安く物件を購入すると、利回りが上がる。浮いた購入費用をリフォーム費用に回せる。良い部屋を提供すると入居が安定する…。理想的な不動産投資サイクルを導けるかどうかの鍵は、「物件購入」が握っていることが多い。

物件購入時の「指値力」を身に着けられるようにする本連載。今回は、成功者と失敗者の「差」がどこにあるのか、さまざまな投資家の意見から考えてみたい。

そもそも、誰と交渉を行うのか?

物件を買いたいとき、「指値」は誰に伝えるのか? それを知るためにはまず、不動産の売買が以下のような構図になっていることを理解しておきたい。


収益物件を購入する場合、「不動産会社」が仲介に入るパターンが多い。つまり、交渉する相手は「売主」だが、あくまで「不動産会社」を介して指値を伝えることになるのだ。不動産会社は、購入希望者から言われた指値の金額や条件を売主に伝え、双方の希望条件がまとまるように調整する。

また、物件によって不動産会社が2社以上介入しているパターンもある。その場合、売主と媒介契約を結んでいる元付の不動産会社と、元付の不動産会社から販売許可を得ている客付の不動産会社がいる。指値をする前に、今回の取引はどの構図であるのか確認し、「誰を、どう」攻略するべきか考える必要がある。

以降では、交渉を有利に進めるための具体的な「指値術」を紹介する。

指値術1「売主のプロファイリングを徹底的に行う」

「まずは売主さんの状況を把握します」と話すのは、現役一級建築士であり、不動産投資家の戸田匠さん。「売却理由」「売却希望時期」「どういう方か(投資家か、相続で預かったか)」「性格」「年齢」「残債はどれくらいあるか」などを、仲介する不動産会社に質問する。

戸田さんは3棟目の物件を探す中で、静岡市内で築25年、3DK×12戸の1棟RCマンションを見つけた。売り出し価格は1億2500万円で、利回りは8.6%。「RCとはいえ築25年でこの金額は厳しいなぁ」と考えたが、資産価値などが自身の基準を満たしたため、購入を検討することにした。

まず、不動産会社に売主の情報を聞いたところ、相続で預かった物件であることがわかった。早く手放して現金化し、7人の相続人で分配したいとのこと。そこで、思い切って「1億500万円」で指値をすることに。根拠として空室のリフォーム費用を提示したが、戸田さんによると「あまり興味がなさそうだった」という。

結果的に、売主側に少し押し戻されて「1億900万円」で価格が確定したが、1600万円の値引きが成功し、利回りは10%台にのった。「相続の場合は自分が購入した物件ではないため、価値を把握していないことが多く、指値の成功率が高くなります」と戸田さんは語る。

このように、売主が投資家かそうでないか、売却理由等を聞くと交渉の仕方や成功率は大きく変わってくる。中には、有力な情報を引き出すために、管理会社に売主の情報をヒアリングする投資家もいるくらいだ。

しかし、プロファイリングする中で「売主が売り急いでいない」ことが分かった場合、指値をあきらめる人もいる。物件が満室賃貸中など、現在保有していることにデメリットがない場合、「売れても売れなくてもどっちでもよい」と思っている可能性がある。売り急いでいない場合は、「高く売れるなら売りたい」と価格に対して強気になっている売主が多く、指値に応じてくれる可能性は低くなる。

指値術2「仲介会社を味方につける」


指値では、仲介会社から「この人に売りたい」と認められることも重要だと言える。購入希望者が安く買いたいと発しても、不動産会社がそれを売主に伝えないと始まらないからだ。

東京都で収益物件に特化した不動産会社に勤めるKさんは、指値がはいった買付を売主に伝えないこともあると答えた。

「売主さんとの関係が悪化するのは嫌ですし、売り急いでいない限り、大幅な指値は勝手に断っておきます。その後、事後連絡で『○○万円の指値がありましたが、話にならないと思うので断っておきました!』と伝えます」

同じく東京都で収益物件に特化した不動産会社に勤めるOさんも「売主さんが売り急いでない限り、1億円の物件に対して2、3割の指値が入っても、売主さんに伝えるのは正直厳しいです」と話す。

このままでは、どれだけ仲介会社に指値を伝えても意味がない。ここからは、成功者が取り組む「仲介会社を味方にする方法」を紹介する。

「この人に売りたい」と認めてもらうこと

大家歴6年の築古大家のコージーさん(以下コージーさん)は投資実績を書いた名刺を用意して、「投資実績がある=買える人」ということを明確に示す。「この人に売りたいと思ってもらうためには『買える人』であることが不動産会社にとっても大前提と考えます」。ファイナンスに問題がないなど、プラスに働くことは伝えたほうがよいそうだ。

築古大家コージーさんの名刺

また、「面倒くさくない人」と思われることも大事だとコージーさんは考えている。「この人に売ってもトラブルにならなさそうと認識してもらえるように、『スパッと気持ちよいやりとり』を意識します」。具体的には、買付をまとめてくれた後に、文句を言わないようにするとのこと。せっかく買付をまとめても、文句を言って買わなかったりすると、不動産会社としては苦労が水の泡だからである。

さらに「仕事を超えたコミュニケーションをとっておくのも有効です」と話すのは10棟173室を保有する安藤新之助さん。ランチに誘ったり、一緒に食事をしたりすることで、「この人と付き合っていきたい」と思われるようになる。そして「次の資産組み換えのときは、必ず○○さんに持っていきます。ほかには持っていきません」と伝える。

「売り物件の仕入れに苦労している不動産会社は少なくなく、魅力的な提案になると思います」(安藤さん)。短期的なメリットではなく、長期的なメリットを示すことで不動産会社に味方になってもらうということだ。

