滞納リスクへの対策として普及している「家賃債務保証」。平たく言えば、滞納が発生した場合、保証会社が入居者の代わりに家賃を立て替えてくれるサービスである。

普段、大家が保証会社と直接やり取りをするケースは少ないが、現在、家賃債務保証の現場は大きく変化しつつある。今後、保証会社が賃貸経営に大きく関わってくるかもしれない。

今回は、大家にとって近いようで遠い、家賃債務保証の仕組みに迫ってみたい。

保証会社を決めるのは誰?

大家にとって家賃債務保証がイマイチ身近に感じられないのは、自ら保証会社を選ぶケースがほとんどないためだろう。それはなぜか。

まずは以下の図をご覧いただきたい。家賃債務保証はこのように、大家、入居者、そして保証会社という三者間の契約により成り立っている。

通常の賃貸借契約に加え、大家、入居者がそれぞれ保証会社と保証に関する契約(賃貸保証契約、保証委託契約)を結び、入居者が保証会社に保証料を支払うことでサービスが提供されるというのが基本的な仕組みだ。

ポイントは図中右下、管理会社の存在である。

保証会社の決定プロセスにおいて、管理会社(または仲介会社)は保険で言うところの代理店のような役割を担っている。つまり、管理会社が保証会社に代わり、家賃債務保証というサービスを代理販売していると言える。

通常、管理会社は複数の保証会社と契約しており、その中から保証会社を選んで大家へあっせんする。結果、大家からすれば限られた選択肢から保証会社を選んでいることになる。

滞納報告型と集金代行型

続いて保証の内容について見ていこう。保証会社によって異なるが、家賃の立て替え方法には大きく次の2種類がある。

1つ目は「滞納報告型」などと呼ばれるベーシックなタイプ。家賃の滞納が発生した場合、その都度必要書類を家賃保証会社に提出して滞納を報告し、立て替え払いを受ける。通常、滞納報告には期限が設けられており、それを過ぎれば保証が免責になることがあるため注意が必要だ。

2つ目は「集金代行型」などと呼ばれるタイプ。入居者からの入金の有無に関わらず、指定日までに家賃保証会社から立て替え払いが受けられる。この場合、書類の提出や滞納報告は不要だ。ただし、集金代行型のサービスを提供していない保証会社もある。また500円~1000円程度の振込手数料が別途かかることが多い。

保証会社からの主な立て替え方法。それぞれにメリット、デメリットがある ※クリックで拡大

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審査基準と保証料の関係

保証料は通常、入居者が負担する。初回契約時に月額家賃の50%、以降1年ごとに1万円の更新料を支払うというパターンが一般的だ。ただし、金額は保証会社や入居者の属性によって変わってくるという。

都内で不動産管理会社を経営し、10年以上前から大家に保証会社をあっせんしているという若林雅樹さんによると、「保証会社によって入居者の審査基準は異なり、審査基準の厳しさに比例して保証料が安くなる傾向にある」という。大手など審査の厳しい保証会社の場合、「初回保証料が月額家賃の20~30%というケースもある」そうだ。

保証会社にしてみれば、属性が高くない入居者に高い保証料を求めるのは当然のリスクヘッジだろう。一方、代理店である管理会社からすれば、審査の厳しさと保証料の関係を利用すれば、「属性に何ら問題のない入居者には審査の厳しい保証会社を付け、その代わり保証料の負担を減らす」(若林さん)といった具合に、保証会社を使い分けることも可能になる。

民法改正の影響で増す重要度

ここ数年、家賃債務保証の利用率は増加傾向にある。要因はいくつか考えられるが、1つの契機となったのは「リーマンショック」だろう。

家賃債務保証の利用率の推移。右肩上がりに増加している(日本賃貸住宅管理協会「家賃債務保証会社の実態調査報告書」を基に編集部で作成)※クリックで拡大

保証会社が最も多く誕生したのは2006年から2010年の間と、ちょうどリーマンショックがあった2008年と時期が重なる。失業者や非正規雇用者が増加したことにより、連帯保証人の要件を満たせない人が増加した結果、保証会社のニーズが急増、普及のきっかけになったと考えられる。

保証会社が会社を設立した時期について調査したアンケート結果(サンプル数は55社)。2005年以降、2010年以前の設立が約43%と最も多い (日本賃貸住宅管理協会「家賃債務保証会社へのアンケート調査」を基に編集部が作成)※クリックで拡大

そしてもう1つ、今後家賃債務保証のニーズがさらに増加するとみられる要因がある。2020年4月に予定されている「民法改正」だ。同改正の目玉の1つは連帯保証人の保護。その一環として、連帯保証人が負担する金額に上限(極度額)が設定される予定だ。

これがなぜニーズ増加につながるのか。行政書士の片岡美穂氏は次のように考察する。

「民法改正による極度額の明記は、一見すると連帯保証人に安心感を与える制度に思えます。しかし、実際に契約書に印鑑を押す立場になって考えてみるとそうとも言い切れない。『金〇〇〇万円』などと具体的かつ高い金額が書かれていては、連帯保証人になることをためらう人も増えるかもしれません」

連帯保証人となる人が減れば、保証会社のニーズはさらに高まる。実際、国土交通省もそうした事態を見越し、民法改正後の新たな賃貸借契約書のひな型に、家賃債務保証会社の利用を想定した「家賃債務保証型」を用意している。 

民法改正に合わせて改訂された賃貸借契約書のひな型。上が「家賃債務保証型」、下が「連帯保証人型」(国土交通省のWebサイトより)※クリックで拡大

多様化する保証会社のサービス

保証会社の利用率が上昇する中、各社はこぞって付加価値のある商品を発売し、他社との差別化を図っている。最近は単なる家賃保証の枠を超え、原状回復費や訴訟費用の負担、高齢者の見守りサービス、残置物の撤去費用までカバーする商品も登場するなど、保証会社各社が提供するサービスはかなり多様化している。

