物件購入時に記入する買付証明書。「手続き上提出するだけ」と軽視されがちではあるが、書き方に差をつけることにより、土地値以下の物件でも更に指値を成功させている投資家もいる。しかしその一方、「闇に葬り去りたくなる」と不動産会社に言われてしまう買付証明書も存在する。

物件購入時の「指値力」を学ぶ連載第3回は、「買付証明書」の書き方について、買主と売主、不動産会社の三者の視点から考えてみる。

そもそも買付証明書とは何か?

「買付」とは購入の申し込みを指す。つまり「買付証明書」は、購入の申込書。決まったフォーマットはなく、不動産会社から提供される買付証明書を使う人もいれば、自作する人もいる。

国土交通省によると「買付証明書に法的拘束力はない」が、買付証明書が通ったあとにキャンセルをすると、買い手として信用を毀損する可能性はある。

売主の感情に訴える

では、具体的に指値に成功している投資家は「買付証明書」に何を書いているのか?

「売主の感情に訴えることを意識します」と話すのは10棟173室を保有する投資家の安藤新之助さん。1棟RCマンションをメインに投資規模を拡大している安藤さんは「すべての買付証明書で指値の根拠と売主へのメッセージを記入する」という。今年購入したRCマンションでも、この方法で指値を成功させた。

「愛知県で駅近く、1億8500万円の物件を1億7000万円で購入しました。収益還元法で計算すると売り出し価格では採算があわず、1億6000万円台後半を理想と考えましたが、現実的なラインで指値をした形です」

1棟RCマンションのネックである修繕が済んでおり、外壁の手入れだけでなく全てのエアコンの交換、貯水槽のポンプ交換という細かなところまで手がかけられていた。売主は、土地の売買がメインの不動産会社。収益不動産には疎く、手間をかけすぎたあまり賃貸経営に疲れて売りに出された物件だった。

安藤さんは4番手だったが、満額買付の1番手は融資が引けず、3カ月後に安藤さんの買付が通ることになった。1番手との契約が流れて売主は気持ちが萎えており、仲介会社も次こそは契約をしたいと思っていたタイミング。そんな折、「指値の根拠やメッセージがきちんと書いてあり、信頼性が高い」と不動産会社が判断し、安藤さんに声がかかった形だ。

「指値の根拠」と「メッセージ」を丁寧に記載している(クリックして拡大)

「普通に指値をしても通らない」

熊本県在住のMさんは、買付証明書とともに「手紙」を売主に渡したことがある。

昨年7月、4500万円のファミリー向けアパートの売り出し情報を見つけた。売主は賃貸経営に関心がないらしく、1年間空室のまま放置されている部屋もあった。「売却理由は、娘夫婦の家の建て替え費用を捻出したいというものでしたが、半年以上売れていませんでした」

過去に3200万円と3500万円の根拠のない指値がはいり、売主は気を悪くしていた。それを知っていた仲介会社から「普通に指値をしても通らない」と言われ、手紙をつけることで売主の気持ちを和らげる作戦をとることにした。仲介会社にアドバイスをもらいつつ、以下のようなメッセージを綴った。

「非常にいいアパートなので、これからも大切に運営していきたく、是非とも購入したいと思います。しかし、防水工事などの修繕が必要であることと、私はサラリーマンなので、ローンがこれだけしか引けません。3800万円で、なんとかなりませんでしょうか?」

結果的に100万円押し戻され3900万円で購入することになったが、手紙の効果もあってか、融資特約ありで600万円の指値が通った。「この経験を踏まえて、売主の状況を知ることの大切さを知りました」とMさんは振り返る。

指値の根拠を書く人は「仲介会社に優しい人

では、このような買付証明書に対し、不動産会社はどう思うのか? 東京都にある収益不動産に特化した会社に勤務するTさんに聞いたところ「指値の根拠は書いてくれるとありがたい」と答えが返ってきた。

「理由は買付証明書を売主さんに提出しやすいからです。希望額に調整できるよう営業マンも交渉をしますが、根拠が書かれていないと一から交渉するシナリオを考えなければならない。根拠を書いてくれる人は『仲介会社に優しい人』だな、という印象を持ちます。根拠もなく半額以下の大幅な指値をしている買付証明書をいきなりもらっても、売主さんにはとても出せないです」

東北地方の不動産会社に勤め、自身も投資家であるKさんも「根拠が書いておらず大幅な指値が入っている買付証明書は闇に葬り去りたくなります」と共感。また、メッセージが書いてある買付証明書は「まだ見たことはない」とのことだったが、書いてあってもマイナスには働かない要素なのでは、と所感を述べた。

「こんな買付証明書をもってくる不動産会社はありえない」と売主に思われた場合、売主が他社に売却を依頼してしまう可能性がある。不動産会社や売主の立場に立ち、どんなことが書いてあれば安くすることに納得できるか考えて書くことが大事になる。

「買えるアピール」は最大の武器

単身者向けの中古アパートをメインに投資している「埼玉サラリーマン大家さん」は「面倒でない買主」であることを買付証明書でアピールし、土地値以下のアパートで更に400万円以上の指値を成功させている。

最初は4500万円程で売りに出ていた物件。満室稼働中であり、最寄り駅にも近く、都心へのアクセスもよい。築年数は30年以上と古い割に、利回りは10%台とあまり高くはなかったが、資産価値の観点から考え「指値が通ったら購入しよう」と考えた。

さっそく、売主の不動産会社を探して直接交渉に入ったが「融資特約あり」で買付をしたところ難色を示された。そこで、「じゃあ『融資特約なし』なら?」と500万円の指値をいれた買付証明書をだした。融資が引けなくても購入すると意思表示したのである。

