「当時の自分は、事前のシミュレーションが甘かったと思います」。田村憲明さん(仮名・38)はこう語る。

不動産会社からもらった物件概要をもとに、購入前に周辺の家賃相場や積算価格も自ら調べた。それなのに、なぜ今後悔しているのか―。

 

「新築だし、こんなものか」

田村さんが初めての物件を購入したのは今年のこと。「将来的に事業を始めたい」という思いがあり、資金を貯めるために不動産投資を始めようとしたという。1棟目として中古物件も検討していたが、自己資金不足だったため、比較的評価がつきやすく融資のおりやすい新築物件の購入を視野に何社か不動産会社をまわったという。

そのうちの1社から融資を含めたプランを出され、本格的に購入を検討した。提案されたのは東京都西東京市の新築木造の一棟アパート。家賃7万円という単身者向けの全6室を有しており、土地と建築費を合わせて8842万円という物件だった。

事業計画書に示された利回りは6.38%。1戸あたり7万円の家賃が設定されており、月額の家賃収入は42万円、年間だと504万円が入る想定だ。一方、月30万8000円を返済し、これとは別に管理料やシステム料、清掃料として月3万5000円が支出として必要になると示されている。年間では55万4000円が手元に残る計算である。

田村さんが受け取った事業計画書(取材をもとに楽待編集部で再現)※クリックで拡大できます

これらの資料をもらった田村さんは、地元の不動産会社へのリサーチやインターネットを使って周辺エリアの家賃相場や入居状況を確認した。また、土地の価格が妥当なのかどうか、路線価も調べたという。

「不動産会社に聞くと、新築で7万円という家賃設定は妥当だと思いましたし、客付けも問題ない地域だと感じました。建築費は少し高いという気もしましたが、新築だし、『こんなものか』と思っていました」(田村さん)

後悔している田村憲明さんのシミュレーション(0:52~) ※クリックでYouTubeにリンクします

水増しされた利回り

実は不動産会社から提示されたシミュレーション表には、いくつかの問題点があった。だが、それらに気づいたのは、売買契約後だったという。

1つ目の問題点は表面利回り。この資料では6.38%となっている。しかし、資料に記載された数字を計算しなおしてみると、利回りは5.7%にしかならない。実は、不動産会社提示の表面利回り算出に使用されたのは「土地価格+建築費(税抜)」である「7900万円」の物件価格だったのだ。

本来の物件価格は、「土地価格+建築請負金額」である「総事業費合計8842万円」になるはずである。この数字を使用して計算すると、表面利回りは5.7%になる。

利回り水増しのからくり。物件価格に使われた数字が税抜きの建築費だった

「後から見返してみて、計算してみたらちょっと数字が合わないと気づきました。でも、その時はひとつひとつの数字しか見ていなくて、気づけなかったんです」(田村さん)

金利は下がる想定…不動産会社「問題ない」

2つ目の問題点は、金利だ。

「不動産会社に聞いたところ、35年、金利2.55%の融資が受けられるという話でした。しかも、途中で金利が下がる計算になっていました」

不動産会社が持ち出したシミュレーション表によると、初年度から5年目までの金利は2.55%、5年で1.8%に下がり、10年後には1.5%に下がる想定になっている。

不動産会社が提示してきたシミュレーション表では、借入金利が5年目で1.8%に、10年目で1.5%に下がる想定となっている(取材をもとに楽待編集部で再現)

「それで、金融機関に『不動産会社からはこういうプランをもらった』と伝えたら、『(金利を下げるということは)やっていません』と言われたんです」

金消契約の直前のことだ。不安に思った田村さんが不動産会社に尋ねると、「ほかに借り換えができるので大丈夫だ」と返答があったという。

だが、それにしては繰り上げ返済のための手数料についての話などは出ず、担当者は「問題ない」を繰り返すばかり。不信感は募ったが、「このプランをみて金融機関も融資OKを出しているのだから、自分がしっくり来ていないだけなのかな」と納得してしまったという。

もちろん、契約までに時間はあった。だが、「そこまで確認していなかった。不動産会社にお任せしてしまって、自分は次の物件を探したり、勉強したりという時間にあてていました」(田村さん)。

「常に満室」でなければ

シミュレーションにおかしな部分は見つかったが、すでに物件の所有権は田村さんに。建設工事はスタートし、この7月に物件が竣工した。6室中5室まで入居がついたが、残り1室はまだ埋まっていない。

「まだそこまで追い詰められているという感じではないんですが、当初の想定より利回りが低いので、常に満室状態でないと厳しいですし、金利もこのままの状態でいけば、返済比率もかなり高い状態ですね…」

現在、月々42万円の家賃収入に対して、30万8000円を返済。今は家賃保証の期間中のため、満室での家賃収入が入ってきている。だが、あと1カ月で家賃保証期間が終了し、その時にもまだ満室になっていなかったとすると、管理料などを差し引けば手残りは月に7000円ほどになってしまう。

田村さんは、この物件購入について、「自らに気付きがあったという点ではよかったですが、購入額からすれば失敗だったと考えています」と話す。今は物件を運営しながら、この補填となるような2棟目を探しているが、「ちゃんと事前に自分で計算して、ちょっとでもおかしいと思ったら購入しないという決断をすることが重要だとわかりました」と語った。

リスクを重くみたシミュレーション

現在、新築物件を中心に8棟75室を所有し、年間家賃収入6000万円超という女性投資家・五十嵐未帆さんは田村さんに対して「少し人任せにしすぎです。不動産投資は、投資とは言え経営であり、全部の責任は自身にあります。そこを自覚して、責任をもって判断するべきです」と断じる。

