なぜ、不動産投資の失敗は繰り返されるのか。

期待に胸を膨らませて物件を購入したにもかかわらず、経営難に陥ってしまい後悔の念に苛まれるオーナーは後を絶たない。そういったオーナーに話を聞くと、不動産会社が提示した収支シミュレーションを鵜呑みにした結果、計画通りの収支が達成できず立ち行かなくなってしまうケースが多いことが分かる。

この連載では、そのような投資家の失敗事例を通じ、自らの手でシミュレーションを行うことの重要性について考えていく。

初回は預金残高の改ざんやレントロール偽装などの不正が発覚した「TATERU」の問題を取り上げる。特別調査委員会が不正の有無について調査を進めているが、今回は別の視点から、投資対象としてのTATERUの物件、そのシミュレーションの妥当性について検証してみたい。

複数のオーナーから提供された当時のシミュレーション資料を確認すると、投資対象としては疑問符が付くケースも多い。今になって問題に気付いたオーナーたちの多くは「しっかりと考えてから購入するべきだった」と後悔の念を抱いている。彼らはなぜ、物件の購入を決断してしまったのか。

とにかく投資が好きで

「いま振り返ってみると、自分は本当にいい『カモ』だったな、と思います」

千葉県在住のEさん(30代男性)は2016年、TATERUから県内のアパートを購入した。「アベノミクス相場に乗って株で利益を出した後、買いたい銘柄がなかったときに会社が上場したんです。とにかく投資が好きで『早く次の投資をしたい』という気持ちがあって、ホームページを見たら物件もきれいだったので…」

以前から不動産投資に興味は持っていた。「ポータルサイトで物件を見たりしていたんですが、なかなか問い合わせまでのハードルが高かった。でも、この会社の場合はアプリをダウンロードして個人情報を入力したら、担当者からすぐメールが来て、つながることができたんです。株も本などを読まずやりながら勉強してうまくいったので、不動産も同じように『まず買って、やりながら覚えていけばいいや』と思ったんですが、今考えればそれが大間違いでした」

1棟目は千葉県のアパートで、1Kロフト付き6戸、価格は7600万円。利回りは7.11%という説明だった。「担当者は若い女性で、特にガツガツした感じでもなかった。収支についてはあまり詳しく説明されず、私自身がとにかく『買いたい』という気持ちが強すぎて先走ってしまった。自分でシミュレーションすることもなく、向こうの資料を鵜呑みにして、単純に『新築だし、利回り7%ならいいだろう』と考えていました」

水増しされた「表面利回り」

当時提示された事業計画書を見ると、おかしな点がある。

提示された事業計画書(クリックで拡大)

「表面利回り」として記載されている数字は7.11%だが、満室時の年間家賃収入を物件価格で割ると5.92%になる。よく見ると、資料には小さく「消費税額及び諸経費相当額を控除した金額で算出」との記載があり、建築費の消費税や外構・地盤工事代、諸経費などを抜いて計算されていた。つまり、購入価格を実際より低く計算することで、見かけの利回りを高くしていることになる。

さらに、収支シミュレーションを見ると、入居率は2年目から35年目まで一律96%、家賃下落も20年目まで3年ごとに1000円の下落という楽観的な試算。大規模修繕費や広告費などは盛り込まれておらず、年間の原状回復費も10万円のみになっている。家賃設定も相場より高い6万3000円に設定されていた。

収支シミュレーション(クリックで拡大)

船井総研土地活用コンサルタントの川崎将太郎氏は「通常あり得ない入居率で試算しているからこそ原状回復費が1年で10万円になっているが、実際はこの通りにいくはずがない」と指摘。「また、このエリアはワンルーム物件の競合が多く、今でも5万円台の築浅物件で空室がゴロゴロ発生していて、20年後に5万5000円では戦えない。家賃下落も通常は年率1~2%の下落を見込むべきで、0.6%の計算では甘い。10~15年後は外壁塗装や水回り、配管など大規模修繕で200万ぐらいの出費を見込んでおくべきです」

問題なのは、この楽観的なシミュレーションでさえ15年目の年間キャッシュフローがわずか25万円ということ。「古くなって改修の必要性が高まっていけば、普通に運営して満室でも赤字にしかならない。銀行は入居率80%ぐらいのストレスをかけてシミュレーションするのが普通なので、それで計算したら大赤字の案件。融資を通していること自体が理解できないレベルだと思います」(川崎氏)

念書の内容に驚く

Eさんの当時の年収は約400万円で、株と預金で計2500万円の自己資金があった。200万円ほどの頭金を入れ、西京銀行から2.55%・35年で融資を受けた。返済比率は68%。

建物代金の金消契約時に、いきなり西京銀行から差し出された念書に驚かされた。TATERUと管理委託契約を結び、ローン完済まで契約を解除しないことが融資条件になっていたからだ。「アパート建築代金でフロー収入を得て、さらに管理委託料5%の収入を確実に得続ける、という仕組みに気づいた瞬間でした」

さらに、管理委託契約時の合意書には「原状回復時の修繕業者に対する工事の見積もり・発注はTATERUが行う」という文言があった。「原状回復時に相見積もりをしたり、オーナー側で安い業者を見つけたりすることもできないということ。それでも、当時は『そういうものなのか』と思ってサインしてしまいました」

建物は無事に完成したが、竣工の3カ月前から募集をかけたのにもかかわらず、引き渡し時の入居者はゼロだった。そもそも駅徒歩14分の立地で周りには競合も多く、家賃も相場より高い。2カ月後に1人目の入居者がようやく決まったが、3カ月で退去した。「この投資が失敗したと気づいたのは、買って1年以上経ってからでした」