他に珍しい例として、入居者への就業サポートや食料支援を行う保証会社も登場している。今回、編集部ではこうした独自の取り組みを行う株式会社Casaに依頼し、保証会社の日常業務を取材した。その様子は以下の動画でご覧いただきたい(動画は記事該当部分の3:08から再生されます)。

 見落としがちな保証会社倒産のリスク

大家の視点で見た場合、家賃さえ滞りなく振り込まれればそれで十分であり、「保証会社はどこでも同じ」と考えがちだ。しかし、保証会社を巡るトラブルが思わぬ損害をもたらすこともある。

今から10年ほど前、当時業界最大手の一角だった保証会社A社が経営破綻した。発端はある月の月末、A社から大家への家賃入金が数日遅れたこと。そしてその翌月、突如として破産手続きが開始され、保証業務もストップしてしまった。

当時、渦中の不動産会社やオーナーはどんな状況に置かれていたのか。

「あの時はとにかく大変な騒ぎでした」と振り返るのは前出の若林さんだ。当時、若林さんの会社で管理していた約900物件のうち7割程の物件で、A社の保証を利用していたのだ。

若林雅樹さん

大家の利益を守るはずの保証会社が倒産するという想定外の事態に、社内はパニックに。他社への切り替え作業に追われ、莫大な時間と労力を削り取られた。

「新たな保証会社を見つけるにしても、既存の入居者1人1人を改めて審査してもらわなければならない。過去に滞納歴のある入居者などは新たな保証会社の審査を通過できず、結局、本当に保証を付けたい入居者が無保証、という事態に陥ってしまいました。滞納歴を隠蔽して審査を依頼したら発覚時に保証が切られてしまいます。当然、嘘をつくわけにもいきません」(若林さん)

大家に実害が生じるケースも

実害が生じるのは管理会社だけではない。

楽待コラムニストのゆたちゃんさんは今から8年ほど前、契約していた保証会社が倒産し、家賃の一部が回収できなかった経験を持つ。

当時、14~15戸ほどの物件を所有していたというゆたちゃんさんは、そのうちの2戸の家賃保証をB社に依頼していた。ところがある日、B社からの入金が突然ストップする。

「その保証会社には多額の税金滞納があったようで、大家に支払われるはずの家賃も国税局に差し押さえられてしまったんです。実害が3万円と少額だったのは不幸中の幸いでした」。

その後1年以上が過ぎた頃、ようやくB社の債権を買い取る形であらたな保証会社から未納分の家賃が回収できたが、その額は本来の2割程度であった。

このケースでは2戸分と比較的小規模であったことから致命的な損害にはならなかったが、もし数十戸規模で同じことが起こった場合、損害額も膨らむ。

倒産リスクを回避するには

以後、ゆたちゃんさんは倒産リスクに備え、「保証会社は3社以上に分散することにしている」という。2社だとリスクは半減できるが、それでも所有物件の半数が無保証状態になる恐れがあるためだ。

「保証会社の倒産によって資金繰りが悪化し、返済が滞ってしまう可能性もあります。大家にとっては不可抗力に近いことですが、それでも銀行の心象は悪くなりますからね」(ゆたちゃんさん)

一方、管理会社はどのように保証会社の倒産リスクを察知しているのか。前出の若林さんによると、倒産する保証会社には2つの傾向があるという。

「1つ目は入金の遅れです。たとえ数日でも遅れるようなことがあればやはり警戒します。2つ目は私たち管理会社へのバックが異常に多い会社。普通は保証料の10%程度のところを20%とか30%まで上げてくる会社は、そこまでして集客しなければいけない状況と言えますからやはり危ないですね」

管理会社同士で情報共有をする方法もある。ある保証会社からの入金が遅れた場合、別の管理会社にヒアリングをし、同じ状況であればいよいよ危ない、と判断できるというわけだ。

管理会社は保証会社の状況を把握しやすい立場にある。保証会社の倒産リスクに備え、大家も管理会社に保証の状況を確認することが必要かもしれない。

保証会社は大家が選ぶ

保証会社選びが管理会社主導で行われる理由は先に述べた通りだが、その構図をさらにややこしくしているのが、保証会社から管理会社に支払われるキックバックである。

前出の若林さんはその実情について次のように話す。

「入居者から保証会社に支払われた保証料の一部が、われわれ管理会社にバックとして支払われます。広告料という名目が多いですね。平均するとだいたい初回保証料の10%程度でしょうか」。

パーセンテージは保証会社によって異なる。そのため、「キックバックの大小で保証会社を選ぶ管理会社もいるでしょうね」(若林さん)。このように、保証会社は大家のあずかり知らない理由で決められている可能性もあるわけだ。

では、大家が直接保証会社を選ぶとどのようなメリットがあるだろうか。

1つ目は、管理費を抑えられる可能性があること。たとえば前述した「集金代行型」で大家が直接保証会社と契約した場合、家賃の回収や催促といった業務が管理会社から切り離されることになる。管理会社の業務が減ることになれば「それを理由に管理費の減額を持ち掛けられたら断るのは難しい」(前出の若林さん)。

2つ目は入居者の質の均一化だ。保証会社によって審査基準が異なるということは、利用する保証会社によって入居者の属性が決まることを意味する。大家が保証会社を選べば、自動的に一定の基準を満たした入居者だけに住んでもらうことも可能になる。このように物件の状態を保つ目的で保証会社を選ぶという考え方もできるだろう。

(楽待新聞編集部・坪居慎太郎)