そんな五十嵐さんは、「数字を重視した不動産投資」というスタンスをとる。五十嵐さんが田村さんの物件をシミュレーションしてみるとどうなるのだろうか。

成功大家・五十嵐未帆さんのシミュレーション(4:05~) ※クリックでYouTubeにリンクします

「田村さんもご自身で調べられていましたが、やはり路線価や周辺の家賃相場は自ら調べるべきです」(五十嵐さん)

現在の家賃は7万円ということだったが、五十嵐さんがインターネットで調べると、この周辺の家賃相場は6万5000円。

五十嵐さんは「新築の家賃は最高価格だと思うので、安い方のこの家賃で引き直して計算しましょう」と、いつも自分で使用しているというエクセルのシミュレーションシートに打ち込んでいく。運営のための諸経費は、通常新築物件であれば家賃収入の10%程度だというが、水道光熱費やごみ回収費などが別で必要となることから、少し余裕を持たせて20%とした。

試算の結果、年間の手残りは満室でもたった4万円ということに。家賃が7万円であっても、満室で33万円だ。この状態で空室が続けば、たちまち赤字に転じてしまう。

五十嵐さんが行ったキャッシュフローのシミュレーション。家賃はリスクをとって6万5000円で引き直している ※クリックで拡大できます

「持ち続けてプラスであればそれでも良いですが、空室が続き、さらに家賃も下がる想定でシミュレーションしてみると、累積のキャッシュフローもマイナス5000万円以上になってしまいます」

五十嵐さんには、楽待の「CF(キャッシュフロー)シミュレーション」でもその収益性を検証してもらった。結果は先ほどと同様で、満室経営を続けることができなければ、5000万円近いマイナスが出てしまう可能性が高い。

五十嵐さんに楽待の「CFシミュレーション」でもシミュレーションしてもらった。累計CFを示す紫の棒グラフは、年数を経るごとにマイナスが増加していることを示している ※クリックで拡大できます

「いい加減」な事業計画書、自分でも確認を

五十嵐さんは事業計画書自体にもさまざま指摘をする。

「田村さんもお気づきでしたが、6.3%となっている利回りは、どう計算しても5.7%にしかなりません。低すぎます。東京都の23区内中心部でも正直どうかというレベルですね」

田村さんの事業計画書を渡された五十嵐さんは、自ら計算してさまざまな数字を書き込んだ ※クリックで拡大できます

五十嵐さんが計算しなおして書き込んだ事業計画書では、利回りも直されている

また、月額の家賃収入42万円に対して、返済額が約30万円ということに対しても「返済比率は73%。その残りで経費を賄うのは難しいです。空室は1室も許されませんし、満室で運営し続けてもかなり厳しい状態」と言い切る。

「金利が上昇局面にある今、そもそも金利が下がる前提のシミュレーションというのは作ってはいけないと思います。金利が上がっていく計算でも、それでもちゃんとキャッシュが出る物件を選ぶべきです」

このほかにも、登記床面積と施工床面積に40平米もの差があることや、総事業費合計に含まれている「諸経費」の内訳が不明なこと、同様に、「建築請負金額」に含まれる「建物に係るその他工事費用」も不透明であること、管理費と清掃料が合わせて約6.5%もとられており、さらに「システム料」という用途不明な支出項目があることなども指摘した。

「高い」とコメントのつけられた管理費の欄 ※クリックで拡大できます

「そもそもいい加減な事業計画書ではあると思いますが、わからないことは自分でも要確認だと思います」(五十嵐さん)

この物件のリカバリーは「難しい」という五十嵐さんだが、「管理費が清掃料と別になっており、ちょっと高めです。管理会社を変更するか、自主管理に切り替えるかして経費を削減するというのは手始めにできるのではないでしょうか。また、金利交渉もあきらめずに行っていただければと思います」とアドバイス。

その上で、損切りの覚悟があるのであれば、「傷が浅いうちに売却ということも考えられます」と述べた。

田村さんが物件を購入した経緯に対し、五十嵐さんがコメント(21:59~)※クリックでYouTubeにリンクします

手間を惜しめば成功はない

今回、シミュレーションの甘さから後悔しているという投資家と、ベテラン投資家のシミュレーションを比較してみた。ベテラン投資家のシミュレーションは、決して特別なことをやっているわけではなく、基本的な四則演算を応用しているに過ぎない。

多少の手間であることは間違いないが、特に初心者はこの手間を惜しむことなく、自らの責任においてきちんと試算してみてほしい。

また、初心者投資家に向けて、不動産投資に対する考え方の「診断テスト」を用意した。ぜひ1度試してほしい。

初心者投資家の方で、1つでも「YES」をチェックした方は、その考え方で不動産投資を実践すると失敗の可能性が非常に高まる。

本連載を読み直し、改めて物件購入前のシミュレーションの重要性を理解してから、不動産会社とやり取りを開始していただきたい。

○取材協力 
五十嵐未帆(いがらし・みほ) 2006年、相続をきっかけに大家業を開始。2011年から本格的に不動産投資を始めた。新築を中心に8棟75室を所有している。投資総額8億円、年間家賃収入6000万円、年間CFは2000万円を超える。著書に『買うだけ、かんたん! 主婦の私でもできた月収130万円「新築アパート」投資法』(ダイヤモンド社)がある。

(楽待編集部)