提案には、多くの問題が散見されたんです」と木原さんは述べる。

不動産会社が作成したレントロールを編集部が再現したもの

不動産会社から渡されたレントロールは、同じ間取りであるにもかかわらず、最大1万円ほどと家賃のばらつきが目立つ。木原さんは「無理やり満室にするために家賃を下げたのでは」と疑念を抱いたという。

木原さんが確認したところ、このエリアの最安値は約1万5000円。その上、この物件より広さやスペックがいい物件でも、同じ家賃で入居者募集がかけられていた。

「少し調べてみるとこの周辺は空室が多く、3割ほどの空室率だという話もありました。それなのにこの物件のスペックですから、今後家賃は下げざるを得ないことが明白です」

空室率を考慮に入れて木原さんが自身で試算してみると、年18万円しか手元に残らない計算だ。さらに、家賃下落も考慮に入れれば、手残りはないも同然だ。

「これでは、修繕費などで吹き飛んでしまう。マイナスです。しかし、不動産会社は『年に50万円以上の手残りがあります』と説明してきました」(木原さん)

不動産会社の試算と、木原さんが独自に行った試算の比較。入居率や家賃の想定によって手残り額が大きく異なる

不動産会社が作成した諸経費の概算を編集部が再現したもの

さらに、この物件には別の問題も。

諸経費の概算の項目に「コンサル料」が最初から含まれていた。担当者によると「口座残高を調整するための業者への委託費用です」とのこと。金融機関もこの「プラン」を承知していた様子だったという。

「コンサル料も問題ですが、それでなくとも手残りがほぼゼロの物件です。積算価格も売値の5割に満たず、収益性も低い。買えるから買うというのは典型的な失敗のパターンで、ローンを組んでまで買う物件ではないと断りました」

こうした経験を通して、木原さんは「不動産業界は魑魅魍魎の世界です。投資家としては、『疑う』ということは絶対に必要だと思います」と警鐘を鳴らす。

専門家はこう見る

・不動産会社や建築会社から出される事業計画において、コンサル料ほどその内訳が不透明なものはない。建築費でのキックバックの場合、建築コストに上乗せするなど見えない形で提案されることもある。

自分で主導できない投資家はカモになる

不動産会社の営業マンはどのように考えているのだろうか。

都内の不動産会社に勤める近藤洋介さん(仮名)は、税金について話さない営業マンや、資料がそろわないまま契約を迫る会社もあるとしつつ、「投資家側にも問題はある」と指摘。経験上、手残りばかりを見ている投資家は失敗しやすいという。

騙されやすい投資家の特徴は「営業マンを信じ込んでしまう人と、単純に知識が足りていない人」。

「業者任せにしている人は騙されるし、騙すまでいかなくても、営業マンが『どうしてもこの物件を売らなくては』という時に、そういう人のところに良くない物件を持って行ってしまうことはあるでしょうね」(近藤さん)

カーテンを張って空室を賃貸中に見せかけることは序の口で、偽の銀行残高を提示するなど「業者は何でもできてしまう」(近藤さん)。こうした業界だからこそ、「不動産業者の言うことは、そこまで信じないでほしい」とクギを刺す。

また不動産会社に勤務し、投資家でもある越川和真さん(仮名)は、「不動産会社はコンシェルジュくらいに思って使ってほしい」と話す。

「この資料が欲しい、この情報が欲しい、と自分ではわからない資料や情報を持ってきてもらうための役目が不動産会社。イニシアチブをとるのは買い主側だということを忘れないでください」(越川さん)

ベテラン投資家の見解は

今回紹介した事例は、ベテラン投資家の目にはどう映るのか。

中古アパートを中心に豊富な実績をもつ投資家の石原博光さんは、「他人に委ねるのではなく、あくまで投資家自らの責任で判断すること」の重要性を改めて説く。

「例えば資料では現状満室でも、空室が多いエリアでは満室を『演出』していないとも限りません。空室率は高めに設定し、投資家が試算し直すべきです」

募集条件についても「広告費やフリーレントで賃料の半年分が持ち出しになる地域もあるので、事前の調査が必要です。自ら情報を取りにいかないと誰も教えてくれません」と警告する。

収支の前提が大きく異なってしまえば元も子もないというわけだ。

不動産会社に悪意がなくとも、マイソクやレントロールの内容にミスがないとも限らない。すべてのシミュレーションを疑い、自らの手で再計算をすることは必須だと言える。

ここまで紹介してきたように、物件の検討・購入時に十分すぎるほどのシミュレーションを行っていなければ、失敗の可能性が高まってしまう。

これまでも多くの投資家たちが失敗を繰り返してきたにもかかわらず、そうした歴史を学ぶことなく、今なお安易に物件を購入してしまう投資家も少なくない。

「自分は大丈夫だ」「どうにかなるだろう」―。そう思っている初心者の投資家こそ、同じ轍を踏まないよう、今一度自分と向き合ってほしい。

最後に、不動産会社から提示されたシミュレーションを検討する際、チェックすべき内容をリストとしてまとめた。これだけで十分という内容ではないが、物件購入にあたり、最低限クリアすべき条件として参考にしていただきたい。

(楽待新聞編集部 坪居慎太郎/浜中砂穂里)