ただし、交渉相手の不動産会社はどこでもよいわけではない。前述したように、物件によっては「元付不動産会社」「客付不動産会社」の2社が間に立つ場合がある。その場合だと「元付の不動産会社を選ぶほうがよい」と話すのは、地方築古物件をメインに投資するミニ隠居さん。いい物件を見つけた場合、「物件価格」と「物件住所」をネットで検索し、売主と媒介契約を結んでいる不動産会社を探すのだという。

中には購入希望者に寄り添う「客付の不動産会社」を選ぶ投資家もいるが、どちらにせよ指値をする前提で忘れてはいけないことがある。指値に成功すると不動産会社が手にする仲介手数料が減るということだ。

不動産会社が手にする仲介手数料の上限は「売買金額の3%+6万円」。多少の指値であれば手数料は大きく変わることはないが、仲介会社を味方につけるためにも、相手にとってのメリットを意識するべきかもしれない。

指値術3「指値が通りそうな物件を見抜く」


「誰が値付けしているか」を推理し、指値ができそうな物件を見抜く投資家もいる。

「不動産会社が値付けしている物件をねらいます」と話すのは、前出のコージーさん。これまで16件中13件の指値を成功させてきたが、3件目以降はこの方法を実践している。では、一体どういうことなのか? 気になるカラクリはこうだ。

「投資家以外は不動産の相場を知らないことが多く、逆に相場に近い値段で売りに出ている場合は、仲介会社主導で売り出し価格を決定したのでは考えます」とコージーさん。仲介会社主導で価格を決めたということは「売主<仲介会社」の関係性である可能性が高く、「この場合、仲介会社さえ納得してくれれば指値が通る確率は高くなる」と推察する。具体的には「利回り10%」で売り出し価格が設定されている物件を狙う。

「高利回りの基準を10%で考えている人が多いと思います。だから、利回り10%になるように価格を決めている物件には、不動産会社の『売りたい』という気持ちを感じる」とのこと。逆に、利回りが高すぎると、なにかしら事情がある物件もあるため要注意だと言えそうだ。

そのほかに指値が成功しやすいのは「長く売れ残っている物件」と「残置物がある物件」だ。長く売れ残っている物件だと、売主や不動産会社が弱気になっていることがある。「売れても売れなくてもどっちでもよい」という状態ではない限り、指値が成功する可能性が高い。また、残置物がある物件は「残置物の撤去を受け持つから、その費用分だけ安くしたい」と伝えると、条件問わず指値が通りやすい。

戸建てを中心に投資をしているサーファー薬剤師さんは、千葉県の売り出し価格320万の築古戸建に対し、「残置物の処理」を条件に100万円の指値に成功した。売主が遠方に住んでいたため、設備も稼働するかわからず、片付けに億劫になっていたそう。

サーファー薬剤師さんが購入した物件の写真

残置物は普段からお願いしている業者に10万円以下で処理してもらい、結果として利回り30%以上で運営ができている。

とはいえ、残置物の撤去後に瑕疵が見つかり、指値した額を上回る修繕費用がかかってしまえば本末転倒。見積りを誤らないように注意する必要がある。もし自身で見積もることが難しければ、リフォーム会社などプロに同行してもらうのも手だ。

指値材料は一歩間違えれば「地雷」に

指値を通すために、物件の瑕疵を指摘する手段もあるが、やり方を一歩間違えると交渉が決裂しかねない。

「築20年を超えている物件だと、『古い』のは当然です。伝え方を間違えると売主さんは気を悪くします」と話すのは大家歴14年の青島渚さん。

売主が物件に愛着を持っていなければ指値の材料として交渉しやすいが、例えば先祖から引き継いだ大事な物件であれば、指値の材料になるはずだった瑕疵の指摘が「地雷」になりかねない。

そこで、物件の瑕疵を指摘するどころか、むしろ「褒める」というのはコージーさん。売主さんが物件に愛着があると感じた場合、内心ボロボロだなと思っても、「いい物件ですね」と褒めるそう。

「褒めたあとに『ぜひ欲しいと思うんですけど、これしかお金がないので指値これくらいしたいです…』というと、まれに採算度外視で指値が通ることもあります。『財布の中にこれだけしかないですよ作戦』です(笑)」

根拠のない指値で「一発アウト」も

戸田さんは昨年、所有していたアパートを売りに出した際、いきなり大幅な指値をされたことがある。「この物件、○○万円だったらすぐに買いますよ」と不動産会社からいきなり電話がきた。当時、その物件は満室運営中であり、「売れても売れなくてもどっちでもよい」と思っていたが、その金額はあまりにも安く、しかも根拠もなかったことに衝撃を受けた。

「勿論すぐに断りましたが、交渉以前の問題で、とても嫌な気分になりました」と振り返る。

基本的には、売り出し価格はある程度指値が入ることを前提で設定されている。しかし、「安くなりませんか」とただ金額を指定するだけでは「お行儀の悪い投資家」と思われてしまうかもしれない。安く買いたい根拠を客観的に、かつ効果的に伝え、売主や仲介会社に煙たがられないことが重要である。

売主と不動産会社が決めた「売り出し価格」に対して、買い手が価格決定に参入することは決して易しくはない。しかし、不動産売買も結局は「人」と「人」とのやりとりなのである。交渉相手である売主と不動産会社のことを知り、よい強力な交渉人とともに、有効なカードを示しながら指値をいれる。「自分はこの金額で買いたい」と言う前に、まずは物件と相手を理解するところから始めてみよう。

(楽待編集部・尾藤ゆかり)