当然のことだが、日本の土地には値段が付けられている。物件を購入するときの売買価格にも「土地値」が含まれていることは、多くの人がご存じだろう。

しかしながら、一言で「土地の値段」と言っても存外複雑なものだ。「一物五価」、あるいは「四価」「六価」と呼ばれる土地の値段だが、いったいどういったものなのか、どのように値が付けられているのか、改めて確認してみたい。

土地の価格を指す「一物五価」とは

土地にはさまざまな値段の付け方があり、「一つの物に五つの価格」ということで「一物五価」と呼ばれている。一般的に土地の「一物五価」という場合には以下の5つを指す。それぞれどのようなものか振り返ってみよう。

 

○公示地価

・3月中~下旬ごろに国(国土交通省)が公表
・全国2.6万カ所超の「標準地」の、毎年1月1日時点の価格を算出している
・一般の土地取引の1つの指標で、「適正な地価の形成」の役割を果たす

 

○基準地価格

・9月中~下旬に各都道府県が公表、国土交通省が取りまとめる
・全国で2万カ所超の「基準地」の、毎年7月1日時点の価格を算出
・公示地価を補完する役割を持つ

 

○相続税路線価

・7月初旬(1日であることが多い)に国税庁が発表
・宅地に面した路線ごとの価格を算出している。公示地価のおおむね8割程度
・贈与税や相続税を課税するための基準として使われる

 

○固定資産税評価額

・各市町村が算出し、総務省が取りまとめを行う
・その土地の所有者など、関係者のみに開示される
・固定資産税を賦課するための基準

 

○実勢価格

・実際に取引される価格
・需要と供給のバランスで決まる

 

以上が「一物五価」だが、「基準地価格」を抜いて「一物四価」と呼ぶ場合や、さらに不動産鑑定士による「鑑定評価額」を加えて「一物六価」と呼ぶ人もいるようだ。

土地は「利子を生む」もの

では、なぜこのように複雑な価格の付け方なのだろうか。

不動産専門のデータ会社「東京カンテイ」で上席主任研究員を務める井出武氏は、「一物五価」を以下のように解説する。

「例えば物件を所有している人がそれを4000万円で売りたい場合、買う人がその値段で納得すればその物件の価格は4000万円と決まりますね。これが、実取引で発生する実勢価格ということです」

本来ならば、この「実勢価格」だけが存在していれば事は足りるはずだ。だが、こと土地に関しては、「歴史上、単なる取引対象物とは違う性質を帯びている」(井出氏)という。

「その性質のうち、もっとも重要なものは『利子を生む』ということです」と井出氏は話す。

日本の歴史を振り返ってみても、土地を他人に貸し、その地代と利子をとるという行為はごく一般的に行われてきた。その際、地代はいくらか、その利子はいくらに設定できるか、過剰に高利ではないか、という問題は常に付きまとう。

「人に貸して利子をとるという行為は、やろうと思えばいい加減な価格を付けることもできてしまいます。それでは公平性の原則にもとるので、国が根拠となって、公的な価格を定めようとしたのです」

それが公示地価、そして基準地価格ということだ。

ちなみに、公示地価の歴史は意外と新しく、1970年以降、国(建設省の後国土庁、その後国土交通省が管轄)によって行われるようになった。その背景には地価の高騰などを受けて、根拠のある土地価格形成の必要性が高まったことなどがあるという。

税金の根拠としての土地

もう1つ、井出氏が指摘するのは土地の価格が税金の根拠になるということだ。

「1873年(明治6年)の地租改正で、持っている土地の価格に応じて税金を徴収しようという、今の国税のスタイルとなりました。土地の価格は、税金徴収のためにしっかりとした根拠を持たないといけないということなのです」(井出氏)
この観点で存在しているのが相続税路線価、そして固定資産税評価額ということになる。

これらは基本的に「公示地価」をベースとした価格であり、相続税路線価は公示地価の8割、固定資産税評価額は公示地価の7割をおおむね基準としている。

また、固定資産税は毎年納税しなくてはならない税金であるため、急激な地価の高騰といったあおりを受けることのないよう、3年に1度見直しが行われている。広く公表されるその他の土地価格と違い、所有者などの関係者のみにしか開示されず、さらにその価格に異議があればその旨申し出ることができるのも特徴だ。

公示地価から市況を読む

さて、ここまで一物五価を紐解いてきた。公示地価も含め、土地の価格形成にはその需給が大きく寄与しており、その変遷をたどることは経済や市況を判断する1つの要素となりえるだろう。どのように推移してきたのか見てみよう。

1975年からの「公示地価」の平均価格を、1975年を100とした場合、以下のようなグラフになる。

大きく価格が上昇した1985年から1991年は、いわゆる「バブル期」にあたる。

特に1991年は価格のピークで、住宅地の地価の全国平均は2018年の約3倍。商業地では4倍超だった。

91年を境に地価は2000年代まで下降が続く。ところが、2002~03年以降は多少の浮き沈みはあるものの、ほぼ横ばい傾向にあり、さらに2013年ごろからは緩やかな上昇傾向となっているように見受けられる。

井出氏は、「ここ10年ほどはずっと(地価は)上がっているように見える」と指摘した上で、特に2008年以降の土地価格の特徴を次のように分析する。

「確かに全体的には上昇傾向だが、その中には濃淡があります。つまり、例えば同じ東京23区内でも、もしくは横浜市内であっても、地価が上がっているところと下がっているところで、『二極化』になっていることです」

井出氏によると、以前のバブルでは、土地の価格の上昇のムラはそう多くなかった。それは、郊外の土地であってもその需要が一定数あったからだ。だが、現在は人口が減ったことなどを原因として、都市の中心とそれ以外ではその需要に大きな差が生まれているという。

「これは東京や大阪、名古屋といった都心だけでなく、地方の政令指定都市などでもまったく同じです。そして、この傾向は今後さらにはっきりとしてくると思います。すべての価格が上がっているわけではなく、メインで取引されている箇所が価格を作っている。取引対象にもならないような部分はその価格に反映されていないというのが実情だと感じています」

また、井出氏は都心部の土地価格の上昇は今後も続くと見ている。万が一、東京オリンピック後に下がったとしても「その機に乗じて海外資本が急増し、再び価格は上がるのではないでしょうか」(井出氏)。

今回は土地の値段について、基礎知識をおさらいした。公示地価や路線価は、物件の売買価格には大きな影響を与える数字でもある。なぜ土地がこのように複雑な価格の付け方がなされているのか、その一端をぜひ繰り返し確認してみてほしい。

上述の通り、来年の3月には公示地価が発表される。その際には、発表されたデータとともに、専門家らによる今後の市況に関する分析を行う予定だ。

(楽待編集部 浜中砂穂里)