1棟目の室内

提示された収支シミュレーションでは、1年目の年間キャッシュフローは71万5900円になっていたが、実際手元に残ったのは9万4000円だった。最初の入居までは空室保証がついていたものの、取得税を含めれば赤字。「1億の物件を買ってこれか…と絶望しました」

Eさんは1棟目の土地決済後、同じくTATERUで2棟目も購入している。「また次も買いたくなってしまって、自分から話を持ち込んだんです。大阪市の端のほうで、乗降者数1万8000人ぐらいの小規模駅から徒歩10分ほど。そもそも賃貸需要が少ないエリアでした」。こちらも満室になったのは竣工から4カ月後だった。

今でも入居付けにはかなり苦しんでいる。現在は2棟合わせて12/14室の入居で持ち出しが発生しており、来月上旬までにさらに2室が退去予定で赤字の額は膨らむ。「広告費3カ月、フリーレント1カ月でなんとか埋まる状態。しっかりと家賃相場や賃貸需要をチェックしておけばよかった、という後悔の念は消えません」

2棟目の外観

50社に断られて

Eさんは1、2棟目の失敗を3棟目で挽回しようと、去年の4月ごろから1年ほどかけて50社ほど不動産会社を回ったが、年収400万に対して1億5000万の借入は大きく、ほぼ相手にしてもらえなかった。「多くの会社が預金残高の水増しや二重売買契約を勧めてきたので、TATERUの不正疑惑を聞いた時もあまり驚きはありませんでした」

現在の残債は1億5000万円。西京銀行には今年2月に金利交渉をしたが断られた。土地と建物も割高な価格で掴んでいるため、残債と同額で売りに出しているが一切問い合わせはない。「もう心が折れて、物件を買う気はなくなっています」

「しっかりと資料を見ておくべきだった」と後悔を語るEさん

1、2棟目については「結論から言うと『買ってはいけない物件』でした」と振り返る。「まず実際のイールドギャップが低すぎてCFが出ず、契約で縛られているので自主管理でCFを改善することもできない。賃貸需要がいい場所ではないし、家賃も高い。家賃を下げれば売却時の利回りが下がるから、ADを上げるしかない。そもそも実勢価格より高く掴んでいるから出口もない。最初にこういったシミュレーションをしていたら、当然買わなかった物件でした」

西京銀行でしか借りられない

ほかのオーナーに話を聞いても、シミュレーションの問題点に気づかず購入を決めてしまったケースが多い。

愛知県のFさん(30代男性)は2016年、ネット広告からの資料請求をきっかけにTATERUのアパートを購入した。「それまでに購入したアパート2棟の借入2億円がネックとなって断られ続け、なかなか3棟目が買えずにいたんです。ただ、ここだけは西京銀行の融資がセットになって購入できるという話だったので購入を決めました」

物件は1K×8室で9000万、利回りは6.67%という説明。「名古屋駅の隣駅から徒歩10分ほどと、立地はよく、シミュレーションも一応家賃が下がっていく試算になっていたので、いい印象を持ったんです」。西京銀行の融資は金利2.85%・35年という条件。「どこも借入できないような状態だったのに、1億近い融資がこんなにさらっと通るんだ、と驚きました」

実際に購入すると、満室時の手残りは12万で、2室空けば手出しが発生することになる。「竣工から1年の間に周りで同じようなスペックの物件が増えて、2室空室が出たため、家賃を当初想定から3000円下げました。退去のたびに発生する広告費が盛り込まれていなかったから、シミュレーションと実際の収支にはかなり差がある。借り換え交渉をしていますが、厳しい状況です」

「なんとかします」

京都府のGさん(30代男性)は2016年に購入。1R×6室で、価格は7000万、利回りは6%ちょっとという説明だった。

「当時は自己資金が200万円ほどでしたが、担当の営業マンが『なんとかします』と言ってきました。その時は銀行と交渉してくれるものだと思いましたが、今になってその意味が分かった感じです。物件価格に消費税が入っていないことを指摘したら『うちは抜くスタイル』『利回りではなく手元に残るキャッシュでみてください』というようなことを言われた記憶があります」

西京銀行は金利2.6%・35年という条件。「金利も高かったので他行にも相談しましたが、全て断られ、西京銀行しか応じてくれなかったんです。担当の営業マンは『5年ぐらい経てば借り換えできますよ』と言っていました」。実際に稼働から半年後に借り換えに成功し、月のキャッシュはプラスになっているが、税金などを引くと1室空きでトントンぐらいになる計算だという。「思ったより出入りが激しく、入居率96%というのは実現不可能ということが分かりました」

もちろん、TATERUの物件を購入し、金利の引き下げなどに成功して長期間にわたって利益を上げているオーナーも多い。また、今回紹介した以外の複数のオーナーからは「他の不動産会社に比べると、TATERUはかなりストレスをかけたシミュレーションをしている」といった声も聞かれた。

オーナーたちも「投資は自己責任」という点は認識している。業者の説明を鵜呑みにせず、事業計画書やシミュレーションを自らの目でしっかりとチェックし、さまざまな角度から「買っていい物件」かどうか判断することの重要性をあらためて示した事例といえる。

次回以降、シミュレーションのどのような部分をチェックして投資判断をするべきか、失敗を防ぐための具体的な対策を紹介していく。

(楽待新聞編集部・金澤徹)