支払方法には3種類あり、融資特約なしは「融資が引けなくても購入する」ことを指す

500万円の指値に対しては渋い反応だったものの、「融資特約なし」という条件には好反応だった。以前、融資がおりず契約が成立しなかった経緯もあり、無事指値が通り購入に至った。

何は無くとも「現金買い」であれば

ただ、「融資特約なし」の買付証明書も、「現金買い」にはかなわない。

戸建て物件は「現金買い」の効果が特に顕著だと話すのは、戸建て6戸を所有する「築古大家のコージー」さん。「戸建て物件の場合、不動産会社は『仲介手数料が安いからさっさと売りたい』と考えているケースが多いと感じる」ことが理由だという。

先日、コージーさんは京都府で300万円の戸建てを紹介された。築年数が古く、エリア的に融資が引きにくいこともあり、不動産会社から「買ってほしい」と頼まれたような形だった。「この価格帯の物件だと、両手仲介でも手数料は20万円もとれない。そうなると手間がかからない『現金買い』できる人が優先されると考えています」

最後まで迷ったが、オーナーチェンジであること、売却では「400万円以上で売れる」と踏み、内見当日に230万円に指値をした買付証明書を提出。現金買いの指値は即日通り、1週間後には決済した。契約までのスピードが速すぎて、買付証明書が売主の手に渡らなかった経験もあり、買付証明書に「売主へのメッセージ」を書くことはしていないという。

何が決め手になるかはその物件、売主によっても変わってくるため、それぞれに合った戦略を考えて、買付証明書を書く必要がある。

あえて書き込みすぎないほうが得策?

前出の不動産会社に勤めるTさんは「書面に色々と書き込み過ぎないこと」が大事と話す。

「条件を記入する欄に、買主が有利な条件になるように諸々記入する人がいますが、売主にとっては面倒に思われやすい。買付証明書の時点では条件を書かず、まずは買付を通すのも手です」

例えば、金額は同じだが、「原状回復は負担してほしい」「境界の確定」等の諸条件がいくつか記載された買付証明書と、諸条件の記載は特にない買付証明書があるとする。

売主が前者をみて「この条件は嫌だな…」と考えたら、条件の記載がないものを選ぶ可能性が高い。選ばれなかった買い手はここで終わりだ。一方、選ばれた買い手は、契約までの間に条件を出して交渉することができる。交渉のカードを出すタイミングで、買えるか買えないかが変わってくるということだ。

また、前出の埼玉サラリーマン大家さんは、場合によっては「指値の根拠も書かない」のだという。売主と直接交渉ができなかった場合、不動産会社を経由して買付証明書を提出する必要がある。その場合、「自分で書くよりも、交渉が上手な営業マンの口からうまく伝えてもらった方が、交渉がうまくいく気がするから」だそうだ。

しかし、交渉を任せられるのは「できる営業マン」に限られる。自身のパートナーになり得る営業マンがどんな人なのか、改めて知っておく必要がある。

買付を通し、契約もしたのに…こんな買主は嫌だ!

ここまで買主と不動産会社の意見を紹介してきたが、ここで「売主側」の意見も聞いてみたい。

1人目に聞いたのは、昨年西東京市にある物件を売却したYさん。契約後に買主と揉め、手付金を返還し契約を白紙に戻した経験があるそうだ。

「仲介会社から買付証明書を見せてもらい、売り出し価格と一番近い人の買付証明書を通しました」。その買主は「投資家」と聞いてはいたが、どんな人なのか、どこで働いているか等の詳細はわからないまま、契約までは無事完了。

しかし「契約が終わって態度が変わり『相場に比べると高い、やっぱりもっと安くしてほしい』と言ってきたんです」。結局、交渉は受け入れずに契約は白紙に。

それからは、「何者かわからない買主は嫌だ」と思い、買主自身のことを確認するようになった。その後しばらくして、元不動産会社勤務の方から指値がはいった買付証明書を受け取り、「不動産会社に勤務していた人ならば取引はスムーズだろう」と考え、売り出し価格よりも1000万円値引きした価格で売却した。

「どんなに高値でも受け取らない」

3棟の売却を経験した安藤さんは、売却希望金額よりも高い値段で買付証明書を提出されようと、「買える人」かが明確でないと買付証明書を受け取らない。

「『属性が不明瞭ならば買付証明書を受け取らないでほしい』と仲介会社に伝えています。確実に買えそうな人と明確に分からないと買付証明書を受け付けない不動産会社もありますし、単純な早いもの勝ちの側面だけではないです」

これには、東北で不動産会社に勤めるKさんも頷く。「現金で買えると言われても、本当にどうかは分かりません。例えばですが、お客様から『同じような物件で、○○銀行で○○万円の融資内諾がでたんですが…』と言われたら、具体的でこの人は固いなと思います」。

そのほか、安藤さんはトラブルを避けるため「物件を見に行った人からの買付」を選ぶという。

「物件を見ていない人は、実際に見に行くと、『ここが傷んでいるから価格を下げてくれ』と買付を通した後で要望してくることが多かった。そのため、買付証明書に『物件を見に行った』と書いてあると安心します」(安藤さん)

今やWebサービスで遠く離れた場所の様子も分かる時代。そんな中、物件まで足を運ぶ購入希望者は姿勢が前向きで話も進みやすいという。たった一文が効果的なアピールに変わることもあるのだ。

本記事の企画にあたって編集部が実施したアンケートでは、買付証明書記入時の工夫について「名前だけは毛筆で書き、真剣さを伝える」という人もいれば、買付証明書に「返済シミュレーション」を添付するという人もいた。

何が心に響くかは売主次第。だからこそ、工夫してみる価値はあるのかもしれない。

(楽待新聞編集部・尾藤ゆかり)